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僕と君のリング
4.残り香とキスマーク
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スヒョンの部屋から自分の部屋へ戻る途中、ドアの前にヨングが待っていることに気が付いた。
イライラと脚を揺すり、機嫌が悪いのがすぐにわかる。そういえば昨夜は事務所から別々の時間に帰って、連絡もしないでスヒョンの部屋に行ってしまったからかも。
あまりに露骨な避け方をして、きっと不安にさせたに違いない。僕はすぐに謝ろうとヨングに近づいた。
「ヨング、昨日はごめ……」
「昨夜はどこ行ってたんですか?」
ピリッとした空気。鋭い視線に睨まれて、おはようのあいさつもない。
ヨングが、怒っている……。僕は急にドキドキしてきて、胸を押さえた。
"どうしよう、話したくてもそんな雰囲気じゃないよ"
戸惑っていると、腕を掴まれ引き寄せられた。襟足の辺りを、スンっと嗅がれる。
「……スヒョンィヒョンの匂いですね。ねぇミンジェ?僕の気持ち考えましたか。恋人の髪から、他の男の匂いがするんですよ。いくらそれがミンジェの親友の匂いだとしても………や、余計に嫉妬します。二人には、僕でも入り込めない絆があるんですよね?」
「……スヒョンアのベッドで眠るのは、よくある事だよ」
「少し前なら、でしょう?ミンジェは僕の恋人なのに!僕以外の男のベッドで眠るなんて耐えられない!想像して下さいよ?例えば、僕の髪から女の子の香水の匂いでもしたら、アナタはどんな気持ちになりますか?!」
鋭い刃で切りつけられたようだった。
普段感情的にならないヨングが、怒りと悲しみに身体を震わせている。こんな風に感情をぶつけられるのは、何年か前の『雨の日のケンカ』以降ほとんどなかったように思う。
僕は何も言えず、顔を上げられなかった。ヨングのスニーカーのつま先が、そっと離れて行くのをただ見ているしか出来ない……。
視界が滲み始めやがて真っ暗になり、頬を流れる涙を、Tシャツの袖で拭った。
「なんで……こんなことになっちゃったの?」
その時。
おととい二の腕の内側に付けられたキスマークが、薄れかけているのに気がついた。
それがまるで、今のヨングの僕への気持ちを表しているかのようで。
僕は言い様のない不安に駆られ、そのキスマークを手で押さえた。
「………やだ、やだ、消えちゃやだよ!……ヨングッ!」
うわ言のように呟いて、崩れ落ちた。
「………ミンジェ!」
廊下の床に座り込んでいた僕に、駆け寄ってきたのはスヒョンだった。
ユギの部屋から戻ってきたらしい。
「どうした?何があった?」
「キ、キス、マークが!消え、消えちゃう」
僕を心配して膝まで着いてくれたスヒョンの腕に縋りついたら、嗚咽が止まらなくなってしまった。
「落ち着いて……ゆっくりでいいよ」
スヒョンは僕の肩を抱き、部屋に入るように促しベッドまで連れてきてくれた。
僕は、スヒョンのベッドで寝た事でヨングに誤解を与えてしまい、とても怒らせてしまった事をしゃくり上げながら話した。
「すごく、怒ってて、あんなヨング、初めてで、でも、僕が、傷つけたんだって、思って、悲しくって、そしたら、キスマーク、薄くなってて、不安になって、涙止まらなくって……」
また涙が溢れだしてきた僕の視界は、真っ暗で、スヒョンの顔も見えなかった。スヒョンは僕を抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。ちゃんと話すんだろ?」
「話、してくれるか、わかんないよ!」
「そんなに不安なら、キスマーク、俺が付け直してやろうか?」
スヒョンに腕を掴まれて、甘く見つめられた。ヨングとはまた違う、綺麗な顔。
でも、ドキドキしない。
スヒョンは親友として大好きだけど、ヨングに対する気持ちとは、全く違う。
「何言って……?やだ、やめてスヒョ……」
スヒョンの唇が、ヨングの付けたキスマークに重なろうとした時、僕は凄い力でスヒョンから引き離された。
突然の事に驚いたけれど間近に見る余裕の無いヨングに、戻ってきてくれたのだと愛しさに涙が溢れた。
「はぁ、はぁ、はぁ。な、何をしてるんですか?僕のミンジェに何をしようと?」
「来るのが遅いよ。ほんとにキスマーク付けるとこだった」
走って来たのか呼吸を乱したヨングが、僕を腕の中に閉じ込め強く抱き締めてきた。僕は応えるようにヨングの首に腕を回して、しがみついた。
「ミンジェ?僕の部屋に行きますか?」
僕は頷いた。背後で、スヒョンが微かに笑った。飄々と僕たちの近くへ来て、自分の肩の辺りを指し示す。
「ヨング!俺のここら辺嗅いでみ?」
「え?え?なんでですか?」
「いいから!ほら!」
ヨングが身体を斜めにして、スヒョンに身を寄せたので、僕も斜めになった。
「…………ミンジェの匂いじゃない!これって、……ユギヒョン?」
「そ。俺はユギさんと一緒だったの。ミンジェは一人で寝たんだけど、俺の匂い、付いちゃってごめんな?」
「そう、だったんですね……」
僕はまだヨングにしがみついているから、話している声の振動が身体に直接伝わってきた。それと同時にヨングの胸の奥の方から、暖かい何かが僕の中に流れ込んでくる。
その波動には僕を絡めとる力が有り、安心させ、さっきとは別の意味で涙が出てきた。
その正体は解っている。
僕はもう、これが無くなったら生きていけないと思った。
スヒョンの部屋から自分の部屋へ戻る途中、ドアの前にヨングが待っていることに気が付いた。
イライラと脚を揺すり、機嫌が悪いのがすぐにわかる。そういえば昨夜は事務所から別々の時間に帰って、連絡もしないでスヒョンの部屋に行ってしまったからかも。
あまりに露骨な避け方をして、きっと不安にさせたに違いない。僕はすぐに謝ろうとヨングに近づいた。
「ヨング、昨日はごめ……」
「昨夜はどこ行ってたんですか?」
ピリッとした空気。鋭い視線に睨まれて、おはようのあいさつもない。
ヨングが、怒っている……。僕は急にドキドキしてきて、胸を押さえた。
"どうしよう、話したくてもそんな雰囲気じゃないよ"
戸惑っていると、腕を掴まれ引き寄せられた。襟足の辺りを、スンっと嗅がれる。
「……スヒョンィヒョンの匂いですね。ねぇミンジェ?僕の気持ち考えましたか。恋人の髪から、他の男の匂いがするんですよ。いくらそれがミンジェの親友の匂いだとしても………や、余計に嫉妬します。二人には、僕でも入り込めない絆があるんですよね?」
「……スヒョンアのベッドで眠るのは、よくある事だよ」
「少し前なら、でしょう?ミンジェは僕の恋人なのに!僕以外の男のベッドで眠るなんて耐えられない!想像して下さいよ?例えば、僕の髪から女の子の香水の匂いでもしたら、アナタはどんな気持ちになりますか?!」
鋭い刃で切りつけられたようだった。
普段感情的にならないヨングが、怒りと悲しみに身体を震わせている。こんな風に感情をぶつけられるのは、何年か前の『雨の日のケンカ』以降ほとんどなかったように思う。
僕は何も言えず、顔を上げられなかった。ヨングのスニーカーのつま先が、そっと離れて行くのをただ見ているしか出来ない……。
視界が滲み始めやがて真っ暗になり、頬を流れる涙を、Tシャツの袖で拭った。
「なんで……こんなことになっちゃったの?」
その時。
おととい二の腕の内側に付けられたキスマークが、薄れかけているのに気がついた。
それがまるで、今のヨングの僕への気持ちを表しているかのようで。
僕は言い様のない不安に駆られ、そのキスマークを手で押さえた。
「………やだ、やだ、消えちゃやだよ!……ヨングッ!」
うわ言のように呟いて、崩れ落ちた。
「………ミンジェ!」
廊下の床に座り込んでいた僕に、駆け寄ってきたのはスヒョンだった。
ユギの部屋から戻ってきたらしい。
「どうした?何があった?」
「キ、キス、マークが!消え、消えちゃう」
僕を心配して膝まで着いてくれたスヒョンの腕に縋りついたら、嗚咽が止まらなくなってしまった。
「落ち着いて……ゆっくりでいいよ」
スヒョンは僕の肩を抱き、部屋に入るように促しベッドまで連れてきてくれた。
僕は、スヒョンのベッドで寝た事でヨングに誤解を与えてしまい、とても怒らせてしまった事をしゃくり上げながら話した。
「すごく、怒ってて、あんなヨング、初めてで、でも、僕が、傷つけたんだって、思って、悲しくって、そしたら、キスマーク、薄くなってて、不安になって、涙止まらなくって……」
また涙が溢れだしてきた僕の視界は、真っ暗で、スヒョンの顔も見えなかった。スヒョンは僕を抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。ちゃんと話すんだろ?」
「話、してくれるか、わかんないよ!」
「そんなに不安なら、キスマーク、俺が付け直してやろうか?」
スヒョンに腕を掴まれて、甘く見つめられた。ヨングとはまた違う、綺麗な顔。
でも、ドキドキしない。
スヒョンは親友として大好きだけど、ヨングに対する気持ちとは、全く違う。
「何言って……?やだ、やめてスヒョ……」
スヒョンの唇が、ヨングの付けたキスマークに重なろうとした時、僕は凄い力でスヒョンから引き離された。
突然の事に驚いたけれど間近に見る余裕の無いヨングに、戻ってきてくれたのだと愛しさに涙が溢れた。
「はぁ、はぁ、はぁ。な、何をしてるんですか?僕のミンジェに何をしようと?」
「来るのが遅いよ。ほんとにキスマーク付けるとこだった」
走って来たのか呼吸を乱したヨングが、僕を腕の中に閉じ込め強く抱き締めてきた。僕は応えるようにヨングの首に腕を回して、しがみついた。
「ミンジェ?僕の部屋に行きますか?」
僕は頷いた。背後で、スヒョンが微かに笑った。飄々と僕たちの近くへ来て、自分の肩の辺りを指し示す。
「ヨング!俺のここら辺嗅いでみ?」
「え?え?なんでですか?」
「いいから!ほら!」
ヨングが身体を斜めにして、スヒョンに身を寄せたので、僕も斜めになった。
「…………ミンジェの匂いじゃない!これって、……ユギヒョン?」
「そ。俺はユギさんと一緒だったの。ミンジェは一人で寝たんだけど、俺の匂い、付いちゃってごめんな?」
「そう、だったんですね……」
僕はまだヨングにしがみついているから、話している声の振動が身体に直接伝わってきた。それと同時にヨングの胸の奥の方から、暖かい何かが僕の中に流れ込んでくる。
その波動には僕を絡めとる力が有り、安心させ、さっきとは別の意味で涙が出てきた。
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