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34・いこいの広場
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「ねぇシュラフ。モーリタス・チャルシットって知ってる?」
部屋に戻ってわたしはシュラフにまず聞いてみようと思い声をかけた。
考えたところで今のわたしに出来る事って精々この位なんですよ。子供だし、基本引きこもりだし。人脈なんてものは皆無なんで仕方がない。
「モーリタス・チャルシット様……我が国の騎士団長様のご子息ですね」
「うん。その子の事何か知ってるかなーと思って」
一瞬シュラフは怪訝な顔をしたが、すぐいつもの表情に戻り口を開いた。
「そうですね。モーリタス様は最近あまり良い評判を聞きませんね」
「そうなんだ」
「騎士団長様の目を盗んで町へと繰り出しておられると聞いた事があります」
その辺りは父上の話と同じか。もしかして結構有名な話なのかもしれない。
「モーリタスは町に出て何をしているの?」
「近頃は町の悪童達と徒党を組み騒いでると聞いていますね」
シュラフの答えはやはり先程の父上の話と同じだった。
それってあれだよね、不良グループの集まり。集団になると気が大きくなってデカい事したがる様なグループ。
そのグループはモーリタスの『騎士団長の息子』という肩書きに纏わりついているのか、本人の資質がその集まりに惹かれているのか。
徒党を組んでるって事は普通の友達ではないだろうな。その辺をきちんと見極めないと後々の不穏の種になりそうだ。
わたしとしてはアイラの為にもそんな悪い芽は早めに摘んで品種改良しておきたい訳で。
うーん、まずはモーリタスがどんな子なのか直接見てみないとわからないな。でも何で誰もモーリタスを諫めないのだろう。
「ねぇ、そういえばモーリタスには従者みたいな人はついてないの?」
ふと疑問に思った。
わたしにはシュラフがいる様にモーリタスにも貴族として誰か従者が付いていて、普通はその人が諫めると思うのよね。だのにこの状況はおかしい。
シュラフだったら速攻でわたしをぼこぼこにしちゃいそうだよね。まぁわたしは面倒だし、シュラフが怖そうだからそんなチャレンジャーな事はしないけど。
「いらっしゃったのですが、最近職を辞したと聞いております。その代わりに付いた者は市井の出でモーリタス様と共に町へ出ていると言う噂です」
相変わらず情報通だねシュラフ。にしてもそれってやっぱり。
「そのグループの中の者が従者となっているのかもしれませんね」
シュラフも同じ意見か。諫めるどころか従者が率先してつれ回してる可能性もあるんだな。
「なんで騎士団長様は何も言わない訳?自分の息子の従者なんて普通はちゃんとそれなりの人を選ぶものでしょ?」
シュラフだって、父上が信頼している人の息子だって話だし、普通は親が決めるよね。
「団長様は現在我が国の国賓の護衛についております。最近はそのお仕事でお屋敷に戻れていないので、この事をご存知かどうか……」
ああ、それは父上も言っていたけど……。
だからなんで家族もわかってない様な情報を君が知っているんだろうね?シュラフ?
「確か僕と同い年なんだよね。どんな子なんだろ」
「いけませんよ。町には連れていきませんからね」
「ちょっ……僕、まだ何も言ってないけど……」
「私はクルーディス様の言いたそうな事は大体わかりますので」
ちらっと思っただけなんだけどね……。反応早すぎない?
「それじゃ町以外でモーリタスを見る事が出来そうなところってないの?」
「そうですね。王宮に近い『いこいの広場』に数人でたむろしていたりはしてますね」
「それって町のグループと?」
その辺りはあまり町の人が入って来ないエリアで『貴族達のいこいの広場』という扱いになっている。
ただの広い公園なのだけれど、出店みたいなものもあって警備員もいて、貴族のご婦人やご令嬢、子供達もここなら安心して個人で普通に楽しく出歩けるという数少ない貴重な外出先のひとつなのだ。
平民も入れない訳ではないけど、貴族達が多く集まっている所には入りづらいのか、仕事で来ている人以外はあまり見かけないと聞いた事がある。
そこに集まっているなんて……なんて勇気がある連中だろう。町の悪ガキなんてあそこでは悪目立ちしそうだけどな。
「いえ、そこには町の仲間とではなく他の侯爵家のご子息達といらっしゃいますよ」
んんっ?なんか新情報出てきた。他の侯爵家の子と?どういう事かな。また貴族でも他のグループを作ってる訳?
「広場で見るだけでしたら許可しましょう。遠目から人となりを確認するだけですからね」
おっ!やった。まずどんな感じか位は見たいもんね。対策はそれからでも良いだろうし。
それにしてもやっぱりシュラフの情報網っておかしくない?スパイとか隠密とかのレベルな気がするんですけど。
「で、なんでセルシュがここにいるのかな」
わたしは翌日早速『いこいの広場』に来ていた。
広い公園の中には綺麗な花が咲き、青々とした木々が立ち並ぶ。草花の香りに心が癒されるこの場所に、わたしはシュラフを連れて散歩という名目で来たのだが、気付けばいつの間にか一緒にセルシュが歩いていた。
「んー?なんかお前が外歩いてるの珍しいからな。思わず付いてきちゃったわ」
セルシュは両手を頭の後ろに組んで口笛でも吹きそうな位気分よくわたしの横を歩いている。
確かにわたしがこうやってのんびり外を歩いているなんて珍しいけれども。でも付いてくるってどうなのよ。シュラフはそれに対して全く気にする様子もないし。
「何か目的があんだろ?俺の事は気にすんな」
セルシュは何も聞かないけど、何かあるとは思っている様で見るからにわくわくしてる。でもね、今日はモーリタスくんを見に来ただけだから何も楽しい事はないんだよ。
「胡散臭くて気になるでしょ」
「まぁまぁ」
セルシュは笑顔でわたしを宥める。きっと暇だから一緒に歩きたいのだろう、と思う事にして抗議するのは諦めた。
で、セルシュくんや。なんでわたしより先に歩きますかね。ついてきたんじゃないのかい?
セルシュはわたしのそんな思いを気にもせずすたすたと歩き、大きい木の陰になっている小さいテーブル席にどかっと腰かけた。
へぇ、ところどころの木陰にテーブルと椅子が置いてあるのね。疲れた時には丁度いい……ってちょっと!
「僕は別に今は座りたくないんだけど?」
まだモーリタスを見つけてないのに。休憩してる場合じゃないでしょ。
しかもこの位置では木の裏になっていて何処も見えないし、何処からも見えない。
なんだこれ。変なところにあるなぁ。
「いいからいいから」
そう言ってセルシュは無理やりわたしを隣に座らせる。
「なんなのさ」
「まぁまぁ」
宥める様にわたしの肩を掴み、立ち上がらせない様に押さえつけられた。わたしと違い鍛えてるセルシュの力には敵わない。
「ちょ、痛いって」
「あ、悪い」
「もう!ほんとになんなのさ!」
「いいから」
そう言うとセルシュは口に指をあてる。ん?黙れって事?
疑問に思っているとわたし達の座っているテーブルの後ろの木の陰に人の気配がした。誰かが裏側のテーブルで休憩を取る様だ。わたしは無意識に気配を殺す様にして後ろの声に聞き耳を立てた。
「どうなんだ?上手くいってるのか?」
「今のところ順調ですよ」
「あのガキは今日はどうしてるんだ?」
「モーリタス様は今頃メルリス家とソニカトラ家の坊っちゃんとつるんで町に出ていますよ。お山の大将気分で盛り上がっているんじゃないですか?」
「まぁ今のうちに楽しい気分を味わっておけばいい」
……どういう事?
この人達はモーリタスを担ぎ上げて何かを計画してるって事なのだろうか。
わたしは思わずセルシュの顔を見る。セルシュは無言でただ笑っているだけだった。
セルシュは視線をわたしの後ろにやる。わたしもそれに倣い意識を彼らに集中する事にした。
「そろそろモーリタスの評判も広がって来ている様だな」
「モーリタス様は私の言う事をよく聞いてくれますのでね。毎日町へ出ては色々やらかしてくれてますよ」
「少し考えれば侯爵家の危機だけでなく自分の立場も危ういとわかりそうなもんだがな。だが手駒としては丁度いい」
一人は青年、もう一人は大人の声だ。小声で話している様だがここに座っていると二人の声がちゃんと聞こえてきた。
「お前は従者としてとても役に立っている。このままモーリタスを追い詰めねばならんぞ」
「私はちゃんといただけるものさえいただければ貴方の忠実な駒として働きますよ。コランダム様」
青年がそう言うとちゃりんと何かに入った金属の様な音がした。きっと報酬でも渡しているのだろう。
「後ひと押しでチャルシットも終わるな。しかと従者を勤めあげろよツィード」
「コランダム様のお望み通りの結末に必ず辿り着かせますよ」
ではまた、と言って青年は去っていった。もう一人のコランダムとかいう人物は暫く経ってから席を後にした。
……今何があった?
何でどっかの大人達がモーリタスの事を話しているの?
今日はこんなの求めていなかったんですけど……。モーリタスが見たかっただけなんですけど……。
一気に緊張が解けて、わたしはテーブルに顔を突っ伏した。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
部屋に戻ってわたしはシュラフにまず聞いてみようと思い声をかけた。
考えたところで今のわたしに出来る事って精々この位なんですよ。子供だし、基本引きこもりだし。人脈なんてものは皆無なんで仕方がない。
「モーリタス・チャルシット様……我が国の騎士団長様のご子息ですね」
「うん。その子の事何か知ってるかなーと思って」
一瞬シュラフは怪訝な顔をしたが、すぐいつもの表情に戻り口を開いた。
「そうですね。モーリタス様は最近あまり良い評判を聞きませんね」
「そうなんだ」
「騎士団長様の目を盗んで町へと繰り出しておられると聞いた事があります」
その辺りは父上の話と同じか。もしかして結構有名な話なのかもしれない。
「モーリタスは町に出て何をしているの?」
「近頃は町の悪童達と徒党を組み騒いでると聞いていますね」
シュラフの答えはやはり先程の父上の話と同じだった。
それってあれだよね、不良グループの集まり。集団になると気が大きくなってデカい事したがる様なグループ。
そのグループはモーリタスの『騎士団長の息子』という肩書きに纏わりついているのか、本人の資質がその集まりに惹かれているのか。
徒党を組んでるって事は普通の友達ではないだろうな。その辺をきちんと見極めないと後々の不穏の種になりそうだ。
わたしとしてはアイラの為にもそんな悪い芽は早めに摘んで品種改良しておきたい訳で。
うーん、まずはモーリタスがどんな子なのか直接見てみないとわからないな。でも何で誰もモーリタスを諫めないのだろう。
「ねぇ、そういえばモーリタスには従者みたいな人はついてないの?」
ふと疑問に思った。
わたしにはシュラフがいる様にモーリタスにも貴族として誰か従者が付いていて、普通はその人が諫めると思うのよね。だのにこの状況はおかしい。
シュラフだったら速攻でわたしをぼこぼこにしちゃいそうだよね。まぁわたしは面倒だし、シュラフが怖そうだからそんなチャレンジャーな事はしないけど。
「いらっしゃったのですが、最近職を辞したと聞いております。その代わりに付いた者は市井の出でモーリタス様と共に町へ出ていると言う噂です」
相変わらず情報通だねシュラフ。にしてもそれってやっぱり。
「そのグループの中の者が従者となっているのかもしれませんね」
シュラフも同じ意見か。諫めるどころか従者が率先してつれ回してる可能性もあるんだな。
「なんで騎士団長様は何も言わない訳?自分の息子の従者なんて普通はちゃんとそれなりの人を選ぶものでしょ?」
シュラフだって、父上が信頼している人の息子だって話だし、普通は親が決めるよね。
「団長様は現在我が国の国賓の護衛についております。最近はそのお仕事でお屋敷に戻れていないので、この事をご存知かどうか……」
ああ、それは父上も言っていたけど……。
だからなんで家族もわかってない様な情報を君が知っているんだろうね?シュラフ?
「確か僕と同い年なんだよね。どんな子なんだろ」
「いけませんよ。町には連れていきませんからね」
「ちょっ……僕、まだ何も言ってないけど……」
「私はクルーディス様の言いたそうな事は大体わかりますので」
ちらっと思っただけなんだけどね……。反応早すぎない?
「それじゃ町以外でモーリタスを見る事が出来そうなところってないの?」
「そうですね。王宮に近い『いこいの広場』に数人でたむろしていたりはしてますね」
「それって町のグループと?」
その辺りはあまり町の人が入って来ないエリアで『貴族達のいこいの広場』という扱いになっている。
ただの広い公園なのだけれど、出店みたいなものもあって警備員もいて、貴族のご婦人やご令嬢、子供達もここなら安心して個人で普通に楽しく出歩けるという数少ない貴重な外出先のひとつなのだ。
平民も入れない訳ではないけど、貴族達が多く集まっている所には入りづらいのか、仕事で来ている人以外はあまり見かけないと聞いた事がある。
そこに集まっているなんて……なんて勇気がある連中だろう。町の悪ガキなんてあそこでは悪目立ちしそうだけどな。
「いえ、そこには町の仲間とではなく他の侯爵家のご子息達といらっしゃいますよ」
んんっ?なんか新情報出てきた。他の侯爵家の子と?どういう事かな。また貴族でも他のグループを作ってる訳?
「広場で見るだけでしたら許可しましょう。遠目から人となりを確認するだけですからね」
おっ!やった。まずどんな感じか位は見たいもんね。対策はそれからでも良いだろうし。
それにしてもやっぱりシュラフの情報網っておかしくない?スパイとか隠密とかのレベルな気がするんですけど。
「で、なんでセルシュがここにいるのかな」
わたしは翌日早速『いこいの広場』に来ていた。
広い公園の中には綺麗な花が咲き、青々とした木々が立ち並ぶ。草花の香りに心が癒されるこの場所に、わたしはシュラフを連れて散歩という名目で来たのだが、気付けばいつの間にか一緒にセルシュが歩いていた。
「んー?なんかお前が外歩いてるの珍しいからな。思わず付いてきちゃったわ」
セルシュは両手を頭の後ろに組んで口笛でも吹きそうな位気分よくわたしの横を歩いている。
確かにわたしがこうやってのんびり外を歩いているなんて珍しいけれども。でも付いてくるってどうなのよ。シュラフはそれに対して全く気にする様子もないし。
「何か目的があんだろ?俺の事は気にすんな」
セルシュは何も聞かないけど、何かあるとは思っている様で見るからにわくわくしてる。でもね、今日はモーリタスくんを見に来ただけだから何も楽しい事はないんだよ。
「胡散臭くて気になるでしょ」
「まぁまぁ」
セルシュは笑顔でわたしを宥める。きっと暇だから一緒に歩きたいのだろう、と思う事にして抗議するのは諦めた。
で、セルシュくんや。なんでわたしより先に歩きますかね。ついてきたんじゃないのかい?
セルシュはわたしのそんな思いを気にもせずすたすたと歩き、大きい木の陰になっている小さいテーブル席にどかっと腰かけた。
へぇ、ところどころの木陰にテーブルと椅子が置いてあるのね。疲れた時には丁度いい……ってちょっと!
「僕は別に今は座りたくないんだけど?」
まだモーリタスを見つけてないのに。休憩してる場合じゃないでしょ。
しかもこの位置では木の裏になっていて何処も見えないし、何処からも見えない。
なんだこれ。変なところにあるなぁ。
「いいからいいから」
そう言ってセルシュは無理やりわたしを隣に座らせる。
「なんなのさ」
「まぁまぁ」
宥める様にわたしの肩を掴み、立ち上がらせない様に押さえつけられた。わたしと違い鍛えてるセルシュの力には敵わない。
「ちょ、痛いって」
「あ、悪い」
「もう!ほんとになんなのさ!」
「いいから」
そう言うとセルシュは口に指をあてる。ん?黙れって事?
疑問に思っているとわたし達の座っているテーブルの後ろの木の陰に人の気配がした。誰かが裏側のテーブルで休憩を取る様だ。わたしは無意識に気配を殺す様にして後ろの声に聞き耳を立てた。
「どうなんだ?上手くいってるのか?」
「今のところ順調ですよ」
「あのガキは今日はどうしてるんだ?」
「モーリタス様は今頃メルリス家とソニカトラ家の坊っちゃんとつるんで町に出ていますよ。お山の大将気分で盛り上がっているんじゃないですか?」
「まぁ今のうちに楽しい気分を味わっておけばいい」
……どういう事?
この人達はモーリタスを担ぎ上げて何かを計画してるって事なのだろうか。
わたしは思わずセルシュの顔を見る。セルシュは無言でただ笑っているだけだった。
セルシュは視線をわたしの後ろにやる。わたしもそれに倣い意識を彼らに集中する事にした。
「そろそろモーリタスの評判も広がって来ている様だな」
「モーリタス様は私の言う事をよく聞いてくれますのでね。毎日町へ出ては色々やらかしてくれてますよ」
「少し考えれば侯爵家の危機だけでなく自分の立場も危ういとわかりそうなもんだがな。だが手駒としては丁度いい」
一人は青年、もう一人は大人の声だ。小声で話している様だがここに座っていると二人の声がちゃんと聞こえてきた。
「お前は従者としてとても役に立っている。このままモーリタスを追い詰めねばならんぞ」
「私はちゃんといただけるものさえいただければ貴方の忠実な駒として働きますよ。コランダム様」
青年がそう言うとちゃりんと何かに入った金属の様な音がした。きっと報酬でも渡しているのだろう。
「後ひと押しでチャルシットも終わるな。しかと従者を勤めあげろよツィード」
「コランダム様のお望み通りの結末に必ず辿り着かせますよ」
ではまた、と言って青年は去っていった。もう一人のコランダムとかいう人物は暫く経ってから席を後にした。
……今何があった?
何でどっかの大人達がモーリタスの事を話しているの?
今日はこんなの求めていなかったんですけど……。モーリタスが見たかっただけなんですけど……。
一気に緊張が解けて、わたしはテーブルに顔を突っ伏した。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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