わたしの可愛い悪役令嬢

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48・接待

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「なぁ、二人とももう落ち着いたんだろ?改めて何か食べようぜ」


 セルシュは女の子のいざこざより食べ物の方に気持ちが行ってたらしく、区切りがつくのを待っていたらしい。ブレないねセルシュ。
「はいはい、わかったよ。セルシュ、あんまり食べ過ぎないでよね。こっちが苦しくなるからさ」
「そんな弱っちい事言ってるから筋肉も付かないんじゃね?」
「余計なお世話」
 そんなにちくちくといじめてくれなくてもいいんだけど。その辺はほっといて欲しいよ。胸やけして体調崩す方がイヤだもん。



「アイラヴェント様、あそこに可愛らしいデザートがありますわ。あちらに行ってみませんか?」
「えっ?あ、はい」
 アイラは笑顔になったリーンにあっという間にデザートのコーナーに引っ張られて行ってしまった。
 その時アイラがお肉に未練たらたらの視線を投げて悲しそうな顔をしていたのでちょっと笑ってしまった。隣でセルシュも小さく吹き出して笑っている。


「やっぱりお嬢は全然ダメだな」
「ぷっ。笑っちゃダメだよセルシュ。我慢してちゃんとリーンについて行くところは頑張ってるじゃない」
 その辺はちゃんと空気を読んでるんだからランディスよりよっぽど頑張ってるよね。後で美味しそうなお肉取り置きしといてあげようかな。

「お前も笑ってるし」
「だって何か可愛いよね。小動物みたいで」
「アイラはダメですかね」
ランディスが先程渡した肉山を口に入れながら心配そうに聞いてきた。
「でもお前よりは全然ましだけどな」
「そうだね。ランディスは僕達がアイラの何処がダメで何処がいいって褒めているのかを自分でまず理解出来る様にならなきゃね」
「はい。わかりました。ちゃんと理解出来る様に努力します」
「まぁ期待はしてないけど頑張れ」
 そう言ってセルシュはまたお皿に肉山を作り始めた。
 また凄い量を……。見てるだけで苦しくなっちゃいそう。


 わたしはそれを極力見ない様に人の波の方に視線を向ける。ぼんやりと視線を泳がせているとその先に避けたい人物が見えた。
 あっ…やばっ!目が合っちゃった。


「おお!クルーディスではないか!」


 あちゃー。見つかっちゃった。

 彼は陽気に手を振ってこちらに向かってくる。仕方がない。この国の者として挨拶位はしておかなきゃいけないよね。
「『初めまして』ルルーシェイド王子」
「なんだ?初めてではないだろう?」
 だーかーらー!あなたはこの間は『ルーカス』だったでしょうに!言い訳とか期待してたけどまるっと無しでしたか!

「あー…、だからダメなんすよ王子は」
「何がだ?私の何がダメだと言う?」
 セルシュに突っ込まれてもさっぱり気付かない王子にセルシュだけでなくわたしまでため息を吐いてしまった。
「クルーディスがこの間会ったのは『ルーカス』です。『王子』とは会わなかったはずですが?」
「僕は『王子』とは今回初めてお会いしますよね?」
「あっ!ああそうか。そうだった!『初めまして』だな。クルーディス!」
 一気に疲れが出ちゃって『僕』って言っちゃったよ。案の定王子はダメでしたね。スルーされて良かったわ。それにしても最初から王子ってバレてるのに偽名を使った意味ってあるのかしら?

「まぁそんな小さな事は気にするな」
 王子はわははと笑っている。
 気にするわ!自由過ぎるわ!何でそんなに陽気なの!?


「王子と話をしたいやつは沢山いるんですから、早く挨拶回りでもしてきて下さい」
 追い払う様にセルシュは王子の背中をぐいぐいと押していく。
「うおっ!やめろセルシュ!クルーディスもこいつを止めてくれ!」
「止める理由などありませんが?」
「何だお前達!何でそんなに結託してるのだ!」
「結託などしておりませんよ王子」
「そうですよ。俺達はちゃんとあんたの立場を考えた上で動いてますから」
 わたし達は王子に満面の笑みを見せた。
「うっ…何かキプロスとかトーランスと話してる気分だ」
 おや、父上達からも同じ扱いなのですね王子。
「父上もこんな気分なのか……」
 えっ?まさかの国王陛下がこんな扱い!?それってどーなの?大丈夫なの?

「ええ、今俺は親父の気持ちが痛い程わかりますよ」
「私の扱いひどくないか?」
「こんなに大事に扱っておりますのに?」
「嘘つけ!」

 二人は言い合いながらもどことなく楽しそうだ。この二人も仲良き事は美しき哉、なのかな?
 セルシュは本当に面倒見がいい。微笑ましいよ。二人はお互いに信頼した上でのこの扱いなのかなと想像がついた。
 父上達も国王陛下とこんな関係なのかしら。でもそんなんでいいのかな?
 色々疑問はありつつも仲が良さそうなこの二人を見てまぁいいかとわたしは飲み物をもらって飲んだ。



 ふと視線に気付くと遠巻きに令嬢達がこちらを見ているのがわかった。彼女達はこちらをとても気にしていて、声を掛けるタイミングを伺っている様だった。
 女の子の集団って何か怖い。自分も女だったけど、同じ女でも集団は何か威圧感が出てきて怖いのよね。
 今はライオンの群れに狙われているシマウマの気分だわ。わたしにはあの集団をあしらえる手腕はないんだよ。お願いだからあっちの二人狙いであります様に。



 わたしの願いも空しく、丁度セルシュ達から離れた様になった時に数人の令嬢達がさっとこちらにやって来た。
 うわーどーしよー、怖いよー。面倒だなー。

「ごきげんようクルーディス様。わたくし先日クルーディス様の誕生パーティーにご招待を受けましたナチュリス・ゲージでございます」
「こんにちはナチュリス嬢。先日はわざわざありがとうございました。楽しんでいただけましたか?」
「ええ、それはもう!クルーディス様にお会い出来た事がわたくしにとって一番の素敵な出来事でしたわ!」
 わたしは当たり障りのないようににっこりと令嬢に微笑んだ。


 父上が誰を招待したかなんて全く覚えてないけれど、そこは何とか気合いでカバー。急な接待だけど営業スマイルだけは忘れません。笑顔は一番の接客ですからね。
「そうですか。そう言っていただけて私もとても嬉しく思います。ありがとうございますナチュリス嬢」
「わたくし一度クルーディス様とゆっくりお話がしたかったのですわ。今度是非お友達も連れてわたくしのお茶会に来ていただけませんこと?」
「素敵な申し出をありがとうございます。では機会があればその時はよろしくお願いしますね」
 わたしは笑顔を貼り付けて令嬢の機嫌を損ねない様に対応する。そんな機会を作る気は全くないけれどそんな事は表には出しませんよ。
 この令嬢はわたしの言葉に頬を赤く上気させ、嬉しそうに色々と話しかけてきた。

 ちらりとセルシュ達を見ると二人も色んな令嬢に囲まれている。しかし二人は何だかあしらうのが上手い気配。それはそれで何だか悔しいな。

 こちらのナチュリス嬢は後ろに数人令嬢を従えているが、話をするのは彼女一人だった。彼女達はきらきらと視線を向けては来るのだが話しかけてはこなかった。
「ナチュリス嬢?ご一緒のご令嬢方はお友達ですか?」
「えっ?ええ、そうですわ」
「ナチュリス嬢もお友達もとても可愛らしい方ばかりなので私はつい気後れしてしまいますね。お恥ずかしい」
「まぁ……」
「お優しい」
「素敵ですわ……」
「クッ、クルーディス様、あのっ」
 わたしが敢えて他の令嬢に目を向けると、ナチュリス嬢は焦って自分に意識を戻そうと言葉を発した。
「ナチュリス嬢が優しくて可愛らしいから周りの方達も皆さん可愛らしいのでしょうね」
「まっ、まぁ、そんな…」
 わたしはナチュリス嬢の言葉を遮りにっこりと営業スマイルを向けた。彼女はそれを見て真っ赤になり下を向く。
 よし、これで話も一区切りついた。そろそろいいかな。
「折角のお話出来る機会なのですが、私は所用でもう行かなければいけません。申し訳ありませんが失礼させていただきますね」
「ええ。わかりましたわ」
「クルーディス様ごきげんよう」
「また今度是非お話いたしましょう」
 彼女達に見送られわたしはその場を去り、そのまま人混みに紛れた。

 彼女達は満足してくれた様で笑顔のまま、また他のご子息に流れていった。よし、接客は上手く出来たかな。
 わたしはそれを少し離れた所から見送り、彼女達がこちらを気にしなくなったところを見計らって、こっそりセルシュ達のところに戻った。



 はぁ、どっと疲れた……。
 突然の接客は焦るよ。






◆ ◆ ◆


読んでいただきましてありがとうございます。
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