わたしの可愛い悪役令嬢

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5・誕生パーティー本番

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 誕生パーティーの為に招待状に署名をしたり、パーティー用の服を新調したりわたしは中々に忙しかった。


 今までのわたしは面倒くさがりで引きこもりの子だったので、パーティーといえばただ両親の側で挨拶をする位だったけど今回は違った。
 両親からも気に入った令嬢見つけろという謎の使命を与えられ、しかも子供達だけが集まるという。
 否が応でも主役になってしまうわたしはホストとして招待客を接待しなければならない。今回は親に任せて楽をする事が出来ないのだ。
 面倒だったが招待客のリストを見ながらシュラフに彼らについて知っている事を教えてもらったりして接待に備えた。




 で、何だかんだと頑張っているうちに誕生パーティー当日を迎えてしまった。あぁ憂鬱……。




 今日のパーティーは父上曰く、わたしが色んな同世代の子達と接触して、今後の人脈に活かしていける様にと考慮されているらしい。
 令嬢とばかり接触しなければいけない訳ではないので少しホッとする。婚約者探しに無理に尽力するのは子供としてちょっと引いてしまうけど、今日のわたしは男女問わずに色んな人と関わっていけばいいらしい。今後の人脈作りの練習にもなるだろうという父の優しさがみえる。

 先日父に見せて貰った招待客リストの中には仲良くしている友達もいて、久しぶりに会えるのは素直に楽しみだった。普段引きこもり外に出る事をしなかったわたしには友人と呼べる人は一人しかいなかった。
 昔の記憶がなくてもその時と同じ様に引きこもっていたなんて、もう遺伝子レベルで身体に染み付いているのではないだろうか。なんて事は置いておいて。
 わたしは改めて招待客のリストを眺めた。
 そのリストの中には、やはり彼女の名前もあった。
 その名前を確認するとやっぱり身が引き締まる気持ちになる。



「クルーディス様。そろそろお時間です」
「わかった」
 招待客がそろそろ到着する時間だ。わたしはシュラフに促されて、大広間に向かった。



 わたしの挨拶でパーティーが始まる。
 広間にはわたしと同世代の子達で賑わっている。子供なのでダンス等はなく、子供達がここそこで集まって会話を楽しんだり、食事を楽しんだりしていた。
 まだみんな10歳前後なのにしっかりしてるなぁ。この位の子供って落ち着きがなくて暴れまわったりしちゃうイメージなんだけどな。そこが『ザ・貴族』って事なのかしらね。
 わたしは遠い記憶の中にある近所の子供を思い浮かべて思わず笑みを浮かべてしまう。


「おい、なんでそんなにニヤついてるんだよクルーディス」
「うわっ!」
 後ろから急に肩を組まれわたしは驚いて声をあげた。
「なんだ、セルシュか」
「何だはないだろう?大事な友達に向かって」
 セルシュは笑いながらわたしに話しかけてくる。彼は父同士が友人でもあり昔から交流があった。ひとつ年上のおおらかで人懐こい真っ直ぐな性格はとても好ましい。
 父曰く、セルシュは父親のロンディール侯爵様のお仕事に随行したりしているそうで、父上はそれをちょっと羨ましそうに教えてくれた。これから少しはわたしもやらなきゃいけないかしらね。ま、機会があったらという事で。



 そんな頑張ってるセルシュはちょっと変り者な気がする。まず年下のわたしが呼び捨てにするのを推奨しているところはどうかと思う。でもセルシュとしてはクルーディスだからいいとの事らしい。ま、本人がいいならいいんですけどね。
「さっきからお前の事を令嬢達がそわそわと遠巻きに見てるぞ。今日の主役なんだからお前が色々声かけてやんなきゃダメだろ」
「まぁそうだけど……何か偉そうだねセルシュ」
「ふふん、俺はとっくに10歳のパーティーを終えてるからな。お前よりも兄貴なんだぞ」
 いやいや、そんなに違いませんよね?兄貴ぶりたいお年頃かな?
 なんて生暖かく見つめていたらセルシュに組まれた腕に力が込められた。
「何だよお前、何が言いたいんだよ」
「別に……って、苦しっ、やめてよっ」
 そんな風に二人でじゃれあっていたら遠巻きにこちらを見ていた令嬢達が小さい歓声をあげていた。
「きゃあ、お二人とも仲が宜しいのですね」
「クルーディス様の困ったお顔も素敵ですわ」
「セルシュ様もあの爽やかな笑顔、いつまでもみていたいですわね」

 そんな声が聞こえてきて何だか気まずくなり、わたし達はそっと少し離れた。セルシュはわたしにだけ聞こえるように声をかける。
「ほらクルーディス、俺は適当に食事してるから早く挨拶周り行ってこいよ!主役だろ?」
 ん?セルシュ?今日はご飯を食べに来たのかい?いいけどさ。
「そうだね、そろそろ行こうかな」
「後でいい子見つけたら教えろよ!」
「……もしいたらね」
 こっそりひとつため息をついてわたしは気持ちを切り替える。
 今日は主催者側として皆を接待していかなければならない。差別があったり気分を悪くさせないように、細心の注意を払い招待客を満足させるのがわたしの仕事。営業で接待。さ、お仕事モードに切り替えよう!


 営業モードに切り替えたら後はお客様に笑顔で挨拶をする。前以て勉強したお客様の情報から、それに見合った会話をして相手を楽しませる事に注力した。
 父上や母上と繋がりのあるご子息や令嬢に挨拶をし、少し談笑して次の招待客へまた挨拶をする。
 ここにいるご子息達は皆立派に見える。自分がだらだらしている間に皆成長しているんだなぁと感心をしてしまう。今日は上辺だけだがそれに負けない様にお客様を喜ばせないと。そんな猫かぶりなわたしでも、あまり普段話をしない同世代の男の子達と話すのは新鮮で中々楽しかった。

 しかし、令嬢相手になるとまた違った。
 子供でもクルーディスはそれなりに整った顔立ちらしく、ご令嬢達はわたしが話しかけると頬を染め、うっとりとこちらを見つめてきたり、自分が一番クルーディスに相応しいとアピールが始まったりするのだ。


 正直うんざりしてきた。


 この中から将来の婚約者を選ぶのは難しくないか?営業スマイルのまま挨拶をし続けているけど段々疲れてきたわ。
 世間のご子息達もこういうところでちゃんと気に入った令嬢を見つけたりしているのだろうか。そう思うと本当に感心する。坊っちゃん達凄いわ。
 広間で一通り挨拶を終えセルシュがいるところまで戻ってきたわたしに、セルシュは微妙な顔で「お疲れさん」と声をかけてくれた。まぁ付き合いが長いからわたしの表情から気持ちを察してくれたのだろう。わたしは彼にやっぱり微妙な笑顔を返して、ひと息ついた。
「お前スゲーな。客の情報とかどんだけ持ってんだよ」
「接待は情報が勝負でしょ」
「ふぅん、そんなもんか?」
「そんなもんだよ」
「頑張ったんだな」
 セルシュはちょっと呆れながらもわたしの努力に感心していた。わたしには天性のカリスマやらスキルがあるわけではないので、努力しなければ結果を出せないのだ。セルシュは素直にその努力を誉めてくれた。ちょっと照れくさいね。



 落ち着いたところで控えていたシュラフから密かに声をかけられる。
「あの方は庭園の方にいらっしゃいます」
「わかった」
 広間で挨拶した中にはアイラヴェント嬢はいなかった。かといって主催者側がきょろきょろと探し回るのは他の令嬢に失礼になってしまう。どうしたものかと思っていた時のシュラフの報告だった。流石としか言い様がない。
「セルシュ、僕庭園の方にも挨拶に行ってくるよ」
 わざとらしくないようにセルシュにひと声かけると、両手の皿いっぱいに給仕にご馳走を盛りつけてもらっているところだった。
「おう!こっちは気にすんなよ」
「食べ過ぎじゃないの?セルシュ」
 彼は本当に食事しに来ただけなのかも。そんな気のおけない友人の様子に苦笑しつつ、少し早足で庭園に向かった。



 天気がよく温かな日差しが降り注いでいる我が家の庭園では日差しに負けない位の華やかな草花が溢れている。
 庭は母の好みで華やかなものから落ち着いたものまで色とりどりの競演を魅せている。母と庭師が丹精込めて育て上げ作り上げたこの庭園は、社交界では中々の評価を得ているらしい。
 最近は王宮の庭師がうちの庭師に師事したいと通っているなんて話も聞く。まぁわたしはその辺はよく知らないんだけどね。
 わたしはここでも営業スマイル全開で皆に挨拶をしていた。
 しかし、一通り回ったのに彼の令嬢はいなかった。



「おかしいですね……確かにこちらの方に向かったはずなんですけどね」
 シュラフも首を傾げていた。
「そうだよね。これじゃまるで避けられてるみたいだよね」
 絶対に敷地内にはいるはずだ。なのに挨拶すら出来ないとは……。
「クルーディス様、如何致しましょうか」
「主催者側が不用意に動き回る訳にはいかないし……」






 結局、わたしは悪役令嬢には会えなかった。









◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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