18 / 26
帝国編
ヴァンピール帝国
しおりを挟む
結が結国に戻って数日、チュータツはあまりのフツウ国の対応の悪さに衝撃を受け、ひたすら頭を下げ続けた。
りゅーちゃんの副官を続けることはすでに決めていたらしく、書類から逃げるりゅーちゃんを上手く捕え、確りと仕事をさせていた。
朝露に濡れた草が朝日を浴びてキラキラと光る中庭で、木のベンチに座り、結が手のひらにお米を乗せると、雀が飛んでくる。
結はノンビリと過ごすこの時間が好きだった。
結は目を閉じると上を向き、朝の風を感じながら、心が穏やかになっていくのを感じていた。
「結様、至急お越しください」
兵士が飛び込んでくると、雀が飛び立ち、その時間が壊れた事を表した。
結はゆっくりと目を開けると、兵士を見つめ立ち上がった。
「どうしたの?」
「フツウ国の国王が謁見の間に来ております」
兵士が敬礼をしてそう告げると、結は仕方ないと謁見の間に向かって歩いていった。
謁見の間には、ゴテゴテした装飾品で埋め尽くされた柴犬族らしき者が二人と、鎧を着た顎鬚の長い柴犬族が立っていた。
ゴテゴテの二人の結を見る目は侮蔑に満ちており、鎧を着た柴犬族は畏敬の念を持って見つめていると、直ぐに解るほどであった。
「結国皇帝、結様である」
結が玉座に座ると、チュータツが声を上げるが、鎧を着た柴犬族以外は頭を下げなかった。
「頭を下げよ、不敬である」
チュータツの言葉にゴテゴテは従わない。一瞬にして場の空気が重くなり、鬼の形相になったりゅーちゃんが静かだが肌がヒリツクような声を出し。
「この会談はこれで終わりだ、去ね」
そう言うと慌てて頭を下げるが、りゅーちゃんは結に退出を促す。
結が出て行く時に聞こえた声は
「お許しを!絶対龍王様」
だった。
結はそのまま食堂に向かい、朝食をとる事にした。
一方謁見の間
「お許しを!絶対龍王様」
必死に許しを請うゴテゴテを冷徹に見下ろすりゅーちゃんは
「礼も解らぬ駄犬に興味もないわ。
我が主を馬鹿にした罪・・・ただで済むと思わぬことだ」
その言葉を聞くと更に震え上がり、ひたすら頭を下げ続けるが、りゅーちゃんは取り合う気も無い様で、チュータツと話しはじめた。
「閣下、我が主の不敬、我が命でお詫びいたします。
故に話だけでも聞いていただけませんか?」
「ふむ・・・閣下、ワタクシからもお願い申し上げます。
こやつらはどうでも良いとしても、このヨウコの命をお助け頂きたいのです」
そう言って頭を下げるチュータツにりゅーちゃんはニヤリと笑い
「良いだろう、ついでにこいつ等をぶっ殺してフツウ国もいただくか」
「ははは、それもよろしいですな」
鷹揚に笑うチュータツに、ゴテゴテ達が冗談ではないと声を上げようとするがヨウコは
「それがお望みならば・・・民のため・・・」
そう言って苦悶の表情を浮かべるヨウコを、りゅーちゃんは片手をあげて制し
「ま、こいつ等には今起きている問題の全責任を取ってもらうさ。
多分、民に石打ちされて死ぬか、責任を取って処刑しか残っていないんだ」
りゅーちゃんの言葉に顔を青ざめさせて、悲鳴のような声をあげ
「我輩はフツウ国の24代国王だぞ。
なぜ民などのために死なねばならぬのだ?
そうだ、あの小娘に全ての罪を着せれば良いじゃないか」
良い意見を言えたとすがすがしい笑顔を浮かべるゴテゴテは、あっと言う間にりゅーちゃんに首を掴みあげられて、足をバタバタさせる。
「てめぇうぜぇな・・・死ぬかぁ?」
激ギレのりゅーちゃんの殺気をもろに受け、ゴテゴテは漏らしてしまう。
「きたねぇな。
おい、牢にでもぶち込んどけ」
そう言って二人のゴテゴテは引きずられて退出していった。
「しかし・・・切っても死なない黒の軍団ですか」
「ああ、結の話とも符合する・・・
それに、我が国民となる者どもを放っては置けぬからな」
そう言ってにやりと笑うりゅーちゃんに、チュータツはため息をつきつつ
「素直になればよろしいのに」
「ふん、やさしいのは結で良いだろう?」
こうして、翌日には黒の軍勢を追い払うため、りゅーちゃんと結率いる総勢5000の精鋭が飛び立っていった。
ゴテゴテの話によると、ラクヨウ近くのチョウアンに突如黒の軍勢が現れ、弓で撃ち抜かれても、槍で突かれても剣で切られてもその進行は止まらず、3日後にチョウアンが陥落したという。
その折り、ラクヨウに逃げ戻った太守はヴァンピール帝国と名乗る軍勢だったとの報告があったという。
「ついでに、ヴァンピール帝国とやらもぶっ潰してくれる!」
一方 ヴァンピール帝国
薄暗い雲が空を覆い、ボロボロの街中を顔色の悪いゾンビが彷徨い歩いていた。
王城内はゾンビナイトが蠢き、元皇帝や后妃は首だけになり、呪いの言葉を吐き出す。
その言葉をBGMにキユは玉座で機嫌よく目を閉じていた。
「キユ君出来たよ、君が望んでいた光魔法に耐性のある防具だよ」
薄汚れたローブを纏った康人は、不気味に蠢く鎧を引きずってきていた。
「流石だね♪美しい僕にぴったりの鎧だね。ついでにゾンビ達もバージョンアップして欲しい所だね」
そう言って鎧を身につけると、不気味な触手がキユの身体に突き刺さり身体に馴染んでいく。
康人は顎をさすりながら、ふむと声を出すと。
「確かに、聖なる歌だっけ?あれで一発なんて、雑魚も良い所だしね。
幾つか丁度いい実験体とバージョンアップ型ゾンビを用意しておこう」
そう言って不気味に笑うと、数体のゾンビを引きずって再び闇に消えていった。
「ふん、僕の美意識に少し反するけど、この鎧のように偶に趣味の良いものを作るからね」
そう言うと、呪いの言葉を吐き続ける后妃の頬に触れ
「この世に僕と言う唯一神を生み出した貴方の功績は忘れないよ。
ただ、僕を牢獄へ押し込めた罰はこうして受けてもらっているから、貸し借り無しとしよう」
そう言って-玉座に再び座り、ワイングラスに満たした血を飲みつつ、何かの肉を齧った。
「美しい僕の顔を傷つけた結・・・新しくて良い・・・僕のお嫁さんにしてあげよう」
ヴァンピール帝国は暗雲立ち込める死の国となり、まるで蠢く虫のように近隣諸国を取り込み始めていた。
くしくも、元皇帝が望んだように・・・
りゅーちゃんの副官を続けることはすでに決めていたらしく、書類から逃げるりゅーちゃんを上手く捕え、確りと仕事をさせていた。
朝露に濡れた草が朝日を浴びてキラキラと光る中庭で、木のベンチに座り、結が手のひらにお米を乗せると、雀が飛んでくる。
結はノンビリと過ごすこの時間が好きだった。
結は目を閉じると上を向き、朝の風を感じながら、心が穏やかになっていくのを感じていた。
「結様、至急お越しください」
兵士が飛び込んでくると、雀が飛び立ち、その時間が壊れた事を表した。
結はゆっくりと目を開けると、兵士を見つめ立ち上がった。
「どうしたの?」
「フツウ国の国王が謁見の間に来ております」
兵士が敬礼をしてそう告げると、結は仕方ないと謁見の間に向かって歩いていった。
謁見の間には、ゴテゴテした装飾品で埋め尽くされた柴犬族らしき者が二人と、鎧を着た顎鬚の長い柴犬族が立っていた。
ゴテゴテの二人の結を見る目は侮蔑に満ちており、鎧を着た柴犬族は畏敬の念を持って見つめていると、直ぐに解るほどであった。
「結国皇帝、結様である」
結が玉座に座ると、チュータツが声を上げるが、鎧を着た柴犬族以外は頭を下げなかった。
「頭を下げよ、不敬である」
チュータツの言葉にゴテゴテは従わない。一瞬にして場の空気が重くなり、鬼の形相になったりゅーちゃんが静かだが肌がヒリツクような声を出し。
「この会談はこれで終わりだ、去ね」
そう言うと慌てて頭を下げるが、りゅーちゃんは結に退出を促す。
結が出て行く時に聞こえた声は
「お許しを!絶対龍王様」
だった。
結はそのまま食堂に向かい、朝食をとる事にした。
一方謁見の間
「お許しを!絶対龍王様」
必死に許しを請うゴテゴテを冷徹に見下ろすりゅーちゃんは
「礼も解らぬ駄犬に興味もないわ。
我が主を馬鹿にした罪・・・ただで済むと思わぬことだ」
その言葉を聞くと更に震え上がり、ひたすら頭を下げ続けるが、りゅーちゃんは取り合う気も無い様で、チュータツと話しはじめた。
「閣下、我が主の不敬、我が命でお詫びいたします。
故に話だけでも聞いていただけませんか?」
「ふむ・・・閣下、ワタクシからもお願い申し上げます。
こやつらはどうでも良いとしても、このヨウコの命をお助け頂きたいのです」
そう言って頭を下げるチュータツにりゅーちゃんはニヤリと笑い
「良いだろう、ついでにこいつ等をぶっ殺してフツウ国もいただくか」
「ははは、それもよろしいですな」
鷹揚に笑うチュータツに、ゴテゴテ達が冗談ではないと声を上げようとするがヨウコは
「それがお望みならば・・・民のため・・・」
そう言って苦悶の表情を浮かべるヨウコを、りゅーちゃんは片手をあげて制し
「ま、こいつ等には今起きている問題の全責任を取ってもらうさ。
多分、民に石打ちされて死ぬか、責任を取って処刑しか残っていないんだ」
りゅーちゃんの言葉に顔を青ざめさせて、悲鳴のような声をあげ
「我輩はフツウ国の24代国王だぞ。
なぜ民などのために死なねばならぬのだ?
そうだ、あの小娘に全ての罪を着せれば良いじゃないか」
良い意見を言えたとすがすがしい笑顔を浮かべるゴテゴテは、あっと言う間にりゅーちゃんに首を掴みあげられて、足をバタバタさせる。
「てめぇうぜぇな・・・死ぬかぁ?」
激ギレのりゅーちゃんの殺気をもろに受け、ゴテゴテは漏らしてしまう。
「きたねぇな。
おい、牢にでもぶち込んどけ」
そう言って二人のゴテゴテは引きずられて退出していった。
「しかし・・・切っても死なない黒の軍団ですか」
「ああ、結の話とも符合する・・・
それに、我が国民となる者どもを放っては置けぬからな」
そう言ってにやりと笑うりゅーちゃんに、チュータツはため息をつきつつ
「素直になればよろしいのに」
「ふん、やさしいのは結で良いだろう?」
こうして、翌日には黒の軍勢を追い払うため、りゅーちゃんと結率いる総勢5000の精鋭が飛び立っていった。
ゴテゴテの話によると、ラクヨウ近くのチョウアンに突如黒の軍勢が現れ、弓で撃ち抜かれても、槍で突かれても剣で切られてもその進行は止まらず、3日後にチョウアンが陥落したという。
その折り、ラクヨウに逃げ戻った太守はヴァンピール帝国と名乗る軍勢だったとの報告があったという。
「ついでに、ヴァンピール帝国とやらもぶっ潰してくれる!」
一方 ヴァンピール帝国
薄暗い雲が空を覆い、ボロボロの街中を顔色の悪いゾンビが彷徨い歩いていた。
王城内はゾンビナイトが蠢き、元皇帝や后妃は首だけになり、呪いの言葉を吐き出す。
その言葉をBGMにキユは玉座で機嫌よく目を閉じていた。
「キユ君出来たよ、君が望んでいた光魔法に耐性のある防具だよ」
薄汚れたローブを纏った康人は、不気味に蠢く鎧を引きずってきていた。
「流石だね♪美しい僕にぴったりの鎧だね。ついでにゾンビ達もバージョンアップして欲しい所だね」
そう言って鎧を身につけると、不気味な触手がキユの身体に突き刺さり身体に馴染んでいく。
康人は顎をさすりながら、ふむと声を出すと。
「確かに、聖なる歌だっけ?あれで一発なんて、雑魚も良い所だしね。
幾つか丁度いい実験体とバージョンアップ型ゾンビを用意しておこう」
そう言って不気味に笑うと、数体のゾンビを引きずって再び闇に消えていった。
「ふん、僕の美意識に少し反するけど、この鎧のように偶に趣味の良いものを作るからね」
そう言うと、呪いの言葉を吐き続ける后妃の頬に触れ
「この世に僕と言う唯一神を生み出した貴方の功績は忘れないよ。
ただ、僕を牢獄へ押し込めた罰はこうして受けてもらっているから、貸し借り無しとしよう」
そう言って-玉座に再び座り、ワイングラスに満たした血を飲みつつ、何かの肉を齧った。
「美しい僕の顔を傷つけた結・・・新しくて良い・・・僕のお嫁さんにしてあげよう」
ヴァンピール帝国は暗雲立ち込める死の国となり、まるで蠢く虫のように近隣諸国を取り込み始めていた。
くしくも、元皇帝が望んだように・・・
0
お気に入りに追加
1,389
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜
Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。
しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。
彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——


あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる