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僕たちのこじれた関係①
3. side M ③
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僕は一緒に練習してくれるヨングの事を、もっと好きになってしまった。共有する時間が増えた事も嬉しかったし、今まで知らなかった個人的な話も出来るようになった。
それまで辛かった練習は、彼のおかげで楽しい時間になったし、時々スヒョンもやってきて3人でふざけあい、練習にならない時もあった。
ヨングは年下だったけど、練習生としては先輩だ。ダンスについての悩みをきちんと聞いてくれて、相談しても真剣に考えてくれた。
「ミンジェニヒョンのダンス、僕は格好いいと思います。ミンジェニヒョンにしか出来ない動きがあって、魅力的で、誰にも真似出来ない」
僕は飲みかけのペットボトルの水を、危うく吹き出してしまう所だった。僕のダンスについて、熱く語り始めたヨングに戸惑う。
「な、なに?急に///」
二人でいつものように練習して、冷たい鏡に寄りかかり水分補給をしていた時だった。赤くなった僕と同じくらい赤くなったヨングが、僕の腕を引っ張りクルッと後ろ向きにすると、まるでバックハグするように肩を固定され、肩甲骨の間をマッサージされる。
「…んっ、…そ、こはちょっと痛い。」
鏡越しに眼で痛いと訴えた所は、丁寧に揉みほぐしてもらえた。僕の表情を見ながら加減してくれるのは良いけれど、思わず変な声が出てしまうと何だか恥ずかしい。目を閉じれば、よりいっそう視線を感じてしまい何だかモジモジする。
「あ…ぅ、」
「気持ちいいですか?」
「ん…、きもち…ぃぃ」
ヨングは、僕専属の整体師になりつつある。気持ち良い所も、凝り固まった所も把握されている。変な気分になる僕が、変なのだ。
僕は少しずつ自分のダンスを肯定し始めていて、以前のように踊れなくて涙が出るような事は、ほとんど無くなっていた。だけど自己評価と、他人から見た評価では肯定感が全く違ってくる。
ヨングが僕のダンスや表現を好きだと言ってくれる事も、兄として慕ってくれる事も、素直に嬉しかった。もう無言でマッサージされる事もなくなって、お互いを支え合える良いチームメイトだ。
デビューへ向けて準備をしている間も、僕たちは仲良しで関係は上手くいっていた。僕は自分の気持ちを隠さずヨングに接していて、照れたようにはにかむ彼が可愛くて大好きだった。写真集や色々な動画の撮影で、メンバー以外の人との接し方に戸惑うヨングを、前面に立ってフォローしていた。
僕たちは、上手くいっていた……。
それなのに、何故かまたヨングの塩対応が始まった……。
その時、僕のヨングへの恋心は、自分でもどうしていいかわからない程膨らみ、いつか風船が割れるように一瞬で壊れてしまいそうな危うさを秘めていた。
もう、ヨングの塩対応に耐えられないほど、弱くなっていた自分に驚く。
僕が何かしてしまったなら謝りたい。もしかしたら、先日デビューする番組の日程を発表されて、嬉しくてヨングに抱きついて、頬にキスしてしまったのがよっぽど嫌だったのかも?
スタッフや、メンバーもいて恥ずかしかったから?
僕はヨングとちゃんと話したいと思い、今日もめげずに練習へ誘う。
「ヨングァ~!一緒に練習しよっ!」
「………。」
団体でのダンス練習が終わって、年上組は作業部屋に移動。スヒョンは課題が残ってるからと、宿舎に帰ろうとしている。
僕は、ヨングと二人きりだ!と嬉しさを隠しもせずに彼に抱きつこうとし、その腕をぺしっと叩かれてぼーぜんと立ち尽くした。年下のヨングに叩かれた事を非難するよりも、ショックが大きくて頭が真っ白になった。
「え?」
「練習、ひとりでやって下さい。僕も課題が残ってるので。来週テストだし、しばらくは無理です」
「わ、かった。テスト…頑張って…。」
理由は、わかった。けれど叩かれた腕が、ピリピリと痛い。胸の奥だって、心臓がズキズキとする。話も出来ないような雰囲気に、スヒョンと連れ立って帰るヨングを、ただ見送ってしまった。
それをきっかけに僕のダンス練習は、またひとりぼっちへと戻ってしまった。最近は、入り口のドアが開かないか、確認してしまうのが癖になりつつある。
ヨングが「僕も付き合います!」って入ってくる事を期待して。
あるいは、僕の身体を心配してマッサージをしに来てくれるんじゃないかと、思ったり。
そんな風に頭の中が、ダンスをしていてもヨングに占められている。
だめだめ!新しい曲はノリも良くて、ちょっとでもズレたらあっという間に置いていかれる。
もっと、音の世界に。
入り込んで…。
僕だけが掴める音を、逃がさないように…。
何も、考えなくてすむように……。
ヨングのことを、
考えなくてすむように……。
僕はひたすら踊り続けて、振付けを仕上げていった。首から肩へ残る痛みにも、気づかない振りをして。
それまで辛かった練習は、彼のおかげで楽しい時間になったし、時々スヒョンもやってきて3人でふざけあい、練習にならない時もあった。
ヨングは年下だったけど、練習生としては先輩だ。ダンスについての悩みをきちんと聞いてくれて、相談しても真剣に考えてくれた。
「ミンジェニヒョンのダンス、僕は格好いいと思います。ミンジェニヒョンにしか出来ない動きがあって、魅力的で、誰にも真似出来ない」
僕は飲みかけのペットボトルの水を、危うく吹き出してしまう所だった。僕のダンスについて、熱く語り始めたヨングに戸惑う。
「な、なに?急に///」
二人でいつものように練習して、冷たい鏡に寄りかかり水分補給をしていた時だった。赤くなった僕と同じくらい赤くなったヨングが、僕の腕を引っ張りクルッと後ろ向きにすると、まるでバックハグするように肩を固定され、肩甲骨の間をマッサージされる。
「…んっ、…そ、こはちょっと痛い。」
鏡越しに眼で痛いと訴えた所は、丁寧に揉みほぐしてもらえた。僕の表情を見ながら加減してくれるのは良いけれど、思わず変な声が出てしまうと何だか恥ずかしい。目を閉じれば、よりいっそう視線を感じてしまい何だかモジモジする。
「あ…ぅ、」
「気持ちいいですか?」
「ん…、きもち…ぃぃ」
ヨングは、僕専属の整体師になりつつある。気持ち良い所も、凝り固まった所も把握されている。変な気分になる僕が、変なのだ。
僕は少しずつ自分のダンスを肯定し始めていて、以前のように踊れなくて涙が出るような事は、ほとんど無くなっていた。だけど自己評価と、他人から見た評価では肯定感が全く違ってくる。
ヨングが僕のダンスや表現を好きだと言ってくれる事も、兄として慕ってくれる事も、素直に嬉しかった。もう無言でマッサージされる事もなくなって、お互いを支え合える良いチームメイトだ。
デビューへ向けて準備をしている間も、僕たちは仲良しで関係は上手くいっていた。僕は自分の気持ちを隠さずヨングに接していて、照れたようにはにかむ彼が可愛くて大好きだった。写真集や色々な動画の撮影で、メンバー以外の人との接し方に戸惑うヨングを、前面に立ってフォローしていた。
僕たちは、上手くいっていた……。
それなのに、何故かまたヨングの塩対応が始まった……。
その時、僕のヨングへの恋心は、自分でもどうしていいかわからない程膨らみ、いつか風船が割れるように一瞬で壊れてしまいそうな危うさを秘めていた。
もう、ヨングの塩対応に耐えられないほど、弱くなっていた自分に驚く。
僕が何かしてしまったなら謝りたい。もしかしたら、先日デビューする番組の日程を発表されて、嬉しくてヨングに抱きついて、頬にキスしてしまったのがよっぽど嫌だったのかも?
スタッフや、メンバーもいて恥ずかしかったから?
僕はヨングとちゃんと話したいと思い、今日もめげずに練習へ誘う。
「ヨングァ~!一緒に練習しよっ!」
「………。」
団体でのダンス練習が終わって、年上組は作業部屋に移動。スヒョンは課題が残ってるからと、宿舎に帰ろうとしている。
僕は、ヨングと二人きりだ!と嬉しさを隠しもせずに彼に抱きつこうとし、その腕をぺしっと叩かれてぼーぜんと立ち尽くした。年下のヨングに叩かれた事を非難するよりも、ショックが大きくて頭が真っ白になった。
「え?」
「練習、ひとりでやって下さい。僕も課題が残ってるので。来週テストだし、しばらくは無理です」
「わ、かった。テスト…頑張って…。」
理由は、わかった。けれど叩かれた腕が、ピリピリと痛い。胸の奥だって、心臓がズキズキとする。話も出来ないような雰囲気に、スヒョンと連れ立って帰るヨングを、ただ見送ってしまった。
それをきっかけに僕のダンス練習は、またひとりぼっちへと戻ってしまった。最近は、入り口のドアが開かないか、確認してしまうのが癖になりつつある。
ヨングが「僕も付き合います!」って入ってくる事を期待して。
あるいは、僕の身体を心配してマッサージをしに来てくれるんじゃないかと、思ったり。
そんな風に頭の中が、ダンスをしていてもヨングに占められている。
だめだめ!新しい曲はノリも良くて、ちょっとでもズレたらあっという間に置いていかれる。
もっと、音の世界に。
入り込んで…。
僕だけが掴める音を、逃がさないように…。
何も、考えなくてすむように……。
ヨングのことを、
考えなくてすむように……。
僕はひたすら踊り続けて、振付けを仕上げていった。首から肩へ残る痛みにも、気づかない振りをして。
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