Bonds〜最強勇者と最強女魔王が異世界からやってきた〜

ひがしの くも

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レナルーラ攻防戦

和平交渉

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アスウィー処刑の翌日

ジーク達一行はレナルーラの会議室に呼ばれていた。
クリスは重苦しい空気に何度も唾をごくりと飲み込んだ。

20人が取り囲める大きな円卓にレナルーラの王、ネルス.レナルーラ14世とその家臣達9名、ウート族長『ギガノーラ』とその護衛が4名。そして私達5名が席に着いていた。

これからレナルーラとウートの今回の戦争についての和平交渉が行われる。
前の戦ではジークの功労もあり、被害は少なく済んだが、子供達を攫われたウート族、数千人の被害を出したレナルーラは共にピリピリとした空気を発していた。

全員が席に着き3分が経過したが、誰も言葉を発しず、ただ重い空気が流れている。
1分1秒が長く感じるほどの重い空気を最初に割ったのはネルス国王だった。

「ウートの民よ。この度は我が家臣の非人道的な行い、誠に申し訳なく思っている」
国王のネルスは軽く頭を下げた。

「ネルス国王よ。今回は幸いにも我がウート族の子供達は全員無事に保護された。しかしお主らレナルーラ国民に対する不信が消えたわけではないぞ」
ギガノーラの重く低い声が響く。

「でしょうな。しかしこちらとて、ウートの襲撃で多くの被害が出ている。何故そなたらは最初から事情を説明しようとしなかったのだ?」

「確かに何も調べずに武力行使に走ったのは悪かったが、奴隷商売などは一商人などではできぬ。必ず国が絡んでおると思ったからの」

「それでもまずは話し合いから入ってみるべきだったのでは?そなたらの行動は被害を無駄に増やしただけだ」

「ふん。子供を攫った者達はこの国の紋章のついた鎧を着ていた。王国直下の兵が絡んでいるのであれば話す余地もないと思った。
ではネルスの国王よ。
お主に問うが、もし多民族や他国に自国の子を大量に攫われたらどうする?
すぐに返すよう説得をしに行くか?それとも怒りに震え軍を向かわせるか?」

「それでも私達なら軍を興すかもしれないが、話し合いから持ちかける。
そなたらは話し合いや交渉をする術、スキルを持っていないだけであろう?
なんでも力に訴えればよいと思っている」

「今回のような蛮行を、民を管理できぬ国王が何を言うか。
そんな悠長なことを言っておるから民に舐められて今回のようなことが起こったのではないのか?」

「貴様!聞いていれば我らが国王に何たる口の聞き方を!」

レナルーラの家臣たちが立ち上がり剣を抜こうとする。
ウート族達も立ち上がり、睨み合いが始まった。

バァーーン!
突如、激しく机を叩く音が響き、全員が一斉に静まった。

音のした方を見ると、ジークが立ち上がっていた。
「ジーク殿、どうなされた?」
ギガノーラがジークに問う。

「くだらねぇ。こんな場にいてもだるいだけだから帰る」
ジークはそのまま会議室の扉の方に歩いていった。

「ジーク殿!何がくだらないというのか?
わしらはあれだけの仕打ちをレナルーラからうけたのだぞ!」
ギガノーラが怒鳴る。

「何を言うか!自分達だけが被害者のように言うが、レナルーラも多大な被害を受けているのだぞ!」
ネルス国王が反論した。

「そのやりとりがくだらないつってんだよ。
どっちも自分達が主導権握ろうと思って、なかなか謝らないし、謝っても自分達が少しでも優位に立ちそうな言い回しをしてさ」

「ジークさんは国交というものを分かっていないんだ。確かに私達に非があったとは思うが、国のメンツというものがあるんだ」
ネルスが怒鳴る。

「あぁ。国交なんて分からないよ。
だけどこんな話合いをして、どっちかに無理矢理謝らせて、どっちが悪かったのか白黒つけて、それで和平を結んだとして、そんな和平条約は上手く機能するのか?
どうせどっちにも遺恨が残って、いつかはまた衝突をする」

「う…それは…」
ジークのまともな意見にネルスは言葉が詰まる。

「ウートもそうだ。
確かに受けた心の傷は大きいかもしれない。
許せない部分もあるかもしれない。
だけどお前達は今回なんの為に戦ったんだ?」

「それは…子供達のためだ」

「そうだろ。
ここでの交渉で遺恨を残して、レナルーラに対する恨みをその子供達に受け継いでゆくのか?
子供達のことを思うのであれば、次世代の子供達がもっと豊かに暮らせるようにレナルーラと交渉した方が得策なんじゃないのか?」

「……」
ジークの言葉にウートの族長は言葉を失う。

「お互いのメンツは大事かもしれない。
けどもっと単純でいいじゃないか。
悪いことに対しては誠心誠意 謝る。
謝ってもらった方も相手の誠意が伝われば許してやる。
そうやって信頼関係を作ってこそ和平には意味があるんじゃないのか?
折り合いだ、落とし所だなんて糞食らえだ」

そう言い放つとジークは会議室から出て行った。


ジークが出て行った後しばらく沈黙の後に国王と族長の話し合いが穏やかに再開された。
2人は真摯に向き合い、話し合いを進めていき、3時間後には和平条約が締結された。

結局のところ、戦から政までジークが上手く収集させたような形となった。

本当にジークは凄いな。
あの人には戦いの強さだけでなく人の心を揺さぶる何かがある。
いつになったら俺はあの人を追い越せるのだろうか?
クリスはジークの背中がとても遠く感じた。
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