Bonds〜最強勇者と最強女魔王が異世界からやってきた〜

ひがしの くも

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レナルーラ攻防戦

自分を信じる心

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アスウィー処刑の夜。
シグルドは1人王宮内広場に立ち、今回の戦を振り返っていた。

私は1人で突っ走っていただけで、何も出来なかった。
ウート族の動きを予測して作戦を立てては全てハズレ。
事情を詳しく調べもせずに、ウート族を悪と決めつけてしまった。
そしてジークと戦っても手も足も出なかった。

1人で自分を『勇者』だと騒ぎ立てておいて何も役に立てないなんて…。
恥ずかしさ、惨めさ、情けなさ、色んな感情が吹き出してくる。

このまま誰にも告げずにレナルーラを後にしようかしら……。

「こんなところで1人でなにやってんだ?」
背後から声がし振り返ると、そこにはジークが立っていた。

「ジーク!……なんだ?私を笑いにきたのか?」

「違うよ。シグルドに謝っておかないといけないと思ってな」

「謝る?一体何を」

「今回はシグルドと戦い、俺が勝つところまで全てが俺の計画通りだった。レナルーラとウートを助けるためとはいえ、お前を傷つけてしまった」

「情けのつもりか!!?ふざけるな!
どうせ心の中では私を嘲っているのだろう?
自分を勇者、勇者と騒ぎ立てておいて、私はこの戦いを何も理解していなかった。何一つ出来なかった。何の役にも立てなかった…」

「何言ってるんだ?今回の戦で被害を最小限に抑えられたのはシグルド、お前のおかげなんだよ。」

「え……?どういうこと?」

「俺はな、シグルド達と別れたあとすぐにウート族を探した。そして襲撃の理由を教えてもらい、手を貸したいと伝えた。
しかしウート族は俺の事を信じてはくれなかった。レナルーラのスパイかもしれないからな。
だから俺は族長に一つ提案をしたんだ」

「提案?」

「あぁ。もしレナルーラが俺の思った通りの戦略で動いてきたら、俺のことを信じて欲しいとな。
本当ならば、ウート族はシグルドの読み通りの戦略を取る予定だった。
急に日数の間隔を変えることも、襲撃場所のことも。
だがシグルドかクリスならばその戦略を読み、対策を取ってくると思ってた。
だから俺はウート族に言ったんだ。
次のその作戦は1回先延ばしにして欲しいと。
きっとレナルーラはウートの作戦に気付いて、明日にでも兵を増兵し、今まで襲撃を受けた関所の強化を図ると。
もし俺の読みが間違っていたら、その時は俺のことは信用せずに、次回にその作戦をとればいいと」

「そして私は、ジークの思った通りに動いた…。」

「あぁ。おかげで俺はウート族の信頼を得ることができた。
そこで俺は抜け穴を作る作戦を提案したんだ。シグルドが前線に兵を集めてくれたから、内部の護りは薄くなる。
そうすることで極力戦いを減らして、被害を抑えることができるからな」

「被害を抑える?」

「そうだ。レナルーラの騎士達はウート族の襲撃の理由を知らなかった。何も悪くはない。極力傷つけたくなかったんだ」

こいつ、そんなことまで考えていたのか…。

「あとはレナルーラにウートの襲撃の真意を伝えればよかったんだが、その為には王宮でシグルドと戦う必要があったんだ」

「私と…?何故?そんなのすぐにでもレナルーラの騎士達に話せば、もっと早くに戦いは収まったのでは?」

「レナルーラも今までの襲撃にかなりの被害が出てる。いきなりそんな理由をつきつけられても引き下がりはしないだろうし、きっと信じてなんてもらえない。
そもそもそんな話をするなら、前線の一般兵に話してもほとんど意味がない。話すならばある程の地位のある者でなければならない。」

「確かに…。戦いの前線で一般兵達に理由を話しても何も変わらないだろうな。
前線の兵には決定権など皆無に等しい。
もしウート族のその話を信じて、話合いをしようと王宮に連れて行ったとして、そこでウートが暴れ始めたら責任など取れないからな」

「そうだ。だから俺たちはまず王宮に向かったんだ。必ずそれなりの地位の者がいるはずだからな。
その後の俺とシグルドの戦いには大きな意味があった。
まずは俺とシグルドが桁外れに強いということを見せつける。
その上でシグルドには悪いが、俺の方が圧倒的に強いと見せつけた。
俺1人いればウート族を勝利に導くことができると思わせることで、レナルーラは俺たちの話を聞きやすくなる」

「そうか。ウート族が不利な状況で理由を話しても、言い訳だと思われ受け入れてもらえない。
ウートの襲撃理由はウート族が優位と思わせてから話してこそ、その信憑性が増すと考えたのか」

「あぁ。」

「だがもし私が勝っていたらどうしたんだ?」

「その時はマオちゃんが何とかしてくれたさ、先に王宮に潜入して証拠を探してくれていたからな。
もしシグルドが勝っていても、その証拠を見れば必ずウート族を信じて動いてくれると思ってた」

「私のことまで信じていたのか?
お前に刃を向けた私を」

「まだ出会って間もないけど、曲がったことは許せない性格だっていうのは分かってるからな」

ジークは私をみてニコリと笑った。
私は不覚にもドキっとしてしまった。

「そんなに先のことまで考えてたとはな……。クリスとリガンが信用するわけだ」

「クリスとリガン?」

「あぁ。あの2人な、ジークがウート族と現れた瞬間に、ジークがウート族を信じるなら、自分達もウート族を信じると言って、ウート族の襲撃の理由も分からずに寝返ったんだ」

「はははは!あいつらが?」

「驚いたよ。ジークには悪いけど、ジークなんかの何を信用しているのか、私には分からなかった。でも今なら少し分かる気がするよ」

「シグルド。
今回のことで分かっただろ?
困ってる人を助けることが必ずしも正しいことではないんだ」

ジークのその言葉は私の胸に刺さるように響いた。

「例えば、シグルドはウート族の街で金を返済出来なくて借金取りに襲われてる人を助けてた。
だけど、そもそもは借りておきながら返さない方が悪いとも取れる。
もし貸した側がその日に返して貰えなければ自分の生活が危ないとしたら?」

「………」
返す言葉が見当たらない。

「返せない方も困ってる。返して貰えない方も困ってる。
結局のところ困ってる人を全て助けるってことは矛盾の嵐だ」

「確かにそうかもな。
じゃあ、ジークはお互いに困ってる人を見つけたらどっちを助けるんだ?」

「あ?俺はめんどくさいからどっちも助けない。何もしないのが一番だよー」
ジークはふざけた顔をしながら言った。

「この……!からかってるのか!!?」

「ただ………どうしても助けなきゃいけない時は俺が正しいと思った方を助けるだけだ」
ジークは急に真顔に戻り答えた。
迷いのない真っ直ぐな瞳にシグルドはまたもドキっとした。

「自分が正しいと思った方…か。単純でいいな」

「だろ。俺はめんどくさがりだからな。何事も単純がいいんだ。だけど自分が正しいと思えるために必ず両方の事情を知るように努力する。その後で自分が正しいと思える選択をするんだ」

怠け者でダラけて見えるが、芯はしっかりとしているんだな。
シグルドはジークの横顔をぽーっとしながら眺めていた。
その時

「ジークさーーん!」
遠くから誰かがジークを呼ぶ声がした。
ジークと一緒に戦っていたウート族の戦士達だ。
明日に今回の件での和平交渉が行われるため、ウート族の族長と戦士達が何人か王宮に泊まっていた。

「ジークさんの言う通り、王宮の女性浴場を覗ける場所がありました!!さぁ一緒に行きましょう!……あれ?この方は確か……シグルドさん…」

ウート族の戦士は私に気づき、しまった!という顔をした。

「おい!ジーク。女性浴場とはどういうことだ??」

「あ…。いや…。激しい戦いだったから、戦士達にも癒しが必要かとおもって…」

「それがお前が正しいと思って決めたことなのか…?」

「え…。あ…。まぁ」

「なら私も正しいと思う方の味方をするぞ!!!」

私は拳を握りしめ、全魔力をその拳に込めた。

「このドスケベがーーーぁー」

私のパンチはジークの顔面に突き刺さり、窓を突き破って、ジークはレナルーラの寒空へと消えていった。
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