僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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僕と君の蜜月旅行

3.出国

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 side M

 コンビニでアレだけを買うのは何となく恥ずかしくて、食べるかどうかもわからないグミやガム、チョコも買ってしまった。

 宿舎に帰って、ヨングの部屋でシャワーを浴びる。明日の朝寝グセが出来てると困るから、しっかりドライヤーで乾かす。
 先にシャワーを浴びたヨングが洗面所にやってきて、フワフワになった僕の髪を何度も触るので、鏡越しに首を傾げたら、照れたように笑って腰を抱いてきた。

「ミンジェ、まだかなぁと思って。髪、フワフワしてて可愛いです……」

 待ちきれなかったらしい。後頭部から項をクンクンしている。
 あぁ、この感じはちょっと甘えたい時のだ。しかも2人きりの旅行を前にたがが外れそうになっていて、かなり溺愛モードになっている。

 あぁ……、僕の彼氏可愛すぎる。

 ドライヤーを片付けて振り返り、背伸びをしてヨングの首に腕を絡ませた。

「ん」

 触れるだけのキスを。でも、これだけで終わる訳がない。あっという間に尻から持ち上げられ足が浮く。

「わっ!」

「もう荷造り終わりました。明日は早いから早く?」

 僕を抱き上げても、体重なんて軽い荷物のような足取りでベッドルームへ連れていかれる。鎖骨の窪みを噛み付くように愛撫され彼の長めの前髪へと顔を埋めた。

 "……そっか。見えるとこに付けられても大丈夫なんだ……"




 ヨングはぐったりしたままの僕の身体を綺麗に拭いて、自分のTシャツを僕に着せ背中から抱きついたまま寝てしまった。
 僕はまだ、あちこちに余韻が残っていて、やっと呼吸が調ってきた所。

「体力オバケめ……」



 携帯のアラームの音で、ぼんやりと目を開けた。

 もう、朝か。
 旅行が楽しみで眠りが浅かった。
 ヨングが優しく抱いてくれたから、関節が軋む所もない。そっと、ベッドから降りた。

 ヨングが起きる前に姿見の前に立ち、服を着ても見える所に鬱血が無いか確認した。自覚はないけど、ヨングにだってつい付けてしまいましたって事もある。

 身仕度を整えて、そろそろヨングを起こさないと。

 ……こんな風に毎日が新婚みたいだけど、結婚指輪をすると何か変わるんだろうか。





    *************


 side Y

 平日早朝の空港は、海外出張するビジネスマンや家族連れがチラホラいるくらいだった。
 プライベートな旅行だから、パパラッチに気付かれずに出国出来るのは嬉しい。見送りしてくれるファンがいない静かなフロアに、ミンジェはびっくりしている。

「誰も僕たちに気がつかないよ!空港ってこんなに広かった?」

 僕は取りあえず、搭乗シーンは撮らなきゃと思って、カメラを構えていた。
 今回の撮影で僕が考えていたイメージは、ミンジェとのデートを擬似体験出来るような映像。でも、ファインダーの中のミンジェは、当たり前だけど僕を見ている。
 だからややこしいけど、ミンジェとデートをしている僕を、擬似体験している事になる。

 僕だけに見せるミンジェの表情。
 それを公開することは、僕はいつもこんな風にミンジェに見て貰ってるんだよって自慢しているみたいだ。

「わぁっと!」

 ミンジェが転びかけた。反射神経は良いのに時々つまづくから目が離せない。

「ミンジェ!危ないですから前を向いて!」

 もうゲートを抜けて搭乗するというのに、スキップしたりステップを踏むミンジェは朝にも関わらずものすごく元気だ。

 客観的に見たら、男性同士のカップルに見えるんだろうか。人前でのスキンシップは、気を付けた方が良いのかな。
 でも、そんな風に我慢してたらこの旅行を楽しめない。

「ふふふ。楽しくってつい……」

 いいな、ミンジェ。
 無邪気にはしゃいでる姿を見ているだけで、僕も楽しくなってくる。


 座席はエコノミークラスで良かった。だってずっとくっついていられるし。でも飛行機の中では周囲への影響を考えて、お互い黙ったまま手を繋いでいた。
 一つのイヤホンを分けて今話題の洋楽を一緒に聞いているうちに、どちらが先かわからないけど寝てしまって、気がついたら東京上空。
 2時間半なんて、あっという間だった。



 前日の台風通過の影響もあって、東京は少し雨が降っていた。でもまだ午前中で、昼頃から天気が良くなるらしいのでデートには問題なさそう。荷物は空港からホテルへ送ってあるので、まずはショッピング。

 ミンジェは洋服を見るのが好きだから後でたっぷり時間を取っておくとして、まずは今回の旅行の一番の目的。

「ミンジェ。あの、指輪の事なんですが……」

「うん?」

「実は、もう決めてあるんです」

「え?そうなの?」

「一番最初に、指輪を買う店に行ってもいいですか?」

「もちろん!だって、そのための旅行でしょ?」


 タクシーで銀座まで移動する。
 お店の少し手前でタクシーを降りて、同行のスタッフには本当に私的な事なので、出来れば二人にして欲しい旨を伝えた。
 彼は快諾してくれて、近くのカフェで時間を潰してくれると言う。

「ミンジェ、こっちです」

 一つの傘に二人で入って、ミンジェが濡れないように気をつけながらお店の前に来た。携帯で地図を見ながらだったけど、無事に着いてひと安心。

「わぁ。ここの指輪なの?ブランドは知ってるけどお揃いの~って言うから、もう少しカジュアルなの想像してた」

「………」

 ミンジェが少し戸惑っている。高級ブランドのアクセサリーを撮影で身に付ける事はあっても、所有するのはハードルが高いか?

「僕たちの特別な指輪だったので、最高級なリングにしたくて……。ここの指輪じゃ駄目ですか?」

「全然?ヨングの本気がわかったから。このお店の指輪で大丈夫だよ」

 大丈夫だと言っているのに、ミンジェの表情は堅かったし、僕も不安になってついおどけたように言ってしまったのだ。

「そんなに真剣に捉えなくても!ペアリングだと思って気軽に…」

「ペアリング?」

 それが、地雷だった。


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