Bonds〜最強勇者と最強女魔王が異世界からやってきた〜

ひがしの くも

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大武闘祭編

決勝戦 大武闘祭終了

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リガンが負けた……。

自分とほぼ互角の実力を持つリガンの敗北にクリスはショックを受けていた。

決勝でのリガンとの戦いを本当に楽しみにしていた。

……楽しみにしていたのはリガンもきっと一緒だ。
誰よりも純粋なリガンのことだ、約束を果たせなかったと、自分を責めるに違いない。

リガンの為にも私が優勝するんだ。

リガンの準決勝が終わり、すぐに決勝が始まった。

本来ならば20分のインターバルが入る予定だったのだが、ナタクが休憩など必要ないからすぐに決勝を始めろとせがんだのだ。

審判団が私のところに、休憩が必要かを問いかけてきた。
私はナタクがそういうなら受けても良いと了承の返事をし、すぐに決勝が行われることになったのだ。

武舞台に上がると、試合前なのにナタクは既に肩で息をしていた。

インターバルを必要ないと言ったのに…
いや。
こんな状態だからこそ必要ないのか。
さっきの戦いでナタクもかなりのダメージを受けている。

試合中にアドレナリンの興奮作用で多少痛みが紛れているのだ。
おそらく20分の休憩に入れば気持ちが途切れ、痛みが全身を襲う。
そうなればきっともう立ち上がることすら出来ないと思ったのだろう。  

そこまで勝ちに拘るとは、この人もやはり立派な武人なのだな。
とクリスは少し関心をした。

武舞台の中央に立ち、お互いに構えを取る。

「決勝戦はじめーー!」
審判の掛け声が会場に響いた。

クリスもナタクも一歩も動かない、静かな立ち上がりとなった。

クリスとしては、ナタクがどれ程のダメージを抱えているのかを確認しておきたかった。

不用意に飛び込むと何が起こるかわからないと、今までの試合で痛感していたのだ。

しばらく睨み合いが続くと、ナタクから仕掛けてきた。

ナタクは素早く、キレのある動きを見せた。
リガンの攻撃で使えなくなった筈の右手まで使って猛攻を仕掛けてくる。

しかし明らかに動きは衰えている。
避けられない動きではない。

ナタクの攻撃はことごとく空を切る。
ナタクの攻撃は準決勝までとは違い、かなり雑な動きで隙は見えるのに、クリスは攻めあぐんでいた。

気迫が準決勝までとは桁違いだ。
まるで手負いの獣を相手にしているようなプレッシャーをクリスは感じていた。

一撃で決めないと、何が返ってくるか分からない。そんな不安がクリスの攻撃を躊躇させていた。

ナタクの攻撃はどんどんと激しさを増して行く。

しかし次の瞬間。
ナタクが怪我をした右拳でパンチを繰り出したその瞬間。

ナタクの動きがピクリと止まった。

「そんな……バカな……!!あの……くそガキ……が…」

ナタクは突如口から血を吐き出し、その場に倒れた。

ナタクはそのまま立ち上がることは出来ず気絶した。

会場の観客達も審判も何が起こったのか分からず、シーンと静まり返っていた。

しかしナタクが気絶している以上は試合続行は不可能だ。
審判は戸惑いながらもクリスの勝ち名乗りをあげた。

前代未聞。
一撃も攻撃を入れることなく決勝が終わってしまったのだ。




優勝者の表彰式が終わり、クリスはすぐに選手用の医務室に向かった。

リガンはダメージこそ深いが、意識を取り戻していた。

「リガンっ!!」

「クリ…ス。
やったね…。優勝したんだって…?
やっぱりクリスは凄いや……」

「何を言ってるんだ!!
俺は何もしていない!お前との戦いで受けたダメージでナタクは倒れたんだ。
あんなの俺の勝ちじゃない!」

「その通りだ」

背後から声がしたので振り返ると、ナタクが同じ寺の人に支えられながら立っていた。

「俺は試合には勝ったが、勝負に負けていたのだ。お前の水如全拳によって」

「水如…全拳?」

「なに?狙ったんじゃないのか?
知らずにあんな大技を使っていたのか?」

「僕はただあと1撃しか放てないなら、全魔力を拳に集中してねじり込んでやろうとしか考えてなくて…」

「そうか!!
水如全拳は気の力をコントロールして、気を相手の体内に流し込んで、内臓にダメージを与える技。
あの時のリガンの最後の一撃に込めた魔力がナタクに流れ込んで、水如全拳と同じ効果が起こったのか!?」

「ふっ。本当に知らずに使ってたとはな。恐れ入った」

「それにしても…ナタク、あんたさっきまでと少しキャラ違くないか?
もっと嫌な奴かと思ってたけど」

リガンが率直に聞く。
実は私もそう思っていた。
試合の時の猛々しさはなく、今はただの穏やかな青年だ。

「お前達のせいだよ。
俺は今まで負けたことなんかなかった。
ましてや接戦なんかもしたことなくて、常に圧勝で勝ち続けてきた。
戦いなんて勝って当たり前。くだらなく、つまらないものだと思ってきたし、弱者の気持ちなど微塵も分からなかった。
だけど、そのチビと戦って、ギリギリの戦いの中で俺はどうすれば勝てるかを常に考え、その結果なんとか勝利をして、初めて心から勝てて嬉しいと思えた。
そして、決勝で敗れ、初めてこんなにも悔しいと思えたんだ」

「ナタク……」
ナタクの言葉を聞いて、リガンがふっと笑った。

「リガンとか言ったな。次は圧勝で勝ってやるからな。
あとクリス。お前には試合結果は負けたが、あんなのは戦ったうちに入らない!!
また今度再戦をしてくれ」

「望むところだ」

リガンのベッドの上で3人は拳を合わせた。
こうしてダンレンの大武闘祭は幕を閉じたのであった。
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