女騎士はぶつかりたい

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女騎士は刺激が足りない

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 女騎士、リルナは自分の実力に納得していなかった。実力が足りないとか、打ち負かせないとか、そういうものではない。寧ろ逆、勝負に飢えていたからだ。思いつくところ自分と所属を同じくする女騎士とはもちろんのこと男性とも剣を交えた。しかしどうも手ごたえを感じることなく打ち勝ってしまった。一対一に限らず事前に作戦を立てて、対二、対三、罠、奇襲、待ち伏せ、様々な試合をした。もちろん重大な怪我はしない範囲で。多少潤いはあったものの、やはり容易く打ち破ってしまった。

 そこでふとよぎった。実際に闘うものならを誰しも思うことだ。もしかすると真剣勝負でないからイマイチだったのか?と。騎士仲間たちもほとほと疲れ半ば呆れていたのかもしれない、面目ないとは思うが、どうしても我慢が出来ず私は文句があるなら勝負だ!と強引に反対を押し切って冒険者へ変わり身した。と言いたいところだが実際には違う。兼任である。

 強い反対にあったため騎士としての籍も残っていて、国が危うければもちろんそちらが優先されるが、何事もない今は自由に動けていた。見張りなどがつくと私が誤って“やって”しまうかもしれないのでそういう類もない。しかしこれはこれで…

「刺激が足りない…」

 手始めに前から気になってうずうずしていた盗賊団に斬り込んでみた。彼らの行いは巧妙かつ、はっきりとはしないが何かしら裏があったのか。謎の圧力で騎士団としても手出しできなかったが、冒険者となってようやく挑むことが出来た。結果は…完全制圧。とりあえず片っ端から棒術で殴った結果総大将らしき人物も倒してしまったらしい。もちろん次第によって使うつもりだった槍も持参していたが勘弁してくれというので勘弁した。やり合う気のない者をやっても仕方がない。

 別段何かの為に仕掛けたわけではない。やりあって感じられるものがあればいいと思ったのだ。結果は、特に歯ごたえはない、ということだった。あとから思えば王国騎士団の技量は盗賊のそれとは違うが正面からならそれを凌ぐ技量だ。実戦じゃ違うと思ったが…うーん、加減が難しかったくらいか?

 そんなわけで私は早々に目標を見失っていた。何でもいい。もっとこう…渡り合えるような、実感を感じられる相手はいないのだろうか?

 他国であるが腕の立つ剣士はいて、実際交流もあったが組み合うことは出来なかった。そして今もそれは叶わないだろう。言ったところで私が変な目で見られるだけだ。直に行っても組み合えないだろう。

「うーん…誰かやりあってくれそうな相手は…」

なだらかな丘に広がる草原から体を起こして立ち上がり、ぐいーっと背を伸ばす。リルナの出で立ちは女騎士のそれで、胸部、腹部背部、そして腰から外に広がる機動性を重視したアーマー。ふわりと靡くブロンドロングヘアと赤地の服に白地のスカートは女性らしさを感じさせる。でも多分彼女を知っているそれは見掛けに過ぎないと思うことだろう。
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