迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

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龍人の国

進行と一つの結末

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 ザイビス子爵、別名処刑子爵と最近は呼ばれている。
 元々残酷であったが、ミューゼンでの串刺し処刑でその残酷さは極められたといえる。
 ザイビス子爵邸で雪は度々入浴に来ていた。
 週に一度、特別な入浴だとサクに言って。

「王妃様のご考案になられた指つぶし機、頭つぶし機などとても有効的に使わせていただいております。」

 邪悪な笑みを浮かべてニヤニヤと笑う陰険な顔をしたザイビス子爵は手を揉みながら迎え出た。

「ひょっとして、雪のアイアン メイデンも使ってるんじゃない?」

「あ、ははは、流石王妃様。失礼いたしました。
 ですが、ご安心を。別に作らせた物でございます。 
 王妃様のご入浴用の物は何時ものように」

「そう、良かったわ」

 そう言って入浴場に向かう雪を見送るザイビス子爵は

「俺も数々の事をやってきたが・・・王妃には負けるわ」

 雪は週に一回、サク王にばれないように処女の生き血で満たした風呂に入るべくザイビス領にやってきていた。
 そこで自分の知識を生かして数々の拷問器具を作らせ、その成果を聞くことを楽しみの一つにしていた。
 
 後の歴史家がセアキワ国最後の王と王妃を世界3大暴君、3大悪女と呼ぶほど悪逆の限りを尽くした。
 この世界初の拷問器具、残酷な処刑方法を生み出したのが王妃といわれ、残酷な悪意に満ちた悪女とされる。

 雪が暢気に入浴をしている頃、ザイビス領までの各小貴族や村が降伏して行き、結の軍は遂にザイビスまで後一日の所に来ていた。そして兵士達に住人がほとんど居いなくなった事を報告してきたが、周りに一切興味が無いザイビス子爵は無視して、滅びの足音が近づいてきている事に気がつかず過ごしていた。


 結軍陣地にて

 結軍はザイビスが見える丘に土魔法で陣地を作り、兵達の休憩を取っていた。

 各領地の軍を併合した結軍は、実に3万の巨大な軍容になっていた。
 陣地の中央にある結とりゅーちゃんの簡易屋敷に降伏した小貴族達が集まり、作戦会議を開いていた。

「ザイビスの民を如何に傷つけず、救い攻めるかが肝心だ。我らの大儀は民のためだろう」

「だが、ザイビス子爵は簡単に民を盾にする。民から引き離すのは難しいだろう」

 議論は白熱し、結論が出ないまま数時間がたった。
 りゅーちゃんはため息をつき、小貴族達を見下ろしていた。
 話をじっと聞いていると、はっきりと信用に足るべき者と信用できない者がわかって来る。
 何年経とうと人間の本質は変わらないなとみていた。

「丞相様はいかがお思いですか?」

 話の矛先をりゅーちゃんに向ける。
 りゅーちゃんはわかりやすくため息をつくと。

「結がもどらねぇと結論が出るわけねぇだろう、そもそもおめぇらは誰に向けて戦をしてるんだ?
 民のためか?己のためか?そこん所を考えろ。
 建前じゃなくてな」

 りゅーちゃんの声がホールに響くと、数人の貴族はうつむき顔を上げられなくなり、それ以外の貴族は胸を張り

「「我らは民を守る盾であり、剣です!いつ如何なる時も民が優先に決まっています」」

 そう言って顔を上げる貴族にりゅーちゃんはニヤリと笑い

「なら、我らが主のお帰りを待つのが得策だろう」

 そう言ったとたん結が扉を開けて入ってきた。
 貴族達は自然と道を開け、結はその中を通って玉座に座ると、りゅーちゃんを見て

「上手く行ったよ、全員ミューゼン領に連れて行ったよ」

 その言葉を聞くと、りゅーちゃんはニヤリと笑い

「聞け!我が主がザイビス領の民を避難させることに成功した!これよりザイビスを取る!」

「「おおお!!」」

 そして昼過ぎにはハンググライダー隊5000がザイビスに向けて飛び立っていき、
 爆裂魔法を込めた槍の絨毯爆撃によりザイビスの町は壊滅的な状態になった。
 
 夕方ザイビス子爵は捕えられ、子爵邸の地下には拷問を受けて死んだ無数の遺体があり、騎士や兵士、そして貴族達の怒りが収まらないほどの状況だった。

 ザイビス子爵はそんな中でも平然としており、むしろ侮蔑するような目を向けていた。

「てめぇがどれだけの人を殺し、痛めつけたかわかっているのか?」

 りゅーちゃんの言葉にも侮蔑の目を向け、鼻で笑うと。

「何を言う、支配者が民を好きにするのは徒然の権利だ。事実俺を裁くのはお前らであり、神ではない。
 お前等の言う民を守るなどと言ってもそれは建国王が神から言われた事。
 だが俺はその言葉に従わなかった。
 結果、俺に神罰は下らず、薄汚い貴様らに裁かれる。
 人の世は人が裁く、故に正義は勝者であり、蹂躙されるものが悪いのだ。
 あははははは、さぁ殺せ」

 ザイビス子爵の言葉に怒りを露にする者、恐れ一歩後ろに下がる者がいた。

 その光景を見ながらりゅーちゃんは結に何か耳打ちをし、渋る結を置いて一歩前に出た。

「そうか、人に裁かれるか?浅慮だな」

 りゅーちゃんはあざけるように笑うと、三日月のように口角をあげて顔を近づけ

「神は居ない?なら何故王国一と言われた貴様の領地が干ばつで干上がっているのにミューゼンは豊かなのだ?
 僅かな間にミューゼンと隣接する貴族領は何故豊かになった?
 かぁみがぁ、そう神が貴様の有り様を見ていたからだ。
 なぜ、貴様のご自慢の町が滅んだ?何も抵抗できず滅んだのだ?
 我らが、我らが、神の声を聞けたからだとは思わんか?」

 演劇役者のような動きで大げさに演説してザイビスを見下ろした。

「ふん、そんな物貴様らの小ざかしい知恵を用いたからだろう」

 幾分トーンダウンしたザイビスにトドメとばかりに結に合図を送ると、8本目の角の力で光り輝く金色の長い髪、光り輝くドレスを纏い、少し宙に浮いた結がザイビスの前に現れた。
 結の姿に怯え、慈悲を請うような瞳で見つめていた。

 職業も女神に変えているので、間違いなく神であった。

「ザイビス・・・神はいる。そしてお前の有り様を見ていた。
 その結果が無数の屍と、お前への怨嗟の声だ。
 ・・・聞こえるだろう?ほらお前の後ろにも」

 りゅーちゃんが幻影魔法で殺された者達の姿や声を流し、ザイビスは恐れおののいていく。

「か、神は居たのか・・・俺達の有り様を見ていた・・・助けてくれ・・・たすけてくれ~」

 恥も外聞も無く震え、糞尿を撒き散らしながら泣き喚く姿は無様で、心当たりの有る貴族は膝を付き次は俺かと恐怖した。

 他の貴族は結に礼を取り

「女神様とは知らず失礼いたしました。我らの忠誠は女神様に、我らの慈愛は民に捧げます」

 こうして、結を頂点とする国の大まかな形が出来た。

「ねぇりゅーちゃん、この後如何するの?」

「結束も固くなった事だし、さっさと王都を攻めて建国だな」

 コソコソと耳打ちする結に少し意地悪な笑みを向けるりゅーちゃん。

「もう、どうすんのさ。
 私、国の運営なんて出来ないよ」

「それはこれから学んで行けよ」

 そう言って屈託無く笑うりゅーちゃんに少し呆れた結だった。
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