迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

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帝国編

決着?!

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 ラクヨウ近郊から北へと進路を取り2日進むと、重く厚い雲が立ち込め始めた。
 生ぬるい空気にのって腐った臭いが漂い、通り過ぎる町からは不気味なうめき声が響いていた。

「結・・・すまないが浄化してやってもらえるか?」

「良いよ、かわいそうだしね」

 結は職業を女神に変えると、ドラゴンの翼から白い3対の翼に変え胸の前で手を組んで、歌いつつゆっくりと両手を広げていく。
 その動きに合わせて黄金の光が死者の町に降り注ぐと、突如結達の頭の中に声が響く。

”あ~ダメダメ。それやっちゃうと僕の世界の住人が減る上に、魂のバランスが壊れちゃうよ”

「だれだ!」

 その声に警戒し辺りを見回すりゅーちゃん、結はぽかーんとした顔をして

「神様の声だよ」

 と呟いた。

”そうそう、みんなのアイドル神様だよ☆”

「ちぃ、神が今更何の用だ!」

”ちって・・・もう、これでも僕は偉いんだけどなぁ
 ま、良いか。
 ゾンビを浄化しちゃうと、こっちの魂のバランスが壊れちゃいそうでさ。
 ゾンビ化は呪いだから、呪い解除と回復魔法で手遅れ以外は元に戻せるよ”

「ホント?」

”ホントホント。だからさ、ピーちゃんに回復魔法の歌を歌ってもらって、結ちゃんが呪い解除の歌を歌えばこの町の人間は助けられるよ”

「じゃあ、あの4本腕の奴は・・・」

”あれが手遅れって奴ね・・・まさかクズ康人君があんな禁呪に手を出すとは思ってなかったけど。
 召喚を許してしまった僕の責任だから、ピーちゃんには新しいコスと回復魔法の歌を教えておいたよ。
 結ちゃんにはこのブルマと体操服♪を準備したよ。
 解呪の歌はもう知識に入れてあるから、さぁさぁさぁ”

 声だけで迫って来る変態を無視して結はピーちゃんを呼ぶと、ピーちゃんは裾が膝上の浴衣を着て出て来た。

「ピーちゃん・・・今度から私が服は準備するからね」

「え?え?え?うれし~」

”あの~僕を無視しないで”

「うるせぇ、このド変態が!
 結さっさとやっちまえ」

「うん」

 結は頷くと、ピーちゃんと歌を歌い始める。光が溢れ町に降り注ぐと黒い煙が上がり、うめき声が少しずつ減っていく。

”チェ、折角だから着てくれてもいいのに。
 ま、これでバランスも安定するだろうな~”

「おい、公王達は助けられるのか?」

”う~ん、それは無理だね。
 手遅れって奴さ。
 全く康人もめんどくさい事をしでかしてくれたよ・・・”

「てめぇのせいだろうが!
 たっく、王達の子供はキユだけじゃないだろう?」

”え?子供は居るよ?
 手遅れじゃないのは2人かな?”

「そうか・・・」

”あ、終わるみたいだよ。僕はそろそろ行くけど、後は頼んだよ”

 その言葉を聞いて目を見開き空を見上げると

「てめぇ!まさか・・・」

 声を上げるも、もう神の気配は無かった。

「だとしたら、あの趣味の悪さも頷けるな・・・」

 りゅーちゃんが結達の方に目を向けると、結達はぴょこぴょこと手を振っていた。
 
 解呪魔法を手にした結はそこからが恐ろしいまでの快進撃だった。
 住民を元に戻し、手遅れのゾンビには浄化魔法で浄化していく。
 その姿に住人の中には祈りを捧げるものも出てきた。
 りゅーちゃんは大々的に女神結の話を広めていくと、奇跡を目の当たりにした住人達は驚くほどすんなりと受け入れ、結国に併合されていった。


 一方ヴァンピール帝国

「う~ん、なんだかいやな気配がするよ・・・僕の雲が晴らされるような」

 宝物殿で武具を探していたキユは、腰をトントンと叩きながら身体を伸ばすと、外を見て驚愕の顔をした。

「マジで?僕の雲がほとんど晴れてる」

 慌てて謁見の間に駆け込むと、声を張り上げて康人を呼ぶ。
 重そうな棺を引きずりながら、謁見の間に姿を現した康人はメンドクサそうに顔を上げると。

「あらら、結がこの近くまで来てるんだね。
 これ僕の置き土産にしておくよ、じゃぁまたね」

 康人は棺を残し青い鱗光を撒き散らして姿を消した。
 はずだった。

「え?あれ?転移出来ない?」

 焦って身体をパタパタと触る康人をニコリと笑いながら

「ははは、君の考える事は解ってるんだよ」

 そう言って髪をサッと払い上げる。

「ばかなぁ、僕は天才なんだ!君ごときに計られるなんて・・・」

 康人が叫ぶと同時に謁見の間の重厚な扉が破壊される。

「よぉ、ku・so・ya・ro・u・♥」

 りゅーちゃんが首を切るジェスチャーをして扉の瓦礫を踏みつけながら謁見の間に入ってきた。

「ひぃ・・・」

 腰を抜かした康人を無視して、キユは黄金の大剣をりゅーちゃんに向かって振り下ろしていた。
 硬質な音を立てて剣が防がれる。

「ぐ、この太陽の聖剣でも切れないとは、素晴らしい」

 奥歯を食いしばりながら大剣を押し込もうとするが、ピクリとも動かない。

「ふん、それは初代の大剣ではないぞ。
 あれは黄金のロングソードだった。
 切れ味も悪い、硬度も足りない」

 りゅーちゃんは見下したように言うと、腕を軽く振るいキユを壁際に吹き飛ばした。

「あ、あれを・・・」

 それを見た康人は棺を開けると、あの時の四本腕のゾンビが身体を起こした。
 その瞬間りゅーちゃんの拳が4本腕のゾンビの頭を吹き飛ばした。

「二度と武人の誇りを踏みにじらせて成るものか!」

「ふひぃ、ばバカな・・・散々強化したんだぞ、それを一撃だなんて」

 驚愕のあまり手足をバタバタさせて転がりまわる康人。
 りゅーちゃんは肉食獣を思わせる笑みを浮かべると。

「この世には触れたり、踏みにじっちゃぁならねぇモノがある。
 おめぇらはそれを踏みにじったんだ・・・
 ただで済むと思うなや」

 りゅーちゃんの姿があまりの速さに2人に別れ、康人とキユに無数の拳を叩き込む。

「「ぼげらっちょ」」

「まだ殴りたりねぇが、一先ずここにしておこう」

 9割殺しにした二人を床に捨て、キユの頭に足を乗せ踏みつけながら見下ろすと。

「城の解呪も終ったか」

 空から降り注ぐ光を見ながら呟くりゅーちゃん。
 謁見の間に飾ってあった王と王妃の首も塵となり消えうせた。
 静寂が王城を包む中、ヨロリと康人が身体を起こすと、狂ったように笑い声を上げ

「素晴らしい。確かに素晴らしいよ、絶対龍王。
 僕がこの国で必要とした物はもう手に入れたし、君を暫く動けなく出来れば良い」

 そう言うと康人の身体は急速に膨らみ始める。

「ぐ、やばい・・・」

 そう言ってりゅーちゃんは多重土壁を康人の周りのドーム型に作り、自分もドーム型に土壁を作った。
 その刹那大爆発を起こし康人のドームの天井部分が吹き飛び、謁見の間を崩し去った。

 しかし、天井部分だけが吹き飛んだお陰で、被害は謁見の間の天井部分だけで済み、りゅーちゃん達は無事だった。
 結がちょっとしたウンチクで、ガスタンクなるものは上と下が壊れやすく出来ていて、爆発時はそこから衝撃を逃がすと聞いた事が有ると話していたのを思い出した結果だった。

 因みにキユはりゅーちゃんに踏みつけられていたため無事だったが、何故だかりゅーちゃんの足が気に入ったらしく、逃げる時に

「君の熱い求愛は確かに受け取ったよ、僕もそのあし・・・いや、愛に答えるために、更に強くなって戻ってくるよ」

 そう言って蝙蝠になって消えていった。

「もう、出てくるんじゃねぇ」
 
 りゅーちゃんは心底嫌そうな顔をして空に向かって叫んでいた。

 こうして、フツウ国を発端にした帝国騒動は終結を迎えた。
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