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61・予想外(アイラヴェント視点1)
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クルーディスに出会ってからこっち、あまりゲームの夢は見なくなった。
全くではないけれど、あのクルーディスだったら自分は酷い目に合うことはないだろうと思える様になったので、あの夢も少しは苦しいものではなくなった気がする。
ひとつ憂いが無くなっただけだけど目覚めもそんなに悪くない。
目覚めは悪くないのだが、そのままだらだらとベッドでまどろむのはとても心地よい。だからついつい二度寝をしてしまうのは仕方がない事だと思う。そのまままぶたを閉じてもう一度眠りに落ちてしまったのは不可抗力なんだ……。
「んにゃっ!」
急に感じた鼻の痛みに驚いて目を覚ました。目に飛び込んできたのはにこにこと笑顔で鼻をつまんでいるレイラだった。
「お目覚めですか?アイラヴェント様」
「……お目覚めです」
「それはようございました。おはようございます」
レイラはその手を離し俺の身支度の準備を始めた。えーと……確か俺ってレイラの主だよね?
「その起こし方はどうなのかなぁ」
俺は痛かった鼻をさすりながらささやかにレイラに抗議をしてみる。
「何度もお声を掛けましたけどお嬢様ってばぴくりとも動かないものでしたから。仕方ありませんでしょう?」
にっこりと微笑んでレイラがそう言うものだから納得しそうになるけれど。
「いやいや、他にも起こし方ってあるよね?」
「お嬢様を起こすのはこれが一番確実なんですよ」
「ソウデスカ……」
一応俺も貴族のお嬢様のはずなんだけど。世間のお嬢様はこうやって起こされはしないんだろうな。おかしいな。
でも、文句を言ったところでレイラに勝てる訳もなし。仕方なくそれを納得して朝の支度を始めた。
「本日はクルーディス様とセルシュ様がいらっしゃる日ですね」
そうだ!今日は久しぶりにクルーディス達が来るんだった。
最近は何か忙しいとの事で全然会えていなかった。うちより爵位の高い彼らはうちの様にのんびりとは出来ないのかもしれない。大変だなぁ。
俺は俺で、彼らが来ない日はレイラにパーティーに向けてみっちりと礼儀作法の勉強を受けなきゃいけないのでそれなりに忙しい。マジでしんどい。
彼らが来るとレイラがそっちの対応もしてくれるので必然的にそのお勉強はお休みになる。ダブルで嬉しいのはレイラには内緒。
「楽しみだな」
「今日は声が弾んでいらっしゃいますね」
くすくすとレイラは笑いながら俺の髪を解いている。
「だって久しぶりだもん」
クルーディスと他愛もない話をするのはとても楽しい。その時だけはなんのしがらみも持たなくていいのでほっとする。
この世界で前世の記憶を持っている俺は孤独だったけど、クルーディスに会えた事でその寂しさは無くなった。同志がいるっていいもんだな。
「ではクルーディス様に沢山触れていただける様にいつも以上に綺麗に調えましょうね」
「うっ…うん」
何故かクルーディスは俺の頭や髪を撫でるのが好きなんだよね。自分に触れている時のあの幸せそうな顔を思い浮かべる。
なんであんなに幸せそうなんだろ?髪に触るのが好きなのかな。それとも俺の事を触りたいのかな……って。
うわっ!俺何か恥ずかしい事考えてない?
「あら、お嬢様如何なされました?お顔が赤くなってますわ」
「え?うわ、ほんとだ……」
鏡に映っている髪を解かれている自分を見ると顔どころか耳や首まで赤くなっていた。
ううっ、なんだこれ!今とっても恥ずかしいんだけど……。思わず両手で顔をおおってしまった。
クルーディスの事考えて赤くなる俺ってなんなんだよもう!
「動かないで下さいましね」
言うや否やあっという間に俺の両手はレイラに掴まれて膝の上に乗せられた。
何今の一瞬の動き!レイラって本当に侍女なのか!?その瞬発力勿体無さ過ぎない?俺は驚き過ぎて全く動けなかった。
レイラには逆らっちゃいけない。そう思いながらレイラにされるがままになった。
レイラがクルーディス達を迎えに出たので俺もレイラの後ろからついていく。お兄様は落ち着きのない様子で走って出迎えに向かった。おーい、そんなに走らなくても二人は逃げないよ?
まぁお兄様もいつも二人が来るのを楽しみにしてるから仕方がないか。俺だって女の子じゃなかったらダッシュで迎えに行きたいもんな。
エントランスに出ると、そこにはいつものようにクルーディスとセルシュ様。今日は何故か二人の後ろに同世代の男の子達が並んでた。まるで引率の様な二人はなんとなく笑顔が引きつっている。今日は友達でも連れてきたのかな。
……と、あれ?
その後ろの子、何か見た事あるんだけど……。
いや、何かどころじゃない!それ、もしかしてもしかしなくても『モーリタス』じゃん!
他の二人は知らないけれど、モーリタスはこの世界で会いたくない人物ベストスリー……いや、今はベストツーに入っているから年齢が違ってもすぐわかる。
ちょっと前まではクルーディスもこの中に入っていたからベストスリーだったけれど、って、まぁそれはおいといて。
なんでここにあのモーリタスがいるんだ!?
俺はゲームではこいつに殺されてしまう。
話はあんまり覚えてないけど、ゲームで『アイラヴェント』は『モーリタス』に極悪人のレッテルを貼られて、斬られて、投獄されて、独りぼっちで死んでいく。孤独に苦しみながら。
それを思い出して俺は思わず身構えてしまう。
でも、目の前の少年はにこにこととても嬉しそうにお兄様と俺を見ていた。ゲームでのアイラヴェントへ向けていた冷たい視線とは程遠くて、何だかあの『モーリタス』に結びつかない事に少し戸惑ってしまう。でも顔はあのゲームのままだ。
何しに来たんだろう。俺もおにいさまもモーリタスとは知り合いでも何でもないのに。クルーディスは何でわざわざ俺の所に連れてきたんだ?
クルーディスを敢えて睨んだ。
「……ごめんねアイラ」
今日の最初の挨拶が謝罪だった。
そんなに申し訳なさそうに言われても。クルーディスに謝られると、こっちは怒れないよ。あのさ、そいつと俺との関係わかってるよね?その上でわざわざ連れてきてるんだよね?
俺だってさぁ、心の準備ってものがあるんだけどなぁ。
「あの……そちらの方は?」
一応確認のために聞いてみた。
そりゃ知ってるよ?それはもうイヤって程知ってるけども!一応気分的に確認はさせて欲しい!
「こちらはモーリタス。騎士団長のチャルシット様のご子息だよ……」
ため息を隠そうともしないで、クルーディスは彼を紹介した。
……ですよねやっぱり。
あのさー、そんな済まなそうに言われてもさー。なら何で連れてきたんだよ。
一応俺も貴族のお嬢様なもんで、他の人がいる所でクルーディスに文句なんて言いたくても言えなかった。その分心の中は大変な事になってるんだからな。後で問い詰めてやる。
「後、こちらはヨーエン・ソニカトラとダルトナム・メルリス。三人とも今日はランディスに会いたいって言うんで、勝手についてきちゃったんだよね」
諦めた様な顔をしてクルーディスはため息混じりにそう言った。気が付けばモーリタス達はキラキラした目でお兄様を見つめていた。
え?どういう事?
「ええっ!私にですか!?」
お兄様はとても驚いていた。
そりゃ知らない人から急に『会いたい』って言われたらびっくりだよね。お兄様に会いに来る子なんてクルーディスとセルシュ様しかいないし。
目の前で展開されるやり取りに、こっちも充分驚いてしまった。
「ランディス殿はこのお二人を師匠としている最初の方ですから俺達にとっては兄弟子です」
「俺達もお二人を師匠とする事に決めたんです」
「だから兄弟子でもあるランディス殿にまずご挨拶をしようと思って連れてきてもらったんです」
三人はそれはもう嬉しそうににこにこと訪問の理由を教えてくれた。
何でか知らないがまたもや二人は弟子を入門させたらしい。しかもよりにもよってモーリタスって……。一体何をしたらそういう事になるんだろうね?
ちらりと二人を見ると、なんともいえない微妙な顔になっていた。
「なんと!貴方達も師匠に教えを乞うのですね!お二人からは沢山学べますからね!お互いに精進していきましょう!」
お兄様は弟子仲間が出来た事を素直に喜んではしゃいでいた。すぐに打ち解けて三人と握手を交わし、嬉しいですと大喜びだ。
お兄様の様に楽天的だと人生本当に楽かもなぁ。なんて事を思ってしまう位うちのお兄様は素直なんだ。ちょっとだけ微笑ましい光景かも。
でもその相手はあの『モーリタス』。
あのゲームのアイラヴェントへ向けた憎しみの表情やその仕打ちはとても恐ろしいと思うのに、今目の前にいるこの少年からはそんな気配は全く感じられなくて、何だか戸惑ってしまった。
俺のそんな気持ちとは裏腹に、お兄様はモーリタス達と楽しそうに話を弾ませていた。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
全くではないけれど、あのクルーディスだったら自分は酷い目に合うことはないだろうと思える様になったので、あの夢も少しは苦しいものではなくなった気がする。
ひとつ憂いが無くなっただけだけど目覚めもそんなに悪くない。
目覚めは悪くないのだが、そのままだらだらとベッドでまどろむのはとても心地よい。だからついつい二度寝をしてしまうのは仕方がない事だと思う。そのまままぶたを閉じてもう一度眠りに落ちてしまったのは不可抗力なんだ……。
「んにゃっ!」
急に感じた鼻の痛みに驚いて目を覚ました。目に飛び込んできたのはにこにこと笑顔で鼻をつまんでいるレイラだった。
「お目覚めですか?アイラヴェント様」
「……お目覚めです」
「それはようございました。おはようございます」
レイラはその手を離し俺の身支度の準備を始めた。えーと……確か俺ってレイラの主だよね?
「その起こし方はどうなのかなぁ」
俺は痛かった鼻をさすりながらささやかにレイラに抗議をしてみる。
「何度もお声を掛けましたけどお嬢様ってばぴくりとも動かないものでしたから。仕方ありませんでしょう?」
にっこりと微笑んでレイラがそう言うものだから納得しそうになるけれど。
「いやいや、他にも起こし方ってあるよね?」
「お嬢様を起こすのはこれが一番確実なんですよ」
「ソウデスカ……」
一応俺も貴族のお嬢様のはずなんだけど。世間のお嬢様はこうやって起こされはしないんだろうな。おかしいな。
でも、文句を言ったところでレイラに勝てる訳もなし。仕方なくそれを納得して朝の支度を始めた。
「本日はクルーディス様とセルシュ様がいらっしゃる日ですね」
そうだ!今日は久しぶりにクルーディス達が来るんだった。
最近は何か忙しいとの事で全然会えていなかった。うちより爵位の高い彼らはうちの様にのんびりとは出来ないのかもしれない。大変だなぁ。
俺は俺で、彼らが来ない日はレイラにパーティーに向けてみっちりと礼儀作法の勉強を受けなきゃいけないのでそれなりに忙しい。マジでしんどい。
彼らが来るとレイラがそっちの対応もしてくれるので必然的にそのお勉強はお休みになる。ダブルで嬉しいのはレイラには内緒。
「楽しみだな」
「今日は声が弾んでいらっしゃいますね」
くすくすとレイラは笑いながら俺の髪を解いている。
「だって久しぶりだもん」
クルーディスと他愛もない話をするのはとても楽しい。その時だけはなんのしがらみも持たなくていいのでほっとする。
この世界で前世の記憶を持っている俺は孤独だったけど、クルーディスに会えた事でその寂しさは無くなった。同志がいるっていいもんだな。
「ではクルーディス様に沢山触れていただける様にいつも以上に綺麗に調えましょうね」
「うっ…うん」
何故かクルーディスは俺の頭や髪を撫でるのが好きなんだよね。自分に触れている時のあの幸せそうな顔を思い浮かべる。
なんであんなに幸せそうなんだろ?髪に触るのが好きなのかな。それとも俺の事を触りたいのかな……って。
うわっ!俺何か恥ずかしい事考えてない?
「あら、お嬢様如何なされました?お顔が赤くなってますわ」
「え?うわ、ほんとだ……」
鏡に映っている髪を解かれている自分を見ると顔どころか耳や首まで赤くなっていた。
ううっ、なんだこれ!今とっても恥ずかしいんだけど……。思わず両手で顔をおおってしまった。
クルーディスの事考えて赤くなる俺ってなんなんだよもう!
「動かないで下さいましね」
言うや否やあっという間に俺の両手はレイラに掴まれて膝の上に乗せられた。
何今の一瞬の動き!レイラって本当に侍女なのか!?その瞬発力勿体無さ過ぎない?俺は驚き過ぎて全く動けなかった。
レイラには逆らっちゃいけない。そう思いながらレイラにされるがままになった。
レイラがクルーディス達を迎えに出たので俺もレイラの後ろからついていく。お兄様は落ち着きのない様子で走って出迎えに向かった。おーい、そんなに走らなくても二人は逃げないよ?
まぁお兄様もいつも二人が来るのを楽しみにしてるから仕方がないか。俺だって女の子じゃなかったらダッシュで迎えに行きたいもんな。
エントランスに出ると、そこにはいつものようにクルーディスとセルシュ様。今日は何故か二人の後ろに同世代の男の子達が並んでた。まるで引率の様な二人はなんとなく笑顔が引きつっている。今日は友達でも連れてきたのかな。
……と、あれ?
その後ろの子、何か見た事あるんだけど……。
いや、何かどころじゃない!それ、もしかしてもしかしなくても『モーリタス』じゃん!
他の二人は知らないけれど、モーリタスはこの世界で会いたくない人物ベストスリー……いや、今はベストツーに入っているから年齢が違ってもすぐわかる。
ちょっと前まではクルーディスもこの中に入っていたからベストスリーだったけれど、って、まぁそれはおいといて。
なんでここにあのモーリタスがいるんだ!?
俺はゲームではこいつに殺されてしまう。
話はあんまり覚えてないけど、ゲームで『アイラヴェント』は『モーリタス』に極悪人のレッテルを貼られて、斬られて、投獄されて、独りぼっちで死んでいく。孤独に苦しみながら。
それを思い出して俺は思わず身構えてしまう。
でも、目の前の少年はにこにこととても嬉しそうにお兄様と俺を見ていた。ゲームでのアイラヴェントへ向けていた冷たい視線とは程遠くて、何だかあの『モーリタス』に結びつかない事に少し戸惑ってしまう。でも顔はあのゲームのままだ。
何しに来たんだろう。俺もおにいさまもモーリタスとは知り合いでも何でもないのに。クルーディスは何でわざわざ俺の所に連れてきたんだ?
クルーディスを敢えて睨んだ。
「……ごめんねアイラ」
今日の最初の挨拶が謝罪だった。
そんなに申し訳なさそうに言われても。クルーディスに謝られると、こっちは怒れないよ。あのさ、そいつと俺との関係わかってるよね?その上でわざわざ連れてきてるんだよね?
俺だってさぁ、心の準備ってものがあるんだけどなぁ。
「あの……そちらの方は?」
一応確認のために聞いてみた。
そりゃ知ってるよ?それはもうイヤって程知ってるけども!一応気分的に確認はさせて欲しい!
「こちらはモーリタス。騎士団長のチャルシット様のご子息だよ……」
ため息を隠そうともしないで、クルーディスは彼を紹介した。
……ですよねやっぱり。
あのさー、そんな済まなそうに言われてもさー。なら何で連れてきたんだよ。
一応俺も貴族のお嬢様なもんで、他の人がいる所でクルーディスに文句なんて言いたくても言えなかった。その分心の中は大変な事になってるんだからな。後で問い詰めてやる。
「後、こちらはヨーエン・ソニカトラとダルトナム・メルリス。三人とも今日はランディスに会いたいって言うんで、勝手についてきちゃったんだよね」
諦めた様な顔をしてクルーディスはため息混じりにそう言った。気が付けばモーリタス達はキラキラした目でお兄様を見つめていた。
え?どういう事?
「ええっ!私にですか!?」
お兄様はとても驚いていた。
そりゃ知らない人から急に『会いたい』って言われたらびっくりだよね。お兄様に会いに来る子なんてクルーディスとセルシュ様しかいないし。
目の前で展開されるやり取りに、こっちも充分驚いてしまった。
「ランディス殿はこのお二人を師匠としている最初の方ですから俺達にとっては兄弟子です」
「俺達もお二人を師匠とする事に決めたんです」
「だから兄弟子でもあるランディス殿にまずご挨拶をしようと思って連れてきてもらったんです」
三人はそれはもう嬉しそうににこにこと訪問の理由を教えてくれた。
何でか知らないがまたもや二人は弟子を入門させたらしい。しかもよりにもよってモーリタスって……。一体何をしたらそういう事になるんだろうね?
ちらりと二人を見ると、なんともいえない微妙な顔になっていた。
「なんと!貴方達も師匠に教えを乞うのですね!お二人からは沢山学べますからね!お互いに精進していきましょう!」
お兄様は弟子仲間が出来た事を素直に喜んではしゃいでいた。すぐに打ち解けて三人と握手を交わし、嬉しいですと大喜びだ。
お兄様の様に楽天的だと人生本当に楽かもなぁ。なんて事を思ってしまう位うちのお兄様は素直なんだ。ちょっとだけ微笑ましい光景かも。
でもその相手はあの『モーリタス』。
あのゲームのアイラヴェントへ向けた憎しみの表情やその仕打ちはとても恐ろしいと思うのに、今目の前にいるこの少年からはそんな気配は全く感じられなくて、何だか戸惑ってしまった。
俺のそんな気持ちとは裏腹に、お兄様はモーリタス達と楽しそうに話を弾ませていた。
◆ ◆ ◆
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