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思いがけないアクシデント

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「わたしはふつう。もしくはそれ以下だよ。ふつう以下なわたしは、高橋くんに朝と放課後挨拶するだけでいっぱいいっぱい」
「紗良ちゃんのその考えは、ちょっとひねくれてるんじゃないかな。好きなひとに話しかけるのに、見た目なんて関係ないよ。勇気が出せない弱虫の言い訳じゃん。仲良くなりたいって思うなら、自分から行動を起こさなきゃ。それができないってことは、紗良ちゃんの高橋くんのことを好きって気持ちはあんまり本気じゃないんだね」
「そんなこと……!」

 本気じゃない、なんて。人の気持ちをそんなふうに勝手に決めつけないでほしい。

 だけど、ユーコが放った「弱虫の言い訳」という言葉は、わたしの胸にぐさぐさと刺さった。

 高橋くんのことが好きで、振り向いてもらいたい。そんな気持ちがあるくせに、わたしはいつも跳び越えるハードルを低めに設定して、転んでも大怪我をしないようにしている。

 傷付かないように、うまくいかなかったときのいいわけを先に考えている。わたしは可愛くないから、地味で目立たないから、好きなひとの目に止まらなくてあたりまえだって。

 でも……、仕方ないじゃん。世の中には、つりあいってものがあるんだから。

 高橋くんみたいにかっこよくてクラスの中心にいるような男の子は、可愛くて華やかで明るいクラスの中心にいる女の子と仲良くするものなんだ。たとえば、前田さんみたいな。
 
 小学校のときからずっとそうだった。誰もが知っている暗黙のルールだ。地味でおとなしい女の子にできるのは、クラスの中心にいる男の子たちのことを遠巻きに見て憧れることだけ。

「わたしが本気じゃないって言うなら、ユーコはどうなの? 本気で、本音で、わたしの片想いが叶えばいいって思ってる?」

 いじけて、ヤケになって、ケンカ腰な態度をとるわたしに、ユーコがしかめっ面を向けてくる。

「どういう意味?」
「だって、ユーコだってどうせわたしを利用してるだけでしょ。ユーコがわたしに協力するのは、早く九十九人の片想いを叶えて成仏したいからじゃん。不純な気持ちでわたしに取り憑いてるユーコに、本気じゃないとか決めつけてほしくない」

 小声で話していたつもりが、最後のほうは少し声が大きくなってしまう。だけど、さわがしい教室の中で、わたしがユーレイと睨み合っていることになんて、誰も気づいていなかった。

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