たとえ仲間じゃなくなっても

湊賀藁友

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勇者は笑顔を模る。

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 俺たちが旅を始めて四年、つまりサスが仲間になって二年が経った。
 サスは優秀だ。俺たちの作戦をよく理解して、全体をよく見て上手くサポートをしてくれる。

 それに、サスも俺たちを名前で呼ぶ。
 俺たちの当たり前を、当たり前のまま受け入れてくれる。
 サスが仲間になって、俺たちのパーティは過ごしにくいどころかより楽しいものになった。

 サスを仲間にしてよかったと、心の底からそう思う。
 仲間たちと旅をして、友だち同士みたいに楽しく過ごして。
 当然大変なことだって沢山あるし楽なことばかりじゃない。それでも、俺の日々は満ち足りていたから。
 こんな日々がずっと続けばいいと、そんな馬鹿なことを考えた。考えて、しまっていた。


「適切なタイミングで的確に急所を一突きか、流石だな。お前のお陰で助かったよ、ありがとう」
「当然」

 そんな返事をしながら、しかし嬉しそうにサスは微笑む。

「えへへ、サスってば大分表情豊かになってきたよね~!」
「まぁカズラみたいに表情が豊か過ぎる人と二年も旅してたら、流石に多少は豊かにもなるよ」
「……褒めてる?」
「褒めてる褒めてる!」

 軽口を叩き合うカズラとサスを見てこちらも笑ってしまっていたのだが、その油断が良くなかったのかもしれない。

 不意にこちらを見たサスが目を見開いたかと思うと、サスが消えて、いつの間にか俺の後ろに、立っていて。
 ──血が、舞った。

 奇襲タイプの魔物。
 俺が背を向けている壁に隠れていたのにサスが気が付いて、その身を挺して守ってくれたのだ。
 暗殺者クラスの移動速度は他のクラスに比べて相当速い。攻撃は間に合わないが、守るだけであれば可能だと踏んで、それで。

 一瞬頭が真っ白になりそうなのを何とか引き戻して、サスと位置を入れ換えるように移動して魔物を切り裂いた。

「サス!!」
「っ、大……丈夫。守れて、良かった」
「何を……!!っる、ルメス、治療を!!」
「落ち着け!もう始めてる!!」

 鎖骨辺りから腹にかけて大きな切り傷を負ったサスが治療されているのを、俺はただ見ていることしか出来ない。
 ……旅を始めてから、ここまでの恐怖を抱いたのは初めてのことだった。

「……大丈夫。サスはきっと大丈夫だよ」

 随分と酷い顔をしていたのだろう。
 カズラがそう慰めてくれて、俺は静かに頷いた。けれど。

 ──……大丈夫?
 何が!!
 何も、何も大丈夫なんかじゃない!!

 ルメスは優秀だし、サスの怪我も死ぬほどのものではない。それはもう分かってる!
 俺が恐怖しているのはそんなことじゃない!!

 今すぐにそう叫び出したかったけれど、カズラが悪いわけではないことは分かっていたから。だから言いたいこと全部を飲み込んで、自身の拳を握りしめた。

 ──悪いのは、きっと俺だ。
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