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16・手紙(アイラヴェント視点3)
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お兄様が帰ってきた!
お兄様はどんな話をしてきたのだろう。そしてお兄様はどれだけ迷惑を掛けて来たのだろう。クルーディスはどんな感じだったのだろう。
今日一日ずっとその事ばかり気になっていた俺は、お兄様をお出迎えする為に慌てて玄関に出た。
「おかえりなさい。お兄様」
「ああ、ただいま……」
あれ?出掛ける時とうってかわって明らかに意気消沈しているな。
「……どうしたの?お兄様。クルーディス様にはちゃんと会えたんでしょう?」
「うん……」
この変貌ぶりはきっとこってり怒られたんだろうな。そう思ったけど俺は何も言わずにお兄様と一緒にリビングに入った。
レイラがお茶を淹れてくれたのだがお兄様はそれに手を付けずに何か考え込んでいる様だった。クルーディスと何があったのか凄く気にはなるけど、俺はお兄様からちゃんと話を聞きたかったので話してくれるのを待った。
暫くして思い詰めた顔をしたお兄様がゆっくりと口を開く。
「……ごめんね、アイラ」
「え?何があったの?お兄様」
「うん……色々あったんだけど、最初にアイラに謝らなければいけないんだ」
何となく想像はつくよ。
「アイラにくれぐれも最初に渡せって言われてた手紙、最後に渡してしまったんだ」
……うん、わかってた。
お兄様はテンション上がったままお伺いしてそれどころじゃなかったんだよね。想定内なので気にしませんよ。手紙を渡してくれたのなら良しとしよう。
「クルーディス様に怒られたよ」
今日のお兄様は怒られたらしゅんとするいつもの感じではなく、とても重い空気に包まれていた。
「アイラが私の為に手紙で謝ってくれたんだよね……。私はいつも勢いで行動してしまうから……アイラにもいつも迷惑を掛けてしまってるんだよね」
「お兄様……!」
なんと!お兄様がちゃんと反省してる!こんなお兄様初めて見た!
クルーディスと一体何があったのだろう。本当にいつも勢いだけで動いて人の話を全く聞かない人なのに、今は別人の様に反省をした上でゆっくり話をしてるなんて!
「本当にごめんね、ありがとうアイラ」
お兄様は泣きたいのを堪えながらもしっかりと謝罪した。
俺は何も言えずにお兄様と向き合っていた。
一体お兄様はクルーディス何を言われて来たんだろう。あのお兄様がこんなに変わってしまったのはクルーディスが原因なのはわかる。わかるけど、変わり過ぎてるお兄様を見るとクルーディスに謎の恐ろしさを感じてしまう。
本当に何があったんだよ……。
「お師匠様は私に、至らなさを反省して態度で示せと仰って下さったんだ」
んん?なに?なんのはなし?
「おししょうさま……?」
「うん、クルーディス様は私のお師匠様になって下さったんだ。あんな素晴らしい方にご指導を仰げるなんて私は果報者だよ。」
はあぁ!?何をどうしたらクルーディスが師匠になる訳!?本当に何してきたんだよお兄様!
俺は開いた口がふさがらなかった。
それからずっとお兄様はどれだけクルーディスが素晴らしい人物なのかを暑く……いや、熱く延々と語りまくってくれた。
お兄様に付き纏われる羽目になりそうなクルーディスに俺は心の中で合掌する位しか出来なかった。なんかほんとごめん!
翌日。
あの夢は見なかったがお兄様のせいで精神的にダウンしている俺に、レイラですら寝坊を大目にみてくれた。レイラもお兄様の余波を食らって参っていたからね。
でも太陽も高いところまで上がってしまってるしそろそろ起きようかな、とベッドから出たら丁度部屋にレイラが来た。
「おはようレイラ。相変わらずタイミング良すぎてビックリだよ」
「おはようございますアイラヴェント様。タイミングが良いのは、それだけアイラヴェント様のお世話をさせていただいているという事ですわ」
この『お世話』にどれだけの意味が込められているのだろう。怖くて聞けないので曖昧に笑って、助かってますと小さな声で呟いてみた。
「ではまずお着替えをなさって……お食事は如何致しますか」
「うーん、軽く食べようかな」
昼には早いし朝には遅い時間なので、軽食程度の軽いものをいただく事にした。
部屋に食事を手配してもらいゆっくりブランチをとった。レイラは横でお茶を注いでくれる。
「お嬢様、わたくし先程お手紙をいただいたんですよ」
唐突にレイラからそんな衝撃告白を受けた。
「何?誰か付き合ってる人でもいるの!?」
四六時中自分の側にいるのにいつの間に手紙をくれる様な人を作ったんだろう。レイラってばいつも冷静沈着ですました感じだけどやるじゃん!俺はひとり色めき立った。
「では特別にお見せ致しますわ」
「えっ?いいの?ありが……っ!」
レイラは俺の前に相手の名前がわかるように手紙を置いてくれた。レイラの相手はどんな人なんだろう。ドキドキしながら差出人を見ると……。
「クルーディス・エウレンから……?」
どーゆー事?レイラにクルーディスから手紙が来るなんて、もしかして二人は知らないところで知り合いに?知らないのに知り合いとはこれ如何に……とか何言ってるんだ俺!
もう訳わかんなくなってきたぞ。もしかして俺レイラの恋路の邪魔してるのか?でもクルーディスはレイラよりも年下だしなぁ。あ、年上が好きとかそーゆー事か!?
「お嬢様、お顔がおかしくなってますよ」
もやもや悩んでる気持ちが顔に出てたらしい俺にレイラはくすくす笑ってその封筒を裏返した。
「よく見て下さいませ」
何をよく見ろと言うのだろう。わからないままその手紙を改めて見てみると。
「な……俺宛じゃん!」
「ええ、私『先程、お嬢様宛のお手紙を執事からいただいて来た』のですよ」
レイラは悪戯が成功した満面の笑みでそう答えた。
「……レイラって時々本当に意地悪だよね」
俺はジト目でレイラを見たが、彼女はくすくす笑ったままだ。
「俺、一応レイラの主人なんですけどね」
「勿論そうですよ。いつもアイラヴェント様の可愛らしいお顔を色々見せていただけて侍女冥利に尽きますわ」
何それ!ドッキリか!
俺が元気のない時とか、気が張っている時とかにレイラはこうやってからかったりする。腹が立つ事もあるけど、そんなやり取りの後は結構復活出来るんだよね。俺の許せるラインを弁えているところが敵わない。
レイラのこういうお遊びにはこちらも救われている事も事実だ。俺はぷうっと頬を膨らませて、いじめだいじめだとぶーたれる位しか言えませんて。
俺は早速その手紙を開いた。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
お兄様はどんな話をしてきたのだろう。そしてお兄様はどれだけ迷惑を掛けて来たのだろう。クルーディスはどんな感じだったのだろう。
今日一日ずっとその事ばかり気になっていた俺は、お兄様をお出迎えする為に慌てて玄関に出た。
「おかえりなさい。お兄様」
「ああ、ただいま……」
あれ?出掛ける時とうってかわって明らかに意気消沈しているな。
「……どうしたの?お兄様。クルーディス様にはちゃんと会えたんでしょう?」
「うん……」
この変貌ぶりはきっとこってり怒られたんだろうな。そう思ったけど俺は何も言わずにお兄様と一緒にリビングに入った。
レイラがお茶を淹れてくれたのだがお兄様はそれに手を付けずに何か考え込んでいる様だった。クルーディスと何があったのか凄く気にはなるけど、俺はお兄様からちゃんと話を聞きたかったので話してくれるのを待った。
暫くして思い詰めた顔をしたお兄様がゆっくりと口を開く。
「……ごめんね、アイラ」
「え?何があったの?お兄様」
「うん……色々あったんだけど、最初にアイラに謝らなければいけないんだ」
何となく想像はつくよ。
「アイラにくれぐれも最初に渡せって言われてた手紙、最後に渡してしまったんだ」
……うん、わかってた。
お兄様はテンション上がったままお伺いしてそれどころじゃなかったんだよね。想定内なので気にしませんよ。手紙を渡してくれたのなら良しとしよう。
「クルーディス様に怒られたよ」
今日のお兄様は怒られたらしゅんとするいつもの感じではなく、とても重い空気に包まれていた。
「アイラが私の為に手紙で謝ってくれたんだよね……。私はいつも勢いで行動してしまうから……アイラにもいつも迷惑を掛けてしまってるんだよね」
「お兄様……!」
なんと!お兄様がちゃんと反省してる!こんなお兄様初めて見た!
クルーディスと一体何があったのだろう。本当にいつも勢いだけで動いて人の話を全く聞かない人なのに、今は別人の様に反省をした上でゆっくり話をしてるなんて!
「本当にごめんね、ありがとうアイラ」
お兄様は泣きたいのを堪えながらもしっかりと謝罪した。
俺は何も言えずにお兄様と向き合っていた。
一体お兄様はクルーディス何を言われて来たんだろう。あのお兄様がこんなに変わってしまったのはクルーディスが原因なのはわかる。わかるけど、変わり過ぎてるお兄様を見るとクルーディスに謎の恐ろしさを感じてしまう。
本当に何があったんだよ……。
「お師匠様は私に、至らなさを反省して態度で示せと仰って下さったんだ」
んん?なに?なんのはなし?
「おししょうさま……?」
「うん、クルーディス様は私のお師匠様になって下さったんだ。あんな素晴らしい方にご指導を仰げるなんて私は果報者だよ。」
はあぁ!?何をどうしたらクルーディスが師匠になる訳!?本当に何してきたんだよお兄様!
俺は開いた口がふさがらなかった。
それからずっとお兄様はどれだけクルーディスが素晴らしい人物なのかを暑く……いや、熱く延々と語りまくってくれた。
お兄様に付き纏われる羽目になりそうなクルーディスに俺は心の中で合掌する位しか出来なかった。なんかほんとごめん!
翌日。
あの夢は見なかったがお兄様のせいで精神的にダウンしている俺に、レイラですら寝坊を大目にみてくれた。レイラもお兄様の余波を食らって参っていたからね。
でも太陽も高いところまで上がってしまってるしそろそろ起きようかな、とベッドから出たら丁度部屋にレイラが来た。
「おはようレイラ。相変わらずタイミング良すぎてビックリだよ」
「おはようございますアイラヴェント様。タイミングが良いのは、それだけアイラヴェント様のお世話をさせていただいているという事ですわ」
この『お世話』にどれだけの意味が込められているのだろう。怖くて聞けないので曖昧に笑って、助かってますと小さな声で呟いてみた。
「ではまずお着替えをなさって……お食事は如何致しますか」
「うーん、軽く食べようかな」
昼には早いし朝には遅い時間なので、軽食程度の軽いものをいただく事にした。
部屋に食事を手配してもらいゆっくりブランチをとった。レイラは横でお茶を注いでくれる。
「お嬢様、わたくし先程お手紙をいただいたんですよ」
唐突にレイラからそんな衝撃告白を受けた。
「何?誰か付き合ってる人でもいるの!?」
四六時中自分の側にいるのにいつの間に手紙をくれる様な人を作ったんだろう。レイラってばいつも冷静沈着ですました感じだけどやるじゃん!俺はひとり色めき立った。
「では特別にお見せ致しますわ」
「えっ?いいの?ありが……っ!」
レイラは俺の前に相手の名前がわかるように手紙を置いてくれた。レイラの相手はどんな人なんだろう。ドキドキしながら差出人を見ると……。
「クルーディス・エウレンから……?」
どーゆー事?レイラにクルーディスから手紙が来るなんて、もしかして二人は知らないところで知り合いに?知らないのに知り合いとはこれ如何に……とか何言ってるんだ俺!
もう訳わかんなくなってきたぞ。もしかして俺レイラの恋路の邪魔してるのか?でもクルーディスはレイラよりも年下だしなぁ。あ、年上が好きとかそーゆー事か!?
「お嬢様、お顔がおかしくなってますよ」
もやもや悩んでる気持ちが顔に出てたらしい俺にレイラはくすくす笑ってその封筒を裏返した。
「よく見て下さいませ」
何をよく見ろと言うのだろう。わからないままその手紙を改めて見てみると。
「な……俺宛じゃん!」
「ええ、私『先程、お嬢様宛のお手紙を執事からいただいて来た』のですよ」
レイラは悪戯が成功した満面の笑みでそう答えた。
「……レイラって時々本当に意地悪だよね」
俺はジト目でレイラを見たが、彼女はくすくす笑ったままだ。
「俺、一応レイラの主人なんですけどね」
「勿論そうですよ。いつもアイラヴェント様の可愛らしいお顔を色々見せていただけて侍女冥利に尽きますわ」
何それ!ドッキリか!
俺が元気のない時とか、気が張っている時とかにレイラはこうやってからかったりする。腹が立つ事もあるけど、そんなやり取りの後は結構復活出来るんだよね。俺の許せるラインを弁えているところが敵わない。
レイラのこういうお遊びにはこちらも救われている事も事実だ。俺はぷうっと頬を膨らませて、いじめだいじめだとぶーたれる位しか言えませんて。
俺は早速その手紙を開いた。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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