たとえ仲間じゃなくなっても

湊賀藁友

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勇者は笑顔を模る。

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 俺が二十四歳になった頃。
 魔王が復活したとの一報が入って、俺は正式に勇者になって。それから、俺たち三人の旅は始まった。

 魔王が復活したとあれば当然『勇者御一行』にのしかかるプレッシャーはより重たいものになっていたが、三人だけでいる時間はそんなものを忘れていられると……他の二人が思ってくれているのかは分からないが、少なくとも俺は思っている。

 俺たちは互いを名前で呼ぶ。
 誰が言い出したわけでもなく、自然に名乗りあって、自然に名前で呼び合って。
 そうして互いに敬うことも気を遣うこともなく、対等な立場として語り合った。

 ……きっと本当は、どちらも当たり前で普通のことだ。でもその普通のことが俺にとっては、酷く心地のいいもので。
 この二人と出会えて、俺は初めて『勇者』で良かったと思えた。


 そんな日々が二年程続いた頃、俺の命を狙う暗殺者《アサシン》が現れた。
 強い魔獣に追われながらもその瞳に一切の恐れを見せないその少年を見て一目で刺客であることを察したが、それにしても彼には違和感があった。
 武器を隠しているにしても実力があるにしても、魔獣に追われ続けることは恐怖を伴う筈なのだ。

 なのに彼は怯えない。
 それどころか俺たち三人に囲まれても、捕縛されても、その目には全く恐怖の色は滲まない。

 自殺志願者のような目をして、なのに彼は「生きたい」という。
 未来に、そして自身に何の希望も期待も抱いていないのに、彼はただ生きるために生きるのだと。全てを諦めた目で、誰かから言われた『いつか来る幸せ』を信じているのだと言う。

 不自然で、ちぐはぐで、なのに彼はまっすぐ立っている。
 それがぐちゃぐちゃの内面を隠して綺麗なフリをする自分よりよほど綺麗に見えたから、ここで死んでほしくなくて。そんな自分勝手なエゴに勇者の皮を被せて差し出した手を握った手のひらは、やはり小さかった。

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