わたしの可愛い悪役令嬢

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2・相談

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 この世界に生きて行かないといけないわたしは『悪役令嬢との未来』を選ぶ事にした。




 まぁ、選んだと言ったところで、まだ会った事もない子なのでどんな子かわからない。悪役令嬢と自分の婚約は12歳、ゲームはヒロインが学園に入る所からスタートなので自分は16歳になる。
 その頃には父の治めている領地での仕事を少しずつ覚えなければならない時期だ。
 それは兎も角、16歳迄にはアイラヴェント嬢との関係を確固たるものにして、その悪行を何とかしてもらわないといけない。ヒロインを貶めたりしなければ何とかなるような気がした。
 そうなるにはどうしたらいいのか、明け方ずっと考えに考え抜いた。……あ、そうか。




「アイラヴェントが悪役令嬢にならなければいいんじゃない?」




 その結論に至りちょっと光明が見えてきた。解決策を思い付いて、じゃあどうやって……と思ったところで段々眠気が襲ってくる。緊張が少し緩んだせいかもしれない。続きはまた後で考えようまだ時間はあるのだからと再びベッドに潜り込んで、今朝はまんまと寝坊した。





「おはようクルーディス、珍しく今朝はお寝坊さんなのね」
「夜更かしでもしたのか?」
「お兄様夜更しなんてダメですよ!」
 食堂に入ると微笑んだ両親と早く食事をしたくてちょっと怒っている一つ下の妹、リーンフェルトに声をかけられた。改めて見るとクルーディスの家族はみな華やかでそれなりのオーラがある。そりゃクルーディスは攻略対象になる位の美形になるわよね、と他人事の様に呑気に思う。
 そんな我が家族は、できるだけ一緒に食事をというルールを作り家族の語らいを大事にする。
 そのため今朝は自分が起きるまで食事を待っていた家族に申し訳ない気持ちだ。



「すいません……ちょっと夢見が悪くて明け方迄眠れなかったんです」



 嘘ではない。微妙に違うかも知れないが転生だのゲームだの言う事もない。家族に謝りつつ席についた。
 食卓は全員が揃ったところでタイミングよく使用人達が給仕をしていく。改めてわたしはその気配りに感心していた。今迄気がつかなかったけど凄いなぁ。接待の時にこれ位気配りできたら商談も上手く行きそう。
 なんて事を考えていたらその思考を優しい声が遮った。


「クルーディス、夢見が悪かったって、一体どんな夢を見たの?」
「え……っと、ですねぇ……」



 うわっ、突っ込まれると思ってなかった!どうしよう、何て言おう……。


「どういう夢だ?母上に怒られる夢か?」
「父上……それはないです……」
 にやにやと向けられた顔に呆れた様に答えた。
「なんだ、違うのか」
「じゃあ、お兄様の悪い夢ってなんですの?」
「うーん、漠然としててよく覚えていないんだよね」


 本当の事は言えないので困った様な笑顔を向けてごめんね、とごまかしてみたがみんなあまり納得はしていない様だ。
 まぁ、仕方がない。食事も始まり気持ちも切り替わったところで、聞きたかったことを聞いてみよう。


「そういえば、父上と母上に聞きたい事があるんです」
「ん?なんだ?」
「先日、町に出掛けた時に小耳に挟んで気になったんですが、子供が我が儘になる理由って何だと思いますか?」


 案の定、みんなきょとんとした顔になる。でもこれは想定内。


「道端で何人か集まって話している声を聞いたんです。ある人の子供が他の子にを命令したり傷つけたり悪口を言ったり、要は我が儘な子らしいんです。……大人達はその子にいい子になってもらうために何をしたらいいのかを話し合っていたみたいなんです。何だかその話が気になって……」
「ふぅむ……」
「我が儘な子ねぇ……」
「僕は我が儘になった原因の方が気になってしまったんです」



 苦し紛れな理由だが、父上も母上もこんなぼんやりとした質問に答えようと一生懸命考えてくれる。息子の疑問に真摯に向き合ってくれようとしている二人にありがたく思った。なんていい両親なんだろう。
 わたしはアイラヴェント嬢の我が儘なところをどうやって直そうかと考えたが、自分ではその経験が無い為ちょっと難しいと思ったのだ。女性だった時の記憶では反抗期というものを体験はしたけど、小心者なわたしに出来た反抗なんて親に文句を言う位で大した事はしていない。その時の両親もそんなわたしを叱る位で、自分もいつの間にか反抗期を乗り越えた。これは『我が儘』とはまた違う気がするのよね。なので第三者に聞いてみようと両親に質問してみた。
  ほら、客観的な意見って大事じゃない?べっ、別に考えるのが面倒になってしまった訳では……ごにょごにょ。



「その子の御両親はどうなんだ?その子のその状態を知っているのか?」
「……わかりません。そこ迄の話はしていなかったので」
「そうね、御両親が知っているか、知らないかで理由は違うかもしれないわ」



「まず、御両親が知っている場合は御両親も同じ性格なのかもしれないわね」
「えっ!?親も同じ!?」
「御両親を見て育っているからそれが当たり前という方ならそれもあるのではなくて?」
 まじか……そんな理由では性格を何とかなんて親からどーにかしなければならないじゃない!そんな面倒な事はしたくないよ。
 何となく落ち込んでしまったわたしを見て、母上はふふっと笑った。
「それが正しい答えかどうかはわかりませんよ」
「そっ、そうですね」
「後は御両親が知らない場合だな」
 そうだ。そっちはどうなんだろう?父上の意見も聞かなくては。
「御両親が知らない場合は、御両親に気付いて欲しいのかもしれんな」
「気付いて欲しい……?」
「一番に子供の性格や行動を知るのは親だ。その親に自分の存在を認めて欲しいのかもしれん」
「そうね、自分のやってる事に一緒に怒ったり笑ったり、こうやって家族で話をしあったり……そういう時間がその子には無いのかもしれないわね」
「はぁ、なるほど……」
 そうか、親が普段から家にはいないなのかもしれない。その親にわかってもらうために何とか自分のアピールをしているのだとしたら……。
「まだあるわ、使用人達がその子のやる事を全く諫めないなら我が儘も当たり前になってしまうわね」
 おおっ!流石母上!色んな意見が出てきますね!
 色々要因は出てきたな。後はそれぞれの対応策を考えて、本当の原因を調べて、改善策を施行する……って感じかな?


「それで?」
「はい?」
 これからする事を思案していたわたしに父上はにやにやしながら声をかけた。
「それでクルーディスの気になる令嬢の我が儘を何とか出来そうな案はみつかりそうかい?」
 「!?なっ、なんで……」
「親として私達はいつもクルーディスの事を知りたいし知ろうと努力をしているのよ」
 母上までにこにこと見つめてくる。
 なんなのなんなの!?別に令嬢とか言ってないよね!しかも的確に当ててきてますよっ!
 二人とも興味深げにこちらを見る目が気持ちまで見透かしていそう!この二人怖っ!!
「お兄様はどこかの令嬢に懸想しているんですか?」
「えっ、違っ……!」
 トドメに妹が爆弾を落とした。
 ちっがーう!会った事もない子に懸想なんてしないわ!しかも相手は悪役令嬢!……って、あ、画面では会った事あるか。いや、そうじゃなくて!わーん、これは想定外な切り返し!どう答えれば……。
 わたしがしどろもどろになっている姿に三人の目が生暖かく注がれる。とても居たたまれない空気感に何も答える事が出来ないわたしは縮こまってしまった。
「……旦那様、そろそろ登城のお支度をせねばいけないのでは?」
 ナイス執事!グレアム偉い!
「そっ、そうですよっ!早く準備をしてください!王宮に遅刻なんてしたら怒られちゃいますよ!!」
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「むぅ……お前の恋の話が聞きたかったのに……。仕方がないな」
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「父上、そういう話ではありませんので気にせず出仕なさって下さい」
「そうか、どこの令嬢か知りたかったのだがな……まぁよい。ではな」
 父は含みのある笑顔を向けてから部屋を出ていった。
「では僕も調べものがあるので失礼します」
「あらそうなの?もっとあなたのお話を聞きたかったのに……」
「私もお兄様のお話が聞きたいわ!」
「すいません。どうしても勉強でわからないところがあって……では失礼します」
 二人が残念そうにこちらをみていたが、わたしは母と妹に笑顔で答えて逃げる様にその場を去った。








◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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