28 / 78
28・師匠2(セルシュ視点6)
しおりを挟む
その令嬢は『クルーディス』と手紙のやり取りをしているのだろうか。それとも『エウレン侯爵家の子息』とやり取りしているのだろうか。
世間には侯爵家の名前を求めて寄ってくる輩も多い。
今まで引きこもっていた世間知らずなクルーディスが『侯爵』の後ろ楯が欲しいと思っている輩に騙されてはいないのか心配になる。
俺はその令嬢の目的が知りたくなった。
クルーディスは多分俺にはその伯爵邸に行く日なんて教えてくれないと思い、こまめに通ってチェックをしていた……が、何故かそんな予定も立てていないらしい。
もしかしたら残念な兄と会うのが嫌なのかもしれない。
何故かクルーディスはその残念なご子息に『師匠』と呼ばれる事になったと言う。お前さ、何でそんな事になる訳?
面倒くさがりのこの『師匠』は極力関わるのを避けているのかもしれなかった。
それでもまだ妹の少年令嬢との手紙のやり取りは続いていた。
埒があかないので俺は勝手にシュラフに頼み、その伯爵家の兄妹と約束を取り付けてもらい、クルーディスの友人としてついて行く事にした。
そこの兄妹は俺がついて来た事に驚いている。まぁそうだよな。
クルーディスはその令嬢にごめんねと謝っていた。
初めて会ったこの兄妹は……と言うか、妹は俺の事を警戒していた。俺も負けじと探る様な、挑む様な視線でそれに応える。その妹の警戒がどんな理由なのかはっきりさせなければ。
兄の方は勤勉な感じで真面目そうだ。社交の場での行動は落ち着きがないと言う評価だったが、俺には言われる程の落ち着きの無さは今のところ感じられない。それが『師匠』のお陰なのか、たまたまなのかは俺にはわからなかった。話してみればわかる事だ。
妹の方は……まぁ見た目は一般的に可愛いと言われる容姿ではある。しかし、クルーディスがそんなに気にする程の可愛さなのだろうか。なんだったらクルーディスの方が可愛いと思うけど。その辺はクルーディスの好みなのかもしれないが、それも俺にはよくわからなかった。
俺はわざとイヤなヤツになってこの兄妹と話をしてみた。こいつらに裏があれば何かボロが出るだろう。
しかし『兄』の方はとても天然で単純で、裏で何かが出来るとは思えない。ただ純粋にクルーディスを師匠と慕っている。色んな意味でただの残念な坊っちゃんだった。
問題は『妹』の方だ。
俺の挑発に敢えて乗り、こちらに更なる挑発をかけてきた。強かで折れないその様子に、俺はどこまで持つのか試したくなった。
「侯爵家を後ろ楯にのし上がるにはクルーディスという世間知らずはぴったりですよね」
「まぁ恐ろしい。そんな事を考える事が出来る方なのですね。普段ご自分が考えていらっしゃる事を他人に当て嵌めるのはどうかと思いますわ」
言い合っていると、この令嬢は俺の黒いイヤな所を抉ってきた。こんな黒いヤツがクルーディスのそばにいるのは良くない事なのではと思わせる程的確に俺を苦しめる。
少年みたいな令嬢なんて欠片もない。ここにいるのは芯のある強いおっかない令嬢だった。俺は負けたくなくてつい必死になって嫌な言葉を令嬢に浴びせた。
そんな俺達を見ていたクルーディスにとうとう限界が来たらしく、俺と令嬢は本気で怒られてしまった。
俺は令嬢の事を見極めたかっただけなのに何処でおかしくなってしまったんだろう。いつの間にか俺の目的は変わっていたらしい。
クルーディスが本気で怒ると怖い。キレると取り付く島もない。俺はクルーディスにだけは拒絶されたくなかった。
それはこの令嬢も同じなのか俺の横で泣きそうな顔になっていた。
その後、何故か俺が坊っちゃんの面倒を見る事になってしまった。
何で俺が……そう思ってもクルーディスの怒りはそれをしなければ治まらない。そう思うと拒否なんて出来ないし、坊っちゃんは何かキラキラした目で俺を見てるし……。
……逃げられないのでそれは諦めた。
でも指導って何すりゃいいいんだ?俺は剣術位しか人に教える事が出来ないんだけどな。坊っちゃんにそれでもいいかと聞くと。
「セルシュ様是非よろしくお願いします!」
と目を輝かせ逆に丁寧にお願いされてしまった。
クルーディスに言われたまま俺に教えを求めてきたこの坊っちゃんを見て、そういやクルーディスも昔同じ様にお願いしてきたなぁと思い出す。少し懐かしい気持ちになりながら俺は剣の握り方から教えていった。
しかし……。
「お前さ……普段重いものなんて持たねーだろ」
「わっ、わかりますっ……かっ」
踏ん張って握っている剣の先がじわじわと下がっていく。持ち直す度に更に下がる剣先を見つめながら俺はため息をついた。
クルーディスに言われたから取り敢えず剣術をと思ったが。
「どうする?やめとくか?」
ひ弱なこの坊っちゃんには剣を持つ事から厳しそうだ。無理に勧めても可哀相なのではないかと思い、そう提案をしてみた。
「いえっ、頑張りますので教えて下さいませ!」
予想に反してこの坊っちゃんはやる気を見せてきた。頑張ろうと努力するその姿勢はとても好感が持てる。
「本気だな?それじゃまず基礎体力から何とかしなきゃだな」
俺は坊っちゃんに筋肉をつける為の体力作りから教える事にした。
剣は鞘に収め、腰を落としそれを両手を伸ばして掴んだまま軽く屈伸をさせてみた。地味だが毎日続ければしっかりと剣を構える事が出来る位の腕と腰の強さが身に付くだろう。まず剣を構えられないと先には進めない。地味だが大事な事なのだ。
そんな地味な動きでもこいつは大真面目に一生懸命取り組んでいた。
普通なら剣を振り回したいと愚痴りそうなものなのに。ただひたすら言われるまま頑張っている。
本当に素直で真面目なんだな。
そこにクルーディスと令嬢が戻って来た。俺は坊っちゃんにそのまま続ける様に言ってクルーディスの元に向かった。
俺の視界に二人が手を繋いでいるのが見えた。
「なんだよお前ら説教はどーしたんだよ。いちゃいちゃして!」
俺はなんかムカついてクルーディスの手首を持ち上げた。その先にはしっかりと令嬢の手が繋がれていた。
「あ、ごめんねアイラ。痛くなかった?」
そのクルーディスのもの言いに、俺の思っていた感情が含まれてはいなかったとわかり少しほっとした。
その後もクルーディスは俺に冷たかった。こんな対応をされると本当に堪える。
余程さっきの俺はこの令嬢に酷い事をしていたんだな、と改めて気付いた。この令嬢は更に輪を掛けて煽ってきたけれど、普通に考えたらあんな責め方はない。並の令嬢なら泣いてるレベルではないのか。
逆に相手がこの令嬢で良かったのかもしれない。
だからと言って俺がした事は許せるもんじゃないけど。
心でこっそり反省した俺はクルーディスに改めて本気で謝った。
令嬢にも謝らなければ……とは思ったけど、さっきのムカつきが邪魔してしまい今はそれが出来なかった。
「わかったよ。許してあげる」
俺を指差しお小言を言いながら窘めるクルーディスに許されて心底俺はほっとした。俺はその指を握りしめて額に寄せる。
本当にごめん。俺を見捨てないでくれ。
クルーディスはいい子だね、と言って俺の頭に手を乗せる。
俺の方が年上だけど、クルーディスに頭を撫でられるのは嫌じゃない。クルーディスの手は昔と変わらずあたたかい。そのあたたかさに俺はいつも安心する。
クルーディスに許されて少し気分も良くなってきた俺は、ちょっと忘れかけていた坊っちゃんの稽古をしに戻った。
坊っちゃんは俺が見ていなくても地味に一生懸命言われた事を続けていた。
なんだ、こいつ結構根性あるのかもしれないな。
「やり過ぎは逆効果だから今日はその辺にしとけ」
「はいっ!」
「今の動きと、後は走り込みとか……毎日続ければ少しは体力も筋力もつくから地道に頑張れよ」
「はいっ!ありがとうございました」
坊っちゃんは肩で息をしながらも笑顔でしっかりと挨拶をした。
「あの、セルシュ様……お願いがあります」
「は?何だ?」
急に姿勢を正して坊っちゃんは俺に熱い視線を向けた。何だろう……坊っちゃんの圧が何だか少し怖いんだけど。
「『師匠』と呼んでもよろしいでしょうか」
は?今なんて?
「是非とも私の剣の師匠になって下さい!」
坊っちゃんは俺の手を両手で握りしめて懇願してきた。
「あ、いや、お前の師匠はクルーディスだろ?何言ってんだよ!」
ちょっと待て!俺は焦って坊っちゃんの手を振りほどいた。
「勿論!クルーディス様は人生の師匠。セルシュ様は剣の師匠です!」
なんだよそれ!予想外の流れに俺はとても動揺してしまった。同い年の俺に『師匠』は勘弁してくれよ!
「いやいやいや、お前だって家に剣の先生が来たりしてんだろ?そっちに習えばいーじゃねーか!」
「……それが、私に素質がないとわかると先生方は皆早々に諦めて辞めていってしまうのです」
俺が慌てて拒否をすると俯いて悲しそうに坊っちゃんはそう言った。
「あー……」
そうか、こいつの努力を見る前にみんないなくなってしまったのか。その悔しさや悲しさはきっと誰にも言えなかったのだろう。その辺は俺と似ているのかもしれない。
「くっ……わかったよ。たまになら教えに来てやる」
「本当ですか!セルシュ師匠!!ありがとうございます!」
視界の端では一連の流れを見ていたクルーディスが口を押さえて笑っているのが見える。横で令嬢は困った顔をして自分の兄を見つめていた。
地面につきそうな程に頭を下げるこの坊っちゃんに、俺は自分の発言を少し後悔した。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
世間には侯爵家の名前を求めて寄ってくる輩も多い。
今まで引きこもっていた世間知らずなクルーディスが『侯爵』の後ろ楯が欲しいと思っている輩に騙されてはいないのか心配になる。
俺はその令嬢の目的が知りたくなった。
クルーディスは多分俺にはその伯爵邸に行く日なんて教えてくれないと思い、こまめに通ってチェックをしていた……が、何故かそんな予定も立てていないらしい。
もしかしたら残念な兄と会うのが嫌なのかもしれない。
何故かクルーディスはその残念なご子息に『師匠』と呼ばれる事になったと言う。お前さ、何でそんな事になる訳?
面倒くさがりのこの『師匠』は極力関わるのを避けているのかもしれなかった。
それでもまだ妹の少年令嬢との手紙のやり取りは続いていた。
埒があかないので俺は勝手にシュラフに頼み、その伯爵家の兄妹と約束を取り付けてもらい、クルーディスの友人としてついて行く事にした。
そこの兄妹は俺がついて来た事に驚いている。まぁそうだよな。
クルーディスはその令嬢にごめんねと謝っていた。
初めて会ったこの兄妹は……と言うか、妹は俺の事を警戒していた。俺も負けじと探る様な、挑む様な視線でそれに応える。その妹の警戒がどんな理由なのかはっきりさせなければ。
兄の方は勤勉な感じで真面目そうだ。社交の場での行動は落ち着きがないと言う評価だったが、俺には言われる程の落ち着きの無さは今のところ感じられない。それが『師匠』のお陰なのか、たまたまなのかは俺にはわからなかった。話してみればわかる事だ。
妹の方は……まぁ見た目は一般的に可愛いと言われる容姿ではある。しかし、クルーディスがそんなに気にする程の可愛さなのだろうか。なんだったらクルーディスの方が可愛いと思うけど。その辺はクルーディスの好みなのかもしれないが、それも俺にはよくわからなかった。
俺はわざとイヤなヤツになってこの兄妹と話をしてみた。こいつらに裏があれば何かボロが出るだろう。
しかし『兄』の方はとても天然で単純で、裏で何かが出来るとは思えない。ただ純粋にクルーディスを師匠と慕っている。色んな意味でただの残念な坊っちゃんだった。
問題は『妹』の方だ。
俺の挑発に敢えて乗り、こちらに更なる挑発をかけてきた。強かで折れないその様子に、俺はどこまで持つのか試したくなった。
「侯爵家を後ろ楯にのし上がるにはクルーディスという世間知らずはぴったりですよね」
「まぁ恐ろしい。そんな事を考える事が出来る方なのですね。普段ご自分が考えていらっしゃる事を他人に当て嵌めるのはどうかと思いますわ」
言い合っていると、この令嬢は俺の黒いイヤな所を抉ってきた。こんな黒いヤツがクルーディスのそばにいるのは良くない事なのではと思わせる程的確に俺を苦しめる。
少年みたいな令嬢なんて欠片もない。ここにいるのは芯のある強いおっかない令嬢だった。俺は負けたくなくてつい必死になって嫌な言葉を令嬢に浴びせた。
そんな俺達を見ていたクルーディスにとうとう限界が来たらしく、俺と令嬢は本気で怒られてしまった。
俺は令嬢の事を見極めたかっただけなのに何処でおかしくなってしまったんだろう。いつの間にか俺の目的は変わっていたらしい。
クルーディスが本気で怒ると怖い。キレると取り付く島もない。俺はクルーディスにだけは拒絶されたくなかった。
それはこの令嬢も同じなのか俺の横で泣きそうな顔になっていた。
その後、何故か俺が坊っちゃんの面倒を見る事になってしまった。
何で俺が……そう思ってもクルーディスの怒りはそれをしなければ治まらない。そう思うと拒否なんて出来ないし、坊っちゃんは何かキラキラした目で俺を見てるし……。
……逃げられないのでそれは諦めた。
でも指導って何すりゃいいいんだ?俺は剣術位しか人に教える事が出来ないんだけどな。坊っちゃんにそれでもいいかと聞くと。
「セルシュ様是非よろしくお願いします!」
と目を輝かせ逆に丁寧にお願いされてしまった。
クルーディスに言われたまま俺に教えを求めてきたこの坊っちゃんを見て、そういやクルーディスも昔同じ様にお願いしてきたなぁと思い出す。少し懐かしい気持ちになりながら俺は剣の握り方から教えていった。
しかし……。
「お前さ……普段重いものなんて持たねーだろ」
「わっ、わかりますっ……かっ」
踏ん張って握っている剣の先がじわじわと下がっていく。持ち直す度に更に下がる剣先を見つめながら俺はため息をついた。
クルーディスに言われたから取り敢えず剣術をと思ったが。
「どうする?やめとくか?」
ひ弱なこの坊っちゃんには剣を持つ事から厳しそうだ。無理に勧めても可哀相なのではないかと思い、そう提案をしてみた。
「いえっ、頑張りますので教えて下さいませ!」
予想に反してこの坊っちゃんはやる気を見せてきた。頑張ろうと努力するその姿勢はとても好感が持てる。
「本気だな?それじゃまず基礎体力から何とかしなきゃだな」
俺は坊っちゃんに筋肉をつける為の体力作りから教える事にした。
剣は鞘に収め、腰を落としそれを両手を伸ばして掴んだまま軽く屈伸をさせてみた。地味だが毎日続ければしっかりと剣を構える事が出来る位の腕と腰の強さが身に付くだろう。まず剣を構えられないと先には進めない。地味だが大事な事なのだ。
そんな地味な動きでもこいつは大真面目に一生懸命取り組んでいた。
普通なら剣を振り回したいと愚痴りそうなものなのに。ただひたすら言われるまま頑張っている。
本当に素直で真面目なんだな。
そこにクルーディスと令嬢が戻って来た。俺は坊っちゃんにそのまま続ける様に言ってクルーディスの元に向かった。
俺の視界に二人が手を繋いでいるのが見えた。
「なんだよお前ら説教はどーしたんだよ。いちゃいちゃして!」
俺はなんかムカついてクルーディスの手首を持ち上げた。その先にはしっかりと令嬢の手が繋がれていた。
「あ、ごめんねアイラ。痛くなかった?」
そのクルーディスのもの言いに、俺の思っていた感情が含まれてはいなかったとわかり少しほっとした。
その後もクルーディスは俺に冷たかった。こんな対応をされると本当に堪える。
余程さっきの俺はこの令嬢に酷い事をしていたんだな、と改めて気付いた。この令嬢は更に輪を掛けて煽ってきたけれど、普通に考えたらあんな責め方はない。並の令嬢なら泣いてるレベルではないのか。
逆に相手がこの令嬢で良かったのかもしれない。
だからと言って俺がした事は許せるもんじゃないけど。
心でこっそり反省した俺はクルーディスに改めて本気で謝った。
令嬢にも謝らなければ……とは思ったけど、さっきのムカつきが邪魔してしまい今はそれが出来なかった。
「わかったよ。許してあげる」
俺を指差しお小言を言いながら窘めるクルーディスに許されて心底俺はほっとした。俺はその指を握りしめて額に寄せる。
本当にごめん。俺を見捨てないでくれ。
クルーディスはいい子だね、と言って俺の頭に手を乗せる。
俺の方が年上だけど、クルーディスに頭を撫でられるのは嫌じゃない。クルーディスの手は昔と変わらずあたたかい。そのあたたかさに俺はいつも安心する。
クルーディスに許されて少し気分も良くなってきた俺は、ちょっと忘れかけていた坊っちゃんの稽古をしに戻った。
坊っちゃんは俺が見ていなくても地味に一生懸命言われた事を続けていた。
なんだ、こいつ結構根性あるのかもしれないな。
「やり過ぎは逆効果だから今日はその辺にしとけ」
「はいっ!」
「今の動きと、後は走り込みとか……毎日続ければ少しは体力も筋力もつくから地道に頑張れよ」
「はいっ!ありがとうございました」
坊っちゃんは肩で息をしながらも笑顔でしっかりと挨拶をした。
「あの、セルシュ様……お願いがあります」
「は?何だ?」
急に姿勢を正して坊っちゃんは俺に熱い視線を向けた。何だろう……坊っちゃんの圧が何だか少し怖いんだけど。
「『師匠』と呼んでもよろしいでしょうか」
は?今なんて?
「是非とも私の剣の師匠になって下さい!」
坊っちゃんは俺の手を両手で握りしめて懇願してきた。
「あ、いや、お前の師匠はクルーディスだろ?何言ってんだよ!」
ちょっと待て!俺は焦って坊っちゃんの手を振りほどいた。
「勿論!クルーディス様は人生の師匠。セルシュ様は剣の師匠です!」
なんだよそれ!予想外の流れに俺はとても動揺してしまった。同い年の俺に『師匠』は勘弁してくれよ!
「いやいやいや、お前だって家に剣の先生が来たりしてんだろ?そっちに習えばいーじゃねーか!」
「……それが、私に素質がないとわかると先生方は皆早々に諦めて辞めていってしまうのです」
俺が慌てて拒否をすると俯いて悲しそうに坊っちゃんはそう言った。
「あー……」
そうか、こいつの努力を見る前にみんないなくなってしまったのか。その悔しさや悲しさはきっと誰にも言えなかったのだろう。その辺は俺と似ているのかもしれない。
「くっ……わかったよ。たまになら教えに来てやる」
「本当ですか!セルシュ師匠!!ありがとうございます!」
視界の端では一連の流れを見ていたクルーディスが口を押さえて笑っているのが見える。横で令嬢は困った顔をして自分の兄を見つめていた。
地面につきそうな程に頭を下げるこの坊っちゃんに、俺は自分の発言を少し後悔した。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
0
お気に入りに追加
709
あなたにおすすめの小説
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?
ラララキヲ
恋愛
乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。
学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。
でも、ねぇ……?
何故それをわたくしが待たなきゃいけないの?
※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。
◇テンプレ乙女ゲームモノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる