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僕たちのこじれた関係①
18. side M ⑩
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ひとり残されたヨングの部屋。スピーカーから静かに流れる洋楽は、恋人への切ない気持ちを綴っていて、まるで今の僕を代弁しているみたいだ。
リフレインするそのフレーズを、自分でも気がつかないうちに口ずさみ、目尻から零れた涙がシーツに吸い込まれた。
“ 僕は間違ってるのかな? ”
ベッドの角に丸まった下着を見つけ、手繰り寄せて身に付ける。ヨングが試してみたい!と言い出し、執拗く吸われ弄られた乳首がぷくっと腫れている。じんわりと熱を孕み、紅色に濃く色づき、触ってみたら鈍い痛みが走った。
先ほどまで指を挿入されていた違和感もまだ残っているし、お腹も内股もアレとかジェルでベタベタ。これではシャワーを浴びないと眠れそうにない。
愛する人に身体を求められたら、差し出さなければならないのだろうか。
貞操なのか倫理なのか。この頃では、自分が何を問題にしてヨングを拒んでいるのかわからなくなっていた。
ただ繋がっていないだけで、充分セックスと呼べる行為をしている。自分の身体が、いやらしくヨングに応えていて、もっと、もっとと…強請ってしまうのを気づかれないように大変なのだ。そのまま快楽に身を委ねて、繋がりたい衝動が僕にだって…ある。
性的マイノリティーなんて、ヨングはまだわからないだろう。そう思っている自分だって、はっきりわからないのに。
その場の衝動にまかせて、後悔しないようにと守ってきた事は、自己満足だったんだろうか。
ヨングの事を考えてきたつもりが、実は僕のエゴでしかなかったとしたら…。
僕のこだわりで、傷つけて、辛い想いをさせているとしたら?
ヨングはもうすぐ成人する。だったら許してしまえ!という気持ちと、もう少しだけ待てるよね?という気持ちの狭間で揺れる。
答えに辿り着く前に、ヨングが帰ってきた。安堵して急いで目元を拭うけど、不安定な僕の心を逆撫でしたのは。ふわりと漂ったスヒョンの部屋の、キャンドルの香りだった。
「この匂い!スヒョンのとこじゃん!なんなんだよ!何かあるとすぐスヒョンにばっかり!」
ヨングは今までスヒョンの部屋に居たのだろう。僕を置いて、スヒョンと何を話していたのか。
「どうせ僕が悪いんでしょ!」
「ミンジェ?」
「僕じゃなくて!普通の女の子と恋愛した方が良かったんだよ!」
こんなの完全に八つ当たりだ。ずっと、言葉にしてしまうのが怖くて言い出せなかった気持ち。理性で抑え込んでいたのに、積み重なる負荷に堪えきれず、今日は爆発してしまった。
その場に、沈黙が落ちる。ヨングの顔を見るのが、返事を聞くのが怖い…!
突然、両頬を大きな手で包まれた…。
「なに?どうしたのミンジェ?嫌ですよ。そんな、やっとここまできたのに。もう少しで貴方を…僕の…僕だけの…貴方にって…」
ヨングの、絞り出すような震える声を聞いて、目を開ける。大きな目が暗く濁り、自分が彼を追い詰めた事を悟る。
これ以上一緒にいたら、取り返しのつかない事を口走り、全て終わってしまいそうだ。
僕はヨングの手を振り払い、部屋の角に積まれた洗濯済みのタオルを引っ掴み、捨て台詞と共に逃げるように走った。
「ごめん!シャワー浴びてくる!」
「僕も行きます!」
何故かヨングも同じように追ってきて、仕方なく二人してひたすら無言でシャワーを浴びた。
終わる頃にはお互い落ち着きを取り戻し、いつもの優しい空気に安堵する。
タオルで髪を拭いていると、ヨングが近づいてくる気配。無視する事も出来たけれども、ちらっと見上げるとヨングの真っ赤な目と目が合う。もしかして、シャワー浴びながら泣いてたの?僕の所為で、ごめんね?
言葉にはしていないのに、ヨングはまるで返事のようなキスを、顔を傾けて僕の頬に落とした。
「…ひとりにして、ごめんなさい」
「………うん」
「スヒョンィヒョンのとこ行ってごめんなさい」
「…うん」
「………挿れようとして、ごめんなさい」
「ふはっ!………うん」
「それから、もう…別れてあげられません。ごめんなさい」
「……」
「まだ、僕のこと、好きですか?」
「うん。大好きだよ?」
微笑むと、裸のままぎゅうぎゅう抱き締められた。その肉圧に、窒息しそうになる。でもそうやって、僕たちの間に横たわる空間を隙間なく埋める事で、不安な要素はかき消えていくんだ。
もう、このぬくもりを手放すなんて考えられないよ。僕は、一生君の事を…。
「ヨングゥ。着替え、忘れたね…」
「あ…」
「バスタオル巻いてダッシュで行こう!」
それから。
僕の部屋にわぁわぁ走って行って、いつものようにヨングの腕に絡まって眠った。お互い裸で、どちらのものかわからない心臓の鼓動が規則正しく聞こえ。お互いの寝息も眠気を誘う子守唄のようで。
今日もこじれたけど、僕たちはこじれる度に確認し合って、
……新しい朝を迎える。
リフレインするそのフレーズを、自分でも気がつかないうちに口ずさみ、目尻から零れた涙がシーツに吸い込まれた。
“ 僕は間違ってるのかな? ”
ベッドの角に丸まった下着を見つけ、手繰り寄せて身に付ける。ヨングが試してみたい!と言い出し、執拗く吸われ弄られた乳首がぷくっと腫れている。じんわりと熱を孕み、紅色に濃く色づき、触ってみたら鈍い痛みが走った。
先ほどまで指を挿入されていた違和感もまだ残っているし、お腹も内股もアレとかジェルでベタベタ。これではシャワーを浴びないと眠れそうにない。
愛する人に身体を求められたら、差し出さなければならないのだろうか。
貞操なのか倫理なのか。この頃では、自分が何を問題にしてヨングを拒んでいるのかわからなくなっていた。
ただ繋がっていないだけで、充分セックスと呼べる行為をしている。自分の身体が、いやらしくヨングに応えていて、もっと、もっとと…強請ってしまうのを気づかれないように大変なのだ。そのまま快楽に身を委ねて、繋がりたい衝動が僕にだって…ある。
性的マイノリティーなんて、ヨングはまだわからないだろう。そう思っている自分だって、はっきりわからないのに。
その場の衝動にまかせて、後悔しないようにと守ってきた事は、自己満足だったんだろうか。
ヨングの事を考えてきたつもりが、実は僕のエゴでしかなかったとしたら…。
僕のこだわりで、傷つけて、辛い想いをさせているとしたら?
ヨングはもうすぐ成人する。だったら許してしまえ!という気持ちと、もう少しだけ待てるよね?という気持ちの狭間で揺れる。
答えに辿り着く前に、ヨングが帰ってきた。安堵して急いで目元を拭うけど、不安定な僕の心を逆撫でしたのは。ふわりと漂ったスヒョンの部屋の、キャンドルの香りだった。
「この匂い!スヒョンのとこじゃん!なんなんだよ!何かあるとすぐスヒョンにばっかり!」
ヨングは今までスヒョンの部屋に居たのだろう。僕を置いて、スヒョンと何を話していたのか。
「どうせ僕が悪いんでしょ!」
「ミンジェ?」
「僕じゃなくて!普通の女の子と恋愛した方が良かったんだよ!」
こんなの完全に八つ当たりだ。ずっと、言葉にしてしまうのが怖くて言い出せなかった気持ち。理性で抑え込んでいたのに、積み重なる負荷に堪えきれず、今日は爆発してしまった。
その場に、沈黙が落ちる。ヨングの顔を見るのが、返事を聞くのが怖い…!
突然、両頬を大きな手で包まれた…。
「なに?どうしたのミンジェ?嫌ですよ。そんな、やっとここまできたのに。もう少しで貴方を…僕の…僕だけの…貴方にって…」
ヨングの、絞り出すような震える声を聞いて、目を開ける。大きな目が暗く濁り、自分が彼を追い詰めた事を悟る。
これ以上一緒にいたら、取り返しのつかない事を口走り、全て終わってしまいそうだ。
僕はヨングの手を振り払い、部屋の角に積まれた洗濯済みのタオルを引っ掴み、捨て台詞と共に逃げるように走った。
「ごめん!シャワー浴びてくる!」
「僕も行きます!」
何故かヨングも同じように追ってきて、仕方なく二人してひたすら無言でシャワーを浴びた。
終わる頃にはお互い落ち着きを取り戻し、いつもの優しい空気に安堵する。
タオルで髪を拭いていると、ヨングが近づいてくる気配。無視する事も出来たけれども、ちらっと見上げるとヨングの真っ赤な目と目が合う。もしかして、シャワー浴びながら泣いてたの?僕の所為で、ごめんね?
言葉にはしていないのに、ヨングはまるで返事のようなキスを、顔を傾けて僕の頬に落とした。
「…ひとりにして、ごめんなさい」
「………うん」
「スヒョンィヒョンのとこ行ってごめんなさい」
「…うん」
「………挿れようとして、ごめんなさい」
「ふはっ!………うん」
「それから、もう…別れてあげられません。ごめんなさい」
「……」
「まだ、僕のこと、好きですか?」
「うん。大好きだよ?」
微笑むと、裸のままぎゅうぎゅう抱き締められた。その肉圧に、窒息しそうになる。でもそうやって、僕たちの間に横たわる空間を隙間なく埋める事で、不安な要素はかき消えていくんだ。
もう、このぬくもりを手放すなんて考えられないよ。僕は、一生君の事を…。
「ヨングゥ。着替え、忘れたね…」
「あ…」
「バスタオル巻いてダッシュで行こう!」
それから。
僕の部屋にわぁわぁ走って行って、いつものようにヨングの腕に絡まって眠った。お互い裸で、どちらのものかわからない心臓の鼓動が規則正しく聞こえ。お互いの寝息も眠気を誘う子守唄のようで。
今日もこじれたけど、僕たちはこじれる度に確認し合って、
……新しい朝を迎える。
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