僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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僕と君のピアス

2.落としたリップクリーム

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(side Y)


"今日、撮影が早く終わったら、シませんか?"

"早く終わったらねっ"

ミンジェは耳から首まで真っ赤にして、控え室を出て行ってしまった。

多分撮影してる間中、僕とのコトが気になって。僕の事しか考えられなくなって。
そわそわしてるんだろうなぁ…。

あはは。あー。楽し。………………幸せ。

ふと、隣を見ると。さっきまでミンジェが座っていた場所に、黒い小さな物が転がっていた。僕は、ささっ!とそれを拾い手の中に隠す。

"これは…ミンジェのリップクリーム?"

そっと手を開いて確認すると、黒くて小さなリップクリームがちょこんと乗っている。普段ミンジェが使っている物なので、まるで彼のように可愛く思え自然と笑みが拡がって、ほのぼのとした気分になった。

しかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。突然目の前に差し出された、見慣れたリップクリーム。いつも僕が使ってるやつ。

リップクリームから腕、腕から首、顔と視線を上げていくと、無表情のスヒョンが、いた。

「お前のはこっちだろ?メイクのスタッフさんから渡されたけど、そっちを使うの?」

もしかして。スヒョンは気がついたのだろうか?僕が密かにこのリップクリームを持ち帰り、ミンジェコレクションを作成しようとした事に。

「えっと、ありがとうヒョン。僕のリップ持ってきてくれて…」

思わず視線をそらして答えると、スヒョンは僕のリップクリームをミンジェのリップクリームの隣に転がし、ふぅん?と言って自分のリップクリームを出して使い始めた。
そしてPCを使ってるユギの所へ行き、彼にリップクリームを塗っているが追い払われている。

そこで気がついた。ミンジェは、リップクリームが無くなって、凄く困ってるんじゃないかって。

「ミ、ミンジェ……!」

僕は急いでミンジェを追いかけた。




(side M)


どうしよう。僕は今、困っている事が3つあった。

1つは、さっきまでポケットに入っていたリップクリームを落としたみたいで、唇の乾きが気になって仕方ない。

2つ目は、ヨングに着けてもらったピアスを、コンセプトに合わないからと言われて外したこと。


"ヨングが見たら、がっかりするかも…"


3つ目は……
撮影が早く終わった時の事。



「ミンジェ!」

ヨングがスタジオに入ってきて、慌てた様子で僕の所にやって来た。

「ヨング?どうしたの?」

「撮影これから?良かった…間に合って」

ヨングは、身体が触れそうな程近寄ってきて、僕の唇に何か押し当てた。

「あ、リップ?」

そして、そのままスッスッと塗ってくれた。

「わぁ。ありがと!さすが!落としちゃったみたいで困ってたんだ」

僕がニッコリしたら、ヨングもニッコリした。しかし、僕の耳朶に視線を走らせ瞳を泳がせた。

「あぁ~あのね……」

「コンセプト、合わなかった?」

「そうなんだ。ヨング、ごめんね?」

「なんで謝るの。僕がふざけて着けてスタッフさんに迷惑かけちゃった」

ヨングが悪い訳ではない。撮影前だと解ってて、付け替えたのだ。

「………外したく、なかったな」

「ミンジェ……」

俯いた僕を、ヨングは覗き込むように見つめてきた。そして、掬い上げるようにキスをされる。ちゅっ、と軽い音がして素早く離れた。

「気にしないで?また着けてあげる」


僕は、固まった。はっとしてから急いでキョロキョロと周りを見るが、幸いにもスタジオ内が薄暗かったせいか誰も僕たちのキスに気が付いていないようだった。



今日のヨングは、スキンシップ多めだ。

まだ付き合う前、僕からアピールしていた頃は全然恥ずかしくなかった。なのに付き合い始めて、素直になったヨングには照れてしまう。

周りにメンバーやスタッフさんが居ても、隙をついて平気で触ってきたりキスしてきたり。それはまぁ、僕もなんだけど……。
だって、ヨングが可愛いから触りたくなるんだ。

セックスはヨングが成人するまで我慢しようと決めてたけど、最終的には少しフライングだった。でもそれからの僕たちはスケジュール的に忙しく、ゆっくり最後まで出来る日が少なくて。合間を見つけてはヨングの方から控え目に誘ってくる感じで…。

そんなに……身体が求める快楽に溺れたら、ダメだと思うし。

少し前に、ヨングに冗談で"僕に溺れたらダメだよ~"って言ったら、真顔で

「もう遅いですよ。ミンジェにはとっくに溺れてるんです」

凄く嬉しかった。でも、未だに"ほんとに僕でいいのかな"って思うんだよね。

宿舎で抱き合うにはどうしても他のメンバーに気を遣うから、ヨングの部屋で布団の中でこっそりなんて事が多い。だって僕の声が押さえられなくなったら、聞こえちゃうかも知れないし。



撮影は、僕のそわそわとヨングのニコニコのうちにあっという間に終わり。
久し振りにメンバー皆でご飯食べに行って。明日の仕事は、お昼近くの打ち合わせがスタート。

だから、今夜はヨングと一緒の時間がゆっくり過ごせる訳で。

ヨングが僕との時間を大切にしてるのも、僕との時間をもっと蜜にしたいのも、ちゃんと伝わってくるから。

僕だって同じ気持ちでいる事を、ちゃんと伝えなければ、いつだって、誰かが、そのポジションを狙ってくるかもしれない。



食事をしたお店からは、二人でタクシーに乗った。宿舎までの数分間、ヨングは僕の手を握ったり指を絡めたりしていた。
時々視線を感じて、ヨングの方を向くとぱっと顔を背けてしまう。

"照れてるのかな……"

タクシーが宿舎に着いても、玄関からリビングまで僕とヨングは手を繋いだままだった。

「シャワーどうする?」

僕はどっちが先に使うかって意味で訊いたのに、ヨングは僕をサッと抱き上げた。

「わゎっ!びっくりしたぁ」

「もちろん一緒に浴びたいです」

ヨングは、そのままバスルームへと歩き出してしまった。





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