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暗殺者は涙する。
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何かしていないと幸せだったことばかり思い出して苦しかったからフラフラと街を歩いてというのに、クセでいつもの酒場へと来てしまったようだ。
未練たらしいなと自己嫌悪しながら入口近くでまごついていると、突然発せられた大きな声が耳に入った。
「よぉヒロ、漸くサスのこと捨てたのかよ!」
聞きたくない言葉が聞こえてきて、無意識の内に隠密系の技を発動してフードを目深に被った。
ヒロの声は聞こえない。返事をしていないようだ。
「まぁ当然だよなぁ、暗殺者のガキなんて側に置いても自分の株を下げるだけ────」
そこまで男が告げた瞬間、店の中から何かが壁に打ち付けられたような大きな音が聞こえてきた。
……何の音だ?
隠密系の技を発動したまま中をこっそりと覗くと、そこにはこれまで見たことないほどの怒気と殺気を放つヒロの姿があった。
いや、あれは本当にヒロなのか……?
「次サスを貶めるようなことを口にしてみろ、その首へし折ってあの世に送ってやる」
──なぁ、なんでそんなに怒るんだよ。
俺はもう仲間じゃないんだろ? 迷惑してたんだろ?
「おいおい、あんなガキ邪魔なんじゃなかったのか? ……なら、嫌いだったとハッキリ言ってやれば良かっただろうが!」
………………確かに、あの時ハッキリ嫌いだったと言ってくれれば、俺も諦められたのかもしれない。
幸せな記憶を、汚してしまえたのかもしれない。
しかし、ヒロは苦々しげに呟いた。
「……嫌いだったら、邪魔だと思うような相手だったら、初めから仲間に誘ったりしないに決まってるだろ……!!」
……何、言ってんだよ。
「ッだったら! だったらなんで、サスを傷付けるようなマネしやがった!!
……あいつはな、クラス適正の問題で満足に依頼を受けることすら出来ない俺達の為に相談に乗って、どうすればいいかいつだって一緒に考えてくれた! あいつにどれだけのやつが助けられたか……!」
「魔王討伐は遊びじゃないんだ!!」
男の言葉を、ヒロが怒声で遮った。
「……もう全員が三十近い俺達と違って、あいつはまだ未成年なんだぞ?
それに魔王を倒すなんて責務に縛られてる俺達とあいつは違う。
あいつはまだ逃げられる。自由になれる。
俺達を忘れて、穏やかな土地で、平和に生きていけるんだ」
なんて、偽善的な言い分だ。
「そんなのはお前のエゴだろうが!
あいつがいつそんなことを望んだ! お前達と離れてでも平和に暮らしたいと言ったんだ!!」
俺の言いたいことをそのまま代弁したような男の言葉を聞きながら、ズルズルと酒場の壁に背中をくっつけたまま座り込んだ。
「…………俺はさ、あいつの幸せなんてどうでも良いんだよ」
「あ゙ぁ? テメェ──!」
「何でもいいから、生きてほしいんだ。
……サスはな、最近やっと感情がよく表に出るようになったんだ。そんなの必要がないって言ってたのに、『感情を表に出すのも悪くないと思えた』って。
そんな風に言ってくれたあいつの前で死ぬのは御免だ。かと言ってあいつの死に顔を見るのも御免だ。だから置いていく。
…………勇者サマもな、人間なんだよ」
我が儘だ。横暴だ。自分勝手だ。
今すぐ飛び出して、そう罵ってやりたかった。
でも溢れる涙が止まってくれなくて、苦しくて悲しくて、そして何より、優しいあいつらを安心させられない自分が酷く憎くて。
「恨ませてくれよ……!」
あぁ。
痛いだけの優しさも、首を絞めるような幸せも、知らなければよかった。
未練たらしいなと自己嫌悪しながら入口近くでまごついていると、突然発せられた大きな声が耳に入った。
「よぉヒロ、漸くサスのこと捨てたのかよ!」
聞きたくない言葉が聞こえてきて、無意識の内に隠密系の技を発動してフードを目深に被った。
ヒロの声は聞こえない。返事をしていないようだ。
「まぁ当然だよなぁ、暗殺者のガキなんて側に置いても自分の株を下げるだけ────」
そこまで男が告げた瞬間、店の中から何かが壁に打ち付けられたような大きな音が聞こえてきた。
……何の音だ?
隠密系の技を発動したまま中をこっそりと覗くと、そこにはこれまで見たことないほどの怒気と殺気を放つヒロの姿があった。
いや、あれは本当にヒロなのか……?
「次サスを貶めるようなことを口にしてみろ、その首へし折ってあの世に送ってやる」
──なぁ、なんでそんなに怒るんだよ。
俺はもう仲間じゃないんだろ? 迷惑してたんだろ?
「おいおい、あんなガキ邪魔なんじゃなかったのか? ……なら、嫌いだったとハッキリ言ってやれば良かっただろうが!」
………………確かに、あの時ハッキリ嫌いだったと言ってくれれば、俺も諦められたのかもしれない。
幸せな記憶を、汚してしまえたのかもしれない。
しかし、ヒロは苦々しげに呟いた。
「……嫌いだったら、邪魔だと思うような相手だったら、初めから仲間に誘ったりしないに決まってるだろ……!!」
……何、言ってんだよ。
「ッだったら! だったらなんで、サスを傷付けるようなマネしやがった!!
……あいつはな、クラス適正の問題で満足に依頼を受けることすら出来ない俺達の為に相談に乗って、どうすればいいかいつだって一緒に考えてくれた! あいつにどれだけのやつが助けられたか……!」
「魔王討伐は遊びじゃないんだ!!」
男の言葉を、ヒロが怒声で遮った。
「……もう全員が三十近い俺達と違って、あいつはまだ未成年なんだぞ?
それに魔王を倒すなんて責務に縛られてる俺達とあいつは違う。
あいつはまだ逃げられる。自由になれる。
俺達を忘れて、穏やかな土地で、平和に生きていけるんだ」
なんて、偽善的な言い分だ。
「そんなのはお前のエゴだろうが!
あいつがいつそんなことを望んだ! お前達と離れてでも平和に暮らしたいと言ったんだ!!」
俺の言いたいことをそのまま代弁したような男の言葉を聞きながら、ズルズルと酒場の壁に背中をくっつけたまま座り込んだ。
「…………俺はさ、あいつの幸せなんてどうでも良いんだよ」
「あ゙ぁ? テメェ──!」
「何でもいいから、生きてほしいんだ。
……サスはな、最近やっと感情がよく表に出るようになったんだ。そんなの必要がないって言ってたのに、『感情を表に出すのも悪くないと思えた』って。
そんな風に言ってくれたあいつの前で死ぬのは御免だ。かと言ってあいつの死に顔を見るのも御免だ。だから置いていく。
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我が儘だ。横暴だ。自分勝手だ。
今すぐ飛び出して、そう罵ってやりたかった。
でも溢れる涙が止まってくれなくて、苦しくて悲しくて、そして何より、優しいあいつらを安心させられない自分が酷く憎くて。
「恨ませてくれよ……!」
あぁ。
痛いだけの優しさも、首を絞めるような幸せも、知らなければよかった。
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