たとえ仲間じゃなくなっても

湊賀藁友

文字の大きさ
上 下
3 / 10
暗殺者は涙する。

3

しおりを挟む
 勇者ヒロについて色々と調べた結果やはり勇者らしく正義感溢れるお人好しだということが分かったので、俺はまず勇者一行に取り入ることにした。

「君、大丈夫だったか?」

 わざと勇者一行の目につきそうな所で魔物から逃げ回っていると、勇者は思惑通りに俺を助けて心配そうな顔を向けてくる。
 前情報にあった通り、お優しそうな男だ。

「は、はい、大丈夫です。
 助けて下さってありがとうございました」

 気の弱い少年を演じながら感謝を口にした俺を見て、勇者は何故か困惑したような顔をしている。
 ……まさか、怪しまれてるのか? 

「えっと、親御さんは?」

 ……え? 

「いません。一人で旅をしているので……」

 よくあることだろうに、何をこんなに困惑しているのか。

「えっ! 君今いくつだ!?」
「じゅ、十六歳ですけど」
「十六で一人旅!?」

 あぁ、そう言えば勇者の一行が魔王封印の旅に出た時はもう全員成人済みだったんだったか。
 二年前旅立った時それぞれ勇者が二十四歳、聖者が二十五歳、賢者が二十三歳だったとか情報屋が言ってたな。

「すごいな……! でもこの辺の森は危ないし、せめてどこかの街まで送っていくよ」

 え。と声を出しそうになったのをすんでのところで抑える。
 ここまで都合良く進んでしまっていいのか? もしかして罠なのだろうか。

「ヒロ様、身元不明の者をそんなアッサリ拾うのは如何なものでしょうか。もしかしたら勇者を狙う人間の手先かも──」

 真面目そうな眼鏡の男(情報屋によると聖者らしい)が小さな声で勇者にそう言いかけたが、明るい雰囲気の女性(同じく情報屋によると賢者らしい)が彼の言葉を遮った。

「まぁまぁいいじゃないルメス! 私は賛成よ? 
 ここってなんかよく分からないけど確かミノタウロスも出るような森だった気がしないでもないし、危ないもの」

 賢者なのにそんなふわっとした情報でいいのかと心配になったが、こちらにとっては好都合なので何も言うまいとただ話を聞いていた。
 そもそもこの話は三人の間で行われている内緒話であり、俺が暗殺者としての訓練を積んでいなければこの距離で聞き取ることは不可能な声量でされているので、うっかり反応してしまえば俺が一般人ではないことはすぐにバレてしまうだろう。

「カズラ様……。
 ……はぁ、仕方がありませんね。取りあえずは連れていきましょう」

 あぁ良かった。どうやら俺を連れていく方向で話がまとまったらしい。

「あの……?」

 我ながら白々しいなと思いながら声をかけると、「お待たせしてしまい申し訳ありません。行きましょうか」と聖者が微笑んだ。
 ……一瞬その微笑みが胡散臭いと感じたのは、恐らく俺の気のせいではないのだろう。

 ■

 どこを目指しているのかと訊かれた俺は、現在地から森の中心に対して真反対にある街の名を告げた。
 街に入ってしまえばそこで別行動となってしまうだろう。しかし別行動では都合が悪いのだ。
 出来るだけ長く行動を共にし、確実に仕留められる時を狙わなければ。
 幸いこの森は広い。ゆっくり進めば三日は稼げるだろう。

「そう言えば、君の名前はなんて言うんだ?」

 歩き始めて少し経った頃、勇者が俺に名前を訊ねてきた。

「すみません、そう言えばまだ名乗ってませんでしたね。
 自己紹介が遅くなりましたが俺はノルと言います」

 言うまでもなく偽名だ。
 寧ろここで裏社会に暗殺者として知れ渡っている本名(と言っても組織でつけられた名前だが)を名乗る人間はいないだろう。

「ノル、か。俺はヒロだ」

「私はカズラ! それでこっちがルメス!」

「カズラ様、勝手に紹介しないで下さい。
 ……しかし、ノル様はよくお一人でこの森を抜けようと思いましたね。確かにある程度力がついていればここの魔物相手に手こずることはありませんが、一般人、それもまだ十六歳でしょう」

 歩きながら聖者が俺にそう言うが、伊達に暗殺組織で一番を名乗っていたわけではないのでここの魔物程度なら余裕で倒せる。
 まぁ、当然それを言うわけにはいかないのだが。

「俺、クラス適正の関係で隠密に特化してるんです。なのでここの魔物から見つからないように行けば、と思ったんですけど……」
「けど?」

 こてんと賢者が首を傾げながら説明を促す。

「……その、お恥ずかしい話なんですけど、魔物を気にするあまり足元に注意を向けられず、木の根っこに引っ掛かって転んでしまって……」

 わざと辿々しい敬語で少し赤面しながら気まずそうにそう言うと、三人とも一瞬ポカンとして、それから勇者が笑った。

「あっはっは! まぁ魔物に慣れてなければしょうがないよな!」
「懐かしいな~、私も初めて魔物を見た時はそんな感じだった気がする! 魔物しか目に入らなくて崖から落っこちそうになったし!」
「それはどうなんでしょう……」

 そういう質問をされたときの言い訳が無駄にならなくてよかったな。なんてぼんやりと考えていると、賢者が少し目をキラキラさせながらこちらに質問をしてきた。

「それはそうと隠密系の技って珍しいわよね! 貴方のクラス適正は何なの?」

 この質問は予想していたものなので実際「あぁ来たか」程度にしか思っていないのだが……とりあえず動揺しておくか。

「あ、それ、は……」
「ノル、言わなくていい」
「すみません、カズラ様が失礼を……!」
「……いえ、大丈夫です。よく訊かれますし、同行者のことを知っておきたいと思うのは当然ですから。
 ……でも、その、俺……昔クラス適正のせいでいじめられたことがトラウマで、あんまり人にクラス適正を話したくなくて。
 すみません、守ってもらう方《ほう》なのに非常識なのはわかってるんですけど……」
「言わなくていいさ、デリケートなことだしな。
 カズラも、そういうことは軽率に訊くもんじゃないぞ?」
「ご、ごめんね、ノルくん……」
「気にしないで下さい」

 上手くクラス適正については誤魔化せたか。
 でも、勇者がそういうことについて気を回すのは意外だったな。てっきりお綺麗な世界のことしか知らないような人間だと思ってたのに。

 ……少し箱入りだと思い込み過ぎていたな。もう二年も旅をしてるんだから、それくらいは知っていても当然か。

 任務に思い込みは厳禁だというのに情けないと気を引き締めながら、俺は勇者達と森を進み続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...