上 下
19 / 26
第一章

18.

しおりを挟む
    僕は、何故今まで『ジミル』の事を忘れていたのだろうか。それとも誰かが意図的に・・・・・・忘れさせていたのか。
    補佐官になるために同じ学校に通わないかと誘っておいて、あれから一度も会っていないし探そうともしていなかった。もしかしたらジミルは故郷で、僕からの連絡をひたすら待っていたかもしれないのに!
    
    今まで一度も思い出さなかった『ジミル』という少年が、実はジミルなのだとしたら。再会して『ジミル』だと気がついていない僕の事を、どう思っていたのだろう。
    社交界デビューセレモニーで僕を見かけて、それが初恋だと言っていたし、自力で補佐官になるために頑張ってきて、宰相の推薦文までもぎ取った。
    僕に会って、何故連絡をくれなかったのかと責めたりもしない。

    まだたった1日しか一緒に過ごしていないけれど、ジミルが優しくて僕に懐いているのがわかる。

    だけど、ジミルが『ジミル』なのだとしたら。
    ジミルが、天使だという事だ。

    では何のために金髪を黒く染めて、僕の補佐官になることを目指しているのか。
    どうして僕と一緒に生きようとしているのか。

 " ジミル……あなたは『ジミル』なの? そして僕を助けてくれた天使なの? "



    ジミルは僕を大学まで送り、スーツのまま護衛に就いていたから、やはり大変目立ち大人気だった。スーツだからこそ任務中だと思わせ、声を掛けるのが憚られていたが、プレゼントした服を着ていたらどうなっていたかとゾッとする。

    僕の追っかけをしている女生徒たちは、『王子が天使を連れている!』『新人の護衛がイケてる!』として挙って僕とジミルのツーショットを携帯で撮影していた。
    僕はもやもやしていたから彼女たちに笑顔を向ける事が出来なくて、「今日の王子機嫌わるーい!」と揶揄されてしまったが、その分ジミルが「ジョン様がお世話になっております」と愛想を振り撒き、その効果は絶大だった。
    僕はそれも面白くなかった。欲を言えば、ジミルを誰の目にも触れさせたくない。わがままにも程があるとわかっていても、ジミルの目に写るのが僕だけであって欲しい。

    もちろんジミルは、僕とのギクシャクとした空気に可哀相になるほど戸惑っていた。僕をアルバイト先のパン屋へ送った後も、「お気をつけて」と頭を下げ視線を合わせなかった。
    そんなジミルの頭頂部の僅かに見える金髪を眺め、やはりこのままではいけないと思い直す。

「ジミルは何パンが好き?」

    ジミルは顔を上げてキョトンとし少し考え、はにかんで答えた。

「あの……SNSで見たんですけど、こうチーズがたくさん入っててビヨ~ンってやつが食べたいです」

「わかった。ビヨ~ンってやつね。お土産にもらって帰るよ」

「はい!ありがとうございます!」

    可愛いっ!目をキラキラさせて!
    そんなに食べたかったんだね……。
    そんな可愛い表情をされたら、何もかもどうでも良くなって、ただジミルを好きでいたい大事にしたいこの気持ちを大切にしたい!そう思えていた。
    
    『ジミルは天使なの?』

    それを訊ねたら、この関係が壊れてしまう気がした……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼が幸せになるまで

花田トギ
BL
 一緒に暮らしていた男の息子蒼汰(そうた)と暮らす寺内侑吾(てらうちゆうご)は今ではシングルファザーだ。  何やらワケアリの侑吾に惹かれるのは職場の常連の金持ち、新しく常連になった太眉の男――だけではなさそうである。  ワケアリ子持ち独身マイナス思考な侑吾くんが皆に好き好きされるお話です。 登場人物 寺内侑吾 てらうちゆうご 主人公 訳あり 美しい男 蒼太 そうた 雪さん(元彼)の息子 近藤夏輝 こんどうなつき 人懐こいマッチョ 鷹司真 たかつかさまこと 金持ちマッチョ 晃さん あきらさん 関西弁の大家さん

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...