わたしの可愛い悪役令嬢

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31・ルーカス

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 毎年この時期になると、学園に入る前の貴族の子供を集めた王家主催のパーティーが開催されているそうだ。


 わたしが知らなかったのは、わたしが引きこもってパーティーを嫌がっていたので、父上とセルシュが裏で不参加のフォローをしてくれていたらしい。
 とことん甘やかされてたようで。
 いやほんと、ありがたい事ですよ。

 今はわたしが以前より外に目を向ける様になったので、父上はチャンスとばかりに表に出す様にしているらしいんだけど……なんでそれをセルシュから聞かされるのかなぁ。



 何だかこの勢いでこれから学園に入るまで、毎年参加させられそうな気配がする。やだなぁ。



 貴族の令息や令嬢は全員呼ぶには流石に人数が多すぎるので持ち回りで招待する形らしく、今回は丁度コートナー家が当たっているそうだ。
 持ち回りと言いつつも、何でかわからないがうちとロンディール家は毎年呼ばれるらしい。何それ、勘弁してよ。

 パーティーは参加するのは憂鬱だけど、知り合いがいると少しは楽しめるかもしれない……とでも思わなきゃやってらんないよ。だって本当は行きたくないんだもん。
 


「でもさ、そのパーティーって沢山の人が来るんでしょ?」
 わたしがげんなりしていると、横のアイラはちょっと強張った顔で考えこんでいた。
 そうか、そこで他の『攻略対象』に会う可能性もあるんだ。
 特に『モーリタス』と『サイモン』は彼女にとっては要注意人物だし。

「大丈夫だよアイラ」
 わたしがちゃんと守るから。
 セルシュ達もいるのでそこは声に出さずにわたしはアイラに微笑んだ。
「……うん」
 俯きながらもアイラは小さく返事をしてくれた。


 無理してるんだろうな。


 当日はアイラが彼らに会う事が無いといいんだけど……。わたしも出来るだけ側にいて、アイラが楽しめる様にフォローするからね。


「大丈夫かい?アイラ。パーティーは沢山の人がいるだろうけど私もいるし、師匠達もいらっしゃる。どんな失敗をしても私達がちゃんとフォローするから安心して行こうね」
「……うん、ありがとうお兄様」
 うーん、ランディスが兄として妹が心配なのはわかるんだけど……ランディスがフォローって、アイラも余計心配しちゃうんじゃないかな。
 アイラは困りながらも笑顔を作りランディスに相づちを打った。


「ランディのが失敗する確率高そうだけどな」
「だよね。僕もそう思うよ」
「えっ?」
 セルシュとわたしは同じ事を思っていたようで、つい本音が。
「私も師匠達のおかげで少しは頼れる男になってませんか?」
 まぁ、最近のランディスはちゃんと人の話も聞くし、落ち着いて物事を考えられる様になってきたから、以前に比べたらしっかりしてきたとは思うんだけど……それが頼れるかと言われるとねぇ。
「まだまだお前にゃ程遠い」
「まだまだですか……」
 セルシュの言葉にランディスはがっかりして項垂れた。
「程遠いけど、やる気があるのはわかってるから」
「はっ、はい!ありがとうございます!」
 セルシュはばっさりとランディスを切ったけど、その言葉には『だからもっと頑張れよ』と言うエールも込められていた。
 相変わらず優しいね。

「クルーディスはどうしてランディが失敗すると思う?」
 ランディスに気付かせる為に、セルシュは敢えてわたしにも話を振ってきた。

「そうだね……ランディスは1つの事をやるために他の事が後回しになってしまう事が多いよね」
「あとまわし……ですか?」
 ランディスは意味がわからずにきょとんとしてしまった。
「今だってセルシュから剣の稽古をつけてもらってるけど、それ以外の事は後回しにしてるでしょ。あれもこれもと中途半端はよくないけど、どれも少しずつゆっくり必要な事を確実に身につければ最後には全てが身に付くと思わない?」
「……はい」
「全部とは言わないけど、もう少し視野を広げて考えるといいと思うよ」
 なるほど、とランディスは考えこんでしまった。


 だからさー、頼れる男の話どこ行ったのよ。そーゆーとこでしょ。


 ランディスは素直にわたしの話を受け入れ、どうしたらいいかと思案し始めた。
 その様子を見ていたわたし達は、ランディスらしさに苦笑してしまう。
 まぁゆっくり成長を見守りますよ。わたしもセルシュも師匠だしね。




 ランディスの事はさておき、今気になるのはパーティーで接触する可能性のある『モーリタス』と『サイモン』だ。
 二人がどんな子なのかはわからないけど、後々アイラが辛くない未来にするためにわたしは何をしたらいいだろう。




「ねぇ、セルシュ。そのパーティーの招待者リストみたいなものって持ってる?」
「俺は持ってない。でもおっさんも親父も持ってんじゃねーか?」
「ふぅん」
 そっか。帰ったら父上に見せてもらおう。あの二人だけじゃなく他の『攻略対象』もいるかもしれない。
 あ……『あれ』は確実にいるのか。


「何か気になるか?」
「うーん。見てみないと気になるかどうかわからないってとこかな」
 わたしの事を心配して首を傾げて質問をするセルシュに、わたしも首を傾げて答えてみた。
「なんだそりゃ」
 だってわたしも彼らがいたからってどうしたらいいかはわからないんだもん。だから一応確認だけしたかったんだけど。……ま、リスト見てから考えよう。


「『ルーカス』は参加するんだよね?」
「あー、それな。本人は『ルーカス』で出るって騒いでるけど主催者側が偽名って有り得ないだろ。あいつアホだわ」
「……そりゃアホだね」
 先日のパーティーを思い出し、わたしははぁとため息をついた。
 とうとうセルシュはアホ呼ばわりだし。次期国王陛下じゃなくて良かったね、王子。


「セルシュ様、その……『ルーカス』というのはどちらの方なんですか?」
 アイラは『ルーカス』が想像している人物なのか確認したいらしく、少し緊張した面持ちでセルシュに問い掛けた。
 セルシュはなんて答えるのだろう?色んな意味で気になった。

「当日にはわかるけど先に言っとくわ。そいつの中身はルルーシェイド第三王子だ」
 あら?結構あっさり答えちゃったな。てっきりアイラに意地悪しちゃうのかと思ってたよ。
「クルーディス……俺だってちゃんと教える事位あんだよ」
 あ、心読まれてたみたい。呆れ顔で言われてしまった。ごめんねセルシュ。


「お嬢はクルーディスにくっついてる限り必ずルー王子と会うはずだし、知っといた方がいいだろ?」
 そうか。多分またあの調子で寄って来そうだもんね。流石セルシュ。先を読んでるなぁ。


「セルシュ様、何で王子様がわざわざ『ルーカス』なんて偽名使ってるの?」
「本人はただの貴族として俺達と接したいんだと。ただあいつアホだからどうしたって無理なんだけどな」
「アホ……なの?」
「んー、アホだな。名前変えた位で立場が同じだと思い込める位には」
「そうなんだ……」
 セルシュの言葉にアイラは少し訝しい顔をした。
「なんだ?お嬢」
「いや、王子様って何て言うかこう……キラキラした格好いい洗練された人っていうイメージだったから」
「他の王子はそうかも知れないけど、あいつは全くそれには引っ掻かんねぇわ」
「えぇ……そうなの……?」
 アイラは驚きを隠せない様で更に困惑してしまった。




 アイラのイメージはゲームの中の甘いセリフをはくキラキラしたイケメンのあの『ルルーシェイド第三王子』。
 話を聞いているだけだとこの世界のルルーシェイド王子はゲームとは大分イメージが違うから戸惑っちゃうのもわかるのよね。


 でもあの王子があんなだからこそゲームの様な展開は起こりにくい気がしている。王子だけでなくわたしもアイラもゲームの中の彼らには程遠い中身だしね。


 是非とも王子にはそのまま自由にのびのびと育って欲しいものです。






◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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