10 / 78
10・評価
しおりを挟む
「今日王宮で陛下に領土の件で謁見する機会があってな。普段そんな事を陛下から問われた事なんてなかったのでびっくりしたよ」
「まぁ、我が領に何か問題でもありましたの?」
家族で夕食を食べていると父がいつもの仕事の報告をする。この父は侯爵家として家族にも意識を持って貰いたいと自分の仕事の事を必ず報告するのだ。この話を聞くと自分の意識も少し高まる気がする。
わたしの記憶が出てくる前は右から左へ聞き流していたのが申し訳なかったし勿体無かったなぁと思う。子供な自分にはまだ侯爵家の一員としての自覚がなかったから。
今のわたしにはこれがどれだけ凄い事なのかがわかる。組織の中で一番大事な『報告・連絡・相談』をこの父は欠かさないのだ。こんな上司だったらずっとついていきたいと思える程に。
「んー、領土の話は特に問題もなかったのだがね……まぁダシみたいなモノだったのさ」
「ダシ……ですか?」
「国王陛下の目的はお前だったよ、クルーディス」
「は?」
なんで?会った事もない子供に何の目的があるの?変なシュミでもあるの?急に自分の話になりわたしは動揺して固まってしまう。
固まりながらもわたしは父の顔を伺った。
「な、何で僕……?」
「先日のパーティーでお前は誰かと会ったんだろう?」
「……はい」
父がにやりと言ったそのひと言で理解した。王子が国王陛下に何か進言したのだろう。
何か変な事言ったかなぁ。わたしの知識で話した事が何か悪い様に伝わったりしてないだろうか。家族に迷惑を掛ける様な発言はしてないと思う。セルシュにも別に不敬な発言があったって注意は受けなかったから大丈夫だと思うけど……。
あのパーティーでの王子との会話を目まぐるしく思い出しながら、父の言葉を待つわたしに父上はとても嬉しそうな顔をした。
「陛下はお前の国や家族に対する思いに大いに感動してな。将来お前をルルーシェイド王子の側近に召し上げたいと仰ったんだよ」
「へ?」
「まぁ素晴らしいわクルーディス!貴方の歳で国王陛下の目に留まるなんて。我が息子ながら鼻が高いですわね」
「だろう?流石我が息子!俺の血を受け継いで素晴らしい人材になるだろうと思っていたら、まさか陛下直々のお声が掛かるとは思わなかったよ」
側近云々は兎も角、悪い話ではなかった事にわたしは安堵した。ほっ。良かった。
それにしても……王子は何をどのように陛下に進言したんだろう。わたしには話した事の何が王子の中の評価に繋がったのかわからなかった。だってたいした話もしてないわよね。聞かれた事に答えただけだもの。
「お兄様側近になるの?」
心配そうにリーンフェルトはわたしの事を見た。
「わたしお兄様がどっか行っちゃうのは嫌です」
そんな可愛い事を言ってくれる妹に心が暖かくなる。
「大丈夫だよ。リーン。まだまだ先の話だよ」
そう言ってわたしは妹の頭を撫でる。リーンはわたしに頭を撫でられるのが好きなようでされるままになっていた。
「そうだなー。リーンが誰かと婚約してクルーディスの事なんて後回しになっちゃう頃にこの話は決まるんじゃないか?」
「とっ、父様!わたしお兄様が後回しになんてなりませんよ!こっ婚約者だって出来ないかもしれないですしっ……」
父上がからかうようにそんな事を言うと、リーンは反発したのだが自分で言った事に落ち込んでしまった。
リーン的にはセルシュと婚約出来るなら一番嬉しいのだろうけど、リーンも貴族として勝手に好きな人と婚約は出来ない事をわかっているもんね。
わたしは大事な妹のリーンフェルトには幸せになって貰いたいと願っている。でも今は発言を濁して我慢している妹をいつもより多目に撫でてあげる事しか出来なかった。
「大丈夫よリーンフェルト。わたくしの方で貴女の婚約の事はきちんと考えてありますからね」
「……はい」
父も母もわたし達を暖かい目で見つめているが、妹はその後一言も話をしないで早々に部屋に戻っていった。
「母上、リーンフェルトの事ですが……」
「こちらにいらっしゃい、クルーディス」
三人で食後、リビングでお茶を飲んでいたが、わたしは妹の事が心配になり、何とかしたいと思って母に声を掛けたのだ。
でもなんと言っていいのがわからず次の言葉が出なかった。わたしは母上に言われるまま側に行った。
「クルーディスはリーンフェルトの事を大切に思ってくれているのですね」
そんなわたしに母上は優しく微笑んでくれる。
「わたくしには勿体無い位の素敵な子供達で母は本当に幸せ者ですね」
「いえ、そんな……」
「わたくしもあの子には幸せになって貰いたいと思っていますよ。でも子供の時の気持ちのまま大人になるとは限らないでしょう?」
「はい」
「今あの子はセルシュ様の事を好ましく思っているかもしれないですけど、あの子が成長してもっと色んな殿方と出会う機会が出てきた時に新しい感情が出てこないとも限りませんもの。それでもまだあの子がセルシュ様をお慕いしている様ならその時は母に任せて欲しいのです」
「母上……」
「ですから、ね。兄として心配する気持ちはわかりますが気に病む事はないのですよ」
流石としか言い様がなかった。母はちゃんと子供の事をわかってくれていた。リーンの好きな人迄わかっちゃうなんて母上ってもしや恋愛マスターか何かなの?
取り敢えずリーンフェルトの事に関しては心配する事はなくなった。
「母上、ありがとうございます」
リーンの代わりに礼を言ってわたしも部屋に戻っていった。
「旦那様、うちの子供達はなんていい子達なんでしょうね」
「そうだな、思いやりもあって見識も広い。二人は俺達の自慢の子供だな」
「本当に」
「うかうかしてると俺はクルーディスに追い越されてしまうかもしれんな」
「ふふっ、その時はわたくしも旦那様の手助けで頑張らせていただきますわよ」
リビングに残った二人はお茶を飲みながら微笑みあっていた。
わたしが部屋を出た後にそんな話があった事などわたしは全く知らなかった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
「まぁ、我が領に何か問題でもありましたの?」
家族で夕食を食べていると父がいつもの仕事の報告をする。この父は侯爵家として家族にも意識を持って貰いたいと自分の仕事の事を必ず報告するのだ。この話を聞くと自分の意識も少し高まる気がする。
わたしの記憶が出てくる前は右から左へ聞き流していたのが申し訳なかったし勿体無かったなぁと思う。子供な自分にはまだ侯爵家の一員としての自覚がなかったから。
今のわたしにはこれがどれだけ凄い事なのかがわかる。組織の中で一番大事な『報告・連絡・相談』をこの父は欠かさないのだ。こんな上司だったらずっとついていきたいと思える程に。
「んー、領土の話は特に問題もなかったのだがね……まぁダシみたいなモノだったのさ」
「ダシ……ですか?」
「国王陛下の目的はお前だったよ、クルーディス」
「は?」
なんで?会った事もない子供に何の目的があるの?変なシュミでもあるの?急に自分の話になりわたしは動揺して固まってしまう。
固まりながらもわたしは父の顔を伺った。
「な、何で僕……?」
「先日のパーティーでお前は誰かと会ったんだろう?」
「……はい」
父がにやりと言ったそのひと言で理解した。王子が国王陛下に何か進言したのだろう。
何か変な事言ったかなぁ。わたしの知識で話した事が何か悪い様に伝わったりしてないだろうか。家族に迷惑を掛ける様な発言はしてないと思う。セルシュにも別に不敬な発言があったって注意は受けなかったから大丈夫だと思うけど……。
あのパーティーでの王子との会話を目まぐるしく思い出しながら、父の言葉を待つわたしに父上はとても嬉しそうな顔をした。
「陛下はお前の国や家族に対する思いに大いに感動してな。将来お前をルルーシェイド王子の側近に召し上げたいと仰ったんだよ」
「へ?」
「まぁ素晴らしいわクルーディス!貴方の歳で国王陛下の目に留まるなんて。我が息子ながら鼻が高いですわね」
「だろう?流石我が息子!俺の血を受け継いで素晴らしい人材になるだろうと思っていたら、まさか陛下直々のお声が掛かるとは思わなかったよ」
側近云々は兎も角、悪い話ではなかった事にわたしは安堵した。ほっ。良かった。
それにしても……王子は何をどのように陛下に進言したんだろう。わたしには話した事の何が王子の中の評価に繋がったのかわからなかった。だってたいした話もしてないわよね。聞かれた事に答えただけだもの。
「お兄様側近になるの?」
心配そうにリーンフェルトはわたしの事を見た。
「わたしお兄様がどっか行っちゃうのは嫌です」
そんな可愛い事を言ってくれる妹に心が暖かくなる。
「大丈夫だよ。リーン。まだまだ先の話だよ」
そう言ってわたしは妹の頭を撫でる。リーンはわたしに頭を撫でられるのが好きなようでされるままになっていた。
「そうだなー。リーンが誰かと婚約してクルーディスの事なんて後回しになっちゃう頃にこの話は決まるんじゃないか?」
「とっ、父様!わたしお兄様が後回しになんてなりませんよ!こっ婚約者だって出来ないかもしれないですしっ……」
父上がからかうようにそんな事を言うと、リーンは反発したのだが自分で言った事に落ち込んでしまった。
リーン的にはセルシュと婚約出来るなら一番嬉しいのだろうけど、リーンも貴族として勝手に好きな人と婚約は出来ない事をわかっているもんね。
わたしは大事な妹のリーンフェルトには幸せになって貰いたいと願っている。でも今は発言を濁して我慢している妹をいつもより多目に撫でてあげる事しか出来なかった。
「大丈夫よリーンフェルト。わたくしの方で貴女の婚約の事はきちんと考えてありますからね」
「……はい」
父も母もわたし達を暖かい目で見つめているが、妹はその後一言も話をしないで早々に部屋に戻っていった。
「母上、リーンフェルトの事ですが……」
「こちらにいらっしゃい、クルーディス」
三人で食後、リビングでお茶を飲んでいたが、わたしは妹の事が心配になり、何とかしたいと思って母に声を掛けたのだ。
でもなんと言っていいのがわからず次の言葉が出なかった。わたしは母上に言われるまま側に行った。
「クルーディスはリーンフェルトの事を大切に思ってくれているのですね」
そんなわたしに母上は優しく微笑んでくれる。
「わたくしには勿体無い位の素敵な子供達で母は本当に幸せ者ですね」
「いえ、そんな……」
「わたくしもあの子には幸せになって貰いたいと思っていますよ。でも子供の時の気持ちのまま大人になるとは限らないでしょう?」
「はい」
「今あの子はセルシュ様の事を好ましく思っているかもしれないですけど、あの子が成長してもっと色んな殿方と出会う機会が出てきた時に新しい感情が出てこないとも限りませんもの。それでもまだあの子がセルシュ様をお慕いしている様ならその時は母に任せて欲しいのです」
「母上……」
「ですから、ね。兄として心配する気持ちはわかりますが気に病む事はないのですよ」
流石としか言い様がなかった。母はちゃんと子供の事をわかってくれていた。リーンの好きな人迄わかっちゃうなんて母上ってもしや恋愛マスターか何かなの?
取り敢えずリーンフェルトの事に関しては心配する事はなくなった。
「母上、ありがとうございます」
リーンの代わりに礼を言ってわたしも部屋に戻っていった。
「旦那様、うちの子供達はなんていい子達なんでしょうね」
「そうだな、思いやりもあって見識も広い。二人は俺達の自慢の子供だな」
「本当に」
「うかうかしてると俺はクルーディスに追い越されてしまうかもしれんな」
「ふふっ、その時はわたくしも旦那様の手助けで頑張らせていただきますわよ」
リビングに残った二人はお茶を飲みながら微笑みあっていた。
わたしが部屋を出た後にそんな話があった事などわたしは全く知らなかった。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
0
お気に入りに追加
708
あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる