9 / 10
勇者は笑顔を模る。
4
しおりを挟む
俺たちが旅を始めて四年、つまりサスが仲間になって二年が経った。
サスは優秀だ。俺たちの作戦をよく理解して、全体をよく見て上手くサポートをしてくれる。
それに、サスも俺たちを名前で呼ぶ。
俺たちの当たり前を、当たり前のまま受け入れてくれる。
サスが仲間になって、俺たちのパーティは過ごしにくいどころかより楽しいものになった。
サスを仲間にしてよかったと、心の底からそう思う。
仲間たちと旅をして、友だち同士みたいに楽しく過ごして。
当然大変なことだって沢山あるし楽なことばかりじゃない。それでも、俺の日々は満ち足りていたから。
こんな日々がずっと続けばいいと、そんな馬鹿なことを考えた。考えて、しまっていた。
「適切なタイミングで的確に急所を一突きか、流石だな。お前のお陰で助かったよ、ありがとう」
「当然」
そんな返事をしながら、しかし嬉しそうにサスは微笑む。
「えへへ、サスってば大分表情豊かになってきたよね~!」
「まぁカズラみたいに表情が豊か過ぎる人と二年も旅してたら、流石に多少は豊かにもなるよ」
「……褒めてる?」
「褒めてる褒めてる!」
軽口を叩き合うカズラとサスを見てこちらも笑ってしまっていたのだが、その油断が良くなかったのかもしれない。
不意にこちらを見たサスが目を見開いたかと思うと、サスが消えて、いつの間にか俺の後ろに、立っていて。
──血が、舞った。
奇襲タイプの魔物。
俺が背を向けている壁に隠れていたのにサスが気が付いて、その身を挺して守ってくれたのだ。
暗殺者クラスの移動速度は他のクラスに比べて相当速い。攻撃は間に合わないが、守るだけであれば可能だと踏んで、それで。
一瞬頭が真っ白になりそうなのを何とか引き戻して、サスと位置を入れ換えるように移動して魔物を切り裂いた。
「サス!!」
「っ、大……丈夫。守れて、良かった」
「何を……!!っる、ルメス、治療を!!」
「落ち着け!もう始めてる!!」
鎖骨辺りから腹にかけて大きな切り傷を負ったサスが治療されているのを、俺はただ見ていることしか出来ない。
……旅を始めてから、ここまでの恐怖を抱いたのは初めてのことだった。
「……大丈夫。サスはきっと大丈夫だよ」
随分と酷い顔をしていたのだろう。
カズラがそう慰めてくれて、俺は静かに頷いた。けれど。
──……大丈夫?
何が!!
何も、何も大丈夫なんかじゃない!!
ルメスは優秀だし、サスの怪我も死ぬほどのものではない。それはもう分かってる!
俺が恐怖しているのはそんなことじゃない!!
今すぐにそう叫び出したかったけれど、カズラが悪いわけではないことは分かっていたから。だから言いたいこと全部を飲み込んで、自身の拳を握りしめた。
──悪いのは、きっと俺だ。
サスは優秀だ。俺たちの作戦をよく理解して、全体をよく見て上手くサポートをしてくれる。
それに、サスも俺たちを名前で呼ぶ。
俺たちの当たり前を、当たり前のまま受け入れてくれる。
サスが仲間になって、俺たちのパーティは過ごしにくいどころかより楽しいものになった。
サスを仲間にしてよかったと、心の底からそう思う。
仲間たちと旅をして、友だち同士みたいに楽しく過ごして。
当然大変なことだって沢山あるし楽なことばかりじゃない。それでも、俺の日々は満ち足りていたから。
こんな日々がずっと続けばいいと、そんな馬鹿なことを考えた。考えて、しまっていた。
「適切なタイミングで的確に急所を一突きか、流石だな。お前のお陰で助かったよ、ありがとう」
「当然」
そんな返事をしながら、しかし嬉しそうにサスは微笑む。
「えへへ、サスってば大分表情豊かになってきたよね~!」
「まぁカズラみたいに表情が豊か過ぎる人と二年も旅してたら、流石に多少は豊かにもなるよ」
「……褒めてる?」
「褒めてる褒めてる!」
軽口を叩き合うカズラとサスを見てこちらも笑ってしまっていたのだが、その油断が良くなかったのかもしれない。
不意にこちらを見たサスが目を見開いたかと思うと、サスが消えて、いつの間にか俺の後ろに、立っていて。
──血が、舞った。
奇襲タイプの魔物。
俺が背を向けている壁に隠れていたのにサスが気が付いて、その身を挺して守ってくれたのだ。
暗殺者クラスの移動速度は他のクラスに比べて相当速い。攻撃は間に合わないが、守るだけであれば可能だと踏んで、それで。
一瞬頭が真っ白になりそうなのを何とか引き戻して、サスと位置を入れ換えるように移動して魔物を切り裂いた。
「サス!!」
「っ、大……丈夫。守れて、良かった」
「何を……!!っる、ルメス、治療を!!」
「落ち着け!もう始めてる!!」
鎖骨辺りから腹にかけて大きな切り傷を負ったサスが治療されているのを、俺はただ見ていることしか出来ない。
……旅を始めてから、ここまでの恐怖を抱いたのは初めてのことだった。
「……大丈夫。サスはきっと大丈夫だよ」
随分と酷い顔をしていたのだろう。
カズラがそう慰めてくれて、俺は静かに頷いた。けれど。
──……大丈夫?
何が!!
何も、何も大丈夫なんかじゃない!!
ルメスは優秀だし、サスの怪我も死ぬほどのものではない。それはもう分かってる!
俺が恐怖しているのはそんなことじゃない!!
今すぐにそう叫び出したかったけれど、カズラが悪いわけではないことは分かっていたから。だから言いたいこと全部を飲み込んで、自身の拳を握りしめた。
──悪いのは、きっと俺だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる