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68・応援(アイラヴェント視点8)
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「おーい、アイラヴェントー」
リーンフェルト様と話をしてようやく気持ちが落ち着いた頃、俺を誰かが呼んだ。振り向くとモーリタス達三人組が仲良くこちらにやって来た。
彼らはいつも仲がいい。三人ともこのまま素直に大人になってね。断罪なんてしないでね。なんてこっそり思う。
「久しぶりだね、アイラヴェント」
「お久しぶりです皆様」
ここでも俺は令嬢としてきちんと挨拶をした。どこからレイラに俺の失敗が伝わるかわかんないからね。
「いつもより華やかで素敵だね」
「クルーディス師匠も喜んでいたんじゃないか?」
「そうだよな、こんなに素敵な令嬢になるなんて。クルーディス師匠も嬉しいだろうな」
「クルーディス師匠はいつもアイラヴェントの事気にかけてるからそりゃ嬉しいだろ」
「あ、ありがとう……」
モーリタスとヨーエンにさらりと褒められて戸惑いながらもお礼を言った。
この二人は絶対女の子の扱い方が上手いよ。実はタラシなんじゃないだろうか。そんな風にさりげなく褒めるとか、どんだけ女の子の扱い馴れてんだよ。中身が女の子じゃない俺ですら何だかとても気恥ずかしい。
そんな事を思っていたのに彼らから急にクルーディスの名前が出ただけで心臓が飛び上がった様な気がした。
喜んでくれたのかな。そうなら嬉しいと思う。そう考えるのは俺にもちゃんと女の子としての感情があるからなのかもしれない。
そんな事を考えていると二人の横でダルトナムが何やらそわそわしているのが目に入った。顔も何だか赤い気がする。
「どうしたの?ダルトナム様」
「あっ、あのな、アイラヴェント…お願いが……」
「お願い?」
「あの、その……」
真っ赤になったまま次の言葉が出てこない。
何なんだ?首を傾げていると、横でモーリタスとヨーエンがにやにやしながらダルトナムを見ていた。
「ああ、そうそう。こいつはな、こちらのご令嬢の事が気になっているみたいなんだ」
「アイラヴェント、是非紹介してやってくれないか?」
ああ、そういう事か。リーンフェルト様は本当に可愛らしい方だもんね。そりゃ気にもなるってもんだよね。ダルトナムはいい趣味をしているよ、うん。
「皆様、こちらはクルーディスの妹でリーンフェルト様です」
「初めまして。リーンフェルトと申します」
俺が紹介すると、リーンフェルト様は三人に可愛らしいお辞儀をして挨拶をした。
「あっ、わっワタクシはダルトナム・メルリスです!」
「初めまして、リーンフェルト嬢。俺はヨーエン・ソニカトラです」
「俺はモーリタス・チャルシットです。俺達はクルーディス様とセルシュ様を師匠と呼ばせていただいております」
「あら、お弟子さんはランディス様だけではなかったのですね」
リーンフェルト様はいつの間にか弟子が増えていた事に少し驚いていたけど、自分のお兄さんが慕われている事に嬉しそうな顔をしていた。自慢のお兄さんなんだもんね。
「はい。俺達、ランディには兄弟子として色々教えていただいているんですよ」
「そうなんですのね」
「クルーディス師匠とセルシュ師匠は俺達の恩人なんです。あんなに立派な人は滅多に居ませんよ」
「あら、兄達が聞いたら喜びますわ」
モーリタスとヨーエンが普通に話をしていてもダルトナムは真っ赤になったまま話しかけられずにいた。ほら、ダルトナム!頑張れ!
「あっ、あのっリーンフェルト嬢のお好きなものはなんですかっ!」
「はい?」
緊張でいっぱいになっているダルトナムが急に声を張り上げた。俺はそんな彼に心の中で声援を送っていた。
何となくその姿に勝手に仲間意識を感じてしまう。……俺はこんなに頑張れるだろうか。
「ぶっ不躾ですいません……」
真っ赤になって頑張っているダルトナムにリーンフェルト様はにっこりと微笑んだ。
「私はお花が好きですわ」
「そっそうなんですね。では、あのっ今度私がお花を贈ったら受け取ってもらえますか?」
「まぁ、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ダルトナムはにっこり微笑んだリーンフェルト様の言葉に本当に嬉しそうな笑顔になった。
心の中でほっと胸を撫で下ろした。
良かった、頑張った甲斐があったね。
ダルトナムの頑張りを見て、俺も頑張ってみようかなという気になった。玉砕かもしれないけど、伝えれば少しは俺の中で何かが変わるかもしれない気がする。
「あ、そういえば俺達さっきランディを見たぞ」
「えっ?」
やっば!今モーリタスに言われるまですっかりお兄様の事忘れてた!大丈夫かな、何かやらかしてないかな。
「あ、あの…モーリタス様、お兄様は何してました?」
「友達と談笑してたみたいだったよ」
へぇ、そうなんだ。お兄様ってば自分でちゃんとお友達作ったのかな。今までの事を考えると凄い進歩だよ。師匠達のお陰なのかな。帰ったらお兄様に話を聞いてみよう。
「なぁ、モーリタス。あれは……ナリタリア家の方じゃなかったか?」
「うーん、どうだろ?俺はちょっと離れててよくわからなかったんだよな」
えっ!?
もしかしてそれって、あの『ナリタリア公爵家』!?
って事はもしかして……。俺はその可能性に緊張した。
「ランディはいつの間に友達作ったんだろうな」
「何か凄く楽しそうに盛り上がってたな」
お兄様とナリタリア家のご子息が盛り上がって話を……?
えーと、ナリタリア家のご子息ってあの『攻略対象』のサイモンなのだろうか。いや、それよりも相手が誰であれ怒らせたりしてないかなお兄様。何の話をしたらその方はお兄様と盛り上がれるんだろう。お兄様は先走って変な事口走ったりしてないかな。相手を怒らせてまたしょんぼりして帰ってきたりしないかな。
あぁ、どうしよう困った。
急に飛び込んできた情報に何を確認しなきゃいけないのかわからなくなってきた……。
うーん、よし!これは帰ってからお兄様に聞こう!中途半端に振り回されちゃいけない。
後回しとも言うけれど、結局のところ何もわからないのだから仕方がないよね。この案件は置いておこう。お兄様も楽しそうだって事だし、きっと悪い事ではないのだろう。
そうだよね。そうだといいな。……大丈夫だよね?お兄様。
そんな事を思っていたら急に何処かから大きな声がして周辺がざわついた。
「何だ?」
「何があったんだろう」
「あ、あれ!クルーディス師匠と誰かが揉めてないか?」
ヨーエンが指を差したところを見るとクルーディスとセルシュ様が誰かの相手をしているのが見えた。どうやらあそこが大声の発生源の様だ。
三人は俺達にここに居るようにと言ってクルーディス達のところに向かった。
クルーディスを見ると、珍しく苦々しい顔をして相手の事を見据えている。こちらからは相手が誰なのかわからない。横顔が何やら真っ赤になって怒っている様に見えた。
「どうしたのでしょう……」
「大丈夫ですよリーンフェルト様。きっとクルーディスが何とかします」
俺は緊張で強張っているリーンフェルト様の手を握って成り行きを見守る事にした。
モーリタス達がクルーディスのところ行き何か話をしているけど、ちょっとここでは離れ過ぎていて会話は聞こえない。
ただ、今のやり取りでクルーディスの目が本気の怒りに変わったのがわかった。
今度はクルーディスが大きな声で何かを言う。そこから周りがまたさわさわと騒ぎ出した。
ここからはクルーディスがその相手ににじり寄ってる事しかわからない。段々と人垣が増えてきて暫くするとクルーディスが見えなくなった。
どうしたんだろう大丈夫かなクルーディス。
心配だけど俺は行かない方がいい気がした。きっと俺達は邪魔になる。
俺は側で固くなっているリーンフェルト様を支えてあげる事に専念した。
「何やら面白い事になってるな」
「えっ?うわっ!」
急に横から聞いた事のある声がした。驚いてそちらを見ると、いつの間にか俺の横にルルーシェイド王子が立っていた。しかも何だかとても楽しそうに。
「あっ、お、王子様?何でここに」
「アイラヴェント、お前クルーディスが心配か?」
驚いている俺の質問には答えずに、王子はにやりと笑い問いかけてきた。
「はい……」
そりゃ勿論心配だよ!だけど俺にはどうする事も出来ないんだよ。王子の質問に頷く事しか出来なかった。
「リーンフェルトも同じか?」
リーンフェルト様は王子に怪訝そうな顔をしている。あれ?リーンフェルト様は王子の事イヤなの?
「当たり前ですわ!」
「……ふぅんそうか」
リーンフェルト様がツンとそっぽを向いて答えると、王子はさっさとクルーディス達のところまで行ってしまった。
そこで少し話をしていたみたいだったけど、王子はあれよあれよという間に彼らを連れて何処かへ行ってしまった。
俺とリーンフェルト様はただ呆然とそれを見つめていた。
「えぇ……?どっか行っちゃった……?」
一瞬の事で何だかよくわからなかった。でも、あの場から離れたって事は、取り敢えずこれ以上は大事にならないって事だよね。戻ってくるまでは心配だけど、王子もいるんだし、きっと何とかなるよね。
人垣は囲む相手がいなくなった事で、段々とまた散っていく。先程の騒ぎはまるで無かったかの様に、元の穏やかな空間に戻っていった。
王子のお陰なのかな。一応感謝しておこう。
「……あの人何かイヤですわ」
リーンフェルト様は何故かあからさまに王子を嫌がって呟いた。リーンフェルト様が誰かを嫌がるなんて事、あるの?……一体王子と何があったんだろう。
「あの、リーンフェルト様?」
「あの人変なんですもの」
ぶつぶつと呟いているリーンフェルト様に声をかけても、聞こえていないのか小さい声でずっと文句を言っていた。
「変って……王子の事ですか?」
「え?……あっ!声に出てましたか?」
慌ててリーンフェルト様は口を押さえたけどごめんなさい。ばっちり聞こえちゃってました。
もしかしたらこれは知らないふりをしたら良かったのかもしれない。
「どこがどうって言う訳じゃないんですの」
ふぅとため息をついたリーンフェルト様は王子達が行った先を見つめていた。
「ただ何となくイヤなのですわ」
えーと、その言い方結構キツいです……。
優しいリーンフェルト様に、そんな何となくで嫌がられるなんて……。
王子ちょっと可哀想かも。切ない。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
リーンフェルト様と話をしてようやく気持ちが落ち着いた頃、俺を誰かが呼んだ。振り向くとモーリタス達三人組が仲良くこちらにやって来た。
彼らはいつも仲がいい。三人ともこのまま素直に大人になってね。断罪なんてしないでね。なんてこっそり思う。
「久しぶりだね、アイラヴェント」
「お久しぶりです皆様」
ここでも俺は令嬢としてきちんと挨拶をした。どこからレイラに俺の失敗が伝わるかわかんないからね。
「いつもより華やかで素敵だね」
「クルーディス師匠も喜んでいたんじゃないか?」
「そうだよな、こんなに素敵な令嬢になるなんて。クルーディス師匠も嬉しいだろうな」
「クルーディス師匠はいつもアイラヴェントの事気にかけてるからそりゃ嬉しいだろ」
「あ、ありがとう……」
モーリタスとヨーエンにさらりと褒められて戸惑いながらもお礼を言った。
この二人は絶対女の子の扱い方が上手いよ。実はタラシなんじゃないだろうか。そんな風にさりげなく褒めるとか、どんだけ女の子の扱い馴れてんだよ。中身が女の子じゃない俺ですら何だかとても気恥ずかしい。
そんな事を思っていたのに彼らから急にクルーディスの名前が出ただけで心臓が飛び上がった様な気がした。
喜んでくれたのかな。そうなら嬉しいと思う。そう考えるのは俺にもちゃんと女の子としての感情があるからなのかもしれない。
そんな事を考えていると二人の横でダルトナムが何やらそわそわしているのが目に入った。顔も何だか赤い気がする。
「どうしたの?ダルトナム様」
「あっ、あのな、アイラヴェント…お願いが……」
「お願い?」
「あの、その……」
真っ赤になったまま次の言葉が出てこない。
何なんだ?首を傾げていると、横でモーリタスとヨーエンがにやにやしながらダルトナムを見ていた。
「ああ、そうそう。こいつはな、こちらのご令嬢の事が気になっているみたいなんだ」
「アイラヴェント、是非紹介してやってくれないか?」
ああ、そういう事か。リーンフェルト様は本当に可愛らしい方だもんね。そりゃ気にもなるってもんだよね。ダルトナムはいい趣味をしているよ、うん。
「皆様、こちらはクルーディスの妹でリーンフェルト様です」
「初めまして。リーンフェルトと申します」
俺が紹介すると、リーンフェルト様は三人に可愛らしいお辞儀をして挨拶をした。
「あっ、わっワタクシはダルトナム・メルリスです!」
「初めまして、リーンフェルト嬢。俺はヨーエン・ソニカトラです」
「俺はモーリタス・チャルシットです。俺達はクルーディス様とセルシュ様を師匠と呼ばせていただいております」
「あら、お弟子さんはランディス様だけではなかったのですね」
リーンフェルト様はいつの間にか弟子が増えていた事に少し驚いていたけど、自分のお兄さんが慕われている事に嬉しそうな顔をしていた。自慢のお兄さんなんだもんね。
「はい。俺達、ランディには兄弟子として色々教えていただいているんですよ」
「そうなんですのね」
「クルーディス師匠とセルシュ師匠は俺達の恩人なんです。あんなに立派な人は滅多に居ませんよ」
「あら、兄達が聞いたら喜びますわ」
モーリタスとヨーエンが普通に話をしていてもダルトナムは真っ赤になったまま話しかけられずにいた。ほら、ダルトナム!頑張れ!
「あっ、あのっリーンフェルト嬢のお好きなものはなんですかっ!」
「はい?」
緊張でいっぱいになっているダルトナムが急に声を張り上げた。俺はそんな彼に心の中で声援を送っていた。
何となくその姿に勝手に仲間意識を感じてしまう。……俺はこんなに頑張れるだろうか。
「ぶっ不躾ですいません……」
真っ赤になって頑張っているダルトナムにリーンフェルト様はにっこりと微笑んだ。
「私はお花が好きですわ」
「そっそうなんですね。では、あのっ今度私がお花を贈ったら受け取ってもらえますか?」
「まぁ、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ダルトナムはにっこり微笑んだリーンフェルト様の言葉に本当に嬉しそうな笑顔になった。
心の中でほっと胸を撫で下ろした。
良かった、頑張った甲斐があったね。
ダルトナムの頑張りを見て、俺も頑張ってみようかなという気になった。玉砕かもしれないけど、伝えれば少しは俺の中で何かが変わるかもしれない気がする。
「あ、そういえば俺達さっきランディを見たぞ」
「えっ?」
やっば!今モーリタスに言われるまですっかりお兄様の事忘れてた!大丈夫かな、何かやらかしてないかな。
「あ、あの…モーリタス様、お兄様は何してました?」
「友達と談笑してたみたいだったよ」
へぇ、そうなんだ。お兄様ってば自分でちゃんとお友達作ったのかな。今までの事を考えると凄い進歩だよ。師匠達のお陰なのかな。帰ったらお兄様に話を聞いてみよう。
「なぁ、モーリタス。あれは……ナリタリア家の方じゃなかったか?」
「うーん、どうだろ?俺はちょっと離れててよくわからなかったんだよな」
えっ!?
もしかしてそれって、あの『ナリタリア公爵家』!?
って事はもしかして……。俺はその可能性に緊張した。
「ランディはいつの間に友達作ったんだろうな」
「何か凄く楽しそうに盛り上がってたな」
お兄様とナリタリア家のご子息が盛り上がって話を……?
えーと、ナリタリア家のご子息ってあの『攻略対象』のサイモンなのだろうか。いや、それよりも相手が誰であれ怒らせたりしてないかなお兄様。何の話をしたらその方はお兄様と盛り上がれるんだろう。お兄様は先走って変な事口走ったりしてないかな。相手を怒らせてまたしょんぼりして帰ってきたりしないかな。
あぁ、どうしよう困った。
急に飛び込んできた情報に何を確認しなきゃいけないのかわからなくなってきた……。
うーん、よし!これは帰ってからお兄様に聞こう!中途半端に振り回されちゃいけない。
後回しとも言うけれど、結局のところ何もわからないのだから仕方がないよね。この案件は置いておこう。お兄様も楽しそうだって事だし、きっと悪い事ではないのだろう。
そうだよね。そうだといいな。……大丈夫だよね?お兄様。
そんな事を思っていたら急に何処かから大きな声がして周辺がざわついた。
「何だ?」
「何があったんだろう」
「あ、あれ!クルーディス師匠と誰かが揉めてないか?」
ヨーエンが指を差したところを見るとクルーディスとセルシュ様が誰かの相手をしているのが見えた。どうやらあそこが大声の発生源の様だ。
三人は俺達にここに居るようにと言ってクルーディス達のところに向かった。
クルーディスを見ると、珍しく苦々しい顔をして相手の事を見据えている。こちらからは相手が誰なのかわからない。横顔が何やら真っ赤になって怒っている様に見えた。
「どうしたのでしょう……」
「大丈夫ですよリーンフェルト様。きっとクルーディスが何とかします」
俺は緊張で強張っているリーンフェルト様の手を握って成り行きを見守る事にした。
モーリタス達がクルーディスのところ行き何か話をしているけど、ちょっとここでは離れ過ぎていて会話は聞こえない。
ただ、今のやり取りでクルーディスの目が本気の怒りに変わったのがわかった。
今度はクルーディスが大きな声で何かを言う。そこから周りがまたさわさわと騒ぎ出した。
ここからはクルーディスがその相手ににじり寄ってる事しかわからない。段々と人垣が増えてきて暫くするとクルーディスが見えなくなった。
どうしたんだろう大丈夫かなクルーディス。
心配だけど俺は行かない方がいい気がした。きっと俺達は邪魔になる。
俺は側で固くなっているリーンフェルト様を支えてあげる事に専念した。
「何やら面白い事になってるな」
「えっ?うわっ!」
急に横から聞いた事のある声がした。驚いてそちらを見ると、いつの間にか俺の横にルルーシェイド王子が立っていた。しかも何だかとても楽しそうに。
「あっ、お、王子様?何でここに」
「アイラヴェント、お前クルーディスが心配か?」
驚いている俺の質問には答えずに、王子はにやりと笑い問いかけてきた。
「はい……」
そりゃ勿論心配だよ!だけど俺にはどうする事も出来ないんだよ。王子の質問に頷く事しか出来なかった。
「リーンフェルトも同じか?」
リーンフェルト様は王子に怪訝そうな顔をしている。あれ?リーンフェルト様は王子の事イヤなの?
「当たり前ですわ!」
「……ふぅんそうか」
リーンフェルト様がツンとそっぽを向いて答えると、王子はさっさとクルーディス達のところまで行ってしまった。
そこで少し話をしていたみたいだったけど、王子はあれよあれよという間に彼らを連れて何処かへ行ってしまった。
俺とリーンフェルト様はただ呆然とそれを見つめていた。
「えぇ……?どっか行っちゃった……?」
一瞬の事で何だかよくわからなかった。でも、あの場から離れたって事は、取り敢えずこれ以上は大事にならないって事だよね。戻ってくるまでは心配だけど、王子もいるんだし、きっと何とかなるよね。
人垣は囲む相手がいなくなった事で、段々とまた散っていく。先程の騒ぎはまるで無かったかの様に、元の穏やかな空間に戻っていった。
王子のお陰なのかな。一応感謝しておこう。
「……あの人何かイヤですわ」
リーンフェルト様は何故かあからさまに王子を嫌がって呟いた。リーンフェルト様が誰かを嫌がるなんて事、あるの?……一体王子と何があったんだろう。
「あの、リーンフェルト様?」
「あの人変なんですもの」
ぶつぶつと呟いているリーンフェルト様に声をかけても、聞こえていないのか小さい声でずっと文句を言っていた。
「変って……王子の事ですか?」
「え?……あっ!声に出てましたか?」
慌ててリーンフェルト様は口を押さえたけどごめんなさい。ばっちり聞こえちゃってました。
もしかしたらこれは知らないふりをしたら良かったのかもしれない。
「どこがどうって言う訳じゃないんですの」
ふぅとため息をついたリーンフェルト様は王子達が行った先を見つめていた。
「ただ何となくイヤなのですわ」
えーと、その言い方結構キツいです……。
優しいリーンフェルト様に、そんな何となくで嫌がられるなんて……。
王子ちょっと可哀想かも。切ない。
◆ ◆ ◆
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