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3.音楽室の亡霊
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鏡を壊したことで一つの呪いは解けたのだろうか。とはいえ、外に出られない状況に変わりはない。奈緒は一息つき、少年の顔を見つめた。
「まず、ちゃんと自己紹介しようか。私は奈緒。君は?」
少年は一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに口を開いた。
「僕はケンジ。」
「ケンジくんね。よろしく。」
奈緒は微笑んだが、彼が「囚われている」という言葉が引っかかっていた。
「さっき言ってた他の七不思議について教えてくれる?」
奈緒が問いかけると、ケンジはうつむき加減でゆっくりと頷いた。
「次に行く場所は、音楽室だよ。そこには…『音楽室の亡霊』がいるんだ。」
「亡霊…?」
奈緒はその言葉に、再び背筋が冷たくなるのを感じた。音楽室という響きだけで、何か薄暗い不気味な光景が頭に浮かんでくる。
「昔、この学校で音楽の授業をしていた先生がいたんだ。でも、その先生はある日突然、事故で亡くなっちゃって、それ以来、夜になると音楽室からピアノの音が聞こえてくるって…。」
ケンジは淡々と語ったが、その内容は不気味で、まさに「七不思議」に相応しい話だった。
奈緒はその話を聞いても動揺せず、覚悟を決めて次の場所へと向かうことにした。
「じゃあ、行ってみようか。音楽室はどこ?」
「この廊下を進んで、突き当たりの階段を上がったところだよ。」
ケンジが指差した方向を見て、奈緒は頷き、彼と共に廊下を進んだ。
古い木造の校舎を歩いていくと、足音が軋む音が響き渡る。照明のない廊下は薄暗く、外からの僅かな光が差し込んでいるだけだ。奈緒は心の中で「怖がっても仕方ない」と自分に言い聞かせながら進んでいった。
やがて、二人は音楽室の前にたどり着いた。古びたドアの前に立つと、奈緒は息を飲んだ。ケンジも何かを感じ取っているのか、緊張した表情でドアを見つめていた。
「ここが…音楽室。」
奈緒はそう呟きながら、ドアノブに手をかけた。ゆっくりと扉を押し開けると、古いピアノの音が静かに響き渡っていた。
「え…?」
音楽室の中には誰もいない。だが、ピアノの音は確かに聞こえてくる。奈緒はピアノの方に視線を向けた。古びたアップライトピアノが、部屋の奥にぽつんと置かれていた。
「誰かが弾いてるの…?」
そう問いかけた瞬間、ピアノの音がピタリと止んだ。奈緒は身を強張らせたが、ケンジは静かに口を開いた。
「これが二つ目の七不思議、『音楽室の亡霊』だよ。誰かが部屋に入ると、ピアノが勝手に鳴り始めるんだ。でも、誰も弾いてない。亡くなった音楽の先生が、今でもこのピアノを弾いているって噂なんだ。」
ケンジの説明に、奈緒はピアノに近づくのを躊躇した。
その瞬間、ピアノの鍵盤が一人でに動き出し、再び音が鳴り始めた。まるで誰かがそこに座っているかのように、鍵盤が次々と押されていく。
奈緒が立ち尽くしていると、音楽室のピアノが再びゆっくりとメロディを奏で始めた。その音は静かで穏やかだったが、どこか不安を煽るような不気味さがあった。メロディは一定のリズムで続いていくが、突然、間延びした一音を最後に演奏が途切れた。
奈緒はそのメロディに耳を澄ませ、何かを思い出すかのように記憶を探り始めた。「…どこかで聞いたことがある曲…」そう呟き、しばらく考え込んだ後、彼女はその曲が何であるかに気づいた。
「これ…『エリーゼのために』だ。」
奈緒は驚いた。だが、そのメロディが途中で急に止まっていることに気づく。ピアノは再び同じフレーズを繰り返し、途中で止まる。奈緒は無意識にピアノへと歩み寄り、ゆっくりと鍵盤に手を置いた。
「もしかして…引き継げば…?」
奈緒はピアノの椅子に座り、ピアノに手を置くと、途切れた部分からメロディを再び弾き始めた。自然に体が動き、奈緒の指が滑らかに鍵盤の上を滑っていく。
すると――
「パチパチパチ…」
どこからともなく拍手の音が響き、同時にピアノの鍵盤の蓋がばたりと閉じた。驚いた奈緒がピアノの方を見ると、鏡の時と同じように、小さな木片がポトリと転がり落ちてきた。
「また…これって。」
奈緒はその木片を拾い上げ、さっきの木片と見比べた。驚いたことに、二つの木片はまるでパズルのピースのようにぴったりと凹凸がはまり、重なった。奈緒はそれを手のひらでじっと見つめた。
「これ…何かに似てる。」
木片を見つめる奈緒は、目の前で見たことがある模様に気づいた。模様が複雑に絡み合っているが、どうしても記憶の奥にある何かが蘇ってくる。ケンジがそれを見て、静かに尋ねた。
「それ、何か知ってるの?」
奈緒は戸惑いながらも答えた。
「知り合いが…この模様に似たものを作っていたの。だから、これが何かの手がかりになるかもしれない…。」
その瞬間――
奈緒の携帯が突然鳴り響いた。
「理恵!」
奈緒は急いで電話に出た。携帯の向こうから聞こえる理恵の声に、奈緒は安堵しながらも、急いで状況を説明した。
理恵は奈緒の話を聞き、とある人物に連絡を取ることを約束した。
「分かった!今すぐ連絡してみるから、しばらく待ってて!」
理恵は焦った様子で電話を切り、校舎を後にした。
奈緒が電話を切ると、再び校舎内は静寂に包まれた。彼女はケンジと共に次の手を考えながら、ふと窓の外に目を向けた。すると――
屋上の隅に、不気味な影が見えた。それはまるで二人を見下ろすようにじっと佇んでいた。奈緒はその影に一瞬目を奪われたが、ケンジに促されて再び廊下を進んでいった。影は静かに消えていき、廃校舎は再び不気味な静けさに包まれたまま。
次なる不思議が、二人を待ち受けている――。
「まず、ちゃんと自己紹介しようか。私は奈緒。君は?」
少年は一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに口を開いた。
「僕はケンジ。」
「ケンジくんね。よろしく。」
奈緒は微笑んだが、彼が「囚われている」という言葉が引っかかっていた。
「さっき言ってた他の七不思議について教えてくれる?」
奈緒が問いかけると、ケンジはうつむき加減でゆっくりと頷いた。
「次に行く場所は、音楽室だよ。そこには…『音楽室の亡霊』がいるんだ。」
「亡霊…?」
奈緒はその言葉に、再び背筋が冷たくなるのを感じた。音楽室という響きだけで、何か薄暗い不気味な光景が頭に浮かんでくる。
「昔、この学校で音楽の授業をしていた先生がいたんだ。でも、その先生はある日突然、事故で亡くなっちゃって、それ以来、夜になると音楽室からピアノの音が聞こえてくるって…。」
ケンジは淡々と語ったが、その内容は不気味で、まさに「七不思議」に相応しい話だった。
奈緒はその話を聞いても動揺せず、覚悟を決めて次の場所へと向かうことにした。
「じゃあ、行ってみようか。音楽室はどこ?」
「この廊下を進んで、突き当たりの階段を上がったところだよ。」
ケンジが指差した方向を見て、奈緒は頷き、彼と共に廊下を進んだ。
古い木造の校舎を歩いていくと、足音が軋む音が響き渡る。照明のない廊下は薄暗く、外からの僅かな光が差し込んでいるだけだ。奈緒は心の中で「怖がっても仕方ない」と自分に言い聞かせながら進んでいった。
やがて、二人は音楽室の前にたどり着いた。古びたドアの前に立つと、奈緒は息を飲んだ。ケンジも何かを感じ取っているのか、緊張した表情でドアを見つめていた。
「ここが…音楽室。」
奈緒はそう呟きながら、ドアノブに手をかけた。ゆっくりと扉を押し開けると、古いピアノの音が静かに響き渡っていた。
「え…?」
音楽室の中には誰もいない。だが、ピアノの音は確かに聞こえてくる。奈緒はピアノの方に視線を向けた。古びたアップライトピアノが、部屋の奥にぽつんと置かれていた。
「誰かが弾いてるの…?」
そう問いかけた瞬間、ピアノの音がピタリと止んだ。奈緒は身を強張らせたが、ケンジは静かに口を開いた。
「これが二つ目の七不思議、『音楽室の亡霊』だよ。誰かが部屋に入ると、ピアノが勝手に鳴り始めるんだ。でも、誰も弾いてない。亡くなった音楽の先生が、今でもこのピアノを弾いているって噂なんだ。」
ケンジの説明に、奈緒はピアノに近づくのを躊躇した。
その瞬間、ピアノの鍵盤が一人でに動き出し、再び音が鳴り始めた。まるで誰かがそこに座っているかのように、鍵盤が次々と押されていく。
奈緒が立ち尽くしていると、音楽室のピアノが再びゆっくりとメロディを奏で始めた。その音は静かで穏やかだったが、どこか不安を煽るような不気味さがあった。メロディは一定のリズムで続いていくが、突然、間延びした一音を最後に演奏が途切れた。
奈緒はそのメロディに耳を澄ませ、何かを思い出すかのように記憶を探り始めた。「…どこかで聞いたことがある曲…」そう呟き、しばらく考え込んだ後、彼女はその曲が何であるかに気づいた。
「これ…『エリーゼのために』だ。」
奈緒は驚いた。だが、そのメロディが途中で急に止まっていることに気づく。ピアノは再び同じフレーズを繰り返し、途中で止まる。奈緒は無意識にピアノへと歩み寄り、ゆっくりと鍵盤に手を置いた。
「もしかして…引き継げば…?」
奈緒はピアノの椅子に座り、ピアノに手を置くと、途切れた部分からメロディを再び弾き始めた。自然に体が動き、奈緒の指が滑らかに鍵盤の上を滑っていく。
すると――
「パチパチパチ…」
どこからともなく拍手の音が響き、同時にピアノの鍵盤の蓋がばたりと閉じた。驚いた奈緒がピアノの方を見ると、鏡の時と同じように、小さな木片がポトリと転がり落ちてきた。
「また…これって。」
奈緒はその木片を拾い上げ、さっきの木片と見比べた。驚いたことに、二つの木片はまるでパズルのピースのようにぴったりと凹凸がはまり、重なった。奈緒はそれを手のひらでじっと見つめた。
「これ…何かに似てる。」
木片を見つめる奈緒は、目の前で見たことがある模様に気づいた。模様が複雑に絡み合っているが、どうしても記憶の奥にある何かが蘇ってくる。ケンジがそれを見て、静かに尋ねた。
「それ、何か知ってるの?」
奈緒は戸惑いながらも答えた。
「知り合いが…この模様に似たものを作っていたの。だから、これが何かの手がかりになるかもしれない…。」
その瞬間――
奈緒の携帯が突然鳴り響いた。
「理恵!」
奈緒は急いで電話に出た。携帯の向こうから聞こえる理恵の声に、奈緒は安堵しながらも、急いで状況を説明した。
理恵は奈緒の話を聞き、とある人物に連絡を取ることを約束した。
「分かった!今すぐ連絡してみるから、しばらく待ってて!」
理恵は焦った様子で電話を切り、校舎を後にした。
奈緒が電話を切ると、再び校舎内は静寂に包まれた。彼女はケンジと共に次の手を考えながら、ふと窓の外に目を向けた。すると――
屋上の隅に、不気味な影が見えた。それはまるで二人を見下ろすようにじっと佇んでいた。奈緒はその影に一瞬目を奪われたが、ケンジに促されて再び廊下を進んでいった。影は静かに消えていき、廃校舎は再び不気味な静けさに包まれたまま。
次なる不思議が、二人を待ち受けている――。
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