僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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僕たちのこじれた関係①

13. side M ⑧

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宿舎までの帰り道も繋いだ手はそのままで、自然と口ずさんだのは練習中の新曲だった。
2人で交互に歌うサビのパート、僕の高音は喉の調子が悪いと掠れる。でもヨングは、それがセクシーだと言ってくれた。

宿舎に着くと、ヨングがラーメンを作り、朝長兄ソクが作っておいてくれたサラダと一緒に食べた。今週の歌番組で1位を獲ったグループの話や、ヨングの学校の話などしながら。

つまりは、昨日お互い告白しあったはずなのに、あえてその事には触れない。
でも僕はいいんだ。こうして、いつもと同じ他愛ない話をしていられる事が嬉しいから。

さっき練習室でキスされたことだって、なんて事ない、通常運転だよと冷静に考える。頬やおでこにしていた行為が、口唇になっただけ。

思い起こせば、ヨングの頬にキスしていたのはいつも僕の方からだった。それがヨングからだっただけだし、さらに言えば口唇だったからといって、それが出来る関係性になっただけ。僕たちの関係は、以前とそんなに変わらない、はず…。

変わらないはず、だったのに。


約束通り、ヨングは僕の部屋にやってきた。疲れていて、お腹も一杯なヨングは昨日と同じように、すぐに寝てしまうと思ったけれど。
僕は今、寝返りをうったヨングに、ベッドの端に追い詰められ、たじたじとなっていた。

さっきから、もじもじと視線を合わせては逸らし、合わせては逸らしを繰り返す僕ら。
でも、最終的にヨングは眼を逸らさなくなり……。思いきったように呟いたのだ。


「キスしても、いいですか?」

「…う、うん…」

二人して顔が赤くなる。
いつもなら勢いで、ちゅっと出来るのに。
なんでベッドの上だとこんなに……。

「は、恥ずかしいから、布団被ろ?」

僕はお互いの顔が見えなければと、布団を頭の上まで引っ張り上げた。それが、どういう結果を招くことになるとも知らず……。

閉鎖的な空間に、ヨングの呼吸する音が聴こえ、吐息が頬にかかる。

“ ち、近……///”

と思った時には、布団の端を握って万歳したままの僕にのし掛かったヨングが、頬より少し下に鼻先を押しあててきて…。少しでも顔をずらせば、口唇が触れあってしまう。

ドキドキして、固まる僕の頬を鼻先がすべり、一度離れたと思ったら、今度は正確に僕の口唇にヨングの口唇が押しあてられた…。

ゆっくりと後頭部に差し込まれた大きな手が、僕の頭を固定し、何度も塞がれ苦しくなって口を開けば、入ってくる濡れた柔らかくて熱いもの。こ、これって舌?

「ん……ョ、…グ?…待っ…、」

たどたどしく、遠慮がちに僕の舌に触れてくる。決して強引に絡めてくる訳ではないのに、抗えない。

何度か繰り返されるうちに息が上がり、僕の身体はくったりとしてしまい、こういう行為に全く免疫がないことを証明してしまった。
もっとも、布団の中でこんなことをしていれば、酸欠になっても不思議ではない。

ヨングがガバッと布団を剥がし、僕たちは起き上がって新鮮な空気を吸い込んだ。

「ミンジェヒョン…。付き合って、くれませんか?」

「へ?付き合うって?」

「『恋人』になってくれませんか?」

「……僕は成人したばかりで…ヨングはまだ高校生なのに『恋人』にはなれないよ」


僕は朝、ソクとスヒョンに言われた事を思い出し、そういうことか!と納得した。それが常識なんだと思ったのに、ヨングはきょとんとした。それから、なんだか大人っぽく微笑みながら、僕を覗き込んでくる。すごく照れ臭くて、眼を逸らした。すると、ヨングは僕をぎゅっと抱き締め、再びベッドに転がった。

「ミンジェヒョン、好き」

“ うわわ! て、手がっ…”

囁かれる言葉に驚く。背中側のTシャツの裾から入ったヨングの手は、いつものマッサージなら上へといくはずなのに、何故か下へとすべり腰を撫でる…。

僕は耐えきれず、ヨングの胸を押した。

「嫌、ですか?」

「ヨ、ヨングは、あの、男の人が?」

「はい?」

「僕は女の子じゃないし、何をする気?」

「僕は男の人が好きって訳ではないです。でも、ミンジェヒョンを見ているとこうしたくなって…。キスも沢山したくて…。ミンジェヒョンに、触りたいと思ってます…」

「!!」

「嫌…ですか?」


もう一度訊かれて、考える。
嫌ではない。嫌ではないけれど…。
ヒョンとしてのプライドなのか、恥ずかしいだけなのか。

「もしかしてミンジェヒョン。僕を抱きたいですか?」

「!!!!」

“ 抱く?!抱くってどういうこと?!”

「ご、ごめんヨングゥ!僕、ヒョンなのにまだコドモみたい!お前とのキスは、嫌ではないから沢山してもいいけど、その先は…まだよくわかんないし、なんだか怖いよ」

「ふ、ふふっ」

「なに?何が可笑しいの?」

真面目な話をしていたはずなのに、ヨングがニコニコしてるので…僕もつられて笑った。

「ミンジェヒョン、可愛い。 少しずつ進んでいきましょ?」

ここで「進むってどこに?」って訊くほどお子さまではない。

ヨングって、押しが強かったんだね。
再びキスしてくるヨングに、負けない!と年上としてのプライドで積極的に応じてしまい、

「僕たち、こんなキスしてたら…もう『恋人』ですよね?日付が変わったから…8日か。今日が、僕たちの最初の記念日?」

ぼんやりする頭で頷き、ソクやスヒョンに内緒にしなきゃと考え、ふわふわとする余韻とヨングの温もりに包まれ…眠りに就いた。





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