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第5章 悪夢の性活祭

第36話 ラストステージ ブラックボックス②

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「菊池健太を問い詰めたところ判明したのだが、おまえは愛しているはずの茜とも、まだシていないそうではないか。それはなぜだ?」
「お、大きなお世話だよっ!」
「ふん。本当は、茜ともスルことができないのではないか? 所詮おまえは彼女ともできない、ただの臆病者なのだ。愛だの何だの小綺麗な理由をつけて、我々をごまかしているだけだろうが!」
「ち、違う! スルことだけが、愛情なんかじゃないっ!」

 そう。
 茜と楽しく会話したり、手を繋いだり。
 それだけでも十分に愛情は感じているんだ。
 そりゃあ、その時が来たら自然とそうなるかもしれないけど、それは今じゃない。
 それが、俺にとっては当たり前のことだと信じている。
 西園寺には、わからないだろうが。

「たわけたことを言うな! そんな愛など、この世界で聞かぬわっ!」

 西園寺は椅子から立ち上がると、再び指をぱちりと鳴らす。
 とたんに、西園寺の両脇で待機していたゴリラ女子たちが俺に突進してきて、俺の両腕をがっしりと掴んだ。

「なにをするんだ、離せよ!」

 必死に抵抗してみるが、ゴリラ女子の力は強く体がぴくりとも動かない。
 もがいていると、扉が開いて、ひとりの男子が教室に入ってきた。

 それは、制服に着替えた高宮だ。
 その顔は、取り乱していた前ステージの時とは異なり、至極すっきりとした表情で笑みすら浮かべている。

「やあ、また会ったね」
「なんで高宮先輩が、ここに!」
「なんでって……今回はこのステージのスタッフとしてだよ。西園寺も俺も同じ3年C組なんだ」
「スタッフ?」
「本当はスタッフとしてではなく、君に勝って選手として来る予定だったんだけどね」

 高宮は笑みを浮かべながら、足早にベッドに歩み寄る。
 そして眠っている茜の顔を、両手でそっと抱えるようにした。

「なにしてるんだよっ! 茜から離れろっ!」
「君が茜ちゃんとシないと言うのであれば……俺が茜ちゃんとキスをする」
「はあ、それってどういう理屈!?」
「君がスルか、俺がキスをするか。どちらかを君が選ぶのが、このステージのルールなんだ」
「な、なんだってっ!」

 高宮が茜とキスするのは、どうしても許せない。
 だからと言って、ここで茜とスルのは……。
 どうしよう……どうすればいい……。
 顔から汗が滝のように流れ、床にぽたぽたと落ちる。

 
 ふと、俺は顔を上げた。
 そして西園寺を睨みつける。

「俺が……茜とシます」

 西園寺は、驚いた表情を顔に浮かべた。

「ほう。やっと決心したか。おい、放してやれ」

 ゴリラ女子から解放された俺は、落胆の表情を浮かべる高宮を横目に、ふらつきながらベッドの上に乗ると。
 寝ている茜のからだに、覆いかぶさった。
 そしてそのまま、ぴくりとも動かない。

「おい、何をしている! 早くシないか!」

 西園寺の怒声にも、俺は動じない。
 俺は、茜を守るんだ。
 この身を挺してでも、誰にも茜に触れさせないぞ。

「おまえらっ! 青空を星咲から引き剥がせ!」

 命令を受けたゴリラ女子たちが、すさまじい腕力で俺の体をどけようとする。
 だが俺は、ひしと茜を抱きしめて絶対に離さない。
 すると今度は、強烈なパンチの連打を繰り出してきた。

 ドスドスドスドスドスッッッッ!!

 顔や腕、背中に足と至るところに激痛が走る。
 その痛みは並大抵のものではなく、声も上げられない。
 だが、俺はその攻撃をひたすら耐え抜く。

 ドスドスドスドスドスッッッッ!!!!

 そのままどれだけ時間が経っただろう……すでに痛みすら感じなくなり意識が朦朧としたそのとき。
 遠くで西園寺の声が聞こえた。

「……もういい。やめろ」

 とたんに攻撃が、ふっと止む。
 俺がやっとのことで腫れ上がった顔を上げると、西園寺はそこに屹立したまま俺を睨みつけていた。

「青空よ。それがおまえの愛なのか」

 俺はその問いに答えず、なんとか体を起こすと茜を両手で抱え上げる。
 そして足を引きずりながら教室のドアへと向かった。

「いてて……」

 そのまま教室から出ようとしたその時。
 俺の背中に向けて、西園寺がぼそっと言った。

「……どうやら私は、おまえに惚れてしまったようだ」

 いや、聞かなかったことにしよう。
 

 
 茜を抱きかかえたまま、校舎の外に出た。
 真っ青に広がる空は、酷くダメージを受けた俺に元気を降り注いでくれているようだ。
 なぜか自然と、笑みが溢れた。
 
 そう言えば……。
 ラストステージでも禁欲を守った俺は、優勝ってこと?
 いや、違うな。ルールを破ったから失格か。
 まっ、どうでもいいや。
 
 ふと、茜が目を覚ました。

「あれ? どうしたの私!?」
「ちょっと、寝てたんだよ」
「なんで晴人にお姫様抱っこされてるの!? は、恥ずかしいっ!!」
「ご、ごめんごめん」

 俺は、そっと茜を立たせてやった。
 茜は俺の顔を見ると、驚いて目をまんまるにする。

「晴人、めっちゃ顔が腫れてるよ!?」
「いや……たぶん、虫に喰われたんだろ……」
「うそっ。誰にやられたのか教えなさいっ。私がそいつをとっちめてやるからっ!」
「やめておいたほうがいいよ、相手は人間じゃないから」
「へっ?」
「悪魔とゴリラなんだ」

 俺は茜を連れて、校門のほうへとゆっくり歩き出す。

「どこ行くの? みんな体育館で待ってるのに」
「そんなの、もういいさ。それより……」
「それより?」

 ちょこんと首を傾げた茜に、俺はこう答えるのである。

「茜、めっちゃ愛してるぜっ!」
 
 
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