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17・訪問
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ランディスがうちで大騒ぎしてから数日後、わたしはコートナー家へ赴いた。
アイラヴェントへの手紙には、手紙をくれたお礼と今度直接会って話がしたいと書いた。
アイラヴェントはすぐさま了承の返事をくれたのでお互いの都合のいい日を選んで決めた。直接アイラヴェントに会うのは周囲の目を考えて、ランディスを口実にする事にした。……お陰で彼にも会う羽目になり少し憂鬱になる。はぁ。
馬車を降りると伯爵夫妻自ら出迎えてくれたのには閉口した。
ランディスがわたしと会った後、以前よりずっと落ち着いて思慮深くなったそうで手放しで感謝されてしまった。
ま、まぁランディスはきっと家でもあんな感じだったのだろうから家族の心配もわからなくはないけどね。少しでも落ち着きが出てきたなら説教した甲斐もあったんでしょう。
夫妻はこれから用事があるとそのまま出掛けて行ったので、わたしは今、応接室に通され二人を待っていた。
ノックをして入って来たのはランディスだった。
「わざわざ我が家までご足労いただきありがとうございます」
「こちらこそ急にお伺いしてすいません」
「いえ、我が家まで来たいただけるとは思っていなかったので本当に嬉しく思います」
ほんとだーっ!ランディスってばこの間のテンション高い坊っちゃんじゃないよ!ちゃんと普通に挨拶出来てるよ!やれば出来るじゃん!
普通の事なんだけど、ランディスだとこれは結構凄い成長でしょ!あんなはっちゃけテンションが普通になったのだからもう真逆と言ってもいい位。
「先程ご両親もランディスを褒めてらしたけど、本当いい方向に変わったんですねぇ」
思わず本音がぽろりと出てしまったけど、それだけ変わったんだもん。そりゃこっちは驚きますよ。
「いえ、私は師匠のお言葉を実践しようと努力しているだけなんです。なので変わったと言われるならば師匠のおかげなんです」
ランディスは照れながらも褒められて嬉しそうな笑顔を見せた。
「両親も妹も驚いてましたけど、今の私の方がいいと言ってくれています」
「そうですね。今のランディスならば少しは信頼してもいいのかな」
「……それは以前の私は信頼されるに値しなかったって事ですか?」
「貴方へのご家族の態度からでもわかるでしょう?」
ランディスはわたしの言葉に少しショックを受けた様で顔色が悪くなった。が、それも一瞬の事ですぐに気持ちを切り替えた様だった。
「……以前の様に考えなしに行動すれば、悪手となって自分の身に返って来るという事を師匠に教えていただけました。これからは師匠や家族の信頼を得る為にもっと努力をしていこうと思っています」
へぇ、ランディスってば実は相当な努力家だったんた。あのテンションに隠れてそんないいところ全く気付きませんでしたよ。でもこんなに変わるなんて思ってなかったから本当にびっくりだわ!
なんつーの?あ、あれだ。部下への指導が上手くハマった時の達成感にさも似たり。部下が立派に成長していくのは上司として本当に嬉しいものよ。
「ランディスはこの短い間に随分成長しましたね。僕もとても嬉しいです」
「師匠のお陰です。これからも努力していきますのでご指導よろしくお願いいたします」
真摯な態度でランディスは頭を下げた。
「わかりました。頑張ってくださいね」
今なら素直に師匠になってもいいかもね。部下の……じゃなかった、弟子の成長を見守るのも悪くないと思える位には成長してるもの。
「そろそろ妹も待たされ過ぎてしびれを切らしているかもしれません。こちらに呼びましょうか」
「そうですね。お願いします」
うわぁ、空気も読める様になったのかい!?師匠としてちょっと泣けてきますよ。どこまで成長するのかしら。成長が早過ぎてちょっと怖いけどね。
暫くするとランディスと入れ替わりでアイラヴェントがやって来た。
「クルーディス様お久しぶりにございます。先日は色々とご迷惑をお掛けしまして申し訳ございませんでした」
「お久しぶりですアイラヴェント嬢。僕の方こそ家にまで押し掛けてしまいご迷惑ではなかったですか?」
「いいえ。わたしはとても楽しみしておりました」
アイラヴェントはご令嬢らしくぺこりと上品な挨拶をしてきたのでわたしもその挨拶に応えた。
アイラヴェントはちらりと侍女の方を見て、侍女はそれに小さく頷いていた。きっとこの侍女に指導された挨拶なのだろう。
それを微笑ましく思いながらソファーに座りお茶を淹れてもらった。
「とても丁寧なご挨拶をありがとうございます。……もう堅苦しい話し方はやめましょうか」
わたしがそう言えばアイラヴェントはぱあっと明るい顔になる。
「本当にそれでいい?」
「ええ。折角ゆっくりお話出来る訳だし、僕もそうするから大丈夫だよ」
「やった!」
アイラヴェントの自然な笑顔にこちらも笑顔を返した。
「えと……まずはお兄様が迷惑を掛けたよな。それは本当にごめん!あんたん家から戻ってから豹変したからよっぽど何かやらかしたんだと思うけど、あんた何したんだ?」
「うーん…なんというか、悪い所をひとつずつ注意しただけなんだどなぁ」
本当にそれしかしてないのだ。他に言い様がない。
「んであんたは師匠な訳だ?」
アイラヴェントまで『師匠』の事を言い出してくる?何か顔が笑ってますけど……。
「注意しただけで師匠なんて言われても困っちゃうんだけどね……」
「それでもうちはクルーディスのお陰で平和になって大喜びだから!本当にありがとう!」
先程とは違いがばっと頭を下げるアイラヴェントにわたしはとても好感を持った。
この子もランディスも基本はとても素直なのだ。このまま成長すればきっと悪役令嬢になる事もないのでは、と思う。
「アイラヴェントに喜んでもらえたなら良かったのかな」
「そうそう!家族中喜んでるんだからこれからも頼むよ。『お師匠様』!」
「アイラヴェントまでそーゆー事を……。こちらとしてはそれはとても嬉しくないんだけどなぁ」
わたし達のやり取りにアイラヴェントの侍女も苦笑していた。だがシュラフは表情には出していないがとても驚いている様だった。
アイラヴェントの侍女はわたしと会った事があるし、二人のやり取りを一度見ているので困った主人だ位にしか思っていないだろう。
しかし、シュラフはアイラヴェントとは今日が初対面。
きっと彼女がこんな子だとは想像もしていなかっただろう。令嬢としてはあるまじき口調だし、侯爵家の自分の主に伯爵家の令嬢がこの態度なのだ。口を挟みたくても自分の主が許している限りそれは出来ないものね。
シュラフはもやもやしてるんだろうなぁと容易に想像がついた。
「シュラフ、彼女は僕にとって特別な存在なんだ。だから僕達の間ではこれで問題ないんだよ」
わたしがそう言えばシュラフは黙って頷いた。
「あ、ごめん……じゃなくてごめんなさい。シュラフさん困ってますよね」
アイラヴェントもそれに気付いた様で素直に謝った。
「……いえ、私は主に従うだけですので」
「それでも、侯爵家のご子息様に対する態度ではなかったですから。……申し訳ありません」
アイラヴェントは素直な分、従者であるシュラフに対して申し訳ないと言葉遣いを改めた。しかしそれにはシュラフも困ってしまったようだった。アイラヴェントも何となく話しづらくなったみたいで無言になってしまう。
これじゃ何も話が出来ないよ。
「シュラフ、ごめん。ちょっと二人きりにさせてもらえないかな」
何だか埒が明かなくなってきたのでわたしは思い切ってそう提案してみた。
「レイラ。わたしからもお願いします」
アイラヴェントも自分の侍女にそう告げて懇願した。
二人ともその提案に素直に従ってくれて部屋を出ていく。
「ごめんねアイラヴェント。始めからこうすれば良かったね」
「ううん、俺も普通に話せるのが嬉しくて調子に乗っちゃったところがあるから。こっちこそごめん…」
やっと普通に話が出来る。
お互いに謝った後顔を見合わせて笑ってしまった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
アイラヴェントへの手紙には、手紙をくれたお礼と今度直接会って話がしたいと書いた。
アイラヴェントはすぐさま了承の返事をくれたのでお互いの都合のいい日を選んで決めた。直接アイラヴェントに会うのは周囲の目を考えて、ランディスを口実にする事にした。……お陰で彼にも会う羽目になり少し憂鬱になる。はぁ。
馬車を降りると伯爵夫妻自ら出迎えてくれたのには閉口した。
ランディスがわたしと会った後、以前よりずっと落ち着いて思慮深くなったそうで手放しで感謝されてしまった。
ま、まぁランディスはきっと家でもあんな感じだったのだろうから家族の心配もわからなくはないけどね。少しでも落ち着きが出てきたなら説教した甲斐もあったんでしょう。
夫妻はこれから用事があるとそのまま出掛けて行ったので、わたしは今、応接室に通され二人を待っていた。
ノックをして入って来たのはランディスだった。
「わざわざ我が家までご足労いただきありがとうございます」
「こちらこそ急にお伺いしてすいません」
「いえ、我が家まで来たいただけるとは思っていなかったので本当に嬉しく思います」
ほんとだーっ!ランディスってばこの間のテンション高い坊っちゃんじゃないよ!ちゃんと普通に挨拶出来てるよ!やれば出来るじゃん!
普通の事なんだけど、ランディスだとこれは結構凄い成長でしょ!あんなはっちゃけテンションが普通になったのだからもう真逆と言ってもいい位。
「先程ご両親もランディスを褒めてらしたけど、本当いい方向に変わったんですねぇ」
思わず本音がぽろりと出てしまったけど、それだけ変わったんだもん。そりゃこっちは驚きますよ。
「いえ、私は師匠のお言葉を実践しようと努力しているだけなんです。なので変わったと言われるならば師匠のおかげなんです」
ランディスは照れながらも褒められて嬉しそうな笑顔を見せた。
「両親も妹も驚いてましたけど、今の私の方がいいと言ってくれています」
「そうですね。今のランディスならば少しは信頼してもいいのかな」
「……それは以前の私は信頼されるに値しなかったって事ですか?」
「貴方へのご家族の態度からでもわかるでしょう?」
ランディスはわたしの言葉に少しショックを受けた様で顔色が悪くなった。が、それも一瞬の事ですぐに気持ちを切り替えた様だった。
「……以前の様に考えなしに行動すれば、悪手となって自分の身に返って来るという事を師匠に教えていただけました。これからは師匠や家族の信頼を得る為にもっと努力をしていこうと思っています」
へぇ、ランディスってば実は相当な努力家だったんた。あのテンションに隠れてそんないいところ全く気付きませんでしたよ。でもこんなに変わるなんて思ってなかったから本当にびっくりだわ!
なんつーの?あ、あれだ。部下への指導が上手くハマった時の達成感にさも似たり。部下が立派に成長していくのは上司として本当に嬉しいものよ。
「ランディスはこの短い間に随分成長しましたね。僕もとても嬉しいです」
「師匠のお陰です。これからも努力していきますのでご指導よろしくお願いいたします」
真摯な態度でランディスは頭を下げた。
「わかりました。頑張ってくださいね」
今なら素直に師匠になってもいいかもね。部下の……じゃなかった、弟子の成長を見守るのも悪くないと思える位には成長してるもの。
「そろそろ妹も待たされ過ぎてしびれを切らしているかもしれません。こちらに呼びましょうか」
「そうですね。お願いします」
うわぁ、空気も読める様になったのかい!?師匠としてちょっと泣けてきますよ。どこまで成長するのかしら。成長が早過ぎてちょっと怖いけどね。
暫くするとランディスと入れ替わりでアイラヴェントがやって来た。
「クルーディス様お久しぶりにございます。先日は色々とご迷惑をお掛けしまして申し訳ございませんでした」
「お久しぶりですアイラヴェント嬢。僕の方こそ家にまで押し掛けてしまいご迷惑ではなかったですか?」
「いいえ。わたしはとても楽しみしておりました」
アイラヴェントはご令嬢らしくぺこりと上品な挨拶をしてきたのでわたしもその挨拶に応えた。
アイラヴェントはちらりと侍女の方を見て、侍女はそれに小さく頷いていた。きっとこの侍女に指導された挨拶なのだろう。
それを微笑ましく思いながらソファーに座りお茶を淹れてもらった。
「とても丁寧なご挨拶をありがとうございます。……もう堅苦しい話し方はやめましょうか」
わたしがそう言えばアイラヴェントはぱあっと明るい顔になる。
「本当にそれでいい?」
「ええ。折角ゆっくりお話出来る訳だし、僕もそうするから大丈夫だよ」
「やった!」
アイラヴェントの自然な笑顔にこちらも笑顔を返した。
「えと……まずはお兄様が迷惑を掛けたよな。それは本当にごめん!あんたん家から戻ってから豹変したからよっぽど何かやらかしたんだと思うけど、あんた何したんだ?」
「うーん…なんというか、悪い所をひとつずつ注意しただけなんだどなぁ」
本当にそれしかしてないのだ。他に言い様がない。
「んであんたは師匠な訳だ?」
アイラヴェントまで『師匠』の事を言い出してくる?何か顔が笑ってますけど……。
「注意しただけで師匠なんて言われても困っちゃうんだけどね……」
「それでもうちはクルーディスのお陰で平和になって大喜びだから!本当にありがとう!」
先程とは違いがばっと頭を下げるアイラヴェントにわたしはとても好感を持った。
この子もランディスも基本はとても素直なのだ。このまま成長すればきっと悪役令嬢になる事もないのでは、と思う。
「アイラヴェントに喜んでもらえたなら良かったのかな」
「そうそう!家族中喜んでるんだからこれからも頼むよ。『お師匠様』!」
「アイラヴェントまでそーゆー事を……。こちらとしてはそれはとても嬉しくないんだけどなぁ」
わたし達のやり取りにアイラヴェントの侍女も苦笑していた。だがシュラフは表情には出していないがとても驚いている様だった。
アイラヴェントの侍女はわたしと会った事があるし、二人のやり取りを一度見ているので困った主人だ位にしか思っていないだろう。
しかし、シュラフはアイラヴェントとは今日が初対面。
きっと彼女がこんな子だとは想像もしていなかっただろう。令嬢としてはあるまじき口調だし、侯爵家の自分の主に伯爵家の令嬢がこの態度なのだ。口を挟みたくても自分の主が許している限りそれは出来ないものね。
シュラフはもやもやしてるんだろうなぁと容易に想像がついた。
「シュラフ、彼女は僕にとって特別な存在なんだ。だから僕達の間ではこれで問題ないんだよ」
わたしがそう言えばシュラフは黙って頷いた。
「あ、ごめん……じゃなくてごめんなさい。シュラフさん困ってますよね」
アイラヴェントもそれに気付いた様で素直に謝った。
「……いえ、私は主に従うだけですので」
「それでも、侯爵家のご子息様に対する態度ではなかったですから。……申し訳ありません」
アイラヴェントは素直な分、従者であるシュラフに対して申し訳ないと言葉遣いを改めた。しかしそれにはシュラフも困ってしまったようだった。アイラヴェントも何となく話しづらくなったみたいで無言になってしまう。
これじゃ何も話が出来ないよ。
「シュラフ、ごめん。ちょっと二人きりにさせてもらえないかな」
何だか埒が明かなくなってきたのでわたしは思い切ってそう提案してみた。
「レイラ。わたしからもお願いします」
アイラヴェントも自分の侍女にそう告げて懇願した。
二人ともその提案に素直に従ってくれて部屋を出ていく。
「ごめんねアイラヴェント。始めからこうすれば良かったね」
「ううん、俺も普通に話せるのが嬉しくて調子に乗っちゃったところがあるから。こっちこそごめん…」
やっと普通に話が出来る。
お互いに謝った後顔を見合わせて笑ってしまった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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