わたしの可愛い悪役令嬢

くん

文字の大きさ
上 下
24 / 78

24・確執2(セルシュ視点2)

しおりを挟む
 あいつらは俺が逃げた後も玄関で大騒ぎをしていた。


 あいつらはグレアムが何を言っても話を聞かないだろう。よく他人の家でそんなに騒げるよな。
 俺は怖くて震えていたけど遠くでそんな事を思った。


 暫くして玄関の方が静かになった。
 グレアムが根負けして客間にやつらを通したのだろう。あいつらは俺が出てくるまで駄々をこねて居座る気だ。
 きっとやつらはもうすぐこの部屋にやって来て俺を連れ出す為に酷い事をするんだ。

 出来るならこの居心地のいい家に居たい。あいつと楽しく過ごしたい。その為に俺は少しでも抵抗をしようと思った。今までの様に泣き寝入りはしたくない。

 そう決心をした時、部屋の扉がバンと開いた。


「おっいたいた」
「よう、セルシュ。お前何隠れてんだよ」
「そんなんで隠れてるつもりか?」
「父上も母上もわざわざお前の事を迎えに来てやってんだぞ。さっさと部屋から出ろよ」
「ああ、そうか。お前いつもの様に楽しい事をされたいんだな。そりゃ期待に応えなきゃだよなぁ」
 三人はにやにやしながら俺ににじりよってくる。

 俺はこれから起こる事に身体が震える。先程の決心はあっという間に崩れ去った。


 怖い、嫌だ。誰か助けて!


 覆い被さる様に迫って来る三人から俺は少しでも身を守ろうと縮こまった。
 その時、三人の後ろに剣の鞘を両手で水平に持つあいつの姿が見えた。
 危ないから来るな!そう言いたいのだが恐ろしさのあまり声が出ない。身体が動かない。逃げろクルーディス!
 しかし、俺の思いとは反対に、剣を水平に持ったままあいつはこちらに走ってきた。もう駄目だ!
「うわっ!」
「なんだ!?」
「わあっ!」


 何が起こったのだろうか。三人は何故かその場に座り込んでいた。


「セルシュさまをいじめるなっ!」
「なんだ!?このガキ!」
「ふざけた事しやがって!」
「ぶっ飛ばす!」
 三人は一斉にクルーディスに狙いを定めた。


 その瞬間、俺はクルーディスの方に走り寄り身体ごと覆い被さった。クルーディスだけは守りたい。その一心だった。



「一体何やってんだ!くそガキども!!」
「お前らこそ俺ん家でふざけた事するんじゃないよ。」



 俺の知ってるふたつの声がこの部屋に大きく響き渡った。


「ひっ!」
 その声に三人は驚き、腰が砕けた様にへなへなと座り込んだ。
「てめぇら、俺の息子に何しようとしやがった!ぶっ飛ばすから覚悟しろ!」
 拳を握りしめた親父はそのままやつらを1発ずつ殴っていった。やつらは簡単に吹っ飛ばされてうずくまる。
 吹っ飛んだあいつらを放置して親父は俺を抱きしめた。


「悪かったなセルシュ。あいつらからお前を守る為に色々していて来るのが遅くなった。大丈夫か?」
 そう言って俺の背中をさすってくれる。温かい大きな手だった。
 俺はとうとう堪えきれなくなり、親父に抱きついてわんわんと大声で泣いた。
「来るの……おせぇ……っ。ばか親父っ……!」
 親父はずっと俺の背中をさすり続けて悪かったなと優しい声で言った。その横でクルーディスはそっと俺の頭を撫でていた。
「トーランス……お前とうとうやっちゃったなぁ」
 おっさんは親父に呆れた様に声をかける。
「すまんな、キプロス。どうしても我慢出来なくてな」
「……だろうな。まぁ気持ちはわかるよ。俺だって可愛いクルーディスを守る為ならなんだってするさ」
 親父とおっさんは軽く笑っていた。



「父上。ぼくもセルシュさまをまもるためにがんばったんですよ」
「ああ見ていたよ、偉かったな。いい子だ」
 おっさんは頑張ったクルーディスの頭を撫でてあげている。
「うん。でもね、セルシュさまもがんばってぼくをまもってくれたんですよ」
 クルーディスはにこにこと嬉しそうに言った。
「ありがとうセルシュさま。セルシュさまもえらかったですね。いい子いい子」
 クルーディスはおっさんがしたのと同じ様に俺の頭を撫でてくれた。その手の優しさに俺は止まりかけた涙がまた溢れてしまった。


 おっさんが後から教えてくれたが、親父はあれでも手加減したそうだ。吹っ飛んで鼻血を流していたあいつらを思い出し、親父には逆らっちゃいけないとしみじみ思った。


 親父は以前からあの親戚連中をなんとかしなければと色々と画策していたらしい。今回の仕事とは母を安全な土地に預け、親戚連中の悪事を全て洗いだした上で縁を切る為の準備だったそうだ。
 迎えに来た連中は特に金に意地汚く、貴族相手に高利貸しまでしていたらしい。この邸にやつらが来たのは俺を預かるという口実で親父から金を搾り取ろうと準備していたという話だった。

 そうなっていたら俺は一体どうなっていたんだろう。それを考えると背筋が凍る。本当に親父が間に合ってくれて良かったと思う。



 俺はまだ暫くエウレン邸にいる事になった。親父が親戚連中の後始末をして母を迎えに行くので、戻って来るまではここで待ってろとの事だった。
 まだここにいられるのは嬉しい。クルーディスは今日も俺の側をちょろちょろしている。今はそれがとても心地いい。


「あ、そういえば」
 俺は疑問に思っていた事をクルーディスに聞いた。
「なぁ、クルーディスは最初あいつらをどうやって倒したんだ?」


 気がついたらあいつらが膝をついていたけど、クルーディスがやった事があの時は全くわからなかったのだ。
「ふふっ、あれはねぇ」
 そう言って俺を立たせてあの時の様にクルーディスは剣を水平に持つ。その鞘をそのまま後ろから……。
「うわっ!」
 俺もあいつらと同じ様にへなへなとその場に崩れる。
「ひぎ!ひざかっくん!」
 膝の後ろに鞘を水平に押し込まれると急に膝の力が抜け、膝から崩れ落ちてしまった。
 俺が崩れ落ちたまま呆然としているとすごいでしょとクルーディスは自信満々に剣を立てる。
 なんだこれ!?すげーっ!!

 俺はこの気の抜ける技に笑ってしまった。剣を剣として使わなくてもこんな凄い事が出来るとは!

「なぁ、なんでそんな変な名前なんだ?」
「へんじゃないですよ?『ひざかっくん』ってみんなふつうにいいますよ」
「……俺、はじめて聞いたんだけど」
「えー?おかしいなぁ。ぜったいふつうにつかってるもん。」
 クルーディスは何故か『普通に使っている』と譲らない。そんなの何処で使うんだよ。もしかしたら親父とかおっさんなら知ってる事なのかもしれない。
 まぁそのネーミングセンスは兎も角、俺はあんなの見た事も聞いた事もない。あんなの思いつかねーよ。


「お前やっぱりスゲーな。敵わねぇわ」
「ほんと?ぼくすごい?セルシュさま!」
「『セルシュ』でいいよ」
「え?だって……」
 俺の言葉にクルーディスは戸惑った。俺は年上だから普通なら呼び捨てにするのはおかしいもんな。でも俺は。
「いいんだ。クルーディスにはそう呼んで欲しいんだ」
「うん。わかった……セルシュ」


 クルーディスにそう呼ばれるのはくすぐったいけど悪い気はしなかった。






◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...