上 下
25 / 52

引きこもり130日目

しおりを挟む
 引きこもり130日目

 サーシャは王宮で行われている殿下の誕生日パーティーに招待されていた。

「やぁ、サーシャ様。今日はライトグリーンのドレスとてもお似合いですよ」

「殿下、誕生日おめでとう」

 にこやかに笑うサーシャだが、内心は次々に話しかけられて疲れ、もはや帰りたくて仕方なかった。
 でも、折角フランソワがドレスを選び着付けてくれたので、もう少し頑張ろうと思っていた。

「そうだ、これ誕生日プレゼントです」

 サーシャが差し出した金の腕輪を手に取り、早速つけると嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、一生の宝にしますね」

「大げさですよ。これは状態異常無効化と、初めて成功したのですが剣術がかなり上達しますよ」

「え?武技を付与できたんですか?」

 この世界は魔法以外に戦闘技術は武技として存在しているが、付与されたアイテムは存在していなかった。
 つまり、世界初のアイテムなのだった。

「ええ、因みに戦闘を行うことで記憶回路にデーターを集積して、ドンドン強くなっていきますよ。
実験のためにセーハラン用に着けていただいて戦闘訓練をしてもらったんですよ」

「え?ではこの中にセーハランの武技が?」

「殿下の身体を調べて、殿下用にカスタマイズしていますけど」

 その言葉を聞いて更に驚愕が止まらない。王国最強の武人セーハランの武技を覚えたマジックアイテムが、自分に合わせて武技を発動させてくれる・・・恐ろしいアイテムだと感じてしまったが、自分の身を案じて作ってくれた事に胸が熱くなるのを押さえられない殿下は、思わずサーシャを抱きしめたが。

「まだまだ子供ですね」

 サーシャの代わりにミーが抱きしめられていた。

「え・・・あ」

 殿下は顔を赤くして俯いてしまい、ミーはしたり顔、サーシャはミーに

「殿下が好きなら応援するよ」

 と囁き、ミーが大慌てする姿を楽しそうに見て笑うサーシャの姿があった。

 食事も、各国の料理も並び、食べたことの無い料理をサーシャは食べ、ミーは興味深そうに味を覚えていく。
 そんなのほほんとした空気が殿下の心を癒し、殿下を狙う令嬢たちは、サーシャに手を出したらダメだと親に厳重注意されていたため、遠巻きに見るしか出来なかった。

 そして、国王の挨拶、殿下の挨拶と続き、パーティーも中ほどを過ぎた時事件が起こった。

「ナスティン嬢!貴様との婚約を今この場で破棄し、このドリア準騎士爵令嬢と婚約を発表する!」

 騒ぎの中心に偉そうにふんぞり返った男と、それに抱きつく女、床に押さえつけられた女性がいた。

「貴様の悪事などドリアが確りと証言している!これに懲りたら二度と俺の前に姿を見せるな!!」

 そう言い放つが、床に押さえつけられた女性は声を上げることも無くうつむいていた。

「あ~んキキさまぁわたしぃ怖かった~」

 男キキ?に抱きついて身体をくねくねさせるドリア、その光景を見てサーシャはポソリと

「あ~、あの男アントニオに似てるわ、女はラフレシアか・・・」

 と無表情で呟くと、それを聞いたミーが素早く、ナスティンを取り押さえてる男共を蹴り飛ばし、ナスティンを確保してサーシャの側に連れてくる。

「何だ貴様!この女を庇い立てする気か?」

「キキさまぁ、この女もドリアを虐めてたんですぅ」

 そう言ってサーシャを指差すが、その指があらぬ方向へ曲がっていた。

「ほう~新緑の森のサーシャ様が貴方程度の蛆虫を虐める理由があると」

「ぎゃかぉう」

 曲がった指を押さえて転がりまわるドリアと、汚いものに触れたかのようにハンカチで手を拭くミー。
 キキは呆然として立ち尽くし、極上の笑顔の殿下はスッと前に出てくると。

「僕の誕生日に何をしてくれるのかな?
第一、君でも聞いたことがあると思うけど、此方サーシャ・グリーンウッド伯爵、僕のフィアンセだよ
 彼女の事を知っていて同じことが言えるのかな、キキ・イッパツ・クロヒゲ次期男爵?」

 殿下の極上の笑みが怖くて何もいえないキキ、ミーは転がるドリアの髪を掴み上げて何かを呟くとドリアは青ざめ恐怖に歪んだ顔で固まっていた。
 因みにサーシャはナスティンの介抱のため一切聞いていなかった。

 サーシャがナスティンに優しく声をかけ、慰めている姿を横目で確認すると、殿下は更に笑みを深め

「つまり、彼女はそこの女を虐める理由も時間も無いですよね?」

「そ、それは見間違いかもしれないですが・・・ナスティンが虐めた事実は・・・」

 殿下の笑みが深くなるほど声が小さくなっていくキキ。

「殿下、確認したのですが、彼女はえっと・・・」

「ドリアンだったかな」

「・・・ドリアです・・・ひぃ」

 訂正するキキだが、殿下の笑みを見て声を上げて震えだす。

「そうそう、ドリア?みたいです」

「顔を見たのも初めてらしいです、やっていないと言ってました。」

「そうか~サーシャ様嘘発見器って新しく出来た街にありましたよね?」

「ええ、持ってますが」

 そう言うと殿下は顎に手をあて考え始める。
 サーシャの後ろで怯えていたナスティンがサーシャに耳打ちをすると、前に出て

「キキ様、ワタクシはこの方を初めて見ました。婚約破棄は承りましたが、ワタクシは絶対に否定します」

「貴様・・・ごがぁ」

 キキは怒りで立ち上がるが、ミーに顎を掴み上げ吊るされると、ジタバタもがき出す。

「マスターに唾がかかる、黙りなさい」

「まあまあミー降ろしてあげて」

「かしこまりました」

 と言うと手をパッと離し床に落とすと、悶えるキキを冷たい目で見下ろし、キキにしか聞こえないように「ちっ」と舌打ちをして動かないように睨み付けた。

「そうだ!サーシャ様嘘発見器を舞台に置いていただいて良いですか?」

「ええ」

 そう言って舞台に設置しに行く姿を確認すると、キキに向き直り殿下は

「もし、君達が言うことが正しければ、不問に付そう。だがウソだった場合、王国法に則った刑罰と、・・・」

「では廃嫡の上、辺境へ一兵士として送ることにしよう」

 助け舟を出したのは国王だった。

「父上、イッパツ・クロヒゲとも話してな。こやつは廃嫡、バンブー準騎士爵も娘は死んだものとすると言っている」

「と言うことになった、良いね」

 もはや確定の事を伝えると、二人は顔を青くして顔を横に振るばかりだった。
 そして、ウソ発見機の前に引きずり出された。

「で、殿下ぁ、私ぃ記憶違いしてたかもぉなんで、やめませんかぁ」

「ははは、やめるわけ無いだろう」

 そう、にこやかに笑うと兵士達は二人の手を嘘発見器に当てた。
 青い水晶はウソの赤に変り、判決は決まった。

「い、いやだ、父上!!ちちうえぇぇぇ」

「私・・・悪気は無かったの・・・ゆるじでぇ」

 声を残しながら牢に連れられていく二人を見送って殿下が振り返ると、サーシャの姿は無かった。

「あれ?サーシャ様?」

「マスターは「疲れたから帰るね」と言われお戻りになりました」

「そんな・・・ミー殿?」

「いやです」

「まだ何にも言っていない・・・」

「お屋敷へのご招待はいたしかねます」

 そんな声をBGMにナスティンはサーシャの姿を思い浮かべて、頬を熱くさせていた。

「お姉さま・・・私いつかお側に」

 こうしてサーシャのファンがまた一人増えた。

「サーシャ殿が関わると面白い事が起こるのう」

「陛下、あまり面白がられますな。イッパツ・クロヒゲ家からしたら災難でしかないのですから」

 そう言って痛む頭を抱える宰相は「この置き去りのウソ発見機もらえないかなぁ~裁判に使えるよな」
と思っていた。

 国王は「はよミー殿が持ち帰らぬかな、あれやこれやばれると・・・」と怯えた表情で嘘発見器を見つめていた。
しおりを挟む
感想 310

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜
恋愛
ソフィア・ヒルは、病弱だったために社交界デビューもすませておらず、引きこもり生活を送っていた。 ある時ソフィアに舞い降りたのは、キース・ムール侯爵との縁談の話。 ソフィアの状況を見て、嫁に来いと言う話に興味をそそられ、馬車で5日間かけて彼の元へと向かうとーー この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。また、短編集〜リクエストと30日記念〜でも、続編を収録してます。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...