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僕たちのこじれた関係①
6. side Y ②
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留学から帰ってきたばかりでも、次の日からはまた練習生として過ごす。休みなんか取っていたら、せっかく学んだ貴重な経験がただの思い出になってしまう。
またがむしゃらに踊っていたが、明らかに以前の自分と違う身体の動きに、プロデューサーも嬉しそうにしてくれて僕はデビューに向けてよりいっそう励む。減量や練習はキツいけど、チームの皆となら頑張る事が出来た。
そんな中でのスヒョンとミンジェは、いつもうるさい位に元気が良かった。
二人ともよく笑う。笑いながら、僕を構う。
僕は正直、義兄にそんな顔をさせるミンジェに、興味を持っていた。
よくよく二人を観察してみると、ミンジェはスヒョンの世話をよくしている。
しかも、スヒョンがして欲しい事を、何も聞かずに先回りしてやっているので、以心伝心かと思うほど。そしてその度に、スヒョンはとても綺麗な笑顔で「ミンジェ…ありがとう」と小さく呟いている。
スヒョンが、指が細くて綺麗な手をミンジェに差し伸べると、ミンジェは意外とプクプクした小さな手でその手を取る。
そして二人は、しっかりと、握り合う…。
それがまるで、愛し合ってるみたいだった。
そこに何食わぬ顔をして僕が近寄ると、スヒョンが“ 邪魔しないで ”と睨んでくる。
急いで自分の懐にミンジェをしまい込み、二人の世界を展開する。
僕はついこの間まで、そのポジションに居たはずなのに……。
だからミンジェが、時々スヒョンの腕をすり抜けて僕の所へやってきても、意味のわからない苛立ちが込み上げてくるばかりだ。
ミンジェに、どうやって接したら良いかわからない。素っ気なくすればする程、ミンジェが僕を構いだす…。スヒョンとギクシャクする…。
僕たちの間に、変なループが出来上がっていた。
僕はそんなジレンマを、『歌うこと』で紛らわす事が多かったけれど、変声期の所為で思うように声が出なくて、思わず涙が零れる日も多かった。
そんな時、ミンジェは僕を抱きしめて囁くのだ。
「僕…ヨングの歌声…、大好き」
顔を上げると、ふんわり細められた糸目と、ふっくらした白い頬がすぐそばにあった。
涙が零れそうになり、“ あぁ、スヒョンィヒョンは、この微笑みに落ちたんだ…”と思ってしまった。
************************************
メンバーの団体練習が終わると、ヒョンたちは作業部屋に行く。“僕も作業部屋が欲しい!”と言ったら、考えておくよと返事を貰った。作曲や撮り溜めた映像などの編集に使っている、部屋のクローゼットではだいぶ手狭になってきていた。
僕はその日、ボイストレーニングの日で深夜近くなり、いつもより遅い時間に事務所の廊下を歩いていた。
通りかかったダンス練習室。小さく音楽が聴こえてくる。
“ まだ誰か残って練習してる?”
こっそり覗くと、ミンジェだった。相変わらず、一瞬で目が離せなくなる力強いのに繊細な動き。つい、うっとりと見てしまい、時間が経つのも忘れる…。
“ いつもひとりで練習してるんだ…。”
帰りが遅くなって、たまたま見つけたミンジェの個人練習。僕にとってそれは、宝物を見つけたようなセレンディピティだった。
その日から、ミンジェが練習している時は覗いて帰るのが日課になった。
彼は僕が覗いてる事には、多分気がついていない。
高鳴る胸を抑えて、息を潜めて。
これは、ダンスの勉強なんだと自分に言い聞かせる。じゃないと、こんな風に彼を見つめてしまう自分に理由がない。
音取りが合わないからと、何度も同じ所を練習している。それを見ている僕だって、もう何度目かわからないのに。
突然、パタッとミンジェが倒れた。
そして、動かない。
僕は、耳の奥でどくどくと大きくなってきた心臓の音に押されるように、練習室に入った。
ミンジェに、ゆっくりと近寄る。
“ 息してる…。良かった………。”
Tシャツが汗でびしょびしょになっていて、脱水症状を心配してしまう。持っていたタオルで首の汗を拭き、そっと身体に触れた。
「う…んん」
“ 僕、何してんの!?”
ミンジェが小さな声を出したので、ビクッと手を引っ込めた。
“ そ、そうだ!マッサージ!マッサージしてあげるんだよ!”
もう一度肩や腕に手をあてて、少しずつ擦り親指に力を込めていく。筋肉質なのに、意外と骨が細い。
僕はいつしかミンジェの筋肉フェチになり、凝り固まった部分を解す事にやりがいを見いだしていった。
またがむしゃらに踊っていたが、明らかに以前の自分と違う身体の動きに、プロデューサーも嬉しそうにしてくれて僕はデビューに向けてよりいっそう励む。減量や練習はキツいけど、チームの皆となら頑張る事が出来た。
そんな中でのスヒョンとミンジェは、いつもうるさい位に元気が良かった。
二人ともよく笑う。笑いながら、僕を構う。
僕は正直、義兄にそんな顔をさせるミンジェに、興味を持っていた。
よくよく二人を観察してみると、ミンジェはスヒョンの世話をよくしている。
しかも、スヒョンがして欲しい事を、何も聞かずに先回りしてやっているので、以心伝心かと思うほど。そしてその度に、スヒョンはとても綺麗な笑顔で「ミンジェ…ありがとう」と小さく呟いている。
スヒョンが、指が細くて綺麗な手をミンジェに差し伸べると、ミンジェは意外とプクプクした小さな手でその手を取る。
そして二人は、しっかりと、握り合う…。
それがまるで、愛し合ってるみたいだった。
そこに何食わぬ顔をして僕が近寄ると、スヒョンが“ 邪魔しないで ”と睨んでくる。
急いで自分の懐にミンジェをしまい込み、二人の世界を展開する。
僕はついこの間まで、そのポジションに居たはずなのに……。
だからミンジェが、時々スヒョンの腕をすり抜けて僕の所へやってきても、意味のわからない苛立ちが込み上げてくるばかりだ。
ミンジェに、どうやって接したら良いかわからない。素っ気なくすればする程、ミンジェが僕を構いだす…。スヒョンとギクシャクする…。
僕たちの間に、変なループが出来上がっていた。
僕はそんなジレンマを、『歌うこと』で紛らわす事が多かったけれど、変声期の所為で思うように声が出なくて、思わず涙が零れる日も多かった。
そんな時、ミンジェは僕を抱きしめて囁くのだ。
「僕…ヨングの歌声…、大好き」
顔を上げると、ふんわり細められた糸目と、ふっくらした白い頬がすぐそばにあった。
涙が零れそうになり、“ あぁ、スヒョンィヒョンは、この微笑みに落ちたんだ…”と思ってしまった。
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メンバーの団体練習が終わると、ヒョンたちは作業部屋に行く。“僕も作業部屋が欲しい!”と言ったら、考えておくよと返事を貰った。作曲や撮り溜めた映像などの編集に使っている、部屋のクローゼットではだいぶ手狭になってきていた。
僕はその日、ボイストレーニングの日で深夜近くなり、いつもより遅い時間に事務所の廊下を歩いていた。
通りかかったダンス練習室。小さく音楽が聴こえてくる。
“ まだ誰か残って練習してる?”
こっそり覗くと、ミンジェだった。相変わらず、一瞬で目が離せなくなる力強いのに繊細な動き。つい、うっとりと見てしまい、時間が経つのも忘れる…。
“ いつもひとりで練習してるんだ…。”
帰りが遅くなって、たまたま見つけたミンジェの個人練習。僕にとってそれは、宝物を見つけたようなセレンディピティだった。
その日から、ミンジェが練習している時は覗いて帰るのが日課になった。
彼は僕が覗いてる事には、多分気がついていない。
高鳴る胸を抑えて、息を潜めて。
これは、ダンスの勉強なんだと自分に言い聞かせる。じゃないと、こんな風に彼を見つめてしまう自分に理由がない。
音取りが合わないからと、何度も同じ所を練習している。それを見ている僕だって、もう何度目かわからないのに。
突然、パタッとミンジェが倒れた。
そして、動かない。
僕は、耳の奥でどくどくと大きくなってきた心臓の音に押されるように、練習室に入った。
ミンジェに、ゆっくりと近寄る。
“ 息してる…。良かった………。”
Tシャツが汗でびしょびしょになっていて、脱水症状を心配してしまう。持っていたタオルで首の汗を拭き、そっと身体に触れた。
「う…んん」
“ 僕、何してんの!?”
ミンジェが小さな声を出したので、ビクッと手を引っ込めた。
“ そ、そうだ!マッサージ!マッサージしてあげるんだよ!”
もう一度肩や腕に手をあてて、少しずつ擦り親指に力を込めていく。筋肉質なのに、意外と骨が細い。
僕はいつしかミンジェの筋肉フェチになり、凝り固まった部分を解す事にやりがいを見いだしていった。
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