上 下
26 / 52

引きこもり134~136日目

しおりを挟む
引きこもり134日目

 フランソワに頼まれ領都ハラギリンに来ていた。

「お嬢様、王妃様からお茶会のご招待が届きまして」

「え?無理だよ」

 あっさり拒否するサーシャの手を取って、ニッコリと笑うと

「王妃様のお茶会だけで良いんですわ、他は無視いたしますわ」

「どうしても行かないとダメなの?」

「はい、今回ばかりはお断りしづらい状況でして」

 はぁっとため息をついて諦めたように

「わかったよ、何時だっけ?」

「明後日です」

「え!!仕方ない、急いで準備してお茶会の前に寄るからね」

 そう言って転移していくサーシャを見送ると、後ろにいたシルベルトに

「王妃様には悪意は無いと思うのですが、御使者の方には良い空気を感じませんでした。」

「承知しました」

 そう言って退室した後、王都へ向かったシルベルトは情報収集に動き出した。


引きこもり136日目

 サーシャは王妃のお茶会に参加するために、王城の中庭に大きな亀を4匹引き連れてやってきた。

「王妃様お招きありがとうございます」

「此方こそありがとう、サーシャさんに来てもらえると堅苦しいお茶会も少し気が楽になるわ。
ところで、その可愛いのはなんですの?」

 気になっていたのか、チラチラと見ていた亀の事を聞いてきた。

「これは紅茶亀と言って甲羅の蛇口から四種類の紅茶が出るんです。
で、これが」

 甲羅の上部を押すと、大量に小亀が宙に舞い、一匹を呼び寄せると近くにあったティーカップを背中の窪みに置く。

「こうやって置いた人の邪魔にならない所を飛んで付いて来てくれるんですよ」

「何それ凄いわね、あと気楽にしたいから何時ものように喋ってね」

 王妃はそう言うと、手に持っていたティーカップを甲羅の上に乗せると、

「ホントに便利ね、これ私がお茶会をする時に借りても良いかしら?)

「良いですよ、それと前に頼まれていた家のお風呂グッズです」

 綺麗にラッピングされた袋を手渡すと、王妃は飛び上がって喜んだ。

「これよ~サーシャからお話を聞いて欲しかったのよね♪
 トータルボディークレンジングだっけ?
 あれやってみたかったの」

 そう言って紙袋の中から小さなタヌキ型ゴーレムを取り出して目を細めた。

「王妃様此方の方をご紹介いただけますか?」

 その後、サーシャは色々な貴族夫人達に引き合わされ、ヘトヘトになりイスに座り込んでいると。

「グリンーウッド様、こちらは殿下からでございます」

 メイドが差し出したバラの花束をサーシャが受け取ろうとした時、物陰からシルベルトが現れて手を伸ばし、サーシャが受け取るのを止めると。

「失礼、これはホントに殿下ご本人からでしょうか?」

「え?勿論です」

「ほう、では、この毒針も殿下からなのですな」

 そう言うと花束の持ち手に仕込まれていた毒針を取り出しメイドに問い詰める。

「どうしたの?」
 
 王妃がやってきて事情を聞くと、一瞬暗い笑顔になり、指を鳴らすと執事の団体がメイドを取り押さえた。

「私のお茶会で、なんと言う無作法!裏に居る人間を吐かせなさい」

「は」

「ごめんなさいね、犯人にはキッチリと責任を取ってもらうから、今回は納めてもらえるかしら?」

 王妃がニッコリと笑うと、サーシャもニッコリ笑って答えた。

「シルベルトさん、よくわかったね」

「はい、フランソワ様が使者殿に違和感を覚えたようで、少し調べました所、怪しげな輩からお金を受け取っておりました。後を付けましたら王城に入っていったので、情報を集めていたのです。」

 シルベルトの報告を聞いて王妃はシルベルトに耳打ちすると、シルベルトは他の執事達と奥へと移動していった。

「私なんて暗殺しても仕方ないのに」

 サーシャの呟きに王妃はクスリと笑うと

「こんなに可愛いのに、虐めたい人が居るみたいね
 私はそんな輩を虐めたいけど・・・ね」

 ニッコリ笑う王妃に、若干犯人に同情を覚えつつ

「虐めすぎはダメですよ、被害無かったんだし」

「そうね、一寸にしておくわ。
代わりにサーシャを可愛がるとしましょう」

 そう言ってサーシャを連れて夫人達の群れに突入していく。
 サーシャの苦難はまだまだ続くようであった。


 話題のメインはサーシャの美しい髪と、爪に見事な絵やジュエリーなどがあしらわれていることだった。
 サーシャ自体は引きこもる中で暇な時に遊びでやっていた物だったが、あまりに良い出来なのはコピーを作って付け爪にしていたのだった。
 王妃に頼み込まれ、付け爪を王妃につけてみたりとバタバタと忙しくしていた。

「これ綺麗ね、綺麗なバラの絵の上に水晶やダイヤをあしらった爪は目立つし、自慢できるわ」

「また作れるし、差し上げますよ」

 気楽に答えるサーシャに王妃は目を輝かせて、「ありがとう」と微笑んだ。先ほどの暗殺事件をかき消すほどの楽しそうな声は会場の外にも聞こえていた。

 こうして、サーシャにとって苦痛な時間が過ぎ、お茶会は無事終わり、飛ぶように館へと帰っていった。

 
 引きこもり136日目夜

 シルベルトからの報告を受けて、フランソワは眉間に皺を寄せて怒りを表していた。

「で?暗殺の依頼者はわかっているのかしら?」

「はい、モミジ殿のゴーレムが突き止めました」

「そう・・・後は暗殺集団の居場所は?」

「確実に追い詰めて、王都のこの位置に」

 シルベルトが指し示したのはポツン侯爵邸だった。

「つまり、依頼者と暗殺集団を一箇所に集めていると」

 ニヤリと笑うフランソワは、王妃宛に手紙を認め

「ではこれを王妃様に」

「はっ」

 


王城にて

「そう、彼が黒幕なのね」

 はぁっとため息をつき細い指で自分の頬をつつく王妃は、マルシェ王国の至宝と言われるほどの美しさを更に輝かせたような美しい笑みを浮かべ。

「じゃ、私が処理しますねとお伝えいただけて?」

「かしこまりました。
 ところでわたくしも参加させていただきたいのですが、如何ですか?」

「問題ないわよ、夜に仕掛けるから、それまでに帰ってらっしゃい」

 それを聞くと「失礼致します」とシルベルトは退室した。

その日の夜

「皆さん、この度の討伐は陛下からご許可を頂き、私が出向くことになりました。
 私のお茶会を愚弄し、可愛いサーシャを狙った極悪人は・・・
 ガタガタと震え、怯え、神に祈り、それでも生きている事を後悔させるほど苛烈に攻める!!
 てめぇら行くぞ!」

 これが、マルシェ王国の鬼神と呼ばれるミーシャ・ロッケンハイム。あまりの苛烈な用兵で炎の鬼神とも言われていた。
 個の武でもセーハランと並び立つ武人であった。
 国王と結婚し、そのなりは潜めたと言われるが、実は訓練は未だに辞めておらず、王妃執事隊は歴戦の猛者であった。

 王妃達はポツン侯爵邸に執事達がなだれ込むと、察知した暗殺者や手勢が抵抗するが、あまりに実力差が有りすぎた。

「てめぇら殺すなよ!息さえしてりゃサーシャの薬で治せる!」

「「「は!」」」

 ドンドン駆逐していく中、シルベルトは筋骨隆々な男と対峙していた。

「くそ、とんだ貧乏くじだぜ!爺さん俺を見逃しな」

「無理ですな、貴方達は我が主に牙を剥かれた」

「そうか、よっ」
 
 男は一気に間合いを詰め上段蹴りを放つが、シルベルトが片手で止めるのを確認するとそのまま飛び上がり顔に向けて膝蹴りをしたが。

「え?」

 気がついたら男は地面に転がっていた。
 身体が動かず、何をされたかわからないまま意識を狩られた。

「やるじゃない、流石はサーシャの執事ね。私にも何をしたのか解らなかったわ」

 そう言ってにこやかに笑う王妃をチラリと見ると

「いやいや、年の功といった技術ですかね」

「まぁいいわ、ポツン侯爵は私の獲物だからね」

「心得ております」

「なら良かった」

 そう言うと王妃は自分よりも大きな太刀を担いで屋敷の奥へと進んでいった。
 その日捕縛された暗殺者及び私兵は200人に及び、ポツン侯爵は毒を飲んで死にかけていた。
 サーシャ提供の解毒薬で一命を取り留めたが、家相のリン・フェイが行方不明になっており、黒幕はリンだとポツンの証言で明らかになり、指名手配となった。

 シルベルトから報告を聞いて、狼型のゴーレムに捜索を頼み、フランソワは地獄の果てまで追う事を改めて誓い、これが後に歴史にも出てくる、パチシウ国の崩壊を決定付けた瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

相手不在で進んでいく婚約解消物語

キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。 噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。 今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。 王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。 噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。   婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆ これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。 果たしてリリーは幸せになれるのか。 5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。 完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。 作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。 全て大らかな心で受け止めて下さい。 小説家になろうサンでも投稿します。 R15は念のため……。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)
BL
アシェルはオルシア大国に並ぶバーチェラ王国の侯爵令息で、フィアナ王妃の兄だ。しかし三男であるため爵位もなく、事故で足の自由を失った自分を社交界がすべてと言っても過言ではない貴族社会で求める者もいないだろうと、早々に退職を決意して田舎でのんびり過ごすことを夢見ていた。 しかし、そんなアシェルを凱旋した精鋭部隊の連隊長が褒美として欲しいと式典で言い出して……。 静かに諦めたアシェルと、にこやかに逃がす気の無いルイとの、静かな物語が幕を開ける。 「望んだものはただ、ひとつ」に出てきたバーチェラ王国フィアナ王妃の兄のお話です。 このお話単体でも全然読めると思います!

処理中です...