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僕たちのこじれた関係①
9. side Y ⑤
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テストが終わっても、ミンジェと二人きりで練習することはなかった。
スヒョンが、一緒に行こうと誘ってくれても何だかんだ理由をつけて断った。
『営業』と聞いてからは、カメラが回ってる時の絡みには特に拒絶反応を示した。
………なるべく眼も合わせなかった。
ミンジェの顔を見てしまったら、自分の気持ちがぐらつくのはわかっていた。気配を近くに感じるだけで、全神経がミンジェに集中する。
ミンジェが、誰かに触れているだけで胸の辺りがチリチリする。誰かが、ミンジェに触れているだけで鼻の奥がツンとする。
スヒョンに相談したくても、常にミンジェにくっついていて、話しかける事も出来ない。
これではミンジェを避け始める前より酷い。情緒不安定にも程がある。
“…もうどうしたらいいか、わからない!”
数日後、僕とミンジェの仲を見かねた年上組のメンバーが、「お前らちゃんと話し合え」と言ってきた。いつもの練習室に、二人して放り込まれる。心配そうな顔のスヒョンも入りたそうにしていたけれど、ヒョンたちに腕を掴まれぐいぐいと連れていかれた。
ミンジェは溜め息をついて、いつもの定位置である鏡の前まで行き、ストンと座った。
二人きりになって、ミンジェからはメンバーといた時の明るい雰囲気が消えている。これが、本来の姿なのかと思うと、悲しくて顔を上げる事も出来ない。
「ねえ。ヨングゥ~?僕、何かした?」
ミンジェから少し離れた場所に座って、俯いていると、控え目な、まるでひとり言みたいにポツリと言われた。その様子に、違和感を持つ。
『仕事だから関わっている』はずなのに。そんな風に寂しそうに言われたら、僕が悪いみたいじゃないか。
「ミンジェヒョン、よく僕に『好き』って言いますよね?」
「えっ!う、ん///」
「それって、事務所の方針ですか?僕の事、好きとか言うの。演技で…?男同士だし本気でとか、あり得ない、ですよね?」
わざときつい言い方をした。これで喧嘩になるなら、お互い思ってる事を全部吐き出してしまえばいいんだ。
「…えっと。方針って何の事?僕は本気でお前の事好きなんだけど…。」
「やめてください。からかうの。こっちは思春期なんで。真に受けちゃうから!」
しまった。
これでは真に受けてると、告白したようなものだ。ドキドキしながら俯いていたけれど、ミンジェからはすぐに返事が無くて…思わず顔を上げてしまった。
そうしたら……
ミンジェの眼からは、ポロポロと涙が零れていた。心臓が、ぎゅっと掴まれたようになる。
「ふぇ……ひっ、く。から、かってなんか、いないのにぃ~!ヨングゥ!僕は!
お前のこと……、本気で好き……なのに」
嗚咽を抑えるため、持っていたタオルに顔を押し付けるミンジェを、僕は信じられない気持ちで見つめた。
また『本気で好き』って言った!
ねぇ、ほんとなの?本気なの?
『営業』が嘘なの?
「ヒョン!ミンジェヒョン!」
僕はもう、我慢出来なかった。ほんとは、もうずっと我慢してたんだって気がついた。
“ ミンジェヒョンを…抱き締めたい!”
スライディングするようにミンジェの所まで行き、腕を伸ばす。ところがあと少し、という距離で、ミンジェは立ち上がり腕が空を切った。それでも僕は、縋りついて見上げた。
「ごめんね?……もう!お前の事は!気にかけないから!」
涙が、僕の頬に落ちた…。
「まって!ミンジェヒョン!」
掴まえ損ねたミンジェは、あっという間に練習室を出ていってしまった。
目の前で涙を零すミンジェを見て、信じていなかった事、後悔しかない。ジワジワと忍び寄る喪失感に襲われて、眩暈がする。
「だって…、ほ、本気だったなんて、聞いてなかった…!」
僕の眼からも涙が溢れた。
「お、追いかけなきゃ!」
事務所のビルから出れば、冷たい雨が降っていて、ミンジェは右に行ったのか左に行ったのかもわからない。
急いで電話をかける。何度もかけ直したが、出る気配はない。
「ミ、ミンジェ…ヒョ…!」
僕は衝動のまま、雨の中を宛もなく走り出した。折り返しの着信がないか、時々携帯の画面を見ても通知はない。
やがて…、全く見覚えのない街並みに、自分が何処にいるのかわからなくなった。
コンバースがびっしょり濡れて、僕の足を留める。すれ違う大人は、僕を訝しげに見てくるが声はかけてこない。
“ ヒョンの手を離したらダメだよ? ”
僕は今さら愛されて、大事にされていた事に気がつく。
僕が不安な時、いつも手を握ってくれて優しく笑いかけてくれた。本当は彼だって不安だったに違いないのに。あのミンジェが、『営業』なんてこと、出来るはずがないと信じていなかった僕は馬鹿だ。
「……ヒョン……!どこにいるの……?」
スヒョンが、一緒に行こうと誘ってくれても何だかんだ理由をつけて断った。
『営業』と聞いてからは、カメラが回ってる時の絡みには特に拒絶反応を示した。
………なるべく眼も合わせなかった。
ミンジェの顔を見てしまったら、自分の気持ちがぐらつくのはわかっていた。気配を近くに感じるだけで、全神経がミンジェに集中する。
ミンジェが、誰かに触れているだけで胸の辺りがチリチリする。誰かが、ミンジェに触れているだけで鼻の奥がツンとする。
スヒョンに相談したくても、常にミンジェにくっついていて、話しかける事も出来ない。
これではミンジェを避け始める前より酷い。情緒不安定にも程がある。
“…もうどうしたらいいか、わからない!”
数日後、僕とミンジェの仲を見かねた年上組のメンバーが、「お前らちゃんと話し合え」と言ってきた。いつもの練習室に、二人して放り込まれる。心配そうな顔のスヒョンも入りたそうにしていたけれど、ヒョンたちに腕を掴まれぐいぐいと連れていかれた。
ミンジェは溜め息をついて、いつもの定位置である鏡の前まで行き、ストンと座った。
二人きりになって、ミンジェからはメンバーといた時の明るい雰囲気が消えている。これが、本来の姿なのかと思うと、悲しくて顔を上げる事も出来ない。
「ねえ。ヨングゥ~?僕、何かした?」
ミンジェから少し離れた場所に座って、俯いていると、控え目な、まるでひとり言みたいにポツリと言われた。その様子に、違和感を持つ。
『仕事だから関わっている』はずなのに。そんな風に寂しそうに言われたら、僕が悪いみたいじゃないか。
「ミンジェヒョン、よく僕に『好き』って言いますよね?」
「えっ!う、ん///」
「それって、事務所の方針ですか?僕の事、好きとか言うの。演技で…?男同士だし本気でとか、あり得ない、ですよね?」
わざときつい言い方をした。これで喧嘩になるなら、お互い思ってる事を全部吐き出してしまえばいいんだ。
「…えっと。方針って何の事?僕は本気でお前の事好きなんだけど…。」
「やめてください。からかうの。こっちは思春期なんで。真に受けちゃうから!」
しまった。
これでは真に受けてると、告白したようなものだ。ドキドキしながら俯いていたけれど、ミンジェからはすぐに返事が無くて…思わず顔を上げてしまった。
そうしたら……
ミンジェの眼からは、ポロポロと涙が零れていた。心臓が、ぎゅっと掴まれたようになる。
「ふぇ……ひっ、く。から、かってなんか、いないのにぃ~!ヨングゥ!僕は!
お前のこと……、本気で好き……なのに」
嗚咽を抑えるため、持っていたタオルに顔を押し付けるミンジェを、僕は信じられない気持ちで見つめた。
また『本気で好き』って言った!
ねぇ、ほんとなの?本気なの?
『営業』が嘘なの?
「ヒョン!ミンジェヒョン!」
僕はもう、我慢出来なかった。ほんとは、もうずっと我慢してたんだって気がついた。
“ ミンジェヒョンを…抱き締めたい!”
スライディングするようにミンジェの所まで行き、腕を伸ばす。ところがあと少し、という距離で、ミンジェは立ち上がり腕が空を切った。それでも僕は、縋りついて見上げた。
「ごめんね?……もう!お前の事は!気にかけないから!」
涙が、僕の頬に落ちた…。
「まって!ミンジェヒョン!」
掴まえ損ねたミンジェは、あっという間に練習室を出ていってしまった。
目の前で涙を零すミンジェを見て、信じていなかった事、後悔しかない。ジワジワと忍び寄る喪失感に襲われて、眩暈がする。
「だって…、ほ、本気だったなんて、聞いてなかった…!」
僕の眼からも涙が溢れた。
「お、追いかけなきゃ!」
事務所のビルから出れば、冷たい雨が降っていて、ミンジェは右に行ったのか左に行ったのかもわからない。
急いで電話をかける。何度もかけ直したが、出る気配はない。
「ミ、ミンジェ…ヒョ…!」
僕は衝動のまま、雨の中を宛もなく走り出した。折り返しの着信がないか、時々携帯の画面を見ても通知はない。
やがて…、全く見覚えのない街並みに、自分が何処にいるのかわからなくなった。
コンバースがびっしょり濡れて、僕の足を留める。すれ違う大人は、僕を訝しげに見てくるが声はかけてこない。
“ ヒョンの手を離したらダメだよ? ”
僕は今さら愛されて、大事にされていた事に気がつく。
僕が不安な時、いつも手を握ってくれて優しく笑いかけてくれた。本当は彼だって不安だったに違いないのに。あのミンジェが、『営業』なんてこと、出来るはずがないと信じていなかった僕は馬鹿だ。
「……ヒョン……!どこにいるの……?」
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