わたしの可愛い悪役令嬢

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30・王宮の

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 あれからアイラに会いに行く時には時々セルシュもついてくる様になった。


 セルシュはランディスから『剣の師匠』の認定をもらってしまったので、行くと必ずランディスに指導している。教えるのは昔から上手だもんね。何だかんだで真面目だよセルシュは。
 爵位の事を言われるのが嫌いなセルシュにはランディスの全てを取っ払った『師匠』という肩書きは悪くないのかもしれない。

 そのお陰でセルシュがわたしに『師匠』とからかわなくなったのはラッキーだった。
 今やランディスはわたしよりセルシュにくっついているから気持ち的にも楽だしね。
 セルシュにわたしにも一緒にやらないかと誘われたけど、外で人に見せられる程の実力はないのですよ。恥ずかしくてアイラには見せられませんて。
 まぁこのお陰で気楽にアイラに会いに来る事が出来るので今はセルシュ様々なのだ。


「クルーディスは剣術はどの位出来るの?」
「うーん、好きだけど得意ではないんだよね。ランディスよりはマシって位かな」
 悲しいかなわたしの実力はその程度で。筋肉も全然つかないし、未だに剣を長く持っていると剣先がぶれてしまう。
 『下手の横好き』ってわたしの為にある言葉なんじゃないかな。小説とかによくあった『異世界でチート』なんて何処の話だって感じですよ。羨ましいわそんな世界。
「そうなんだ。でもいいな、わたしもやりたいのにレイラは断固反対の姿勢を崩してくれないからさ」
「アイラはまだご令嬢らしくない所があるからね。レイラだって僕と一緒でこれ以上男の子っぽくならない様に反対してるんじゃないの?」
 振り向くとレイラはわたしが言った事を全面的に肯定するかの様に満面の笑みで頷いた。
「うっ、否定出来ないし否定されない……」
 がくぅとアイラは肩を落とす。
「でもちゃんとご令嬢として頑張ってるよね。偉い偉い」
 そう言ってわたしはアイラの髪を優しく撫でた。もうこれは癖だな。だって癒されるんだもん。
「何か言葉が軽いけど?まぁ褒められてると思う事にする」
「大丈夫。ちゃんと褒めてますから」


 わたし達が呑気にお茶をしていると稽古を終えたセルシュとランディスが部屋に入って来た。
「二人ともお疲れ様」
「セルシュ様、お兄様。お疲れ様です」
 汗を拭きながら部屋に入って来る二人は中身を知らなければそりゃもうまぶしいイケてる男の子だ。これはご令嬢がきゃーきゃー言うレベルなんじゃないのかな。イケメンって子供でも破壊力あるなぁ。

「お前も一緒にやりゃいいのに。少しは上達するんじゃないのか?」
「やだよ。やんないよ」
「なんだよ、そんなにお嬢に駄目な所見せたくないのか?」
「いいの。僕は絶対やらない」
 わたしの実力をわかっているセルシュがにやにやしながらこっちをを見ていて何かむかつく。アイラは横でそれを見てくすくす笑っていた。
 ちょっと……二人ともからかう時は考え方が同じなんじゃないの?
「折角だからやればいいのに」
 何でアイラはそんなに楽しそうに言うかな。セルシュの言葉に乗らないでよ。
「もう剣の話はおしまい!」
 二人が楽しそうに続けようとしているこの話を、わたしはばっさりと切った。


 ランディスの稽古が終わると、みんなでテーブルを囲みゆっくり色んな話をするのがいつもの流れになっていた。

 ちょっと前まではこんな光景想像も出来なかったな。
 わたし引きこもり状態だったもんね。人の家で寛げるって凄い事だよ。
 何度も通って今やわたしにも別宅が出来た気分。今ならセルシュの気持ちもわかるなぁ。
「こら、聞いてんのかクルーディス」
「へっ?何?」

 わたしの思考をセルシュが遮り文句を言っている。ありゃまずい、寛ぎ過ぎてた。
「来月の王宮でのパーティーにはお前らもちゃんと参加しろよなって話だよ」
「何?それ」
「今セルシュ様が言ってた事全く聞いてなかったの?クルーディスってば」
「……ごめん」
「セルシュ師匠は王家主催のパーティーにご招待されていまして、友人としてクルーディス師匠と私達兄妹も参加する様にとのお話だったんですよ」
 ランディスは全く話を聞いていなかったわたしにもわかるように説明してくれた。立派になったねランディス坊っちゃん。でもね。
「え。やだ」
 ついぽろりと本音が出ちゃうわたし。正直でごめん。
「やだじゃねーから。どっちかっつーとメインお前だから」
「なんでさ。誘われてんのはセルシュなんでしょ?僕関係ないよね」
「関係あるから。なんだったら俺ダシだから」
「……何その余計行きたくなくなる感じの話は」
「『ルーカス』がまた会いたいんだとさ」
「えっ?」
 うわ、出た!
 『ルーカス』なんて偽名を使ってタランド公爵様のパーティーに参加していたあの王子を思い出す。
 『同じ立場で話がしたかった』って事だったけど、あれはどうなんだろう?何であんなにあからさまに王子臭駄々漏れだった事を誰も教えてあげなかったのだろうか。
 そんな事を少し思ったけど、周りの人達もセルシュと一緒で早々に諦めたのかもしれないな。

 横を見ると、『ルーカス』と言う名前にアイラが小さく反応して、訝しげな顔をこちらに向けていた。
 ……そりゃそうだよね。

「……やっぱり余計行きたくない」
「頼むよ。こればっかりは俺も断れねぇし。後から何言われるかわかんねぇし」
 セルシュは懇願する様にわたしを見た。
 まぁ、王家が絡んでくるとわたしら下っ端は従うのみだもんね。セルシュの為に仕方ないか。でもため息を吐いてしまうのも仕方がないよね。
「……わかったよ」

「セルシュ様、何やら大きいパーティーみたいだけど、わたしやお兄様は行かない方がいいんじゃないですか?」
「だめ。お嬢は特に強制参加だから」
「どうして?」
「その方が俺が楽しいから」
「はぁ?何ですかそれ」
 どういう事かわからずに不審がるアイラにセルシュはにやにやと楽しそうに話を続けた。
「今までクルーディスに来てる他の令嬢との婚約話はおっさんが全部止めてんだぞ。ここでお嬢がクルーディスと参加すりゃお前らはうまい流れで婚約出来るし、他の令嬢達とその家がどんな反応するか楽しみじゃねーか」
「婚約?」
 わたしとアイラは一緒にその言葉に反応した。わたし達の事情を知らないセルシュには当たり前の流れなのだろうけれど。

「得体の知れないやつとクルーディスが婚約するより、俺としてはお嬢が相手の方がまだましだし」
「いやあのそれはどうなんですか?セルシュ様だってクルーディスとわたしが婚約って嬉しい話ではないでしょうに」
「俺は『まだまし』って言ったけど?お嬢は本気を出さなきゃ怖くねーし、世間ずれしてないし令嬢としては全然足りてねーけど、クルーディスがお嬢を気に入ってんだからまぁ悪くねーんじゃねーの?」
「……足りてませんかね」
「足りてねーな」
「えー……」

 なんだかんだでセルシュがアイラとけんか腰な対応をしなくなってくれて本当に良かった。
 でもいつの間にこんなに仲良くなったんだろう……って今はそうじゃない。
「ちょっとセルシュ、なんでひとりで色々話を進めてんのさ」
「残念ながら実はこれ、おっさんも一枚噛んでんだよ」
 セルシュはそう言って肩を竦めた。
「どういう事?」
「これから王子達が成長して俺ら世代が王子と国を支える事になるだろ?パーティーはその選定試験みたいなもんなんだよ」

 わたし達子供を集めて王子達に相応しい人材を選ぶって事なのか。そこでの立ち居振る舞いが将来を決めるって事だよね。
 ……なんつー怖いパーティーだ。

「ま、嫌がった所でおっさん達がもう招待者リスト作成の指示出してるしな」
 わぁ父上お仕事早ぁい。って、あれ?
「なぁんだ。それじゃ別に特別にって訳じゃないじゃない」
「まぁね」

 セルシュの勿体ぶった言い回しにどきどきしたよ。なんだよそのしてやったりな顔は。






◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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