迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

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帝国編

ヴァンピール帝国

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 結が結国に戻って数日、チュータツはあまりのフツウ国の対応の悪さに衝撃を受け、ひたすら頭を下げ続けた。
 りゅーちゃんの副官を続けることはすでに決めていたらしく、書類から逃げるりゅーちゃんを上手く捕え、確りと仕事をさせていた。

 朝露に濡れた草が朝日を浴びてキラキラと光る中庭で、木のベンチに座り、結が手のひらにお米を乗せると、雀が飛んでくる。
 結はノンビリと過ごすこの時間が好きだった。
 結は目を閉じると上を向き、朝の風を感じながら、心が穏やかになっていくのを感じていた。

「結様、至急お越しください」

 兵士が飛び込んでくると、雀が飛び立ち、その時間が壊れた事を表した。
 結はゆっくりと目を開けると、兵士を見つめ立ち上がった。

「どうしたの?」

「フツウ国の国王が謁見の間に来ております」

 兵士が敬礼をしてそう告げると、結は仕方ないと謁見の間に向かって歩いていった。

 謁見の間には、ゴテゴテした装飾品で埋め尽くされた柴犬族らしき者が二人と、鎧を着た顎鬚の長い柴犬族が立っていた。

 ゴテゴテの二人の結を見る目は侮蔑に満ちており、鎧を着た柴犬族は畏敬の念を持って見つめていると、直ぐに解るほどであった。

「結国皇帝、結様である」

 結が玉座に座ると、チュータツが声を上げるが、鎧を着た柴犬族以外は頭を下げなかった。

「頭を下げよ、不敬である」

 チュータツの言葉にゴテゴテは従わない。一瞬にして場の空気が重くなり、鬼の形相になったりゅーちゃんが静かだが肌がヒリツクような声を出し。

「この会談はこれで終わりだ、去ね」

 そう言うと慌てて頭を下げるが、りゅーちゃんは結に退出を促す。
 結が出て行く時に聞こえた声は

「お許しを!絶対龍王様」

 だった。

 結はそのまま食堂に向かい、朝食をとる事にした。


 一方謁見の間

「お許しを!絶対龍王様」

 必死に許しを請うゴテゴテを冷徹に見下ろすりゅーちゃんは

「礼も解らぬ駄犬に興味もないわ。
 我が主を馬鹿にした罪・・・ただで済むと思わぬことだ」

 その言葉を聞くと更に震え上がり、ひたすら頭を下げ続けるが、りゅーちゃんは取り合う気も無い様で、チュータツと話しはじめた。

「閣下、我が主の不敬、我が命でお詫びいたします。
 故に話だけでも聞いていただけませんか?」

「ふむ・・・閣下、ワタクシからもお願い申し上げます。
 こやつらはどうでも良いとしても、このヨウコの命をお助け頂きたいのです」

 そう言って頭を下げるチュータツにりゅーちゃんはニヤリと笑い

「良いだろう、ついでにこいつ等をぶっ殺してフツウ国もいただくか」

「ははは、それもよろしいですな」

 鷹揚に笑うチュータツに、ゴテゴテ達が冗談ではないと声を上げようとするがヨウコは

「それがお望みならば・・・民のため・・・」

 そう言って苦悶の表情を浮かべるヨウコを、りゅーちゃんは片手をあげて制し

「ま、こいつ等には今起きている問題の全責任を取ってもらうさ。
 多分、民に石打ちされて死ぬか、責任を取って処刑しか残っていないんだ」

 りゅーちゃんの言葉に顔を青ざめさせて、悲鳴のような声をあげ

「我輩はフツウ国の24代国王だぞ。
 なぜ民などのために死なねばならぬのだ?
 そうだ、あの小娘に全ての罪を着せれば良いじゃないか」

 良い意見を言えたとすがすがしい笑顔を浮かべるゴテゴテは、あっと言う間にりゅーちゃんに首を掴みあげられて、足をバタバタさせる。

「てめぇうぜぇな・・・死ぬかぁ?」

 激ギレのりゅーちゃんの殺気をもろに受け、ゴテゴテは漏らしてしまう。

「きたねぇな。
 おい、牢にでもぶち込んどけ」

 そう言って二人のゴテゴテは引きずられて退出していった。

「しかし・・・切っても死なない黒の軍団ですか」

「ああ、結の話とも符合する・・・
 それに、我が国民となる者どもを放っては置けぬからな」

 そう言ってにやりと笑うりゅーちゃんに、チュータツはため息をつきつつ

「素直になればよろしいのに」

「ふん、やさしいのは結で良いだろう?」

 こうして、翌日には黒の軍勢を追い払うため、りゅーちゃんと結率いる総勢5000の精鋭が飛び立っていった。

 ゴテゴテの話によると、ラクヨウ近くのチョウアンに突如黒の軍勢が現れ、弓で撃ち抜かれても、槍で突かれても剣で切られてもその進行は止まらず、3日後にチョウアンが陥落したという。

 その折り、ラクヨウに逃げ戻った太守はヴァンピール帝国と名乗る軍勢だったとの報告があったという。

「ついでに、ヴァンピール帝国とやらもぶっ潰してくれる!」



一方 ヴァンピール帝国

 薄暗い雲が空を覆い、ボロボロの街中を顔色の悪いゾンビが彷徨い歩いていた。
 王城内はゾンビナイトが蠢き、元皇帝や后妃は首だけになり、呪いの言葉を吐き出す。
 その言葉をBGMにキユは玉座で機嫌よく目を閉じていた。

「キユ君出来たよ、君が望んでいた光魔法に耐性のある防具だよ」

 薄汚れたローブを纏った康人は、不気味に蠢く鎧を引きずってきていた。

「流石だね♪美しい僕にぴったりの鎧だね。ついでにゾンビ達もバージョンアップして欲しい所だね」

 そう言って鎧を身につけると、不気味な触手がキユの身体に突き刺さり身体に馴染んでいく。
 康人は顎をさすりながら、ふむと声を出すと。

「確かに、聖なる歌だっけ?あれで一発なんて、雑魚も良い所だしね。
 幾つか丁度いい実験体とバージョンアップ型ゾンビを用意しておこう」

 そう言って不気味に笑うと、数体のゾンビを引きずって再び闇に消えていった。

「ふん、僕の美意識に少し反するけど、この鎧のように偶に趣味の良いものを作るからね」

 そう言うと、呪いの言葉を吐き続ける后妃の頬に触れ

「この世に僕と言う唯一神を生み出した貴方の功績は忘れないよ。
 ただ、僕を牢獄へ押し込めた罰はこうして受けてもらっているから、貸し借り無しとしよう」

 そう言って-玉座に再び座り、ワイングラスに満たした血を飲みつつ、何かの肉を齧った。

「美しい僕の顔を傷つけた結・・・新しくて良い・・・僕のお嫁さんにしてあげよう」

 ヴァンピール帝国は暗雲立ち込める死の国となり、まるで蠢く虫のように近隣諸国を取り込み始めていた。
 くしくも、元皇帝が望んだように・・・
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