89 / 117
大武闘祭編
決勝戦 大武闘祭終了
しおりを挟む
リガンが負けた……。
自分とほぼ互角の実力を持つリガンの敗北にクリスはショックを受けていた。
決勝でのリガンとの戦いを本当に楽しみにしていた。
……楽しみにしていたのはリガンもきっと一緒だ。
誰よりも純粋なリガンのことだ、約束を果たせなかったと、自分を責めるに違いない。
リガンの為にも私が優勝するんだ。
リガンの準決勝が終わり、すぐに決勝が始まった。
本来ならば20分のインターバルが入る予定だったのだが、ナタクが休憩など必要ないからすぐに決勝を始めろとせがんだのだ。
審判団が私のところに、休憩が必要かを問いかけてきた。
私はナタクがそういうなら受けても良いと了承の返事をし、すぐに決勝が行われることになったのだ。
武舞台に上がると、試合前なのにナタクは既に肩で息をしていた。
インターバルを必要ないと言ったのに…
いや。
こんな状態だからこそ必要ないのか。
さっきの戦いでナタクもかなりのダメージを受けている。
試合中にアドレナリンの興奮作用で多少痛みが紛れているのだ。
おそらく20分の休憩に入れば気持ちが途切れ、痛みが全身を襲う。
そうなればきっともう立ち上がることすら出来ないと思ったのだろう。
そこまで勝ちに拘るとは、この人もやはり立派な武人なのだな。
とクリスは少し関心をした。
武舞台の中央に立ち、お互いに構えを取る。
「決勝戦はじめーー!」
審判の掛け声が会場に響いた。
クリスもナタクも一歩も動かない、静かな立ち上がりとなった。
クリスとしては、ナタクがどれ程のダメージを抱えているのかを確認しておきたかった。
不用意に飛び込むと何が起こるかわからないと、今までの試合で痛感していたのだ。
しばらく睨み合いが続くと、ナタクから仕掛けてきた。
ナタクは素早く、キレのある動きを見せた。
リガンの攻撃で使えなくなった筈の右手まで使って猛攻を仕掛けてくる。
しかし明らかに動きは衰えている。
避けられない動きではない。
ナタクの攻撃はことごとく空を切る。
ナタクの攻撃は準決勝までとは違い、かなり雑な動きで隙は見えるのに、クリスは攻めあぐんでいた。
気迫が準決勝までとは桁違いだ。
まるで手負いの獣を相手にしているようなプレッシャーをクリスは感じていた。
一撃で決めないと、何が返ってくるか分からない。そんな不安がクリスの攻撃を躊躇させていた。
ナタクの攻撃はどんどんと激しさを増して行く。
しかし次の瞬間。
ナタクが怪我をした右拳でパンチを繰り出したその瞬間。
ナタクの動きがピクリと止まった。
「そんな……バカな……!!あの……くそガキ……が…」
ナタクは突如口から血を吐き出し、その場に倒れた。
ナタクはそのまま立ち上がることは出来ず気絶した。
会場の観客達も審判も何が起こったのか分からず、シーンと静まり返っていた。
しかしナタクが気絶している以上は試合続行は不可能だ。
審判は戸惑いながらもクリスの勝ち名乗りをあげた。
前代未聞。
一撃も攻撃を入れることなく決勝が終わってしまったのだ。
優勝者の表彰式が終わり、クリスはすぐに選手用の医務室に向かった。
リガンはダメージこそ深いが、意識を取り戻していた。
「リガンっ!!」
「クリ…ス。
やったね…。優勝したんだって…?
やっぱりクリスは凄いや……」
「何を言ってるんだ!!
俺は何もしていない!お前との戦いで受けたダメージでナタクは倒れたんだ。
あんなの俺の勝ちじゃない!」
「その通りだ」
背後から声がしたので振り返ると、ナタクが同じ寺の人に支えられながら立っていた。
「俺は試合には勝ったが、勝負に負けていたのだ。お前の水如全拳によって」
「水如…全拳?」
「なに?狙ったんじゃないのか?
知らずにあんな大技を使っていたのか?」
「僕はただあと1撃しか放てないなら、全魔力を拳に集中してねじり込んでやろうとしか考えてなくて…」
「そうか!!
水如全拳は気の力をコントロールして、気を相手の体内に流し込んで、内臓にダメージを与える技。
あの時のリガンの最後の一撃に込めた魔力がナタクに流れ込んで、水如全拳と同じ効果が起こったのか!?」
「ふっ。本当に知らずに使ってたとはな。恐れ入った」
「それにしても…ナタク、あんたさっきまでと少しキャラ違くないか?
もっと嫌な奴かと思ってたけど」
リガンが率直に聞く。
実は私もそう思っていた。
試合の時の猛々しさはなく、今はただの穏やかな青年だ。
「お前達のせいだよ。
俺は今まで負けたことなんかなかった。
ましてや接戦なんかもしたことなくて、常に圧勝で勝ち続けてきた。
戦いなんて勝って当たり前。くだらなく、つまらないものだと思ってきたし、弱者の気持ちなど微塵も分からなかった。
だけど、そのチビと戦って、ギリギリの戦いの中で俺はどうすれば勝てるかを常に考え、その結果なんとか勝利をして、初めて心から勝てて嬉しいと思えた。
そして、決勝で敗れ、初めてこんなにも悔しいと思えたんだ」
「ナタク……」
ナタクの言葉を聞いて、リガンがふっと笑った。
「リガンとか言ったな。次は圧勝で勝ってやるからな。
あとクリス。お前には試合結果は負けたが、あんなのは戦ったうちに入らない!!
また今度再戦をしてくれ」
「望むところだ」
リガンのベッドの上で3人は拳を合わせた。
こうしてダンレンの大武闘祭は幕を閉じたのであった。
自分とほぼ互角の実力を持つリガンの敗北にクリスはショックを受けていた。
決勝でのリガンとの戦いを本当に楽しみにしていた。
……楽しみにしていたのはリガンもきっと一緒だ。
誰よりも純粋なリガンのことだ、約束を果たせなかったと、自分を責めるに違いない。
リガンの為にも私が優勝するんだ。
リガンの準決勝が終わり、すぐに決勝が始まった。
本来ならば20分のインターバルが入る予定だったのだが、ナタクが休憩など必要ないからすぐに決勝を始めろとせがんだのだ。
審判団が私のところに、休憩が必要かを問いかけてきた。
私はナタクがそういうなら受けても良いと了承の返事をし、すぐに決勝が行われることになったのだ。
武舞台に上がると、試合前なのにナタクは既に肩で息をしていた。
インターバルを必要ないと言ったのに…
いや。
こんな状態だからこそ必要ないのか。
さっきの戦いでナタクもかなりのダメージを受けている。
試合中にアドレナリンの興奮作用で多少痛みが紛れているのだ。
おそらく20分の休憩に入れば気持ちが途切れ、痛みが全身を襲う。
そうなればきっともう立ち上がることすら出来ないと思ったのだろう。
そこまで勝ちに拘るとは、この人もやはり立派な武人なのだな。
とクリスは少し関心をした。
武舞台の中央に立ち、お互いに構えを取る。
「決勝戦はじめーー!」
審判の掛け声が会場に響いた。
クリスもナタクも一歩も動かない、静かな立ち上がりとなった。
クリスとしては、ナタクがどれ程のダメージを抱えているのかを確認しておきたかった。
不用意に飛び込むと何が起こるかわからないと、今までの試合で痛感していたのだ。
しばらく睨み合いが続くと、ナタクから仕掛けてきた。
ナタクは素早く、キレのある動きを見せた。
リガンの攻撃で使えなくなった筈の右手まで使って猛攻を仕掛けてくる。
しかし明らかに動きは衰えている。
避けられない動きではない。
ナタクの攻撃はことごとく空を切る。
ナタクの攻撃は準決勝までとは違い、かなり雑な動きで隙は見えるのに、クリスは攻めあぐんでいた。
気迫が準決勝までとは桁違いだ。
まるで手負いの獣を相手にしているようなプレッシャーをクリスは感じていた。
一撃で決めないと、何が返ってくるか分からない。そんな不安がクリスの攻撃を躊躇させていた。
ナタクの攻撃はどんどんと激しさを増して行く。
しかし次の瞬間。
ナタクが怪我をした右拳でパンチを繰り出したその瞬間。
ナタクの動きがピクリと止まった。
「そんな……バカな……!!あの……くそガキ……が…」
ナタクは突如口から血を吐き出し、その場に倒れた。
ナタクはそのまま立ち上がることは出来ず気絶した。
会場の観客達も審判も何が起こったのか分からず、シーンと静まり返っていた。
しかしナタクが気絶している以上は試合続行は不可能だ。
審判は戸惑いながらもクリスの勝ち名乗りをあげた。
前代未聞。
一撃も攻撃を入れることなく決勝が終わってしまったのだ。
優勝者の表彰式が終わり、クリスはすぐに選手用の医務室に向かった。
リガンはダメージこそ深いが、意識を取り戻していた。
「リガンっ!!」
「クリ…ス。
やったね…。優勝したんだって…?
やっぱりクリスは凄いや……」
「何を言ってるんだ!!
俺は何もしていない!お前との戦いで受けたダメージでナタクは倒れたんだ。
あんなの俺の勝ちじゃない!」
「その通りだ」
背後から声がしたので振り返ると、ナタクが同じ寺の人に支えられながら立っていた。
「俺は試合には勝ったが、勝負に負けていたのだ。お前の水如全拳によって」
「水如…全拳?」
「なに?狙ったんじゃないのか?
知らずにあんな大技を使っていたのか?」
「僕はただあと1撃しか放てないなら、全魔力を拳に集中してねじり込んでやろうとしか考えてなくて…」
「そうか!!
水如全拳は気の力をコントロールして、気を相手の体内に流し込んで、内臓にダメージを与える技。
あの時のリガンの最後の一撃に込めた魔力がナタクに流れ込んで、水如全拳と同じ効果が起こったのか!?」
「ふっ。本当に知らずに使ってたとはな。恐れ入った」
「それにしても…ナタク、あんたさっきまでと少しキャラ違くないか?
もっと嫌な奴かと思ってたけど」
リガンが率直に聞く。
実は私もそう思っていた。
試合の時の猛々しさはなく、今はただの穏やかな青年だ。
「お前達のせいだよ。
俺は今まで負けたことなんかなかった。
ましてや接戦なんかもしたことなくて、常に圧勝で勝ち続けてきた。
戦いなんて勝って当たり前。くだらなく、つまらないものだと思ってきたし、弱者の気持ちなど微塵も分からなかった。
だけど、そのチビと戦って、ギリギリの戦いの中で俺はどうすれば勝てるかを常に考え、その結果なんとか勝利をして、初めて心から勝てて嬉しいと思えた。
そして、決勝で敗れ、初めてこんなにも悔しいと思えたんだ」
「ナタク……」
ナタクの言葉を聞いて、リガンがふっと笑った。
「リガンとか言ったな。次は圧勝で勝ってやるからな。
あとクリス。お前には試合結果は負けたが、あんなのは戦ったうちに入らない!!
また今度再戦をしてくれ」
「望むところだ」
リガンのベッドの上で3人は拳を合わせた。
こうしてダンレンの大武闘祭は幕を閉じたのであった。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隣国から有能なやつが次から次へと追放されてくるせいで気づいたらうちの国が大国になっていた件
さそり
ファンタジー
カーマ王国の王太子であるアルス・カーマインは父親である王が亡くなったため、大して興味のない玉座に就くことになる。
これまでと変わらず、ただ国が存続することだけを願うアルスだったが、なぜか周辺国から次々と有能な人材がやってきてしまう。
その結果、カーマ王国はアルスの意思に反して、大国への道を歩んでいくことになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる