わたしの可愛い悪役令嬢

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73・バレバレ

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 コートナー家の馬車で戻ったわたしはシュラフに迎えられそのまま部屋へと入った。普段着に着替え、そのままベッドに突っ伏した。


 何か色んな感情に振り回された一日だった……。


「お疲れ様でございました。パーティーは如何でしたか?」
「うーん、何だか色々盛り沢山で疲れたよ……」
 本当に盛り沢山に頑張ってきたと思う。

 王子の相手をしてタランテラス殿下に会い、ヒューレットとやり合って、最後にはアイラヴェントに説教を受けて、何故かそのまま告白タイムになった。

 色々あったけどアイラの事が好きとだ自覚してそれを受け入れてもらえた事で、何だかそれまでの色々な事がふっとんでしまった。

 こんな事は今まで生きてきた中で初めてだった。
 誰かをこんなに好きになった事もなかったし、だから告白だの両想いだのある訳がなかった。
 何だか気恥ずかしいのと嬉しいのがごちゃ混ぜになってむずむずと落ち着かない。こんな時、どうしたらいいのかなんて女性だった時の記憶や知識も何の役にも立ちゃしない。
 どうしていいのかわからなくてわたしは枕に顔を埋めて唸っていた。


「如何なされました。何かございましたか?」
 シュラフは心配そうにわたしに声をかけてくる。


「あー、うん……まぁ色々あったんだよね」


 わたしはベッドから出てテーブルについた。シュラフの淹れてくれたお茶を飲みながらシュラフに王子、タランテラス殿下、ヒューレットと会った事を話した。ヒューレットとのゴタゴタを話すとシュラフは苦笑して『セルシュ様は社交的ですし人気者ですからねぇ』と含みのある言い方をした。……暗にわたしをディスってるよね、それ。
 どーせわたしは引きこもったダメな侯爵子息ですよ。


 シュラフに色々な事を話したけれど、アイラとの事は何となく言えなかった。だってどう言っていいのかわからないんだもん。
「今までパーティーなんて避けてたからその反動で疲れたのかも」
「そうですね。クルーディス様は旦那様やセルシュ様に甘え過ぎていましたからね。社交の必要性も少しは身に染みましたでしょう」
 うっ!相変わらず辛辣だよシュラフ。わかってるけども!
 そんなに爽やかな笑顔で言わなくてもいいよね!?

 でもまぁ、そうなんだよね。
 わたしってばモーリタス達に偉そうな事言っちゃってるけど、自分がちゃんとそれをしている訳ではないのよね。今日は本当に身に染みましたよ、ええちゃんと。あれはあくまでも一般論って事で許してください。
「ソウデスネ」
 一応返事はしますけど、これから少しずつ頑張るからさ。大目に見て欲しいです……。


「そうだ、シュラフはヒューレットの情報何か持ってる?」
 社交で思い出したけど、わたしにはあの子が何故議会の評価が良かったのか疑問だった。
 あんなに騒いでいたヒューレットに、わたしはいい評価に繋がるポイントが見つけられなかった。あれで評価がいいんだったら他のご子息達はどれも『○』でいいんじゃないかと思った位だったもの。


「ヒューレット様ですか。そうですね……あの方は真面目で品行方正ですかね」
「あぁ……まぁそうかもね」
 まぁ真面目で一生懸命そうだけど。笑顔を振り撒くのすら一生懸命だったけど。
 でもさ、それだけじゃプラスの評価には繋がらなさそうなんだよね。
「最近は宰相様の元で色々学ばれている様ですね」
「へぇ、そうなんだ」
「旦那様もそれを羨ましがっておられますよ」
「へ……へぇ、そうなんだ……」
 うわぁ、とんだヤブヘビだった。ごめんね父上。それはまたいつかって事で。
「常に領地には宰相様に随行なされておりますし、領民にも慕われております」


 ヒューレットは見えないところで色々頑張っていたのか。そっか、そういう事なら納得出来るかな。わたしが知らないだけで皆努力してるんだなぁ。
 セルシュに会えなかった時間はそうやって自分なりの努力もしてたって事なんだよねきっと。それなら『○』も納得出来るか。
 偉いなぁ。頑張ってたんだね、ヒューレット。

 心の中でひとりで納得をして満足したわたしはシュラフに淹れてくれたお茶を飲んだ。ふぅ美味しいなぁ。
「ところでクルーディス様」
「ん?なに?」


「アイラヴェント様とはどうなったのですか?」


 ぶっ!


「えっ?……なっ……何で……?」



 急にシュラフに言われた言葉に思わず吹き出してしまった。
 何でそんなに鋭いの?シュラフは何を知ってるの?
 思い切り動揺して固まってしまったわたしにシュラフは微笑んだまま、わたしの吹き出したお茶を丁寧に拭き取っている。
「そんなに動揺しないで下さい」
 動揺するに決まってるじゃないの!どんな情報網よっ!シュラフって就職先間違ってない?従者なんて勿体無さ過ぎでしょ。
 そんな慌てるわたしを見てシュラフは軽く吹き出した。
「考えれば何かあったんだとすぐわかりますよ。クルーディス様はわざわざコートナー伯爵家の馬車で戻ってこられたではないですか」
 あ、そっか。リーンだけ先に帰ってきたんだもんね。そりゃ何かあったんだって思うよね。まぁあったんですけどね……。でもそれをどういう風に言えばいいのか。



「で、アイラヴェント様に想いをお伝えになられたのですか」


「なっ……何でそれ……!」


「もし隠していたつもりでしたらお間抜けにも程があります」
 にっこりと笑顔でそう言うシュラフにわたしは言葉が出なかった。
 何でそこまで把握するのよっ!見てたのか!聞いてたのか!こっそりと隠していたつもりでしたよこっちは!『お』をつけりゃいいってもんじゃないよね!お間抜けですいませんね!
 わたしはシュラフに全てを見透かされている気がして心の中で毒づいた。
「アイラヴェント様も同じお気持ちでしたのでしょう?」
「う……まぁそうだけど。何でわかるのさ」
「その事に気付いていらっしゃらなかったのはお二人だけだと思いますが」


 わたしの疑問にさらりと返されたその言葉に驚いてしまった。
 そうなの?周りは皆わかってたって事?それじゃわたし達よっぽど間抜けって事ですか。


 だって仕方がないじゃない。わたしもアイラも中身は逆だし大人だし、ゲームの『攻略対象』と『悪役令嬢』な訳だし。何か色々自分達が面倒くさい人間だという事もわかってるし。でもこんな風に好きになるなんて思わなかったんだもん。
 こんな事は口には出せないけど、そんな事情も引っくるめてアイラの事好きになっちゃったのよね。

 あれ?

 今気付いたけど……。
 前の世界なら仲良くきゃっきゃうふふと楽しんでいればいいけれど、わたし達がいるこの世界では爵位や立場がものを言う。
 好きだからっておいそれと仲良くする訳にもいかない。自分はそれなりに爵位のある子息だから最終的には婚約は親が決める事になるのだ。
 勝手に盛り上がっていたけど、これからの事はなんにも考えてなかった。しかもわたしはコートナー家の立ち位置が全くわからない。それによっては今後のわたし達の関係が変わってしまう可能性もあるのだ。


 そんな大事な事、今頃気付くってどうなんだ。


 ああ。やっぱりわたしはとんでもなく抜けているのかもしれない。


 まずは父上に相談するのが一番なんだろうけど……。
「ねぇシュラフ。コートナー家って貴族の中ではどういう立ち位置なのかな」
「立ち位置ですか」
「うん。『父上にとって』って言い換えてもいいけど」
「気になりますか?」
「そりゃあね。アイラの事が好きだからといって父上の立場が悪くなる事があるなら、その時はアイラと話をしなきゃいけないでしょ」
「……アイラヴェント様を切るんですか?」
 表情を変えずにシュラフがわたしに聞いた。
「それはしない」
 わたしはアイラを泣かす事だけは絶対にしたくなかった。だからアイラを切るなんてするつもりもないししたくもない。都合のいい考えかもしれないけどアイラとわたしがどっちも幸せになる様な道を考えたかった。
「僕は僕なりにアイラを守る事を決めたから、切らずに丸く収める方法を考える」
「そうですか……」
 シュラフは少し考えている様だったが、すぐににっこりと笑いかけてきた。
「ではその事をそのまま旦那様にお話してみた方がよろしいと思いますよ」
「父上に……?」
 そうですと頷いたシュラフは微笑んだままだった。そんな爽やかに言われてもさ、どういう風に言ったらいいのかわかんないよ。
 でもシュラフはこれ以上何も言ってはくれなさそうだから、それが一番手っ取り早いんだろうなぁ。
 もし、コートナー家が父上と対立する立場だったら、父上は最初から侯爵家としてアイラとわたしを会わせない様にするだろうから大丈夫だとは思うけど……。でもコートナー家に弟子であるランディスがいるから仕方なく許されているだけだったらどーしよう。
 一人で悩んだところで答えの出ない疑問に悶々としてしまう。
「悩む位でしたらさっさと旦那様のところに行っていただけますかね?」
 ううっ。やっぱりシュラフはドSだと思うんですけど。なんですかね、この扱い。……って、あれ?
「父上戻られてるの?」
「はい。クルーディス様よりひと足早く戻られまして今は書斎におられます」
 そうだったんだ。今日は遅くなると勝手に思ってた。


 まぁシュラフの言葉は正論なんだよね。ここでこうしていても答えが出る事はない訳だから……。
 わたしは一度深く深呼吸をした。よし!
「行ってくる」
 わたしがひと言だけそう言うとシュラフは恭しく頭を下げた。
「行ってらっしゃいませ」
 まるで敵陣に赴くかの様な気分になった。父上との話し合いは場合によってはそれに近い事になるかもしれないな。なんて思いながら書斎の扉を叩いた。





◆ ◆ ◆

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