立つ鳥跡を濁す

湊賀藁友

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おかしかったのか、おかしくなったのか

おかしかったのか、おかしくなったのか 1

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 施術用の道具が色々と揃っているからと連れられた、セキュリティの強固そうなマンションの上層階。彼が住んでいるらしい角部屋はやはりというか何というか落ち着いた上品な部屋だったが、私の目の前に並ぶ下品な道具を見たら落ち着くことなどできるわけがなくて。

「いぞっ、衣染くん!?これは!?」
「総排出口拡張器です。人間用なら直腸拡張器、アダルトグッズとしてならアナルプラグとも呼ばれているものですね。
 ……まあ人間用の医療器具として売られていたのは過去の外国での話なんですが、産卵ヘルパーにとっては医療器具として欠かせないものです」

 信じたくはないが信じるしかないことも確かで、私は声も出せずにパクパクとくちばしを開閉する。

「疑ってます?
 ほら、鳥人とりびとって本来の鳥と違って肛門括約筋があるでしょう。それをほぐしてあげないと、偽卵を挿入れるとき痛かったり、最悪出血したりするんですよ」

 潤滑油を含む様々な道具を棚から取り出しながら「まあ人間とは身体のつくりが違うので、めちゃくちゃ痛みに耐えれば拡張しなくても偽卵押し込めますけどね」と何でもないことのように告げる衣染くんに、私はハッとしてくちばしを閉ざした。

 そうだ。先程はつい『下品な道具』だとか思ってしまったが、これは私達にとってはあくまで医療器具であって、これから行われることも医療行為の一環に過ぎない。
 衣染くんは恩義と善意とプロ意識から全力を尽くしてくれようとしているだけだというのに、私ばかりが恥を捨てられずにいるのだ。

「す、すまない……」
「あはは。道具見てびっくりする患者さんって多いですし、気にしないでください。
 それじゃあ早速ですけど、そこに敷いてある防水シートの上に座ってもらえます?」
「……分かった」

 言われるがまま座ると、衣染くんが先程取り出した医療用手袋を着ける音らしきものが聞こえて。次いで聞こえたぬぢゅぬぢゅというねばついた音は、きっと潤滑油の音なのだろう。
 ……いよいよ、疑似産卵が始まるのだ。

 羽を逆立てそうになる心を必死に落ち着けようと深呼吸をしかけた、そのとき。

「それじゃあ服めくりますね」
「えっ、わっ」

 身体の形状の都合で鳥人とりびとの服は大抵が丈の長いワンピース状になっているのだが、総排出口を丸見えにするようにそれが丁寧に捲られる。

「これから偽卵を挿入れやすくするために総排泄腔までを拡げていきますけど、体の力はできる限り抜くようにお願いします」
「あ──ひッ!?」

 そう言い終わった直後、潤滑油らしき液体が総排出口に塗りつけられた。

「まずは外側からマッサージして、タマゴが出てくるところの周りの筋肉をあたためつつほぐしますね~」
「……っふ、んぅ……」

 総排出口の周りを潤滑油を纏った指でぬちゅぬちゅと優しくこすられ、総排出口から僅かに離れたあたりを押し込まれ、揉み込まれ、背筋にぞわりとした感覚が走る。

 しかしこれは不快なものではなく、性的な……。

 自覚した瞬間一気に顔が熱くなるのが分かったが、総排出口に何かを押し当てられてすぐにそれどころではなくなった。
 先程の総排出口拡張器とは明らかに大きさが違う。これは、一体。

「衣染くん、何を──あ゙ぎゅっ!?」
「電動マッサージ機です。こちらの方が効率的に筋肉をほぐせるので」
「ん゙っ、そッ゙、っぅゔ、なの、か……?」
「はい。マッサージ機ですからね」
「ならっ、ふ、いい、っん゙、だが……ッ、ぐ、んぅ、」

 いや何も良くない。だってそこは性的な部分で、そんな風に揉み込まれたら体が反応して、具体的には精液を分泌してしまいそうになるのだ。

 しかしそれを伝えられる筈もなく、私は声を押し殺そうと必死に下くちばしを床に押し付けた。が。

「わ。そうしてくれるとやりやすいです、ありがとうございます」
「ぅ、~っ゙!……ッ、♡……ッ、~っっ゙……!」

 図らずも臀部差し出すような体制になったせいで激しさを増したマッサージ行為に、快楽でガクガクと体が震える。
 くちばしを床に押し付けたせいのことではあるのだが、くちばしを押さえつけていなければ甘い声が漏れていただろう。

 だが、私のような反応はよくあることなのだろうか。
 衣染くんは手を止めることなく、マッサージ機を私の総排出口に押し付けたままで。

「ふーっ、っぅ゙、……ッッ!っ、ん゙、……~ッ……♡」

 じわ、と総排泄腔──精子や排泄物が集まり、女性であればタマゴが育つ場所──に精液が滲むのを感じてしまって、快楽に羽をばたつかせて暴れそうになるが、すんでのところで理性がそれを踏みとどまらせる。

 これは医療行為、これは医療行為……!

 抵抗をさせてももらえないまま早く終わることを祈りつつ快楽の濁流をどうにか耐え続けていると、漸く電動マッサージ機が私の総排出口から離された。

「っは、っふ……」
「頑張りましたね~」

 ……たす、かった……?

 快楽で蕩けかけた頭でそう考えるが、そんなわけがなかった。
 だって今回の目的はあくまでも『疑似産卵』なのだから。

「じゃあ次はナカほぐしちゃいましょう」
「待っ、少し、休け、ぎゃゔッ!?」
「休憩したら折角ほぐしたのがまた固くなっちゃいますよ。
 ほら、もう一番小さい総排出口拡張器入りましたから」
「え」

 そう言われて初めて、先程見た道具の中で一番小さいものがもう私の総排出口内に侵入しているのだと理解した。

「人間の指くらいのサイズですし、大したことないでしょう?」
「……そう、だな……」

 てっきり多少は痛みがあるものとばかり思っていたが、あるのは軽微な違和感程度。……なんというか拍子抜けだ。
 これがマッサージの効果か……。なんて少し感動していると、私の耳にとんでもない言葉が届いた。

「そろそろ動かしますね」
「!?」

 言うが早いか、拡張器?が、ぢゅ、ぬぢゅ……という水音をたてながら私の総排出口を出入りし始める。
 けれどもやはり違和感はなくならず、先程のような強烈な快楽も見られない。

 まぁ鳥人同士での性交を含め排泄以外でそんな場所は使わないし、医療行為としてはこんな感覚で当然だろう。やはり先程までが異常だったのだ。

 まあ、強いて言うならば、ムズムズとするようなごく微弱な快楽があるにはあるが────なんて、考えてしまったのが間違っていたのだろうか。

 先程まで濁流のような快楽を叩きつけられていた体はもうそういうスイッチが入ってしまっていて、そんな状態の体にごく微弱な快楽なんて与えられるのはかえって先程の強い快楽を思い出すだけである。

「……っ、ッ゙……! っふ、……ぅ……」

 先程散々マッサージされた総排出口の開口部がじんじんと快楽を求めるように熱を持つのに、与えられるのは微弱な快楽ばかり。
 そんな拷問じみた状態で、飢えた身体がせめてその微弱な快楽を精一杯拾おうとしているのか、勝手に過敏になっているのが自分でも分かった。

 ──マズい。
 これを続けられては、こんなところで快楽を覚えるようになりかねない。

 と、考えた瞬間。

「っん゙♡」

 ぬぢゅぅッ、と突然拡張器を引き抜かれて不意打ちで情けない声が出てしまったが、生憎それを気にする余裕はない。

 ……一旦終わってくれて良かった……。

 体内の熱を逃がすようにくちばしを開いて呼吸をする。

 本当に危ないところだった。
 医療行為で新たな性的嗜好を植え付けられてしまうなんて、変態扱い待ったナシだろうに。

 未だナカにはゆるく痺れるような感覚があるが、流石に前に使ったようなサイズのタマゴで快楽を覚えられるほどではあるまいし、これで一安心だ。

 今使った拡張器について衣染くんが『一番小さい』と言っていたことやらさっき見た拡張器の数やら気になることが無いわけではないが、あれは多分患者によって使用するサイズが違うとかそういうことだ。
 だから次の手順は疑似産卵。偽卵を産んで施術は終了。そうに違いない。
 ある程度拡張できたら次のサイズ、ということを繰り返すなんて、まさか、流石に。

「はい、次のサイズいきましょうか」

 ……そんな気はしていた。

「待ってくれ。一応訊いておきたいんだがこれはあと何度繰り返す予定だ」
「そうですねぇ……。
 月部先生は大型種なので、あと四回程は必要かと」

 優しげに微笑みながら「頑張りましょうね」と告げた彼の声が、今だけはひどく残酷なものに聞こえた。
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