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19・説明
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わたし達はやっとちゃんと話をしてそれなりにお互いを理解する事が出来たと思う。
わたしがツンデレイケメンに程遠いのと同じ位にアイラヴェントも悪役令嬢には程遠かった。
それがわかっただけでも僥倖だったな。その上わたし達は同じゲームの記憶があって、嫌なイベントを避けたいという思いも同じ。
お互いが協力し合える関係なのだ。本当に良かった。
わたし達はあれから手紙のやり取りをする様になった。わたしは面倒くさがりだけど、アイラヴェントとの手紙は楽しくて止まらなかった。
内容はお互いの記憶の中にあるゲームの話は勿論、普段のたわいもない話まで。気心が知れた分ちょっと愚痴っぽい話も出来る様になってきて、もっと楽しくなった。
アイラは今一生懸命口調を直す努力をしているらしい。手紙では相変わらず男の子っぽい文面だけど、レイラのスパルタな指導のもと少しずつ女の子生活を頑張っているらしい。
わたしの方は口調や生活でそんなに悩む事はないので勉強や剣術の方に力を入れる努力をしている最中だ。そんな事を手紙に書いたらやっぱり「なんかズルい」と返ってきた。
「オイッス!」
部屋で手紙を書いていると急にドアが開き見知った顔が入っくる。
「……あのさ、セルシュ。ノックって知ってる?」
「勿論!でも面倒くさいから心の中でやっといた!」
「えぇー……それ何の意味もないじゃん」
そんな爽やかな顔で言う事じゃないよね。
相変わらず自由な彼はどうやら暇で遊びに来たらしい。
そんな特攻隊にもシュラフは動じず書きかけの手紙を片付け、わたし達にお茶とお菓子を出してくれた。
「あのさ、僕セルシュの事怒ってるんだけど」
「へ?何で?」
「この間のパーティーだよ」
アイラと会えたあのパーティーではセルシュのせいで会いたくない人にまで会ってしまったのだ。
「ああ、あれなぁ」
思い出したのかセルシュは視線を泳がせた。
「でもあれは許してくれたじゃんか」
「あの後王子と会ったって話が国王陛下にまでいって、父上が直々にその話をされて来たんだよ」
「うおっ!まじか!」
「まじだよもう。僕はあんまりそーゆーのに関わりたくないんだよね」
「それはほんと悪かったよ」
困った様に頭を掻きながらセルシュは謝ってきた。
「前にさ、親父の仕事で陛下に謁見する機会があったんだけど……親父もズルくてさ、その時俺に王子の世話を押し付けて来たんだよ」
なるほど。セルシュのお父上は国王陛下の近衛をしてるもんね。その時に知り合ってセルシュは王子と色んな話をする様になったという。最近は何故かわたしにとても興味を持っていたそうだ。
わたしは知らなかったけど、最近パーティーで子供が集まるとよくわたしの話が出ているらしくて、それで興味が湧いたらしい。
「何か会わせろってしつこくてさ。流石に断れないじゃん?」
「まぁ……断れないよね」
「だろ?」
「でもさ、あの王子は何で身分を隠したかったのかな」
「普通の対等な立場で話聞きたかったんじゃねーか?」
「……身分駄々もれだったけど?」
隠すつもりならもっと考えて演じるとかやりようがあったろうに。あれで対等な立場とか無いでしょ。
「どうせならもう少し頑張って欲しかったよ」
「……だよな」
結局のところ彼やわたしの立場では断るという選択肢はないのだ。
お互いにあの自由な王子を思い出してため息をついた。
「そういやさっき何書いてたんだ?」
「ああ、手紙だよ」
「へぇめっずらし!面倒くさがりのくせに」
「う……いいじゃんか、別に」
わたしは元々面倒臭いのは好きじゃない。でもさ、アイラとの手紙は楽しいんだもん。楽しい事にはゲームであれ手紙であれ労力は惜しみませんて。
「で?誰に書いてんだ?」
何故かにやにやとしながらセルシュはわたしの側に近づいて来た。
「……」
「何だよお前色気付いちゃってー!」
「へっ?うわっ!!」
わたしが黙っているとセルシュはがばっとわたしにヘッドロックをかけて来た。
「何だよ何だよ赤くなりやがって!親友の俺に内緒にするなんてみずくせぇぞ!黙秘なんてさせないからな」
えっ?わたし赤くなってた?
意識してなかったからわからないけど、それが余計にセルシュは気になった様だった。
「うっ……セルシュ……く、くるしいからっ!」
「じゃあさっさと吐けよ!」
「わ、わかったよ……」
漸く回した手が緩くなりわたしはほっと息を吐く。
セルシュは満足して椅子に座り直し、にやにやしたままわたしの顔を見つめていた。仕方がないのでわたしは素直に白状する事にした。
「えっと、手紙はコートナー伯爵家の令嬢に書いてたんだ」
「コートナー伯爵家ってーと……あ!残念な跡継ぎがいるとこか!」
……おいおい、ランディス坊っちゃん。既に君は超有名人じゃんか。やっぱり色んなところでその威力を発揮していたんだね……。
あのテンションを思いだし、ついため息が出てしまう。
「……そう、そこの」
「でも何で急にコートナー家な訳?」
まぁ経緯がわからなければ接点も無いし疑問だよね。
わたしはセルシュに王子に会ったパーティーでアイラヴェントと会った事、それを勘違いした残念坊っちゃんがテンション上がってうちに来た事、手紙で謝罪してくれたアイラヴェント嬢に返事を書いてその後コートナー家に訪問した事、それから色々話す様になり手紙をやりとりしている。と、かいつまんで話した。
勿論アイラとの深い話は内緒で、坊っちゃんメインの話にした。
わたしはゲームの話をあまり他の人には言いたくはなかった。
「……何だ。噂通り残念坊っちゃんだったんだな」
「うん、まぁ……でも本人も自覚してくれたみたいでその後家に行ったら別人みたいだったよ」
「因みにクルーディス様はあの方に『師匠』と呼ばれておりますよ」
「なっ!ちょっとシュラフ!?何で今それ言うのさ!」
横から急にシュラフが爆弾発言ぶっこんできた!それは言いたくなかったのにー!慌ててシュラフの言葉を遮ろうとしたのだが遅かった。
「ぶはっ!し、師匠?お前が!?まじか!」
「……僕だって嫌だよそんなの」
吹き出したセルシュはひーひーとお腹を抱え笑いころげた。お茶吹かなくて良かったけどさ。
「な、なんで……」
息も出来ない程笑っているセルシュは詳しく聞きたいけど言葉が続かない様だ。ちょっと、笑い過ぎ!
「僕はただあの坊っちゃんを叱っただけだよ。それが何でか『師匠』とか言い出すんだもん。セルシュと同い年のくせに僕を師匠とかないと思うんだけど」
その話を聞いて更にセルシュは笑い続けた。息ちゃんと出来てる?……はぁ、もう好きなだけ笑っていいよ。
セルシュと坊っちゃんはどちらも同じわたしよりひとつ歳上なのに何でこうも違うのか。
わたしはあの時の面倒な出来事を思い出してがっくりと肩を落とした。
「実際本当に面倒臭い坊っちゃんだったから早く帰ってもらって欲しかっただけなんだけどね」
それは事実。あの後の疲れは尋常じゃなかったよ。OL時代にだって会うことがなかった特異なタイプだったもの。
漸く落ち着いてきたセルシュはひと口お茶を飲んで息を整えた。
「で、その……ぷっ……『師匠』は何でそこの令嬢と手紙をやりとりしてんだよ。……ぷぷっ」
まだ笑い足りないなら話はいいから笑っといてよ。堪えなくていいから!ただ『師匠』って言いたいだけじゃんか。
「彼女がランディスに持たせた僕への手紙が自分の兄の行動に対する謝罪だったんだよ。それでそのお礼を書いたりしていたら……」
「そのまま続いてる……と」
わたしはこくりと頷いた。どうやら笑いも収まったセルシュはちゃんとわたしの話を聞いていた。彼はなにやら思案している様だった。
「で、どうなんだよ?その令嬢は」
「へ?どう、って?」
「残念坊っちゃんは兎も角、妹の方をお前はどう思ってるのかって事だよ」
うーん。どんな?ゲームの嫌味な悪役令嬢ではないあのアイラに対して思う事だよねぇ。
将来起こりうる嫌なイベントを避ける運命共同体である事を除いて、今のあの子に素直に思う事は……。
「……可愛い?」
うんこれでしょ。
姿形はゲームと同じなのに、毒がない分愛らしさが引き立っている。で、可愛い姿とは程遠い男の子の中身が出ちゃうあの口調。あれですよ、ギャップ萌えってやつですよ。それを直そうと一生懸命なところもまた可愛いんだよね。おねーさんはきゅんきゅんしますよ。
「へぇ……」
先程とは違うセルシュの真面目な視線を受けたわたしはちょっとたじろいだ。
「……なにさ」
何か言いたいならちゃんと言ってよね。あんまり真面目な話をしないセルシュにそーゆー視線を送られるのは慣れていないのでちょっと焦る。
「なぁシュラフ、その令嬢ってさクルーディスより可愛いの?」
ぶはっ!何だその聞き方!セルシュの中でわたしってどーゆー扱いなの!?
「そうですね……私はクルーディス様の方がお可愛らしいと思いますが」
「だよなー。俺まだこいつより可愛い令嬢なんて会った事ねーもん」
「ちょっと……何で僕、可愛いとか言われてんのさ」
おいおいセルシュ頭大丈夫?わたしは可愛い弟分かもしれないけど、それじゃまるでブラコンだから!まぁクルーディスはゲームを思い出せば可愛い事は認めるけどさ。
でも自分として考えた時にはゲームの性格には程遠いし、あの色気とかも皆無だから流石にそうは思えない。
シュラフも真面目に変な答えしなくていいから!
「あちらのご令嬢はなんと言うか、ご令嬢らしくありませんので、うちのクルーディス様と比べるのは如何かと……」
「へぇ……ご令嬢らしくないんだ?」
「私個人の見解として言わせていただきますと、あの方はお嬢様と言うよりは何となく……少年ぽさがある感じでしたかね」
その通り!なんてったって中身はまんま少年だし。
うん流石シュラフ、よく見てるね。
貴族として見たらアイラはダメな子だろうけど、おねーさんから見るとそれもまた可愛いのよ。
「ふうん……」
セルシュは 何を考えているのかまたこちらを見つめてきた。
「お前怒んないのか?」
「え?何を?」
「シュラフにその子がご令嬢らしくないって言われてんだぞ」
「ああ、それ。別にその通りだから僕としては怒る要素は全く無いんだけど……」
そこがまた可愛いし、なんて言ったらセルシュやシュラフに更に突っ込まれそうだったのでそれは心の中で呟いた。
「……そうなのか」
セルシュはわたしが怒ると思っていたのか、思っていた反応と違う事に驚いた様だ。
だって見た目判断ではそのままの評価だもの。本人も自覚してるし、今はそれを直そうと努力してるって言ってたから、今度会った時には評価は変わるかもしれないけどね。
もしかしたらセルシュもアイラの中身を知ったら気に入っちゃうかもしれないな。
「それより、僕は別のところに怒りたいんだけど」
「へ?」
「何で僕を令嬢と並べて比べんのさ!」
そこは怒ってもいいよね!わたしだって少し位は貴族の息子として頑張ろうとしてんのにその評価は無いんじゃないの?二人とも真面目に答えてたでしょ!
「だってなぁ……」
「私もセルシュ様も本当の事を言っただけですよ。クルーディス様」
妙ににやにやして二人して頷きあってるし。わたしが怒ってもどこ吹く風だ。
なんなのさ!これじゃ何だか怒ってるわたしが馬鹿みたい。
「僕だって色々頑張ってるつもりなんだけど?」
「そうだな、頑張ってるよなクルーディスは」
「はい。頑張っておられますよ」
一応反発してみたが、何でかセルシュはわたしの頭を撫でてきた。
何か子供を宥める親みたい。わたしは諦めてそのまま撫でられていた。
「もういいよ。二人とも馬鹿にしてさ」
わたしはぷいっとそっぽを向いてブー垂れる。
何か負けた気分。いつか二人に勝てる日は来るのだろうか。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
わたしがツンデレイケメンに程遠いのと同じ位にアイラヴェントも悪役令嬢には程遠かった。
それがわかっただけでも僥倖だったな。その上わたし達は同じゲームの記憶があって、嫌なイベントを避けたいという思いも同じ。
お互いが協力し合える関係なのだ。本当に良かった。
わたし達はあれから手紙のやり取りをする様になった。わたしは面倒くさがりだけど、アイラヴェントとの手紙は楽しくて止まらなかった。
内容はお互いの記憶の中にあるゲームの話は勿論、普段のたわいもない話まで。気心が知れた分ちょっと愚痴っぽい話も出来る様になってきて、もっと楽しくなった。
アイラは今一生懸命口調を直す努力をしているらしい。手紙では相変わらず男の子っぽい文面だけど、レイラのスパルタな指導のもと少しずつ女の子生活を頑張っているらしい。
わたしの方は口調や生活でそんなに悩む事はないので勉強や剣術の方に力を入れる努力をしている最中だ。そんな事を手紙に書いたらやっぱり「なんかズルい」と返ってきた。
「オイッス!」
部屋で手紙を書いていると急にドアが開き見知った顔が入っくる。
「……あのさ、セルシュ。ノックって知ってる?」
「勿論!でも面倒くさいから心の中でやっといた!」
「えぇー……それ何の意味もないじゃん」
そんな爽やかな顔で言う事じゃないよね。
相変わらず自由な彼はどうやら暇で遊びに来たらしい。
そんな特攻隊にもシュラフは動じず書きかけの手紙を片付け、わたし達にお茶とお菓子を出してくれた。
「あのさ、僕セルシュの事怒ってるんだけど」
「へ?何で?」
「この間のパーティーだよ」
アイラと会えたあのパーティーではセルシュのせいで会いたくない人にまで会ってしまったのだ。
「ああ、あれなぁ」
思い出したのかセルシュは視線を泳がせた。
「でもあれは許してくれたじゃんか」
「あの後王子と会ったって話が国王陛下にまでいって、父上が直々にその話をされて来たんだよ」
「うおっ!まじか!」
「まじだよもう。僕はあんまりそーゆーのに関わりたくないんだよね」
「それはほんと悪かったよ」
困った様に頭を掻きながらセルシュは謝ってきた。
「前にさ、親父の仕事で陛下に謁見する機会があったんだけど……親父もズルくてさ、その時俺に王子の世話を押し付けて来たんだよ」
なるほど。セルシュのお父上は国王陛下の近衛をしてるもんね。その時に知り合ってセルシュは王子と色んな話をする様になったという。最近は何故かわたしにとても興味を持っていたそうだ。
わたしは知らなかったけど、最近パーティーで子供が集まるとよくわたしの話が出ているらしくて、それで興味が湧いたらしい。
「何か会わせろってしつこくてさ。流石に断れないじゃん?」
「まぁ……断れないよね」
「だろ?」
「でもさ、あの王子は何で身分を隠したかったのかな」
「普通の対等な立場で話聞きたかったんじゃねーか?」
「……身分駄々もれだったけど?」
隠すつもりならもっと考えて演じるとかやりようがあったろうに。あれで対等な立場とか無いでしょ。
「どうせならもう少し頑張って欲しかったよ」
「……だよな」
結局のところ彼やわたしの立場では断るという選択肢はないのだ。
お互いにあの自由な王子を思い出してため息をついた。
「そういやさっき何書いてたんだ?」
「ああ、手紙だよ」
「へぇめっずらし!面倒くさがりのくせに」
「う……いいじゃんか、別に」
わたしは元々面倒臭いのは好きじゃない。でもさ、アイラとの手紙は楽しいんだもん。楽しい事にはゲームであれ手紙であれ労力は惜しみませんて。
「で?誰に書いてんだ?」
何故かにやにやとしながらセルシュはわたしの側に近づいて来た。
「……」
「何だよお前色気付いちゃってー!」
「へっ?うわっ!!」
わたしが黙っているとセルシュはがばっとわたしにヘッドロックをかけて来た。
「何だよ何だよ赤くなりやがって!親友の俺に内緒にするなんてみずくせぇぞ!黙秘なんてさせないからな」
えっ?わたし赤くなってた?
意識してなかったからわからないけど、それが余計にセルシュは気になった様だった。
「うっ……セルシュ……く、くるしいからっ!」
「じゃあさっさと吐けよ!」
「わ、わかったよ……」
漸く回した手が緩くなりわたしはほっと息を吐く。
セルシュは満足して椅子に座り直し、にやにやしたままわたしの顔を見つめていた。仕方がないのでわたしは素直に白状する事にした。
「えっと、手紙はコートナー伯爵家の令嬢に書いてたんだ」
「コートナー伯爵家ってーと……あ!残念な跡継ぎがいるとこか!」
……おいおい、ランディス坊っちゃん。既に君は超有名人じゃんか。やっぱり色んなところでその威力を発揮していたんだね……。
あのテンションを思いだし、ついため息が出てしまう。
「……そう、そこの」
「でも何で急にコートナー家な訳?」
まぁ経緯がわからなければ接点も無いし疑問だよね。
わたしはセルシュに王子に会ったパーティーでアイラヴェントと会った事、それを勘違いした残念坊っちゃんがテンション上がってうちに来た事、手紙で謝罪してくれたアイラヴェント嬢に返事を書いてその後コートナー家に訪問した事、それから色々話す様になり手紙をやりとりしている。と、かいつまんで話した。
勿論アイラとの深い話は内緒で、坊っちゃんメインの話にした。
わたしはゲームの話をあまり他の人には言いたくはなかった。
「……何だ。噂通り残念坊っちゃんだったんだな」
「うん、まぁ……でも本人も自覚してくれたみたいでその後家に行ったら別人みたいだったよ」
「因みにクルーディス様はあの方に『師匠』と呼ばれておりますよ」
「なっ!ちょっとシュラフ!?何で今それ言うのさ!」
横から急にシュラフが爆弾発言ぶっこんできた!それは言いたくなかったのにー!慌ててシュラフの言葉を遮ろうとしたのだが遅かった。
「ぶはっ!し、師匠?お前が!?まじか!」
「……僕だって嫌だよそんなの」
吹き出したセルシュはひーひーとお腹を抱え笑いころげた。お茶吹かなくて良かったけどさ。
「な、なんで……」
息も出来ない程笑っているセルシュは詳しく聞きたいけど言葉が続かない様だ。ちょっと、笑い過ぎ!
「僕はただあの坊っちゃんを叱っただけだよ。それが何でか『師匠』とか言い出すんだもん。セルシュと同い年のくせに僕を師匠とかないと思うんだけど」
その話を聞いて更にセルシュは笑い続けた。息ちゃんと出来てる?……はぁ、もう好きなだけ笑っていいよ。
セルシュと坊っちゃんはどちらも同じわたしよりひとつ歳上なのに何でこうも違うのか。
わたしはあの時の面倒な出来事を思い出してがっくりと肩を落とした。
「実際本当に面倒臭い坊っちゃんだったから早く帰ってもらって欲しかっただけなんだけどね」
それは事実。あの後の疲れは尋常じゃなかったよ。OL時代にだって会うことがなかった特異なタイプだったもの。
漸く落ち着いてきたセルシュはひと口お茶を飲んで息を整えた。
「で、その……ぷっ……『師匠』は何でそこの令嬢と手紙をやりとりしてんだよ。……ぷぷっ」
まだ笑い足りないなら話はいいから笑っといてよ。堪えなくていいから!ただ『師匠』って言いたいだけじゃんか。
「彼女がランディスに持たせた僕への手紙が自分の兄の行動に対する謝罪だったんだよ。それでそのお礼を書いたりしていたら……」
「そのまま続いてる……と」
わたしはこくりと頷いた。どうやら笑いも収まったセルシュはちゃんとわたしの話を聞いていた。彼はなにやら思案している様だった。
「で、どうなんだよ?その令嬢は」
「へ?どう、って?」
「残念坊っちゃんは兎も角、妹の方をお前はどう思ってるのかって事だよ」
うーん。どんな?ゲームの嫌味な悪役令嬢ではないあのアイラに対して思う事だよねぇ。
将来起こりうる嫌なイベントを避ける運命共同体である事を除いて、今のあの子に素直に思う事は……。
「……可愛い?」
うんこれでしょ。
姿形はゲームと同じなのに、毒がない分愛らしさが引き立っている。で、可愛い姿とは程遠い男の子の中身が出ちゃうあの口調。あれですよ、ギャップ萌えってやつですよ。それを直そうと一生懸命なところもまた可愛いんだよね。おねーさんはきゅんきゅんしますよ。
「へぇ……」
先程とは違うセルシュの真面目な視線を受けたわたしはちょっとたじろいだ。
「……なにさ」
何か言いたいならちゃんと言ってよね。あんまり真面目な話をしないセルシュにそーゆー視線を送られるのは慣れていないのでちょっと焦る。
「なぁシュラフ、その令嬢ってさクルーディスより可愛いの?」
ぶはっ!何だその聞き方!セルシュの中でわたしってどーゆー扱いなの!?
「そうですね……私はクルーディス様の方がお可愛らしいと思いますが」
「だよなー。俺まだこいつより可愛い令嬢なんて会った事ねーもん」
「ちょっと……何で僕、可愛いとか言われてんのさ」
おいおいセルシュ頭大丈夫?わたしは可愛い弟分かもしれないけど、それじゃまるでブラコンだから!まぁクルーディスはゲームを思い出せば可愛い事は認めるけどさ。
でも自分として考えた時にはゲームの性格には程遠いし、あの色気とかも皆無だから流石にそうは思えない。
シュラフも真面目に変な答えしなくていいから!
「あちらのご令嬢はなんと言うか、ご令嬢らしくありませんので、うちのクルーディス様と比べるのは如何かと……」
「へぇ……ご令嬢らしくないんだ?」
「私個人の見解として言わせていただきますと、あの方はお嬢様と言うよりは何となく……少年ぽさがある感じでしたかね」
その通り!なんてったって中身はまんま少年だし。
うん流石シュラフ、よく見てるね。
貴族として見たらアイラはダメな子だろうけど、おねーさんから見るとそれもまた可愛いのよ。
「ふうん……」
セルシュは 何を考えているのかまたこちらを見つめてきた。
「お前怒んないのか?」
「え?何を?」
「シュラフにその子がご令嬢らしくないって言われてんだぞ」
「ああ、それ。別にその通りだから僕としては怒る要素は全く無いんだけど……」
そこがまた可愛いし、なんて言ったらセルシュやシュラフに更に突っ込まれそうだったのでそれは心の中で呟いた。
「……そうなのか」
セルシュはわたしが怒ると思っていたのか、思っていた反応と違う事に驚いた様だ。
だって見た目判断ではそのままの評価だもの。本人も自覚してるし、今はそれを直そうと努力してるって言ってたから、今度会った時には評価は変わるかもしれないけどね。
もしかしたらセルシュもアイラの中身を知ったら気に入っちゃうかもしれないな。
「それより、僕は別のところに怒りたいんだけど」
「へ?」
「何で僕を令嬢と並べて比べんのさ!」
そこは怒ってもいいよね!わたしだって少し位は貴族の息子として頑張ろうとしてんのにその評価は無いんじゃないの?二人とも真面目に答えてたでしょ!
「だってなぁ……」
「私もセルシュ様も本当の事を言っただけですよ。クルーディス様」
妙ににやにやして二人して頷きあってるし。わたしが怒ってもどこ吹く風だ。
なんなのさ!これじゃ何だか怒ってるわたしが馬鹿みたい。
「僕だって色々頑張ってるつもりなんだけど?」
「そうだな、頑張ってるよなクルーディスは」
「はい。頑張っておられますよ」
一応反発してみたが、何でかセルシュはわたしの頭を撫でてきた。
何か子供を宥める親みたい。わたしは諦めてそのまま撫でられていた。
「もういいよ。二人とも馬鹿にしてさ」
わたしはぷいっとそっぽを向いてブー垂れる。
何か負けた気分。いつか二人に勝てる日は来るのだろうか。
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読んでいただきましてありがとうございます。
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