単眼ちゃんと百目くん

むらさき

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単眼ちゃんと百目くん

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「そのたくさんの目で何を見ているのですか?」

彼女にそう聞かれた時に僕は何も答えられなかった。
僕には数百の目があり、過去、未来、心の中、見えないものは無いと思っていた。
実際今もそう思っている。
でも彼女は僕に問うた。

「本当に見ているのですか?」

全てが見えているはずだ。
そして彼女が何を思ってそう聞いているのかも見えている。

「見えているだけではないのですか?」

見えているだけ。
そう、見えているだけなのだ。
見ないという選択肢はない。
目を閉じたとしても見えてしまう。
それが僕の目。

彼女の大きな一つの目が僕を「見る」。
明確な意思を持って、僕を「見る」

「何か覚えていますか?」

僕は思考を過去に向ける。
これまでに僕が体験したことが僕の目に見える。
見えるのだが、それはカメラで記録した映像と何の違いがあるのだろうか。
それは僕になんの感情も持たせないまま、ただただ流れていく。
だけどそれが当たり前だった僕には彼女の気持ちが理解できない。
彼女は僕を、「可哀想」だと思っているのだ。

「私には目が1つしかありません。あなたの様に、未来に何が起こるかもわかりません。だから見ます。自分の意志で。
それができないあなたは可哀想ですが、同時に羨ましくもあります。
どんなに素敵な光景も、私はどんどん忘れてしまいますから」

見たくないものすら見える僕には、彼女の気持ちがわからない。
見たいものが見えない彼女には、僕の気持ちがわからない。

「ならあなたの目の半分を私にください。私に忘れてしまった過去を見せてください。あなたは過去を見れなくなりますが、その代わり覚えておこうとしてください」


ここで未来が分岐することが見えた。



僕は彼女に目を半分渡した。
もう過去は見えない。
見えないことがこんなに不安だとは知らなかった。
彼女と過ごす日々を忘れることは嫌だと思った。
僕は必死に忘れまいとしたが、次から次へと忘れていく。
彼女はこんな気持ちで生きてきたのか。


「あなたは今までこんな世界を見ていたのですね」

この世は綺麗なことだけではない。
汚く、醜いもののほうが多い。

「忘れてしまいたい、知らない方が良いことまで見えてしまいます。それこそ感情を無くしてしまいたくなるぐらい」

そういって彼女は涙をながす。

「私を殺してくれますか?」






僕は彼女の申し出を断った。

「そうですか……」

彼女は残念そうにつぶやくと去っていった。

これから先彼女と交わる未来は見えない。

僕はいつもと変わらずに全てが見える世界を過ごしていく。
見えるものに何の感情も持たないまま。
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