わたしの可愛い悪役令嬢

くん

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「今日王宮で陛下に領土の件で謁見する機会があってな。普段そんな事を陛下から問われた事なんてなかったのでびっくりしたよ」
「まぁ、我が領に何か問題でもありましたの?」



 家族で夕食を食べていると父がいつもの仕事の報告をする。この父は侯爵家として家族にも意識を持って貰いたいと自分の仕事の事を必ず報告するのだ。この話を聞くと自分の意識も少し高まる気がする。
 わたしの記憶が出てくる前は右から左へ聞き流していたのが申し訳なかったし勿体無かったなぁと思う。子供な自分にはまだ侯爵家の一員としての自覚がなかったから。
 今のわたしにはこれがどれだけ凄い事なのかがわかる。組織の中で一番大事な『報告・連絡・相談』をこの父は欠かさないのだ。こんな上司だったらずっとついていきたいと思える程に。


「んー、領土の話は特に問題もなかったのだがね……まぁダシみたいなモノだったのさ」
「ダシ……ですか?」
「国王陛下の目的はお前だったよ、クルーディス」
「は?」
 なんで?会った事もない子供に何の目的があるの?変なシュミでもあるの?急に自分の話になりわたしは動揺して固まってしまう。
 固まりながらもわたしは父の顔を伺った。
「な、何で僕……?」
「先日のパーティーでお前は誰かと会ったんだろう?」
「……はい」
 父がにやりと言ったそのひと言で理解した。王子が国王陛下に何か進言したのだろう。


 何か変な事言ったかなぁ。わたしの知識で話した事が何か悪い様に伝わったりしてないだろうか。家族に迷惑を掛ける様な発言はしてないと思う。セルシュにも別に不敬な発言があったって注意は受けなかったから大丈夫だと思うけど……。
 あのパーティーでの王子との会話を目まぐるしく思い出しながら、父の言葉を待つわたしに父上はとても嬉しそうな顔をした。
「陛下はお前の国や家族に対する思いに大いに感動してな。将来お前をルルーシェイド王子の側近に召し上げたいと仰ったんだよ」
「へ?」
「まぁ素晴らしいわクルーディス!貴方の歳で国王陛下の目に留まるなんて。我が息子ながら鼻が高いですわね」
「だろう?流石我が息子!俺の血を受け継いで素晴らしい人材になるだろうと思っていたら、まさか陛下直々のお声が掛かるとは思わなかったよ」
 側近云々は兎も角、悪い話ではなかった事にわたしは安堵した。ほっ。良かった。
 それにしても……王子は何をどのように陛下に進言したんだろう。わたしには話した事の何が王子の中の評価に繋がったのかわからなかった。だってたいした話もしてないわよね。聞かれた事に答えただけだもの。
「お兄様側近になるの?」
 心配そうにリーンフェルトはわたしの事を見た。
「わたしお兄様がどっか行っちゃうのは嫌です」
 そんな可愛い事を言ってくれる妹に心が暖かくなる。
「大丈夫だよ。リーン。まだまだ先の話だよ」
 そう言ってわたしは妹の頭を撫でる。リーンはわたしに頭を撫でられるのが好きなようでされるままになっていた。
「そうだなー。リーンが誰かと婚約してクルーディスの事なんて後回しになっちゃう頃にこの話は決まるんじゃないか?」
「とっ、父様!わたしお兄様が後回しになんてなりませんよ!こっ婚約者だって出来ないかもしれないですしっ……」
 父上がからかうようにそんな事を言うと、リーンは反発したのだが自分で言った事に落ち込んでしまった。


 リーン的にはセルシュと婚約出来るなら一番嬉しいのだろうけど、リーンも貴族として勝手に好きな人と婚約は出来ない事をわかっているもんね。
 わたしは大事な妹のリーンフェルトには幸せになって貰いたいと願っている。でも今は発言を濁して我慢している妹をいつもより多目に撫でてあげる事しか出来なかった。
「大丈夫よリーンフェルト。わたくしの方で貴女の婚約の事はきちんと考えてありますからね」
「……はい」

 父も母もわたし達を暖かい目で見つめているが、妹はその後一言も話をしないで早々に部屋に戻っていった。


「母上、リーンフェルトの事ですが……」
「こちらにいらっしゃい、クルーディス」
 三人で食後、リビングでお茶を飲んでいたが、わたしは妹の事が心配になり、何とかしたいと思って母に声を掛けたのだ。
 でもなんと言っていいのがわからず次の言葉が出なかった。わたしは母上に言われるまま側に行った。
「クルーディスはリーンフェルトの事を大切に思ってくれているのですね」
そんなわたしに母上は優しく微笑んでくれる。
「わたくしには勿体無い位の素敵な子供達で母は本当に幸せ者ですね」
「いえ、そんな……」
「わたくしもあの子には幸せになって貰いたいと思っていますよ。でも子供の時の気持ちのまま大人になるとは限らないでしょう?」
「はい」
「今あの子はセルシュ様の事を好ましく思っているかもしれないですけど、あの子が成長してもっと色んな殿方と出会う機会が出てきた時に新しい感情が出てこないとも限りませんもの。それでもまだあの子がセルシュ様をお慕いしている様ならその時は母に任せて欲しいのです」
「母上……」
「ですから、ね。兄として心配する気持ちはわかりますが気に病む事はないのですよ」
 流石としか言い様がなかった。母はちゃんと子供の事をわかってくれていた。リーンの好きな人迄わかっちゃうなんて母上ってもしや恋愛マスターか何かなの?
 取り敢えずリーンフェルトの事に関しては心配する事はなくなった。

「母上、ありがとうございます」
 リーンの代わりに礼を言ってわたしも部屋に戻っていった。



「旦那様、うちの子供達はなんていい子達なんでしょうね」
「そうだな、思いやりもあって見識も広い。二人は俺達の自慢の子供だな」
「本当に」
「うかうかしてると俺はクルーディスに追い越されてしまうかもしれんな」
「ふふっ、その時はわたくしも旦那様の手助けで頑張らせていただきますわよ」
 リビングに残った二人はお茶を飲みながら微笑みあっていた。



 わたしが部屋を出た後にそんな話があった事などわたしは全く知らなかった。







◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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