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3・シュラフ
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「はぁぁ~、参った」
わたしは部屋に入り、そのままベッドに突っ伏した。
何か色々気疲れした。父上も母上もなんと言うか鋭い。自分はただアイラヴェント嬢を殺さない為にと、やんわりぼかして改善策を相談したはず……なのに。理由は違うが『気になる令嬢がいる』と言うところまで行き着いたのだ。社交界でも注目を集める我が両親の凄さを垣間見た気がした。怖っ!
「ねぇ、シュラフ」
「なんでしょうか」
「誰かに相談するってこんなに疲れるもんだっけ」
わたしの従者のシュラフは六歳上のとても落ち着いた青年でいつも頼りにしている。しかも美形ときてる。これはもう少し成長したら女の子達がほっとかないだろうなぁ。なんてこっそり思っているのは秘密。
彼は代々我が家に仕えている家系らしいが我が家に仕えるよりいくらでもいい仕事に就けそうな気がする。わたしの目からみてもシュラフはとても優秀なのだ。
文武両道で冷静沈着。質実剛健……かどうかはちょっと不明だけど、わたしに仕えているのが勿体無い位なのよね。
わたしはそんな事を思いながら、彼の顔を見ていたらシュラフは微笑んで答えた。
「旦那様も奥様もクルーディス様の事を大変大事に思っておられます。いつだってあなた様やリーンフェルト様の御言葉から真意を理解しようとお気持ちを向けられておりますし。なのでいくら真意をお隠しになられてもお二方様には暴かれてしまうのでしょうね」
「そ、そうなんだ……」
「お二方は社交界でもそれなりに周りから注目を集めるお立場なので、様々な方の真意を測る術に長けているのではないかと思われますね」
そういえば何度かわたしや妹が連れて行ってもらった舞踏会では常に周囲に色んな人が集まっていた。その中でも、本当に両親を大事だと思って挨拶をしてくれる人、その場かぎりの上っ面のおべっかを使う野心がギラギラしてる人、知り合いとして普通に接してくれる人。色々いたが、上っ面だけでコネやツテを欲しがる人に対しても両親は笑顔で対応していたが目は冷えきっていてとても怖かった事を思い出す。
「確かに……二人とも凄いよね。舞踏会とか時々笑顔の二人から冷気が来て怖いもんね」
「そんなお二人を見て育っているクルーディス様なら努力すればそれなりになれますよ」
「……それなり?」
「今の面倒くさがりのクルーディス様ではまだまだ精進が足りませんので」
うっ、辛辣だ。この従者はわたしに対して結構な物言いをする。まだまだ未熟なわたしの為を思っての発言だとは分かっているけど結構なダメージを与えてくれる……凹むよ。しかし間違った事ではないのでぐぅの音の出ません。
これが上司だったら部下はきっとへこたれて出社拒否しちゃいそう。
「う……まぁ、そうだよね」
「でしょう?分かっておられるなら大丈夫ですよ。頑張って下さいね」
シュラフはこちらに極上の笑みを向ける。おべっかなどとは縁遠い彼に褒められるのは素直に嬉しくなる。認められている事がわかるから。
「ところでクルーディス様」
「何?」
「先程のお話は何なんでしょうか?」
「えっ?」
「お食事中のお話ですよ」
「あ……」
シュラフは極上の笑顔から冷たい笑顔に一転させわたしに詰め寄った。
そ、そうだよね。いつも側にいるシュラフが町でわたしが耳にする話を気づかないわけ無いもんね……って、
「シュラフっ!近い近い!後怖いっ!」
ベッドの上のわたしにのし掛からんばかりに詰め寄ったシュラフを恐怖のあまり押し退ける。
「これは失礼致しました。……で、どういう事ですかね」
ちょっと、離れたって怖いよっ!
わたしはこの恐怖から逃げたくて観念して悪役令嬢の話をする。
転生やらゲームやらの話を抜いて、未来の出来事を夢に見た、というやんわりした感じで聞いてもらった。
「……で、僕はその令嬢アイラヴェントを間接的にでも殺しちゃうのが嫌なんだよね。だからその夢と違う優しい女の子になってもらいたくて……」
「でも夢なんでしょう?」
「そっ、そうなんだけどっ!」
でもわたしは知ってる。この世界があのゲームの世界で自分は登場人物の一人。その上ヒロインの攻略対象の一人でもある。でもゲームだの転生だのと言ったところでわかってはもらえない。『夢見が悪かった』で片付けると自分が攻略対象に選ばれるかどうか判明する迄この恐怖と戦わなくてはいけなくなる。
しかし本当の事が言えないので、ただの夢として片付けられても仕方がないのも分かっている。それでも、と藁をも掴む思いでシュラフに話をしたのだ。
内容に関しては分かってもらえるとは思ってないけど、少しでもこちらが真剣な事は分かってもらいたいと思った。
「……では、そのアイラヴェント嬢がどんな方なのか調べてみるところから始めませんと」
「えっ!?」
わたしは予想外のシュラフの言葉に驚いて顔を上げた。
「まずはそのお嬢様がクルーディス様の仰る様な方に育っているかどうかの確認をしてみて、もしもその通りだったら改善策を一緒に考えましょう」
「シュラフ……」
なんと有り難い!流石シュラフ、頼りになるなぁ。
「確認してみてそのお方が素晴らしいお嬢様だったらクルーディス様は心で最大の謝罪をなさるといいでしょうね」
うっ。シュラフらしい物言いにグサッとくる。でも道理だ。その時は心の中で土下座します。はい。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
わたしは部屋に入り、そのままベッドに突っ伏した。
何か色々気疲れした。父上も母上もなんと言うか鋭い。自分はただアイラヴェント嬢を殺さない為にと、やんわりぼかして改善策を相談したはず……なのに。理由は違うが『気になる令嬢がいる』と言うところまで行き着いたのだ。社交界でも注目を集める我が両親の凄さを垣間見た気がした。怖っ!
「ねぇ、シュラフ」
「なんでしょうか」
「誰かに相談するってこんなに疲れるもんだっけ」
わたしの従者のシュラフは六歳上のとても落ち着いた青年でいつも頼りにしている。しかも美形ときてる。これはもう少し成長したら女の子達がほっとかないだろうなぁ。なんてこっそり思っているのは秘密。
彼は代々我が家に仕えている家系らしいが我が家に仕えるよりいくらでもいい仕事に就けそうな気がする。わたしの目からみてもシュラフはとても優秀なのだ。
文武両道で冷静沈着。質実剛健……かどうかはちょっと不明だけど、わたしに仕えているのが勿体無い位なのよね。
わたしはそんな事を思いながら、彼の顔を見ていたらシュラフは微笑んで答えた。
「旦那様も奥様もクルーディス様の事を大変大事に思っておられます。いつだってあなた様やリーンフェルト様の御言葉から真意を理解しようとお気持ちを向けられておりますし。なのでいくら真意をお隠しになられてもお二方様には暴かれてしまうのでしょうね」
「そ、そうなんだ……」
「お二方は社交界でもそれなりに周りから注目を集めるお立場なので、様々な方の真意を測る術に長けているのではないかと思われますね」
そういえば何度かわたしや妹が連れて行ってもらった舞踏会では常に周囲に色んな人が集まっていた。その中でも、本当に両親を大事だと思って挨拶をしてくれる人、その場かぎりの上っ面のおべっかを使う野心がギラギラしてる人、知り合いとして普通に接してくれる人。色々いたが、上っ面だけでコネやツテを欲しがる人に対しても両親は笑顔で対応していたが目は冷えきっていてとても怖かった事を思い出す。
「確かに……二人とも凄いよね。舞踏会とか時々笑顔の二人から冷気が来て怖いもんね」
「そんなお二人を見て育っているクルーディス様なら努力すればそれなりになれますよ」
「……それなり?」
「今の面倒くさがりのクルーディス様ではまだまだ精進が足りませんので」
うっ、辛辣だ。この従者はわたしに対して結構な物言いをする。まだまだ未熟なわたしの為を思っての発言だとは分かっているけど結構なダメージを与えてくれる……凹むよ。しかし間違った事ではないのでぐぅの音の出ません。
これが上司だったら部下はきっとへこたれて出社拒否しちゃいそう。
「う……まぁ、そうだよね」
「でしょう?分かっておられるなら大丈夫ですよ。頑張って下さいね」
シュラフはこちらに極上の笑みを向ける。おべっかなどとは縁遠い彼に褒められるのは素直に嬉しくなる。認められている事がわかるから。
「ところでクルーディス様」
「何?」
「先程のお話は何なんでしょうか?」
「えっ?」
「お食事中のお話ですよ」
「あ……」
シュラフは極上の笑顔から冷たい笑顔に一転させわたしに詰め寄った。
そ、そうだよね。いつも側にいるシュラフが町でわたしが耳にする話を気づかないわけ無いもんね……って、
「シュラフっ!近い近い!後怖いっ!」
ベッドの上のわたしにのし掛からんばかりに詰め寄ったシュラフを恐怖のあまり押し退ける。
「これは失礼致しました。……で、どういう事ですかね」
ちょっと、離れたって怖いよっ!
わたしはこの恐怖から逃げたくて観念して悪役令嬢の話をする。
転生やらゲームやらの話を抜いて、未来の出来事を夢に見た、というやんわりした感じで聞いてもらった。
「……で、僕はその令嬢アイラヴェントを間接的にでも殺しちゃうのが嫌なんだよね。だからその夢と違う優しい女の子になってもらいたくて……」
「でも夢なんでしょう?」
「そっ、そうなんだけどっ!」
でもわたしは知ってる。この世界があのゲームの世界で自分は登場人物の一人。その上ヒロインの攻略対象の一人でもある。でもゲームだの転生だのと言ったところでわかってはもらえない。『夢見が悪かった』で片付けると自分が攻略対象に選ばれるかどうか判明する迄この恐怖と戦わなくてはいけなくなる。
しかし本当の事が言えないので、ただの夢として片付けられても仕方がないのも分かっている。それでも、と藁をも掴む思いでシュラフに話をしたのだ。
内容に関しては分かってもらえるとは思ってないけど、少しでもこちらが真剣な事は分かってもらいたいと思った。
「……では、そのアイラヴェント嬢がどんな方なのか調べてみるところから始めませんと」
「えっ!?」
わたしは予想外のシュラフの言葉に驚いて顔を上げた。
「まずはそのお嬢様がクルーディス様の仰る様な方に育っているかどうかの確認をしてみて、もしもその通りだったら改善策を一緒に考えましょう」
「シュラフ……」
なんと有り難い!流石シュラフ、頼りになるなぁ。
「確認してみてそのお方が素晴らしいお嬢様だったらクルーディス様は心で最大の謝罪をなさるといいでしょうね」
うっ。シュラフらしい物言いにグサッとくる。でも道理だ。その時は心の中で土下座します。はい。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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