Bonds〜最強勇者と最強女魔王が異世界からやってきた〜

ひがしの くも

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リガンの大冒険

初勝利

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「いたたたたっ」
かなり上空から落ちたが、木々がクッションとなってくれ、ダメージは少なくて済んだ。

それにしてもここはどの辺りだろうか。
ジークさん達とはすっかり逸れてしまった。
トゥランの恐ろしいモンスター達の中を1人で進めるか、リガンは不安に思った。

下山して船に戻って待ってようかな…。
いや。ダメだ。
僕は強くなったんだ。
ここで逃げたらいつまでも前に進めないような気がした。

とりあえずはジーク達を探しながら、少しずつ山を登っていこう。

リガンは少し怯えながらも、前へ進む決意をした。

しばらく歩いてるいると、「きゃーーっん」という女性の悲鳴が聞こえてきた。

その声のする方に駆けつけてみると、女性の獣人が昆虫モンスターに襲われていた。

昆虫モンスターは体長1メートル程のカマキリ型。『死神の鎌』の異名を持つ、デスリッパーという中級モンスターだ。

襲われている女性は、ブォルフ族というリカント族のモンスターだ。

ブォルフはスリムな体型の者が多く、スピードに優れたモンスター。
リッパーと同じく中級のモンスターに位置付けられてはいるが、デスリッパーは中級モンスターの中でも上級に近く、ブォルフ族はどちらかというと下級モンスターに近い。

普通だったら戦っても勝ち目は少ないだろう。

女性の獣人はそれに気付いているのか、得意の素早さを活かして、隙をついてその場を逃げようとするが、デスリッパーは生粋の捕食者。

狙いを定めた獲物をなかなか逃さない。
相手の先を常に読み、逃げ道へ先回りしている。

このままじゃいつかあの女性はやられる。

でも相手は中級モンスターの中でもかなり危険な奴だ。
僕なんかが行って役に立つのだろうか…

いや!
考えてる場合じゃない!

リガンは飛び出していって、女性獣人の横へ立ち、薙刀をデスリッパーへ向けた。

「ここは僕が相手をしますから隙を見つけて逃げてください」

「え!?貴方はいったい?」

いきなりの救援に女性は目を丸くさせて驚いている。

この女性……よく見るととても可愛い。
狼型のキリッとした顔立ち、スリムな体型。
頭の上にある耳は、少し小さめ。
完璧にリガンのタイプだった。

「通りすがりの旅人です」
リガンは少しカッコつけて言った。

「貴方、よく見たらベビーリカントじゃない。
ヴォルフの私ですら勝ち目のない相手なのに、リカント最弱の種族があんなモンスター相手に出来る訳ないでしょ!」

そんな会話の途中でデスリッパーは女性獣人に襲いかかった。

くっ。あくまで狙いは変えないか。

リガンは女性獣人の前へ立ち、薙刀でリッパーの鎌を受ける。

「はぁーーっ!」
受け止めた薙刀を振り、リッパーを後ろに押し戻した。

リッパーの体勢が整う前に、すぐに間合いを詰める。リッパーは体勢が整ってないが咄嗟に手の鎌を振るう。

見える!
マオさんの動きに比べたらスローモーションのようだ。

リガンはデスリッパーの鎌での素早い切り裂き攻撃を全て薙刀の刃の部分で受け止めてゆく。

ユウナさんをジャカンへ送った時に、久々に聖天衆に会いに行った。その時に聖天衆の人達が槍よりも僕によく合っていると言ってくれたこの薙刀という武器はとても使い勝手が良かった。

リガンは薙刀を巧みに使いこなし、攻撃に転じて少しずつデスリッパーを追い詰めていった。

リガンの猛攻に焦りと憤りを感じたデスリッパーは一撃で仕留めようと、鎌を横に大振りをした。
が、リガンはその攻撃をジャンプして避ける。

「はぁーーっ!」
ジャンプからの落下の勢いをつけ、薙刀の刃の峰をデスリッパーの頭に叩きつけると、デスリッパーは気を喪いその場に倒れた。

「はぁ……はぁ…はぁ……」

勝った……のか…?
初めて1人の力で…。

しかも相手は中級モンスター!!
今まで何度も戦いに参加してきた。
その度に何も出来ずにやられてばかりだった。
それが遂に……遂に……!!

リガンはあまりの嬉しさに
「やったーーーっ!」と大声で叫んでいた。
今までの修行の全てが報われた。

ベビーリカントの自分でも努力すればどんなモンスターにでも勝てるようになるんだと実感出来た。
自分の夢への道が朧げながら見えてきた気がした。

喜んでいる僕の方へ女性獣人が歩いてきた。
「驚いた。貴方ベビーリカントなのになんでそんなに強いのよ!」
女性獣人は未だに目の前で起こった、あり得ない結果に目をぱちくりさせていた。

初勝利の嬉しさで女性のことをすっかり忘れていた。
リガンは慌てて凛々しい顔を作った。

「僕は最強のモンスターを目指して日々修行をしてますから」

「ベビーリカントが最強のモンスターを?!
……普通だったら笑い飛ばす所だけど、貴方の今の常識外れの強さを見ると、笑えないわね。
私の名前はリリー。助けてくれてありがとう」

リリーはリガンに向けてにっこりと笑った。

可愛い!!
リガンは必死に凛々しい表情をしようとするが、鼻の下が伸びるのを抑えることができなかった。

「僕はリガン。大型の魔晶石を探しにこのトゥラン山に来ました。
リリーさんは何故ここに?
トゥランにもヴォルフの生活してる場所があるんですか?」

「いいえ。流石にブォルフ族のリカントはここには暮らしていないわ。
こんな凶暴なモンスターの巣窟に住めるリカントはリカント族でも最強と言われるアレフ族だけ…。
私はそのアレフ族の族長にお願いがあってきたの」

「お願い?」

「えぇ。私達ブォルフ族はいま、謎の疫病に冒されていて、このままだと数年もしないうちに絶滅してしまうの。
だけど、リカント族最強と言われるアレフ族の族長の血には全てのリカント族の病を治す力が宿っていると言われているの。
だから私はその族長から血を分けて貰えるようお願いをしにきたの。」

リリーさんの表情からは悲しみと苦しみがヒシヒシと伝わってきた。
その疫病でかなりの仲間が亡くなったのだろう。

「そんなことが起きてたんですね。
僕も同じリカント族です。是非手伝わせてください」

リガンはすっと手を差し出した。

「え?!
でも……いいんですか?」

「はい」

アレフ族の集落はトゥラン山の標高3500メートル程の場所にあるという。
山を登るという目的に変わりはないので、僕はリリーさんの手伝いをする決心をした。
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