わたし、メリーさん

ントゥンギ

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メリーさん、ついに現る

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 昼下がりの日曜日

 僕はお気に入りのオープンカフェで午後の紅茶とケーキを楽しんでいた。

「ちょっとおぉ!
どうして携帯電話を切ってるのよ」

 突然の声に前を向くと、一人の見知らぬ女の子が憮然とした顔で立っていた。

 亜麻色の腰まで届くツインテールのゴシックロリータファッションに身を包んでいた。

 少し膨らみ上気した頬に薄いピンクの唇を尖らせて、怒っているんだぞ、と控えめに自己主張している、びっくりするほどの美少女。

 残念なことに全く面識がない。
 ゆえになにかの間違いなのだと確信できた。

「なによ、その鳩が豆鉄砲食らったような顔は。
あー、まさか、あなた、わたしが誰だか分かんないの?
もう、失礼しちゃうわね。
わたしよ! メリーさんよ。
声でピンと来なさいよ。本当にもうどんくさいんだから」

 どんくさいと言われてしまった。
 さすがにムッとしたのでつい、言い返してしまった。


「しかし、言葉を返して悪いけど。
普通しか止まらない駅に行こうとして急行に乗ったり、山で熊に襲われたり、横断歩道で車に轢かれたりする人(?)に言われたくないな」
「だってしょうがないじゃない。
慣れてないんだから。初めてなのよ。そ、そりゃ、イロイロあるってものよ……」

 メリーさんは、なにか言い訳がましいことを言う。って言うかメリーさんになったばかりって、その前はなんだったろうとか、疑問に思わなくはない。

「そうか、それは大変だったね」

 取り敢えず話を合わせておくことにした。
 そんな軽い気持ちだったのだけど、僕の言葉にメリーさんはぐっと体を前のめりにしてきた。

「そうなのよ!! もう、大変なの。
ほら、熊に食べられた時は、死ぬほど痛かった、って、本当に死んじゃたんだけどね」

 死んじゃたのかぁ……
 死んでも復活できるのね、さすがメリーさん。
 と、感心していると、メリーさんはやおら胸をはだけると肩を露にする。

「ほら、見てよ、これ。噛み跡、まだとれないのよ。いやんなっちゃう」

 白いうなじを僕に見せてくれる。確かにU字型の赤い線が肩と首筋に見えた。

「それで、車に轢かれた時のがこっち。後ろからお尻にドンって。
あの時はびっくりしたわ。
その後、車の下敷きになって10メートルぐらい引き摺られたの。もうね、死ぬ~って思っちゃった。まあ、実際死んじゃったんだけどね。
あははは」

 また、死んだのね。まあ、そうじゃないかと思ったけど。

「その時の傷がえっと、まだ確かにお尻とかに残ってるのよ……」

 と、言いながらメリーさんは僕にお尻を向けるとスカートを捲ろうとした。


「ちょ、ちょっと待った! 
見せなくていいから。見せなくていい。だから、少し落ち着こうか。
と、取り敢えず席に座りなよ。
そうだ! ケーキでも食べない? 奢るよ」

 慌てて止めた。いや。見たくないわけではないけど、さすがに周囲の目が痛い。

「えー、良いの?
わーい。あなた! 見かけによらずいい人ね」

 奢ると聞いたメリーさんは嬉しそうに僕の前に座るとメニューを熱心に見始める。


「ね、ね。このケーキ。ケーキセットじゃないこのケーキが食べたいんだけど良いかなぁ」

 メリーさんが上目遣いの目で僕の方をじっと見つめてきた。

「好きなの選んで良いよ」
「やったー!
おねぇさーん、注文。注文よー!」

日曜の昼下がり。
 雲一つない青空の下。目の前にはメリーさんがいた。
 
 なにかとても幸せな気分だった。
 
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