わたしの可愛い悪役令嬢

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9・思案

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「濃い1日だったな……」


 パーティーの翌日からは通常の生活に戻った。
 今日は家庭教師もお休みの日なので、誰もいない部屋でひとり過ごす事にした。今は状況を色々整理したいのでシュラフにも席を外してもらっている。
 彼はパーティーの時には父に付いていたのでわたしのこの状況を知ったのは家に帰った後だった。


 アイラヴェントに会えた事とルーカスと名乗った第三王子に会った事を告げると驚いていたが、その後シュラフから
「では、クルーディス様は今後の展望をどうお考えですか」
と問われたので、改めて色々考えてみる事にしたのだ。


「どう、したらいいのかな」


 アイラヴェントだけでなくもうひとりの『攻略対象』にまで会ってしまったのだ。これからの事を少し考えた方がいいかもしれないなと、わたしはまずゲームを改めて思い出す事にした。

 『攻略対象』は6人。まずわたし『クルーディス』。それと『ルルーシェイド第三王子』。後はポートラーク宰相様の子息の『ヒューレット』、騎士団長チャルシット様の子息『モーリタス』、五大公爵の一人ナリタリア様の子息『サイモン』。隣国から留学してくる王子の『タランテラス』。
 うわっ、何だか凄い面子!こんなとんでもなく豪華な面子が平民であるヒロインと出会って恋愛するのか。改めて考えるとよりどりみどりだわね。


 でも実際貴族社会で平民とそんな簡単に恋に落ちるなんて夢物語は基本あり得ないと思うんだよなぁ。
 平民ならそんな話は喜ぶけれど、上の立場になればなるほど困った事案となる訳だし。基本恋愛結婚なんて貴族としては相手が同じ貴族でもない限り無理な話なのだから。

 貴族社会は縦も横も繋がりを大事にする。腹に一物ある輩にはそんな醜聞が格好の餌となって家ごと叩き潰されて終わり。表面がどんなに笑顔でも裏では足を引っ張ろうと画策してくる事が容易に想像できる。
 ゲームでそんな事情お構いなしにヒロインとくっつく『攻略対象』って実は凄く勇気があるのかもしれない。わたしには絶対無理だな。そんな根性ありません。



 ゲームのスタートはヒロインが15歳の時。わたしはその時16歳になっている。
 国の設立した学園にヒロインが入学するところからゲームは始まる。そこで道に迷ったヒロインは攻略対象達に出会い、偶然が重なってヒロインと攻略対象の関係が親密になっていく。

 でもゲームと違って学園の中も平民と貴族の学舎は仕切られている筈なのよね。なのにどうやって出会うんだろう?謎だわ。



 まぁわたしはヒロインを徹底的に避けていく方向なので出会う方法は思い出さない方がいいだろう。っていうか、怖くて思い出したくない。


 アイラヴェントと出会って、わたしはヒロインが怖いと思う様になった。
 ゲームの中では仕方がないんだけど、自分を貶めた悪役令嬢を断罪しても、それを当たり前の事として受け入れてしまうヒロインを受け入れられなかった。
 それは多分今のアイラヴェントを知ってしまったから。あの子をあの断罪シーンに投影させてしまうから。あの子を苦しめる事はしたくないと思ったからなのかもしれない。


 よし!決めた!
 ヒロインの相手は他の面子に頑張ってもらおう。


 人任せ感ありありだけど、関わったらいつ自分が攻略対象になるかわからないもんね。極力避けるのが一番の解決法だろう。他に五人もいるわけだし、ヒロインにもその中で好きなのを選んでもらいましょう!
 『逃げるが勝ち』。うん、素晴らしい言葉だね!日本人凄い!!




 ゲームの話は自分の中で纏まったので次の案件。これが今一番頭を悩ませる最も難しい最重要事案だ。


「どうやったらアイラヴェントと会えるのかなぁ」


 以前とは別の意味で彼女に会わなければならない。


 あの子はまだわたし程、自分がアイラヴェントである事に折り合いをつけてない感じがした。そりゃ、殺されるかもしれない未来が待っているんだからそれを納得するのには時間が掛かりそうだよね。

 あの子の悩みを聞く事ならわたしでも出来る気がする。今のところわたししかわかってあげられないんじゃないだろうか。
 あの子を見てるとなんというか庇護欲が湧いて、守ってあげなきゃいけない気になるのよね。
 これってアラサー女子のなけなしの母性本能なのかしら。それともクルーディスとしての異性への感情なのかしら。
 その答えはまだわからない。彼女と会って話をしたのはあの数分だけなのだから。
 今はどちらでもいい。アイラヴェントの未来を守る事を考えなければ。



 でもなぁ。貴族社会においては子供でも異性と二人で会うことなんてまず無理なんだよなぁ。
 家族ぐるみのお付き合いがあるならまだしも、ただの知り合いであるアイラヴェントとは、相手にお伺いをたてて家族の承認を得て、誰かの同席の元で初めて会う事が出来るのだ。
 かといって自分の両親に彼女の話をする勇気はまだ持てない。またあのノリで来られるとそのまま婚約に流れそうで怖かった。わたしはあの子の気持ちを大事にしたいんだもの。


 アイラヴェント本人に会ってからは自分があの子を追い詰める事はない気がした。
 あの子は素直なとてもいい子で周りからも愛されている。
 あの子がヒロインを貶める行為をするのは難しいと思うんだよね。まずあれでは隠し事が出来ないし、裏で画策したりするのはきっと不得手だろう。
 ゲームの様な展開になるには彼女がどんなに頑張っても、逆に相手の手の平で転がされてしまって無理そうな気がする。
 わたしは侍女に怒られていた彼女を思い出し、つい笑みを浮かべてしまった。


 今はあの子の為になんとかしたいという気持ちが強い。以前と違い、ただあの子を守りたいと思う。
 あの子を他の『攻略対象』から守るための婚約ならいいかもしれないと頭の隅で考えなくもないけれど、周りに言い含められての婚約はあの子が頑なになってしまう様な気がして嫌だった。


 これからどう進むにしろ、わたしとしてはまずアイラヴェントの話が聞きたいのだけどいい案が思い浮かばない。


「あー、おてあげだー」


 何のアイデアも思い付かず身体をベッドに投げ出した。
 『下手な考え休むに似たり』そんな言葉が頭をよぎる。
 そーよね、いっそ少し休んだ方が頭の切り替えが出来るかも。わたしは考える事を放棄して目を閉じた。


「クルーディス様。起きて下さい」
「ん……?シュラフ、なに……?」
「そろそろご夕食のお時間です。」
 その言葉に慌てて起き上がり部屋を見回すと、既に部屋の中には夕陽が差し込んでいる。
 あ……思いっきり熟睡しちゃった。
 ノックをしても返事がなくて部屋に入れば主は熟睡なんてとても気まずい。シュラフはため息をついているがそれに対して何も言わなかった。
「いっ、いや色々考えたんだけどさ、考え過ぎちゃったら何だか眠くなって……」
 気まずくてわたしはあたふたシュラフに言い訳をしてしまう。
 だって彼の好意を無にしてるもんね。悪いって自覚はあるのよ。
「構いませんよ。貴方はアイラヴェント様に会う手段が思い付かなくて考える事を放棄したのでしょう?」
「う……その通りデス」
 シュラフってば容赦ないな。わたしの性格や行動を熟知してるからこその発言だから何も言えませんよ。人間図星を指されるとグゥの音もでないんです。
「それならばこのシュラフも後程ご相談に乗りますので、まずはご夕食をお召し上がり下さいませ」
「うん、わかった……シュラフありがとう」
「お気にならさないで下さい。主の至らないところをカバーするのが私の役目ですので」





 ぐ。そんな笑顔で言う台詞か!素直に感謝しようと思ったのに!









◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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