わたしの可愛い悪役令嬢

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21・説教

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 なんですかね、これ。



 わたしの目の前では、恐縮しているランディスとアイラヴェント。横にはセルシュ。
 何で君がコートナー家の庭で我が物顔でお茶してるんですかね?セルシュくん?


「本日は私まで押し掛けてしまって申し訳ありません」
 相変わらず爽やかな笑顔で二人に声を掛けるセルシュが今日は黒く見えるよ。何その負のオーラ。

「私はクルーディスの親友でして、彼が仲良くしている方達に是非ともお会いしてみたかったんですよ。世間知らずなこの大事な友人が心配でしてね……」
 ちょっとセルシュ?父兄参観ですか!ってか、その言い方!
 暗にそれってコートナー家がわたしを騙してる酷い家だと言ってない?
「セルシュちょっ……」
「そうなんですか。師匠のご友人なんですね」
「ええ」
「私、師匠には本当に感謝してまして、師匠のお陰で自分の迂闊さを猛省している所なんです」

 ランディスの馬鹿!セルシュを止めようと思っていたのに何で人の話ぶったぎってくれてんのよ!
 坊っちゃんの素直さはわかるけどせめて少しはセルシュの胡散臭さに警戒して欲しい。ほら、アイラなんて超警戒しているじゃない。
 ……本当にごめんね、アイラ。後でいくらでも文句は受け付けるからね。


 相変わらずセルシュは目の奥を光らせた黒い笑顔のまま、二人を観察している様だった。
「へぇ、そうなんですか。クルーディスは師匠としてはどうなんですかね」
「師匠はとても優しく丁寧に私の事を指導して下さいまして、もう感謝しかありません」
 今はわたしを称えるとかそーゆーのはいいから!ランディス、空気読んで!


「セルシュ、もうその辺にして?」
 わたしが止めようとするとセルシュはこちらににっこりと笑顔を向けた。
「なんでだ?クルーディス。私は楽しくお前の話をしてるだけじゃないか」
 『私』とか言ってる時点で腹に一物抱えてるのはバレてるよ!何でそんなにセルシュが二人を警戒してんのよ。今のところ全く楽しい話なんてしてないじゃない!
「そうですよねぇ?アイラヴェント嬢」
 ちょっと!何でそこでその胡散臭い笑顔でアイラに話を振るの!警戒してる子をいじめるつもり?
「ちょっとセルシュ!アイラ、こいつの話は気にしなくていいからね!」
「いいえクルーディス様、大丈夫ですわ」
 わたしにアイラは心配しないでと微笑んだ。
「セルシュ様は本当にクルーディス様の事、大好きでいらっしゃるんですね。……我が家に来てしまう程に」
 アイラはセルシュにそう言ってにっこりと微笑んだ……けど、アイラも何か笑顔が怖い。
 セルシュがアイラの言葉の裏を敏感に読み取って表情が一瞬歪む。しかしそれもすぐ元の胡散臭い笑顔に戻しアイラヴェントに微笑んだ。
「ええ、大事な親友ですからね。どんな所で何があるかわかりませんから」
「そうなんですのね。わたくしてっきり子供の成長を見守る事も出来ない過保護な親か何かかと思ってしまいましたのよ。……こちらはたかが伯爵家ですもの」
 セルシュの挑発にアイラは更に挑発的な発言で答えた。その言葉にセルシュのこめかみがぴくりと動く。わたしはそんな二人の間ではらはらしながら見守った。
 もう!何でそんなに二人とも攻撃的な訳!?

「そうですね、たかが伯爵家ですよね。侯爵家を後ろ楯にのし上がるにはクルーディスという世間知らずはぴったりですよね」
「まぁ恐ろしい。そんな事を考える事が出来る方なのですね。普段ご自分が考えていらっしゃる事を他人に当て嵌めるのはどうかと思いますわ」
 二人の間には見えない火花が散っている。どちらも笑顔なもんだから余計に怖い。流石に不穏な空気に気が付いたランディスもおろおろし始めた。
「ちょっと……二人とも……」
 止めようと間に入りたかったのに二人は邪魔するなとこちらを一瞥する。その視線が怖くてわたしは口を噤んでしまった。


「他人の家の事を知りもせず、自分の都合の言い様に貶めるなんて……そんな方がご友人だなんてクルーディス様のご迷惑になるんじゃありません?」
「……あなたは余り社交の場ではお見掛けしませんが、出てこない理由がなんなのか教えていただけませんかね」
「貴方様にお教えする理由は何一つございませんわ。……貴方様こそ強大な後ろ楯があるとお伺いしています。貴方様の方が余程何かを考えていらっしゃるのでは?」



 ……あぁもう!!

 二人のやり取りを聞いているわたしにとうとう限界が来てしまった。



「うっ!!」
 わたしは無言でセルシュの脇腹を殴った。
「こらセルシュ!何でそんなに敵視してんのさ!大人しくしてるって言うから仕方なく連れて来たのに!」
「だってよぅ、こいつが……」
「女の子にこいつとか言わない!」
 脇腹を押さえながらぶつぶつ言ってるセルシュにぴしゃりといい放つ。普段は女の子には凄く優しいくせに何で今日に限って刺々しいのよ!
 アイラもきっと怖かったのに頑張ったんだろうな……と、彼女を見たら怒られてるセルシュを見てざまぁ的な顔をしている。

 ……って、こら!

「アイラも!女の子なんだからそーゆー馬鹿な挑発しちゃダメでしょ!」
「う……だってさぁ……」
「だってじゃない!」
 こちらにもぴしゃりと。

 どうしてこうなった。
 頭を抱えながら二人を見ると、さりげなく今も睨み合っていた。

 ……そーなんだ。わかったよ。

「……ずっとそーやってればいいよ。二人とももう絶交だから」
「えっ、おい!クルーディス!」
 自分の声が腹立ちで思ったより低く重くなる。
「僕がいてもいなくても関係ないんでしょう?セルシュもアイラもいつまでも仲良く睨み合ってればいいんだ。じゃあね、さよなら」
「ちょっ……待って!クルーディス!」
 もう知らない。腹も立ちすぎた。二人とも好きにすりゃいい。
 わたしは立ちあがりその場を離れた。何だか怒りで涙も出て来そう。悔しいから泣かないけど。


「悪かった!クルーディス!」
「ごめんなさい!クルーディス!」
 二人は慌てて駆け寄ってわたしに謝ってくる。二人して今更そんな泣きそうな顔しても駄目だよ!わたしは怒ってるんだからね!
「俺はただお前の事が心配で、つい悪態をついちまったんだ」
「わたしも……本当にごめんなさい」
「……じゃあ仲良くしてよ」
 そんなんじゃわたしの気持ちは収まらない。大事な人達が仲が悪いのは嬉しくないんだから。

「あー……申し訳無かったアイラヴェント嬢。先入観だけで嫌な思いをさせた」
「いえ……こちらこそ申し訳ありませんでしたセルシュ様。わたしこそ令嬢にあるまじき発言で不快な思いをさせてしまいました事をお詫び致します」

 お互いに丁寧に謝罪をして仲直りをしたようだ。今はもう二人ともあの怖い笑顔ではなかった。
「でも僕はまだ二人に怒ってるんだからね」
「……はい」
 二人は怒りが収まらないわたしを見てしゅんと小さくなった。


「セルシュは僕の代わりにランディスに何か指導してあげて」
「へっ?何で俺が……」
「それでセルシュはランディスから素直さを学べばいいよ」
 ついでにランディスに振り回されてしまえばいい。
「アイラはこっちで改めて説教。セルシュへの説教は帰りの馬車でゆっくりするからね」
「えっ?説教って……」
 アイラのあの黒さは立派に説教案件よ。悪役令嬢に近付いちゃいそうな怖さがあるもの。
 わたしは呆然とするアイラの手首を掴み逃げない様に捕獲して庭に面している部屋に引っ張って行く。 


 ちらりとセルシュを見ると、きらきらした目をして期待しているランディスに捕まって困っていた。





◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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