わたしの可愛い悪役令嬢

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15・お兄様(アイラヴェント視点2)

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 エントランスに出るとお兄様は異様な程張り切って出掛ける準備をしていた。
 良かった!まだ出掛けてなかった。
 そんな兄に俺はあちらに着いたらすぐ渡して下さいね。と手紙を託した。


「ちゃんと兄としてお前の事をよろしく頼んで来るから待っててね」
「だからお兄様!わたしは別にクルーディス様とは何でもないんだってば」
「いーや、私はちゃんとわかってるよアイラ。クルーディス様にきちんとお話してくるからね!」
 うきうきとそう言いながらお兄様は手紙を懐にしまった。


 何をわかってるのかさっぱりわからないが、ずっとこんな調子でお兄様はテンションが高い。本当にこういうところは面倒な人なのだ。基本いいやつなのに残念なお兄様。

 馬車に乗り込む時に、絶対に手紙は最初に渡す様にと念押ししたが、兄の事だ。自分の事でいっぱいでそこまで頭も回らないだろう。
 手紙をお願いした時も、愛の言葉は早く伝えたいものだものね。私は愛の使者として頑張ってくるよ。なんてワケわかんない事言ってたし……。

 あの手紙をクルーディスに渡せたら御の字かな、後はクルーディスがキレないか心配だな。と俺は半ば諦めモードになっている。




「大丈夫かな。お兄様」
「さぁ。なるようになりますでしょう」
 俺の思わず口をついて出た言葉にレイラからは安心できる言葉は貰えなかった。




 朝食を食べ部屋に戻った俺は、そろそろエウレン侯爵家に着くであろう兄の事を考えていた。


 お兄様はきっとクルーディスを怒らせる。それでキレたクルーディスがアイラヴェントを悪役認定しちゃったら……俺はもう一貫の終わりなのでは。

 ヒロインが出てくる前に終わってしまったらアイラヴェントはどうなっちゃうんだろ。やっぱり酷い目に合うのかな。逃げるしかないのかな。
 クルーディスは自分を断罪するかもしれない人だけど、あいつは自分の事をわかってくれた初めての人だ。そんな人にやっと会えたのにこんな終わり方嫌だなぁ。



「ねぇレイラ、もし俺が国外に追放になってもついてきてくれるかな」
「……お嬢様は何故追放されるんです?」
 俺の突拍子もない発言に慣れているレイラは普通に返してくれる。そういう所凄く助かるよ。うん。
「今日のお兄様にクルーディスがキレたら、怒って俺の事国外追放とか投獄とかしちゃうかもじゃん。投獄だとレイラを連れて行く事は出来ないから、せめて追放だったら一緒についてきて欲しいなーって」
 うじうじしながらレイラに尋ねるとレイラはふふっと笑った。
「そうですね。もし追放されましたらアイラヴェント様についていきましょう。……その前にその原因を叩き潰してしまうかもしれませんが」
 うわぉ何だか黒いよレイラ。その笑顔怖いってば。
「ですがエウレン家のご子息様でしたらそんな事にはなりませんわ」


 一瞬で普通の笑顔に戻ったレイラはさらりとそんな事を言った。レイラの事は信頼してるけどこればっかりはわからない。
「そうかなぁ」
「お歳の割にしっかりなさっている良識のあるお方だとおうかがいしておりますもの」
 首を傾げた俺の疑問に淡々とレイラは答えてくれる。
「そ、そうなんだ。よく知ってるねレイラ」
「先日よりお嬢様がとても気になさっておいででしたので確認程度ですがお調べ致しました」
 こういうのを『痒いところに手が届く』って言うのかな。いつの間に調べたんだろう。その手腕に感動すら覚えますよ。
「それ以前に子供のやり取りだけで侯爵様が追放だの投獄だのなさいませんし出来ませんのでご安心下さい」
 落ち着いて考えて下さいね、と俺はレイラに宥められてしまった。



「パーティーの時にはクルーディス様とどの様なお話をなさったんですか?」
 そういえばあの時家に戻ってからずっとお兄様の大騒ぎでレイラにちゃんと報告出来ていなかった。
「んーと、俺の夢の話をちゃんと聞いて貰えたし理解もしてくれた。何か思ってたよりずっといい人だったんだよね」
「そうですか、なによりですね」
 レイラにも俺の夢の話をしているが、転生って事は言ってない。ただ、ゲームの話を予知夢の様に言っただけだ。それでもレイラはきちんと話を聞いてくれて、クルーディスや他の攻略対象対策の相談にも乗ってくれた。

 レイラがいてくれてつくづく良かったと思う。殺されるかもしれない未来の話なんて一人で悩むには重すぎる内容だ。
 レイラは俺がしんどい時には「俺」と言っても咎めない。令嬢が「俺」なんておかしすぎる事なのに、二人きりの時には大目にみてくれていた。
 その分部屋の外でこれやっちゃうとがっつり怒られちゃうんだよな。気を付けてはいるんだけど、これが中々難しい。



「それで、お嬢様は殺される可能性がありましたか?」
「そんな感じじゃなかったんだ。むしろ優しかったし……」
「そうですか。良かったですね」
 レイラは俺の言葉に嬉しそうに微笑んでくれた。いつも俺の事を心配してくれている彼女が笑顔だと俺も何だかホッとする。


 本当にクルーディスは想像していたのと違ってた。


 もっとアイラヴェントに対してキツく接して来るのかと思ったけれど、あいつはとても優しかった。あいつも同じゲームの記憶を持っているらしいのに俺みたいにゲームに引きずられている感じではなさそうだった。
「でね、クルーディスは今度もっと話を聞きたいって言ってくれたんだ」

 俺もあいつの話を聞いてみたい。
 あいつも誰かに話を聞いてもらってるみたいだけど、苦しんだりしてないのかな。ヒロインをどう思っているのかな。アイラヴェントの事をどう思っているのかな。クルーディスとしてどう生きようとしているのかな。
 知りたい事、聞きたい事は沢山あるのに貴族というだけで男女が会うのは憚られるこの世界。子供なんだしいーじゃん!という訳にもいかず困ってしまう。面倒だなぁ。



「ランディス様がちゃんとお手紙を渡す事が出来ましたらお会い出来る可能性も出てくるでしょう」
「……お兄様次第って事かぁ」
 思わず二人ではぁっと大きなため息をついてしまう。お兄様頼りなんて一気に可能性減っちゃうよ。



 お兄様!もう何でもいいから兎に角手紙を渡してくれ!





◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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