魔族勇者の自堕落戦記

たぬまる

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人族連合崩壊

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 人族の聖王城にて世界各国の王族が集まり、魔族戦の今後について話し合われていた。

「魔族に戦を仕掛けたのが失敗だったのだ」

「何を言う!今は思いがけない反撃に合っているだけだ、すぐに巻き返す」

「すぐにだと!連合軍の損亡率は7割を超え8割に届こうとしているのにか!!」

「勇者が居れば直ぐに巻き返せる」

「あの・・・報告によれば勇者がするような第二形態に魔族は雑兵まで変化するとありますが」

「ふん、どうせ幻術の類だろう。勇者の傷が癒え次第、全軍上げて攻め込めば終わりだ」

 雰囲気が最悪な状態で会議は進み、結局ソクラとその従属国の決定で、10日後に城塞都市イッコウへ全軍で攻め込むことが決まった。


「ふふふ、愚かな事を」

 情報収集部が人族の城に忍ばせた蜘蛛からの中継を映し出す壁の映像を見て哀れんでしまっていた。
 それを後ろから見ていたジャンがニヤリと笑うと

「じゃあ、予定通りやるぞ」

「ふふふ、ジャン様も恐ろしいことを考えますね」

「俺だからな♪
 早速仕込んでくるわ」

 そう言って闇に溶けるように消えたジャンを見送ると、壁に映し出されているソクラ王を突いて

「かわいそう、こんなオヤジのために大量に兵士が死ぬのね♥」

 そう言うと再び情報収集を始めるために目を閉じるのだった。


 勇者を中心に連合軍およそ3万の兵が、勇者を先頭に城塞都市イッコウへと進んでいた。
 人間側のイッコウへの道は断崖絶壁の谷間への道一本だけであり、そこを進むために軍隊は細長くならざるおえなかった。

「此処で襲撃されたらひとたまりも無いな」

「魔族にそんな知恵はあるまい」

 兵士達のそんな会話が勇者の耳に入り、ハッとしたように顔を上げると、そこには赤い炎を象ったような鎧を着たカズマが同じく赤い羽根を広げて自分達を見下ろしているのが見えた。

 一瞬身体に冷たい風が吹いたような感覚になり、思わず身体を抱きしめていた。

「逃げろ」

 ツイの呟きは直ぐそばにいたクールの耳だけに届き、ツイと同じ様に空を見上げると青い顔をして

「みんな防御形態、風の精霊シルフよ新緑の盾を・・・」

 慌てて両手を突き出し風の防御精霊魔法を唱えたが、隕石のような炎を纏った巨石が軍後方に降り注ぎ、輜重隊を吹き飛ばし更にその後方の道を完全に塞いでしまった。

 完全に不意をつかれ恐慌に陥り、軍の先方にまるでツイのような白銀の鎧を纏ったひょろっとした魔族が降り立ち声を上げた。

「人族の勇者よ、俺は魔族の勇者ジャンだ。
 一騎打ちをしようじゃないか、お前が勝てばイッコウをくれてやる、負ければ皆殺しだ」

 あまりに挑発的なジャンの言葉に若干震えながらツイは前に出ると

「ぼ、僕は人族の勇者ツイ、一騎打ちを受けるよ。
 出来れば手加減をして欲しいなぁ」

 情けないお願いをするが

「こんなにひ弱な俺に手加減を望むか?
 まぁ無理だがな」

  そうジャンは言って一足飛びにツイに切りかかる。

「ぐ、モードチェンジ」

 ツイも同じ状態に変身し剣を受け止めるが、細身のジャンからは想像できない程の衝撃を受け、受け止めきれずに吹き飛ばされ、地面を舐めるようにかなり後ろに飛ばされた。

「や、やるじゃないか。
 カズマ君より強いとは驚きだよ、だが!僕の必殺技を受けても平気かな?」

「めんどくせぇ
 おら、大聖光邪神滅斬」

 正に自分が出そうとしていた必殺技を先に出されて、目を向くほど驚き、七色の光に押しつぶされ戦闘不能に成ってしまった。

「さて、お前らには選択肢がある。
1 このまま戦闘を継続し全滅

2 降伏しイッコウの町で魔族に支配されながら暮らす

3 人族を辞める

どれにする?」

 勇者が倒され心があっさりと折れた連合軍は、2を受け入れ魔族の軍門に下ったのだった。



 一方敗戦の報告を受けた聖王城は阿鼻叫喚の地獄になっていた。

「だから言ったのだ!しかも聖剣も失ってしまうなど何たる愚!」

「聖剣はならなず戻ってくる!此処が聖剣の鞘だ、必ず戻る」

 自身があるようにふんぞり返るソクラ王は円卓中央にある聖剣が突き刺さっていた台座を指差した。
 だが、その直後台座が砕け、外を覆っていた七色の結界も砕け散った。

「だぁぁぁぁ」

「終わりだ・・・超戦略兵器たる聖剣が失われてしまった」

 恐慌に陥る各国王達。

「そうだ、ブリース大神官に神託を聞いてもらおう」

「ダメだ!もう処刑してしまった」

「ジャピオン神官長や聖女ワーキュレイは」

「反対派は皆殺しにしてしまった・・・」

 ソクラ王は円卓に両手を突いてうな垂れる。

「なら、誰が居る!神託の加護を持った者は皆殺しにしたと言うのか!!!」

「仕方ないだろう!あまつさえワシの友に有利な様に計らった事をばらしおって。
 ワシは王だ、死刑にしても良かろう」

「神殿は王族と違う!神官を殺せば王族とて死罪だ、神官を裁けるのは神殿だ!
 事ここに及んで神託を得られなければ、我らはどう進めば良いか解らぬ!
 聖剣の事も何も解らないだろう」

 そう言って問い詰める王に向かってソクラ王は立ち上がり指を突きつけると

「貴様!ワシを責めるなら貴様も死刑だ!!」

「俺は他国の王だぞ、しかもゾウシン、貴様の愚策のお陰で貴様の国には今兵が居ない!
 我が国には30000の兵が残っておる!覚悟しろ!」

 そう言って立ち去ると、次々に各国の王が出て行き、円卓の間には呆然とするソクラ王ゾウシンが残った。

 こうして人族の連合は瓦解し、我侭放題に振舞ったゾウシン王は国民からも見捨てられ、寂しい余生を過ごすことになったと言う。
 それは、もう少し先の話。
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