魔族勇者の自堕落戦記

たぬまる

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切り離される世界

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「じじぃ、ついに聖剣を手に入れたぞ」

 魔王の執務室の扉を開き、ジャンが飛び込んだ。

「おお、ついにか・・・」

 魔王も怒る事無くジャンの報告を聞き、喜んで立ち上がると、ジャンを抱きしめ涙を流した。

「辛い役目をすまなかった・・・これで魔族は・・・」

「じじぃ気にすんな、今四天王に頼んでイッコウの街を中心に巨大な壁を建設中だ。
 後4~5日中に完成するだろうさ」

「そうか・・・そうか」

 なおも涙を流し続ける魔王の背中をポンポンとなだめるように叩くと

「じじぃ・・・まだ全てが終ったわけじゃない。
 確りしろ」

「そうだな・・・魔剣の勇者になってしまった孫娘を男に仕立て、重荷を背負わせてしまった。
 そんなワシが最後まで気を抜くわけにはいかぬな」

 魔王はそう言うと、部下を呼び寄せ

「早速視察に行く、ジャンの報告にあった人族の勇者共との謁見も行なう」

「は!」


 5日後、城塞都市イッコウを中心とし、崖沿いに長大な壁が完成した。

 魔王はイッコウの領主館の謁見の間に入り、この5日間挨拶に訪れる魔族貴族や軍閥氏族などの謁見に追われ、今日やっと人族の勇者達の謁見の時間が出来た。

「魔王様、人族の勇者を連れてまいりました。
 かなり、御見苦しいと思いますが、ご容赦を」

 魔族兵に連れて来られたツイは口から涎をたらし、ブツブツと聞き取れないような言葉を言っていた。

「これが人族の勇者か・・・」

「は!どうやらパーティーメンバーに罵られ、我らが何度も止めたのですが、寝たきりのこやつに暴力を振るい続けて、仕方なく別室に移して暫くしたらこうなりまして・・・」

 ため息をつくと魔王はツイに哀れみの目を向けた。

「哀れなものだな・・・
 ジャンを呼んでくれ」

 ジャンが到着すると、魔王はジャンにツイを見るように目で合図する。

「これぐらいなら、回復魔法でどうにかなりそうだな」

 魔剣から柔らかな光が溢れ、ツイに降り注ぐと、ツイの目が正気に戻った。

「ここは・・・君はジャン?」

「ふむ、人族の勇者よ、名はなんと言う?」
 魔王がツイの目の前に立ち声をかけると、その威圧感に思わず顔を上げた。

「ぬぉ!だ、誰だい?」

「余は魔王ジャックだ、人族の勇者よ」

「まおう・・・僕はひとぞくん・・・ゴホン、人族の勇者ツイだよ」

 嚙んだがどうにか挨拶が出来たツイは小さくため息をついた。

「そうか、ツイよ。
 こやつが我が魔族の勇者ジャンだ」

「ジャンだ。貴様の聖剣、使い物にならないほど壊れておったぞ。
 聖剣も魔剣もある程度は再生するが、ミスリルの心材が割れればもう使えなくなる。
 もう少し手入れをしたらどうなんだ」

 ジャンの言葉に顔を向け、驚きのあまり目を見開いて震えていた。

「な・・・んだって・・・」

「7つのコアストーンの内5個砕けていたし、修繕は未だ終ってないんだぞ」

「な、直るのかい?」

 恐る恐る問いかけるツイに、ニヤリとした笑みを浮かべると

「元論だ、貴様が使っていた状態よりもかなり良い状態にして直すに決まっている」

「ありがとう・・・でも何故そこまでしてくれるのかな」

「ふむ」

 ジャンは顎手を当てると、胸を張り

「それは俺がやりたいからだ。そもそも魔剣も聖剣も素晴らしい物だ、それを壊したままなど許せるはずが無いだろう」

「ジャン、時間が無い」

「そうか」

「人族の勇者よ、お前達は捕虜だ。
 だが、冥王の秤を受けてもらい、正に傾いたもののみ我が国で受け入れよう。
 邪に傾いた者はその記録を投影され全てをさらされた上で、修理が終った聖剣による断罪が行なわれる」

 魔王の言葉に驚いた顔をして、ツイは震えるようにジャンと魔王の間を視線を彷徨わせた。

「ま、まさか、あの神話の裁判・・・」

「そうだ、裁判は明日行なわれる」

「仕方ないね、罪があれば受け入れよう」

 そう言ってうな垂れるツイは素直に受け入れたようだった。


 次の日、聖剣の使われた冥王の秤の前に連れてこられたのは、人族の勇者とその元パーティメンバーだった。

 秤の上手に魔王とジャンが座り、罪人のようにツイとその元メンバーが地面に押し付けるように座らされていた。

「これより、人族の勇者パーティの裁判を行なう!」

 そう言って魔族の裁判官はツイを巨大な天秤の上に載せ、反対に聖剣が乗せられた。

 聖剣から光が伸び、中空に魔族を追い詰めて殺す姿が映し出され、次々と罪が暴かれていく。
 明らかに身に覚えのある映像に、ツイは黙っていたが、パーティメンバーは明らかに動揺していた。
 自分の悪事も晒される・・・三人は明らかにツイ以上の悪事が・・・

”この者の裁きは・・・民への奉仕3年、束縛の首輪を施す”

 無機質な声が聞こえたと同時に、ツイの首には白いエナメルの首輪がはまっていた。

「この者は3年の民への奉仕と決まった」

 それを見てクールが悲鳴じみた声を上げた。

「いやよ!何故高貴なるエルフのワタクシがこんな目に!
貴方達、下等な裏切り者のエルフを守るなら、ワタクシも守りなさい!」

「次はその女だ」

 魔王がクールを指名すると猿轡をかまされ、秤の上に放り投げられた。

 そこに映ったのはツイも目を背けるような恐ろしい光景だった。

 裸に向かれた5~6歳の少年魔族達を徐々に石化していき、泣き喚いた姿で石像にして、その石像を嘗め回す。
 別の場面では、人族の少年を拷問し火あぶりにしてウットリとした顔でそれを見つめるクールが映し出されていた。

 クールは顔を赤くして必死に何かを叫んだが、

”この者への裁きは・・・地獄流し・・・醜い己の罪を生きたまま地獄へ流され悔いるが良い”

 クールの下に黒い穴が開き無数の死者の手がその中にクールを引きずり込んでしまった。

「次は大賢者か・・・」

「ま、待たれよ!わしは裁かれる覚えはもごもご」

 秤に載せられると、人体実験に若い女性を生きたまま切り裂き、悶える姿をつぶさに記憶の水晶に記録し、夜な夜なそれを見て楽しむ姿が映し出された。

 泣き喚きながら首を振り否定するが、証拠の映像がそれを許さない。

 さらに、バラバラになった人体を魔物と融合させキメラを作り、殺し合わせて賭けさせ、稼いだ金貨に埋もれて楽しむ姿が衝撃を生んだ。

””この者への裁きは・・・幻影地獄・・・己の行なった全ての悪行をその身に受け続けるが良い”

 バルは悲鳴を上げてもがき苦しみ、正気に戻りを繰り返し、その不気味な行動のまま地下牢へと連れて行かれた。

「最後は」

「ま、った、ワシは自分から告白するぞ」

 自らの罪を告白しようとするが、魔王はそれを許さず秤の上に載せる。

 映し出されたのはピンが攫ってきた女子供を赤く燃え滾る炉に生贄と称して放り込み、処女の血で金属を冷ます姿が映し出された。

 人の皮をはぎ、自分の鎧の内張りにしたりと、あまりの狂気を客観的に見せられたピンは顎が外れんばかりに口を開き、呆然としていた。

”この者への裁きは・・・永遠放浪の刑に処す・・・自らの欲におぼれた自らが落ち着く場所は無いと知れ”

 束縛を解かれたピンは何故だか悲鳴を上げて走り去っていった。

「さて、勇者よ、他の人族の世話を頼む。
 魔族の中にはおぬし達を憎むものも居るがそれが全てではない、同じ土地に住まうのだ、争いの無いよう計らってくれ」

 魔王はそう言って頭を下げると、この日の裁判は終った。


 その後作り上げられた城壁の左右に魔剣と聖剣が安置されると、時空が切り取られ、人族の世界から完全に切り離された。

 こうして人族は魔族の土地と次元が違うため攻め込むことも出来ず、同族同士で争う姿が見られるようになった。
 
 ピンは人族の世界を彷徨い、欲望の醜さを伝え、宗教として人族の主宗教なったという。
 その教えを伝えるため、今なお地獄のような辛さを抱え世界を巡っているという。
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